いつしか異物は喀血となる   作:坂野

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第七章
マクナ原生林


「あっちぃ〜……」

 巨神胎内を抜けたラインの第一声である。

「なんだよここは……」

 マクナ原生林。

 両脇を高い岩壁に囲まれたマクナの林道が巨神の中層に至ったことを暑さと湿り気で伝えてくる。岩壁と表するものの表面は苔むしており、道には青々とした草木が活力を(みなぎ)らせて生い茂っている。人の身長の倍はあろうかという植物がそこら中に生えている光景など、シュルク達は生まれて初めて目にした。人よりも遥かに大きい植物が木以外にあるとは、巨神下層部に住むホムスでは想像さえ出来なかっただろう。

 到着して数分も経たずに暑いしか言わなくなってしまったライン、この中では最も肌の露出が多いが手で顔の辺りを煽ぐカルナ、表情は緩んでいないものの時折ワイシャツを引っ張りぱたぱたと内側に風を送り込んでいるダンバン。三者三様の暑いアピールの中でシュルクだけは汗の一雫も流すことなく、涼しい顔のまま林道を歩んでいる。

「暑くねぇのかよ……」

「……え、あぁ、うん。別になんとも。ちょっとは暑いと思うけど、そんなにかな?」

 ライン達が絶句して固まった。数秒して我に返ったカルナが慌ててグローブを外してシュルクの額や首元に触れてくる。

「とりあえず熱はなさそうね。でもこんな暑いところでセーターなんて着てたら熱がこもって倒れちゃうわよ」

 カルナの指摘はご(もっと)もなのだが本当に平気なのである。シュルクは勿論として、エイルもこれについてはシュルクと全く同じ感覚だ。マクナ原生林に入る瞬間まで抱いていたえげつない蒸し暑さへの覚悟が変な方向に叩き折られたくらいには何ともない。コロニー9より少し暑いかもしれない程度の印象である。

 体質的に暑さを感じにくいのだろうか。コロニー9において、ラインやフィオルンは割と肌の露出が多い服装であるのに対し、シュルクは年中セーターに加えてベスト状とはいえ上着まで羽織っている。一応下は半ズボンではあるが肌にはがっちりとベルトが巻かれている。言われてみれば温暖な気候の割には着込んでいる方だ。

「少しでも不調を感じたら遠慮なく言うんだぞ。目指す巨神の頭部は遥か上だからな」

 ダンバンが空を見上げつつ気遣ってくれる。流石に体調不良で旅の進行を止めてしまうのは望んではいないので素直に受け止めた。

 地味に一番恐れているのは数ヶ月に一度のペースでシュルクが弱るアレだ。幸い予兆も無く、最後に寝込んだのもコロニー9が機神兵に襲撃される少し前であったからしばらくは問題ないはずだ。

 さてダンバンの言った通り、我々が目指している監獄島は巨神の頭部に位置する。マクナ原生林は巨神で言うと背中だ。脛のコロニー9、膝から太腿の巨神脚、股間のコロニー6、腰のザトールと着実に上へとやってきたがまだ先は遠い。上へと至る道筋や方法はあるだろうが、事前にそれを知る者やすぐに思いつく者は生憎いなかった。最も詳しいディクソンも帰ってしまったし。

 どうしようかと途方に暮れかけるも一つ頼ってみても良い存在が一つ浮上する。ノポン族である。

 彼らの発生はマクナ原生林であったと伝わっている。ホムスのコロニーに帰化したノポンも多いが、発生地であるマクナには今も彼らが住まう村があるはずだ。当てもなく彷徨うのは効率も悪く危険だということで、まずはノポン族の村を探してみる方向性で話がまとまった。

 ちょうど林道が開け、果てしなく広がる森が視界を埋め尽くす。あまりの広大さにラインが肩を落とした。それはもうがっくりと。

「頭に上がるまでこの蒸し暑さかぁ……」

 

 ***

 

 自然の迷宮であるマクナ原生林のどこかの場所にて。

 緑豊かなこの地ではあまりに不釣り合いな白練(しろねり)の砂地が広がる場所があった。その周囲には瑞々しい葉が未だ生い茂っている。隣り合う生命の息吹が、余計に砂地の放つ死の香りが異質であることを際立たせている。

 咆哮を上げて死の砂地に降り立つのはターコイズを引き伸ばしたかのように煌めく膜に身を包んだ巨大な生き物だった。三つの頭を持ち、トパーズの如き尾を引くそれは獅子と竜を足した異形の姿をしていた。

 名をテレシア。巨神界における原生生物の一種だ。

 テレシアは再び咆哮すると同時に爪を振り抜く。それは眼下にいた戦士の剣を軽々と弾き、テレシアにとってはどれだけ鋭く砥がれた刃もそこらの木っ端と変わらぬことを物語っていた。

 四人の剣士達は美しい白銀の鎧を纏い果敢にテレシアに挑み続けていたようだが、圧倒的かつ絶対的な力の差を前にしては剣捌きも膂力(りょりょく)も無に等しかった。

 剣士の一人が頭部に生えた一対の純白の翼を乱しながら振り向く。彼らの後ろには撫子色の衣を身に纏い、スカイグレーをした銀髪を持つ一人の少女が護身用の杖を握りしめ、剣士達と同様にテレシアを強く睨みつけていた。

「メリア様! ここは我らに任せ、早くノポン族の村にお戻りください!」

 メリアと呼ばれた少女は首を横に振る。

「何を言うアイゼル! お前達を残して私一人だけ逃げ帰れと言うのか!!」

 メリアの口調こそ厳かではあったが言葉そのものは彼らを失いたくない想いが見て取れる。言外に彼女の従者であろう剣士達を見殺しになど出来ぬと叫んでいた。

 しかし彼女の想いは従者達本人に否定されてしまう。メリアは彼らに——彼らの種族の全ての者にとって何にも代えられぬ唯一無二の希望であった。その希望を繋ぐ為ならば自身の命を失うことこそが誉れだと、戦士でありメリアに仕える者としての誇りがそうせよと告げている。

 メリアはアイゼルの言葉を更に否定した。テレシアを(たお)さずして皇都には戻れない。だからこそ今のこの場で全員の力を集約して斃しきらねばならない。上に立つ者としての責と、幼き時から傍にいてくれた親しき者達とこの先も生きていきたい少女としての我儘の両方が彼女の足を縛りつけていた。

 何と深く尊い親愛の情であろうか。もし相対するのが慈愛の心を持つ女神などであったら彼らは目的を果たせたか、撤退を選びつつも誰一人欠けずに済んだだろう。

 だが現実は非情だ。原生生物たるテレシアに人の言葉は分からず、理解しようとする複雑な感情も無い。あるのはただ目の前で動く生命全てを狩り取るという本能のみ。自身を生み出した造物主から与えられし崇高な命しか奴の頭にはなかった。

 テレシアの身体が菖蒲(あやめ)色の光を帯び、光はそのまま周囲への波動となった。波動を纏って舞い上がったテレシアは低空を突き抜ける。従者達の防御も虚しく、体当たりどころか波動に触れただけでその身体はエーテルの粒子に還元されて消えていく。あまりに呆気なく、塵がそよ風で吹き飛ぶくらいの軽々しさで四人の命は初めからなかったかのように失われる。

 アイゼル、ホグド、ガラン、ダミル。名を呼ぶメリアの声も迫るテレシアの波動と雄叫びに掻き消される。

 目尻から一粒の涙が風に舞った。

 

 ***

 

『走るぞ!!』

 その未来視(ビジョン)が途切れた瞬間、シュルクから身体の主導権を奪って駆け出した。驚きに満ちた仲間の声には首だけで振り向いて叫んだ。未来視を見たからついてきて、と。

 "(スピード)"で急加速し深い谷に架けられたイチのつり橋を駆け抜ける。ノポンの確かな技術と丈夫な綱で編まれた橋だ。幅こそホムス基準では若干心許ないが、簡単には崩落しない頑丈さを誇る。

 コロニー6では想定より長い滞在、ザトールでは"(ジェイル)"の習得と、記憶とは異なる出来事が多発したことからメリアとの遭遇自体消失する可能性も正直考えてはいた。それは杞憂であった、と言って良いのかは分からない。ある意味この未来視も記憶とは異なる。そもそもシュルクはマクナでメリアと従者達がテレシアと戦うところなど見ていなかったはずだ。

 未来視はポジティブに考えるならばシュルクが絶望の未来を変えたい想いに反応して発現するものと言える。しかしながらその実態は巨神にとって都合の良い方向へ調整する為の装置でもある。

 ザンザが滅んでいない以上、この未来視も後者であると考えるのが自然だが俺は否定したい。ご丁寧にメリアにとって大切な存在が死んでしまう未来視を見せられたのだから、その根源は彼らを助けたい願いに他ならないではないか。元の流れでは失われてしまう命を救えるチャンスがやってきたと思いたい。いや、そうなのだと信じる。そして掴んでみせる。

『エイル、今の女の子って前に見た未来視にいた……』

『間違いない! あの子が重要な人物であるのに違いはないが、だからと言って彼女だけ助かって周りの人が死ぬのを受け入れろなんて俺は御免だ!』

『僕も同じ! ジュジュの時みたいに場所の検討はついてるんだよね?』

『当然だ! 任せてくれ!』

 つり橋を渡り切り、ミチシルベのかがり火から更に原生林の奥へ向かう。途中にいたモンスター達は此方のあまりの速度に喧嘩を売ることもしてこない。ただ困惑しているだけかもしれないが。

 あと少しで未来視の地点に到着するはずだ。割り込んで防ぎたいところだが、テレシアが放っていた波動は奴の最大の攻撃ではない。人を簡単に粒子へと還元するにもかかわらずだ。

 テレシアはエーテル全般の扱いに長けており、その中で最も得意なエレメントが雷だ。コレダーという強力な放電攻撃が奴のタレントアーツに相当する。

 つまり厄介なことにあの波動攻撃は"(シールド)"の対象外なのだ。

『"盾"のエーテルを引き伸ばせないかな。一点特化にするんじゃなくて、どんな攻撃からも守れる万能型に作り変えるんだ』

 シュルクの考えはあるモナドアーツの作りと全く同じだ。一点特化型であるが故に効果対象が限られるのと引き換えに、その膨大なダメージをほとんど無にするのが"盾"である。ならばダメージを軽減させる方向に舵を切り、通常攻撃やタレントアーツ、物理やエーテルと言った一切の種類を問わずに軽減できるものにしてしまえばテレシアの波動攻撃を防げる可能性は格段に上がる。

『出来るさ。お前の想いを形にするのがモナドだ』

 巨大なグロッグが棲む池を通り過ぎ、視界にターコイズブルーの巨大な生物が飛び込んできた。やっと捉えたテレシアは既に菖蒲色のオーラを纏い低空姿勢で突っ込んできている。

『そんな……! 間に合わないっ……!』

 一人、二人と目の前で人が儚く消えていく。目と鼻の先で命が散っていく。

『まだだ! 一人でも二人でも……ッ、諦めて投げ出したらそれ以上はない! やるぞシュルク!!』

『……うん!!』

 モナドの柄を強く握りしめてバトルソウルを発動。"疾"を維持したままモナドの刃を眩い黄色に染め上げる。

 つい先日にシュルクに説教したばかりの身だが、目の前で潰えゆく命と少しの体力の消耗など天秤にかけるまでもない。急激に怠さを訴え出した両脚が泣き叫ぶのを無視し、己の身に鞭を打つように咆哮を絞り出した。

 右手にシュルクの手の温かさが重なる。心臓が強く鳴り響く。モナドに新たな文字が浮かぶ。

 それでもやはり俺には分からなかった。腹の底で何かが弾けるような感覚なんて、どこにもない。

「『モナド、"(アーマー)"ァァッ!!』」

 薄くも強靭なエーテルの膜を展開し、突っ込んでくるテレシアの眼前に飛び込む。ほんの一瞬、手の届かなかった命が目の前で粒子となり三人目までもが巨神へと還る光景に歯を食いしばる。手を伸ばせなかった悔しさが溢れ出てくるが、それに心を乱してモナドの出力を弱めるわけにはいかない。

 まだ、いる。メリアともう一人が俺達(シュルク)の背後で生きているから。

 "鎧"は攻撃の全てを無効化できるわけではない。どれだけ軽減出来ていると言えども、幾分か障壁を突き破ってくる波動を身に受けるのだけは避けられない。身体の芯に太い管を埋め込まれ、活力や生命力そのものが根幹から吸い出される感覚さえしてくる。

 踏ん張れ。意思を力に変える剣を握っているのだ。気持ちで負けなければどんなに小さな可能性さえも結実するという言葉を実現できてしまう力だ。信じろ、シュルクを、自分自身を。

「ぐ……っ、何奴……!」

 従者が突如として割り込んできた第三者に動揺した声を上げる。既にその声に生気はなかった。テレシアにかなりのエーテルを吸われてしまったのは明らかだ。

「少なくとも敵じゃない! お願い! 今の内にありったけの力でこいつを吹き飛ばして!!」

 その言葉を聞いたメリアの判断と行動は早かった。従者を下げて自身が前に出たかと思えば、全ての元素を身体に集約し一気に圧縮していく。

「危険です! 自分が盾となり、この命に懸けて奴に一撃を喰らわせますからお下がりください!!」

「ならぬ!! 皇家に連なる者として、護るべき民に護られるだけなどあってはならぬのだ!!」

「しかし!」

「私にそなたまで喪えというのかアイゼル!!」

 ほとんど涙声だった。

 立場など建前に過ぎない。目の前で命がただ失われていく光景は一人の少女の心をへし折るには過剰すぎる刺激であり、同時にこれ以上を失ってなるものかという鉱石より遥かに硬い決意をさせるにもまた十分だった。

「ホグド、ガラン、ダミル——そなた達の命の光を、私の内に!!」

 粒子へと還元されたエーテルまでもテレシアに奪われてなるものか。最期までメリアの為に尽くした彼らの想いそのものを力に変え、メリアは高く高く杖を掲げた。

 刹那、天にまで届かんとする閃光が視界を埋め尽くした。

 

 突風に押し倒されたと感じたのも束の間、閃光は収束し、目に映るのはマクナの豊かな自然と生命力を吸われた白い砂だった。

 うつ伏せに倒れていたと自覚しすぐに起き上がる。身体の各所に軽い痛みはあるが大きな怪我はない。左手で額を押さえて軽く頭を振る。

『……流石に攻撃対象でないとはいえあの光を間近で浴びると厳しいな。無事か、シュルク』

『……ん、僕は平気。新しいアーツが出て精神的に少し疲れたくらいだよ』

 身体と精神の両方が無事であったのに安堵する。一度深く息を吸い、それを吐き切ったところで背後から悲痛な声が響いた。

「アイゼル!! 起きてくれ! 起きて……っ、アイゼルまでいなくならないで……お願いだからぁ……!」

 振り返った先にはメリアが従者の一人——アイゼルの名を泣きつくようにして必死に呼んでいる光景があった。四人の内三人は救えなかった。でも一人はまだ肉体がある。それも素直に喜べそうにはないのは一目瞭然だが。

 つい先程テレシアとの間に割り込んだ時点でアイゼルは満身創痍だった。声に覇気がなかった点からも相当な量のエーテルをテレシアに奪われてしまったと思われる。この世界における根源元素が身体から失われてしまえば危険な状態に陥る。ただエイルもシュルクも他人の容態を見て診断できるほどの医療方面の知識は持ち合わせていない。

「シュルク!」

 追いついた仲間達の声が何より頼もしかった。急ぎカルナにアイゼルの容態を確認してもらうように頼む。此方のただならぬ様子から緊急だと判断してくれたカルナは即座にアイゼルの顔の横に膝を突き、努めて優しい声でメリアに話しかけた。

「知らない人に診せるのは不安だと思う。でもどうにか信じてちょうだい。貴方達が誰であろうと私の目の前で人は死なせないわ」

 メリアの警戒は誰が見ても分かるほどにすぐ緩んだ。芯の部分では気を抜いてないだろうが、藁にも縋りたいこの状況において医療知識を持つ人物の存在は涙が出るほどに嬉しかったに違いない。

 メリアの許可を得たカルナはアイゼルの兜を脱がせてその顔色を診る。瞼が閉じられていても分かる整った顔立ちは血の気をほとんど失ってしまっている。

 兜を脱がせたことで露わになったのは清潔に切り揃えられた銀色の短髪。メリアと似た髪色は彼らの種族に共通する特徴でもある。

 そして何より目を引くのは頭から生えた純白の大きな翼だ。

「シュルク、この人って……」

「うん、ハイエンターだよ」

 ホムスに無い特徴に一同は多かれ少なかれ驚いてはいたものの、今を生きようとする命に違いもないしそこに優劣などあってはならない。衛生兵としての役割を果たそうとカルナはすぐに真剣な表情へと戻った。

 カルナによればやはりエーテルを失ったことによるエーテル欠乏症に近い症状らしい。

 生物は急激に周囲のエーテル量が減少すると体調に異変が生じる。ホムスは他の生物よりエーテルの変化に鈍感ではあるが全く影響を受けないわけでもない。ごく短時間に急激なエーテル量の変動を受ければその影響は必ず出る。軽ければ単なる疲れで済むが重ければ死に至る。物凄く雑に例えると酸欠だ。

 だが今のはホムスであった場合の話だ。目の前にいるのは頭部から翼を生やした種族——ハイエンターだ。

 ハイエンターはホムスより何倍もエーテルに対して繊細な感覚を持ち合わせている。そんな彼らがテレシアの間近で戦闘を続けた挙句、身体のエーテルを限界まで吸われかけたらどうなってしまうかは想像に難くない。

「すぐに命を落とすほどではないけれど、早めに処置するに越したことはないわね。水系のエーテル結晶があれば……」

 カルナは緊急時用のシリンダーを使い、ライフルで上空に撃ち上げて中身を散布した。緊急時用ではあるもののあくまで応急処置でしかなく、ほとんど危険な状態には変わりない。彼女が呟いたように、最低限だとしても治療を行うのであれば純度の高い水系のエーテル結晶は不可欠だ。

(ぼく)が取ってくる」

 カルナはここから離れてはいけない。ダンバンはいざという時に敵と戦える戦力として残った方が良い。ラインはアイゼルを担げる唯一の存在だ。万が一この場が危なくなればアイゼルを抱えて逃げなければならない。消去法で見ても俺達(シュルク)が行くのが最良だろう。

「私も……いや、私が行くべきだ。アイゼルは私の大切な——」

「君はここにいて」

 メリアの気持ちも分かる。何も出来ぬ己を歯痒く感じているのは誰の目から見ても明らかだ。それでも彼女を行かせることは出来ない。

「無理しちゃ駄目だよ。君もテレシアとずっと戦ってたんだ。アイゼルさんと同じで体内のエーテル濃度はかなり下がってるはずだ」

「だが……!」

「シュルクの言う通りよ。貴方も彼よりは軽いけれどエーテル欠乏症の症状が出ているの。ここで待っていましょう」

 カルナが立ち上がりかけたメリアの右手を優しく握った。そのまま誘導するように未だ意識のないアイゼルの左手へとメリアの手を重ねて彼女は言葉を続ける。

「何も出来ないなんて思わないで。シュルクが戻ってくるまで彼の手を握っててあげて。必ず彼の力になるわ。

 シュルク、頼むわね」

「任せて。必ず持ってくる、絶対に死なせない。——俺達(ぼく)を信じてほしい、メリア」

 言い終わるや否や、ここまで来た時同様に"(スピード)"を自身にかけて大瀑布の方向へ飛び出した。

 

「……何故、私の名を」

 彼女の呟きなど聞こえるはずもなく。

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