いつしか異物は喀血となる   作:坂野

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掬い取れた命

「やったもやったも!」

「わぁっ」

 リキがシュルクの胸に飛び込んできた。咄嗟に巨大な毛玉を抱きかかえる、もふもふである。存分に堪能したかったのにシュルクが俺の提案(きもち)を無視したのですぐに下ろされた。

 リキに続き仲間達もシュルクの周囲に駆け寄ってくる。大仕事を終えられた達成感と皆が生きている安堵を織り交ぜた表情を浮かべていた。きっとシュルクも同じ顔をしているのだろう。

「考えたわね。周囲のエーテルエネルギーを吸収して再生力に充てていても、ごく短時間で受容できる量には限度がある。それを超えるエネルギーをぶつけたってわけね。それに再生して放出しようにも、出力にも上限があるから吐き出し切るのも出来ない。薬も過剰投与が毒と変わらないのに似てるかしら」

 カルナらしいご意見である。実際彼女の回復エーテルは緊急用の高濃度のものを含めて人体に影響の無い範囲で調整されている。だから俺達は戦闘中に次から次へと回復を頼めるわけだ。しみじみ彼女には頭が上がらない。

 因みにシュルクやエイルは一気に空気を入れられた風船のイメージだった。空気を入れすぎてぱんぱんになりそのまま破裂して終わり、くらいの認識である。カルナほど考えていない。少し恥ずかしい。

「要するに力押しだろ? それもゴリッゴリの」

 シュルクらしからぬ戦法だと笑うダンバンであるが彼の指摘した通りである。エイルも色々と考えはしたが結局この方法が最も成功する確率が高く、この場で即座に実行が可能だったのだ。考えないごり押しと考えた上でのごり押しは天と地ほどの差があると思うので大目に見てほしい。

「一時的とは言え、テレシアが隠れて休まなきゃいけないほどの傷を負わせたメリアなら出来ると思ったんです。彼女のおかげですよ」

「いやいやそれでもすげぇって。初めて見た力もあったしモナドを使いこなせてる証拠だよ」

 ラインが真っ直ぐな笑顔で褒めてくる。嬉しいには嬉しいしシュルクも恥ずかしがりながら心ではしっかり喜んでいる。

 しかしモナドの能力について"(スマッシュ)"はともかく、"(ジェイル)"はあまり素直に喜べるものではない。アーツとして刻まれてしまった以上削除などしてしまえば戦略の幅が狭まってしまうし、そもそも削除できるのかも不明である。習得した経緯的にエイル側があまり使用したくないだけだ。

 さて少々話は変わるが、今回対峙したレオーネ・テレシアはテレシアの中でもかなり強力な個体であったと思われる。メリアは勿論として、彼女の側仕えであるアイゼル達の実力が低いなどとは全く思えない。アイゼル一人を見ても身長はダンバンとラインの間くらいで、体格はラインほどがっしりとしてはいないがあの高身長に平均以上の筋肉はあったはずである。皇女の側仕えの騎士の名に恥じない実力を有しているのは違いない。

 あまり当たっていてほしくないが、一部の純血至上主義のハイエンターの思惑が絡んだ討伐命令だと俺は予想している。

 そもそも巨大な危険生物の討伐を一国の姫に頼むのか? ハイエンターの文化と言われてしまえばそれまでだが、普通は軍などが動員されるものだろう。こんな強力なテレシアが発生した理由——多分ロウランのせい——はさておき、討伐に向かわせて失敗、もしくは相打ちになる形でメリアの排除を狙った勢力がいたのではないだろうか。ハイエンター現皇主光妃のユミアとか。

 今回のような強さを持つテレシアと戦う数はそこまで多くはないだろうが、この先全く無いとは言えない。早い内に超高火力エーテルエネルギーをぶつける以外の倒し方を見つける必要がある。考えのないものとは全く違っていてもごり押しはごり押しなのだ。タイミングを誤れば此方がピンチに陥る確率は非常に高い。今後の課題だ。

 

 シュルク達がテレシア討伐を喜ぶ喧騒より少しだけ離れたところで、メリアは瞼を下ろし巨神へと還った三人の騎士達へ静かに祈りを捧げていた。

「ホグド、ガラン、ダミル——。斃したよ、みんな見ててくれた……?」

 普段の口調とは異なり、砕けた一人の少女としてのそれが本来のものなのだろう。側仕えであると同時に、かけがえのない友人でもあるのだとメリアの声の柔らかさから伝わってくる。

 可愛さと優しさに溢れる彼女の姿を一同で微笑んで見つめていればメリアが慌てて振り返った。つい先程まで騒がしかったのが急に静かになった上に、自分の背中に妙な視線が刺さっているのを感じたのだろう。

「わ、我が仇討ちの助勢に感謝する。大義であった」

 慌てて取り繕う姿もまた可愛らしいが一々声に出して突っ込むのは気遣いに欠ける。揶揄(からか)って彼女を傷つけてしまうのは此方とてしたくない。此方に向けて発された言葉にのみ応えるのが道理というものだ。

「ううん、大したことないさ。テレシアに(とど)めを刺したのはメリアなんだから」

「勇者リキの力があればちょちょいのちょいだったも〜!」

 調子の良いリキにダンバンが少々困り笑顔を浮かべつつも肯定する。

「そうだな。傷口にあんなのをいっぺんに塗りこまれちゃテレシアも応えるさ」

「役目が果たせてよかったな、勇者サマ」

「えへへへ~そうだもそうだも~。ライン達オトモもよくやってくれたも、リキ嬉しいも!」

 ノポンダンスで喜びを表現するリキに皆から自然と笑みが零れる。小さい身体ながらも勇者としての務めを立派に果たしたのだ。嬉しくなるのも当然だ。

「さ、戻ろっか。アイゼルさんにも嬉しい報告が出来るね!」

「——ああ!」

 

 

「勇者リキえらいも!」

「勇者リキつよいも!」

「勇者リキすごいも!」

「でも金返せも!」

「話が違うもー!!」

 テレシア討伐の報告を受けたサイハテ村は大盛り上がりであった。メリア達の任務が遂げられたのもそうだが、ノポン族にとっては自分達の生活の安全を(おびや)かす存在がやっといなくなったのだ。マクナ外部から舞い込んできてしまった脅威が去ったおかげでようやく安心して外を歩けるようになった。

「あいつ調子いいな~」

「いいじゃない、何だか憎めない子だし。実際大活躍だったじゃない」

 リキが色々と細かい部分で自分の活躍を誇張気味に話すおかげで村の住民からは過剰に持て(はや)されている気もする。でも要所要所で大活躍したのは事実なので良しとする。

「ドンガ! リキ大恐竜倒したも。これで借金ぜーんぶなしだも!」

 そういえば村に借りがあると言っていたのだった。もう直球に借金と言っている。さっきも金返せと言っていたノポンがいた。彼は現在床で仰向けでじたばたして暴れている。村長と勇者の間での契約だから我慢してほしい。

 とりあえずこれでめでたく勇者の借金は帳消しになったわけだ。

「うむ。()()()()の貸しはそれでよいじゃも」

 雲行きが怪しくなった。

 村長ドンガの発言の流れが変わったことにリキだけが気がついておらず、未だ借金帳消しを喜びながらぴょいぴょいと跳ねている。

「ただおぬしがおらん間になぁ、アレ共が喰うも喰うもでも。今度はそっちを返してもらうじゃも」

 アレ?

 一同はリキにとっての"アレ"が何かと首を傾げ、リキはようやく次に発生した問題を理解してびしりと動きを止めて石になった。そんな皆を余所にドンガはくるりと振り返り、新たなる予言を村人全員に大声で告げてしまった。

「大恐竜を倒した勇者リキはホムホムの従者を率いてこの村から旅立つだろうも! そして巨神界に真の平和をもたらすのじゃもー!」

「き……聞いてないも~!」

「遥か昔からの予言じゃも」

「ウソだも! 今さっき思いついたみたいだったも! そうだも!?」

 ノポンコントか? でも俺も嘘だと思う。

 実際に天からの予言であるのかという真偽はさておき、巨神界に迫る危機はまだまだ残されている。身近なところで言えば機神兵の侵攻、もう少し先を見据えると巨神の復活も近い。既に世界を取り巻く事象はノポンやハイエンターなどと種族で区別する問題ではなくなりつつある。種族という壁を取り払って共に危機に立ち向かわねば巨神界や機神界にも未来はない。ノポン族からの使者第一陣として他種族——特にハイエンターに働きかける狙いもある……と思う。

「代わりにアレ共の面倒はこっちでしっかり見てやるじゃも。安心するも」

 またアレだ。そろそろシュルクあたりが"アレ"とは何か聞き出すだろうなと思ったのも束の間、ドンガの横にリキより二回りは小さいノポンがわらわらと集まってきた。小ノポンはぽてぽて歩いてリキに群がりだす。小ノポンの後ろには桃色の毛並みをしたリキよりは少しだけ小さいくらいのノポンも見える。

「とーちゃん、はらぐーぐーだも」

「とーちゃん、ごはんも!」

「とーちゃんメシも~!」

 とーちゃん、とうちゃん、父ちゃん……?

「おいリキ……。これもしかして……」

「リキの奥さんと子どもたちだも。それがどうしたも?」

「えええええぇぇえぇ~!!」

 ライン大絶叫。

「奥さん!? 子ども!? リキ、君一体いくつなの!?」

「今年で四十(しじゅう)だも」

 シュルク絶句、他もびっくり。この反応が見たかった。

 なお俺はどれがネネだったか考えていた。薄桃色の子ノポンがいるから恐らく彼女がそうだと思う。確かノポンは十から十五歳辺りで成長期に突入する。身体が大きくなると同時に見た目もかなり変化する。リキの奥さんであるオカも顔は整っている方だし、ネネは母親に似たのだろう。主観だが。

 キノはまだ迎えられていないのだったか、もういただろうか。彼もネネと同じく現時点だと少々判断が難しい。人見知りだし迎えられていても家の中にいるかもしれない。少し先の未来で二人にも是非会いたいものである。

 そんな色々と盛りだくさんな一家をまとめ上げるオカは、旦那が再び危険な旅に出発するのにもかかわらず「しっかり働いてくるも」と容赦なく仕事へと送り込んだ。肝っ玉かーちゃんである。でも夫婦仲は良好なので、必ず生きて帰ってくると信じているからこその送り出しだとも伝わってくる。何だかんだ微笑ましい夫婦だ。

 

 リキの衝撃の事実が判明して色々な意味で盛り上がる中、地下に通ずる階段から慌てて飛び出してきたノポンがドンガに一つの知らせを持ってきた。

「鳥のヒトが起きたもー!」

 聞くや否やメリアが地下一階へと走って向かった。シュルク達もメリアを追いかけて地下貯蔵庫へと駆け降りていく。

 シュルク達が到着した時、メリアは目覚めたアイゼルの手を両手で握りしめていた。ぽろぽろと涙を零しながらも何度も良かったと繰り返す姿を見て鼻の奥がつんとする。カルナは数粒零れてしまった涙を指先で拭っていたし、ダンバンやラインの瞳も心なしか潤んでいるように見えた。遅れてやってきたリキも俺達の足元で「よかったもー、本当によかったもー」と号泣していた。

『——変えられたな、未来』

『うん。彼女が一人ぼっちにならなくて良かった』

 目覚めたばかりのアイゼルは仕える主のメリアが無事であることを理解して安堵していたものの、己を取り巻く状況に関してはさっぱりのままだ。ノポン族は良いとしてもメリアを妙に優しい眼差しで見つめるホムスの軍勢には流石に警戒心を露わにしている。

「メリア様、彼らは——」

「紹介しよう。彼ら——シュルク達は私のテレシア討伐に助勢し、何よりそなたを救ってくれた者達だ」

「な、それは……!?」

 立ちあがろうとするもすぐにふらついて座り込んでしまう。無理せずとも良いとメリアに告げられ、上体を起こしたまま壁に背を預ける。メリアから意識のない間の一部始終を聞いたアイゼルは此方に深々と頭を下げた。

「何と感謝を申し上げれば良いか……。メリア様へのお力添えのみならず、自分の命までも救っていただいたとは……」

「私からも改めて礼を言おう。これまでの様々な助力、感謝する。……本当にありがとう」

 初めはホムスどころかノポンの手助けさえ渋っていたメリアが素直な気持ちを伝えてくれたことが、感謝の言葉そのものよりも嬉しかった。

 

 

 メリア達にとっては帰るべき場所、シュルク達にとっては本来の目的地である巨神頭部へは明日向かうこととなった。 

 メリアはアイゼルと共に地下貯蔵庫の一角を借りて休むそうだ。急な容体の悪化の心配はほとんどないものの病み上がりの彼にいきなり村を発たせるのはなかなかに酷だ。離れる際にカルナがアイゼルのことで心配なことが起きたら遠慮なく呼んでと気遣っていたし、メリアもやっと身体も心も落ち着いた状態で眠れるだろう。

 一方我らホムホムは村の中に四人も寝転がれるスペースなどないので巨木の外で一晩を明かすことになった。デイリの橋の下に広がる短い草の生い茂る場所であり貯水池も近い。野宿は慣れたものだしここも立派にサイハテ村の中である。安全な場所で敵襲を気にせず眠れるだけでも大変有難い。マットなど簡易的なノポンお手製の野外用寝具も貸してもらったので、野宿と言えどかなり良質な部類に入る。手配してくれたドンガに感謝である。

 貯蔵庫内の食料をいくつか分けてもらい、コロニー6を発って以降初めて携帯食以外の夕飯を口にした。後は眠るだけ、でももう少し起きていたいこの微妙な時間帯は各々リラックスした姿勢で会話を楽しむ。夜になると昼間より気温も下がり、下層住みのホムスでも過ごしやすい環境になる。時折村の中を穏やかに吹き抜けていく風が気持ちいい。

村長(そんちょう)さんってメリアにはやけに丁寧だったけど、多分……」

「恐らくな。カルナの想像と大きくかけ離れてはないだろう」

「ホムスとハイエンターの差ってやつかねぇ~」

 三人が同時にラインを凝視した。こいつ、まさか気がついていない……!?

「……まあラインらしいと言えばらしいね」

「是非そのままでいてくれ」

「どうせ追々分かるでしょうし」

「なんだよー! 何か俺だけ置いてけぼりにされてないか!?」

 今後の楽しみがまた増えた瞬間である。愛すべき馬鹿、ライン。

「シュルク~、今俺のこと馬鹿って言わなかったか?」

()は何も言ってないよ?」

 バレたか。そんなお前がエイルもシュルクも大好きだから許してくれ。

 

 翌朝、中央広場にて集合する。

 メリアと共にやってきたアイゼルは自身の両足でしっかりと立っていた。戦闘時ではない為兜もかぶっておらず彼の顔がよく見える。顔色も良いし体調は無事に回復したようだ。

「テレシアに負わされた傷は治ったのですが、それ以外のところがほんの少しだけ痛みまして……。どうやら自分が眠っている間に何名かのノポンが乗っていたとか……」

「食糧庫で隠れて仕事を怠る不届者のベッドにされていたらしい。村長(むらおさ)から聞いた」

 ノポン族、配慮を覚えろ。彼は患者だ。

 目を閉じている間は気がつかなかったが、彼は垂れ目でありとても柔和な印象の顔立ちをしている。改めて整った綺麗な顔だと感じる。美醜は結局それぞれの感覚になりはするが、ハイエンター全体として綺麗な顔立ちになりやすいのかもしれない。

「さて長よ。我らの帰還と共にシュルク達をエルト海に上げてもらえないか? 約束なのだ」

「もちろんですじゃも。昨晩の内に上の者に伝えておりますじゃも」

「かたじけない。それにこれまでのノポン族の我らへの助勢も感謝する」

「いいえ、おかげでマクナ一帯の安寧が保たれましたも。我々ノポンからもメリア様にお付きの方々、ホムホムの皆さんにお礼を申し上げますも」

 ドンガとは一階で別れを告げた。見送りに来ていたリキの家族達からも激励を受けた。純粋に嬉しい。

 アイゼルが先導してサイハテ村の最上階を目指す。互いのこれからの行動を話し合って長い階段の辛さを紛らわす。でも辛いものは辛い、ついでに落下しそうで怖い。

「メリア達は皇都に帰るんだよね?」

「それもそうだが、そなた達に借りを返したい。エルト海の案内をさせてくれないか?」

 エルト海の地理に詳しい者が案内してくれるのは助かるが、皇女にそれをさせても良いものか。いや本人がしたいと言っているからそれを無下に断る方が失礼だとは思うが……。

「だが一口にエルト海と言っても広い。エルト海のどこへ行くのだ?」

「巨神の頭の近くに(そび)え立つ黒い塔なんだ。未来視(ビジョン)で見た光景で、僕はどうしてもそこに行かなきゃならない」

 シュルクの答えにメリアとアイゼルが顔を見合わせた。

「メリア様、シュルク殿が言っている黒い塔とは……」

「ああ、違いないだろう。シュルク、これは探すといった次元の話ではないな」

「メリア達でも検討はつかない?」

「逆ですシュルク殿。巨神の頭部、その近くにそびえる黒い塔はエルト海に二つとありません」

「そなた達が目指すものは監獄島に違いない」

 監獄島。以前にコロニー6でディクソンが推測した通りの名称が出てきた。但し存在を知るメリア達でも監獄島に行ったことはない。監獄島は現在ハイエンターの管轄下にある。何千年もの間封印の地として扱われており、勅許がなければホムスであろうとハイエンターであろうと立ち入ることは出来ない。

「エルト海にはハイエンターの治める皇国があるって話を聞いたことがある。メリア達が住むのがそれだな?」

「その通りだ。前にも言った気がするが、そなた達はホムスにしては巨神上層部に詳しいな」

ディクソン(物好き)に色々と聞かされたんでな」

 ダンバンが遠い目をしている。一方我らが愛すべき馬鹿のラインは勅許やら皇国やらの単語の意味さえ理解していなかった。隣を歩くカルナが丁寧に解説してくれている。

 勅許は君主から賜る公的な認可を指す。皇国に関してはホムスが現在のコロニー制を採る遥か昔に王族や皇族といった者達が統治権を持っていた時代が近い。今で言うコロニーの監督官が皇主にあたるが権限はより大きく、その立場は基本的に世襲制だ。

「要するに皇国を治める皇主からの許しがないと入れないわよってこと」

「へぇ~。ダンバンは知ってたけどカルナも物知りだな、すげーよ」

「普通にスクールで習うホムスの歴史と単なる言葉の意味よ」

「ま、俺まじめに聞いてなかったし。何なら寝てた……いってぇ!!」

 ラインの知識の無さに我慢ならなくなったカルナが思い切り彼の左の二の腕を叩いた。シュルクも流石に苦笑しており特に気遣う言葉の一つもかけない。

 つまり次の目的地は皇都になる。そこで皇主より監獄島へ入る勅許を得て、ようやく本来の目的地に足を踏み入れられるわけだ。

 ダンバンは皇主に一介のホムスが易々と会えるのかと憂慮するが、メリアが力強い表情で告げる。

「安心しろ。私は案内すると約束した。約束は必ず果たす」

「私も可能な限りメリア様にお力添えいたします。恩人である皆様の力になりたいのは自分も同じです」

「助かる。——さて、到着したぞ」

 サイハテ村の頂上、九階てっぺんの湖だ。こんな巨木の上に湖があるのも十分驚きに値するが、これがエルト海への入り口でもあるというのだから更に驚愕である。

 湖のすぐ手前にいるノポンにメリアが要件を伝えれば、珊瑚色の毛並みをした転送案内係のノポンは了解したと大きく一跳ねした。

「キラキラのシュワシュワ~! 鳥のヒトとホムホムゴイッコウ、エルト海にご案内だも~!」

 案内係の声に反応して空に見える海の色と同じ光が湖の中央に突如として溢れ出す。光なのか水飛沫なのか区別がつかないほどに細かい粒子を飛び散らせながら、湖の光は空へと真っすぐ伸びる柱となった。

 ホムス一同は魔法でも見せられているのかと困惑しているが、ノポンであるリキやハイエンターであるメリア達にとってはごく自然な光景らしく涼しい顔で光の柱を見ている。

「みんな早く乗るも! エルト海へ出発するも!」

「乗れって本気かよ!? 俺体重も武器もあるしかなり重いんだぞ!」

「恐れることはない。この流れに乗ればすぐにエルト海だ」

「ご安心くださいライン殿。自分も鎧など重装備ですが何ら問題なく上へと向かえます」

「アンタが言うなら大丈夫なんだろうけど……。でも怖いモンは怖いって」

 メリア達が光の柱へと向かったのに続いてシュルクも湖にそっと足を下ろす。沈むかと思いきや光そのものが道のようになっており、なんと水面を歩けてしまう。

『これは感動だな。ダンバンさんならそのままでも水面走れそうだが、神威息吹とか使って』

『笑わせないでよ! でもちょっと分かる』

『……で、ラインはまだぼんやりしてるぞ』

「ライン! 早くおいでよ、大丈夫だから!」

 振り返って見れば、俺達にとって一番の味方であり理解者である頼れて愛すべき馬鹿ことラインはまだ不安げな顔をして突っ立っていた。他の皆はとっくに光の中に入ってしまい姿が見えなくなってしまった。そこまで時間的余裕が無いなんて話ではないだろうが、万が一この光の柱が消えてしまっては困る。シュルクと交代して歩み寄り、彼の手を鷲掴(わしづか)んで無理やり引っ張った。

「ほら行くぞ。想像を超えた現象に遭遇して怖くなるのは分かるが、モナドやら未来視以上の現象なんて早々ないんだから安心しろ」

「そう言われりゃそうかぁ。……うおおぉっ! すげぇ! 本当に水の上に立ってる!!」

「シュルクが言っただろうに。さ、俺達もエルト海に行くぞ」

「おう。——ところで俺のこと馬鹿って言ったのエイル(おまえ)だろ」

「ははっ。やっぱりお前に隠し事はできないな」

「やっぱりかよ! そういうしれっと酷いこと言うの、シュルクと似てるよ」

 青い光に包まれる中で少しだけ怒りながらも笑う彼につられて俺達も思わず笑った。

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