いつしか異物は喀血となる   作:坂野

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「気持ちの整理はついたようだな」

 離宮に戻ったシュルクとダンバンの顔を見たメリアは確信を持って告げた。二人の顔からは数十分前までの暗い色がすっかり消えていたのだから、出した答えは口にせずとも伝わってくる。

 そうなると次の目標は白い顔付きの搭乗者との接触になる。では彼女はどこにいるのだろうか。常時飛び回っていれば見つけ出すのは困難であるが、機体の燃料補給や整備をする基地のような場所は必ずあるはずだ。機神界全体として巨神界への侵攻という目的がある以上、機神兵の基地となる場所は限られる。その基地とする場所として最も確率が高く、またそこしか考えられない場所こそが大剣の渓谷の先に建つガラハド要塞だ。監獄島に向かう未来視(ビジョン)が無ければ本来真っすぐに乗り込んでいたであろう場所だ。

 単に黒い顔付きを斃すという目的ではなくなったものの、遅かれ早かれ要塞に突入することは何ら変わりない結果となった。

 早速その作戦を立てよう——と言いたいところだが、何やらカリアン殿下がシュルクを呼んでいるらしい。殿下は陛下の死についてシュルク達を責め立てるような人物ではない。しかし今の我々が何か皇都や皇家に目立って良い働きをしているとも思えない。良くも悪くも呼び出されるだけの心当たりは特にないのだ。

 拒否する理由もまたないので、まずはこの場にいる全員で謁見の間へと足を運ぶこととなった。

 

「方々、心身の傷が癒えぬ内にお呼び立て申し訳ない」

 第一声がこれなのだ。殿下もここ数日で目まぐるしく発生する皇都での騒動に走り回っている上に、父親を喪ったばかりの一人の子であり人間である。まだ悲しみに暮れていたって誰も文句など言わないであろうに。人徳がありすぎる。

 肝心のシュルク達を呼び出した内容であるが、まずは殿下が深々と頭を下げる謝罪から始まった。ホムスとノポンの一行は驚きで固まり、ハイエンターであるメリアとアイゼルも思わず目を見張った。

 カリアン殿下は一人の個としてではなく、ハイエンターという種族全体として謝罪をしていた。機神から遠いという地の利、先人が遺した機械群を用いた強固な防衛機構に頼り安穏としていたことに対してである。

「いや、安穏としすぎていた。自分達に害が及ばぬ現実を良しとし、甘え切っていた。機神兵の侵攻を下界の些事として座視していたのは誤りであったのだ」

 つまりこれからはハイエンターも機神界からの脅威に立ち向かう。巨神界の人類が一つになる為の一歩がやっと踏み出されたのだ。

 同時に殿下は一つの頼みをシュルク達に持ち出した。これからは巨神界連合軍が編成されることになる。殿下を代表として動いても良いのだが、それでは他種族——特にホムスからの反感を買いやすい。その為準備としてハイエンターからホムス、ノポンへの橋渡しの役割を担ってほしいとのことだ。

 今のシュルク一行が重ねた時間は決して多くはないが、濃く深く密度の高い時を共に過ごし互いを知り合ってきた。ホムス、ノポン、そしてハイエンターが種族の壁など関係なく手を取り合い旅をしている姿こそが連合軍の理想の姿であると殿下は考えている。シュルク達が呼びかければスムーズに事が進むと見ての頼みなのだ。

 何と喜ばしいことだろうか。自分達の姿が理想であると言われたのも、種族同士が共に歩む未来を目指そうとハイエンターが決断してくれたのも。間違いなく歴史に刻まれるだけの転換点に我々は立っている。希望溢れる未来の為に駆け回るくらい喜んで引き受けようではないか。

「あの、少し……考えさせてもらえませんか?」

 但し、それを伝えられたのが今でなければ。

 

 一度謁見の間を去った。

 離宮より見える空の涙は随分と弱まっていた。遠くの空は既に雲が途切れている。きっと明日の朝には眩い陽の光が差し込んでくるだろう。

 どうして今、この瞬間に良いことも悪いことも降りかかってきてしまうのだろう。

「シュルク。らしくないよ。……って言っても仕方ないわよね。私でもいっぱいいっぱいになっちゃうもの」

「……うん」

 腰を下ろしていたところにカルナが声をかけてきた。彼女は立ったまま離宮の花壇に目を向け、そのままシュルクが喋り出すまで静かに待ってくれる。

「カリアンさんの頼みも引き受けたいよ。頼りにされたのも嬉しかった。だけどフィオルンを探しに行きたい気持ちもあって……」

「そうよねぇ。私も、もしもガドとあんな風に再会しちゃったら迷っちゃうわ。何なら今のシュルクより酷いかもね。きっと泣いて(わめ)いて、一人で勝手に飛び出しちゃう」

「あはは。カルナ、いつもしっかりしてるのに。意外だな」

「あらそうかしら。こう見えて私、結構好きな人に依存しちゃうタイプよ? ——ね、シュルク」

 シュルクの顔を覗きこんできたカルナと目が合う。少し暗い栗色の瞳が柔らかく笑った。

「いいのよ、追いかけても」

 何もホムスはシュルクだけではないのだ。一人くらい抜けたところで事が進まなくなるとは考えにくい。

 それに顔付きの中に幼馴染が紛れているなんて知ってしまったシュルクが連合軍で戦うなんて無理な話であろう。フィオルンらしき彼女はホムスを傷つけようとはしていなかったものの、彼女が全ての機神兵団のトップではない。彼女よりも更に上の立場の者が「戦場に出てホムスを殺せ」と命令を下してしまえば、今度こそ彼女は武器を手にして立ちはだかる。その時にシュルクはモナドを彼女に向けられるのか。否、天地がひっくり返ろうとも無理な話だ。

「そうだぜ。後のことは俺に任せろよ」

 ぐっと肩に親友の太い腕が回された。

「お前ほど上手く出来ないかもだけど、やれることはやる。だからシュルクはまずフィオルンを連れて帰ってこい。それからでも遅くねえ——」

「いや、それは私の役目だ」

 ラインが言い終わる前にメリアの声が割り込んだ。

「皇太子であり混血児である自分ならきっと連合軍をまとめられる。私はここに残り——」

「お待ちくださいメリア様ーっ!!」

 割り込みに次ぐ割り込みである。カルナとライン、シュルクとメリアまでもぽかんとしている。したくもなるだろう。流石にドッキリの脚本でもあるのではないかと若干疑ったがそんなはずもなく。

 離宮の転移装置から大声を上げて走ってきたのはアイゼルであった。その後ろにはカリアン殿下と数名の近衛兵の姿もある。

「アイゼル……声が大きいぞ」

「申し訳ございません……。しかし今回ばかりは自分の声の大きさのおかげで間に合いました!」

「そなたは何を言っておるのだ……」

 このやり取りもすっかり馴染んでしまった。

「混血児であるならば自分も同じです。皇太子であるメリア様一人ではなく、ハイエンター全体が少しずつ責任を負うことが重要ではないでしょうか。それにメリア様には巨神界と機神界についてもっと見聞を広めていただかねばならないと思うのです」

「しかし私には皇太子としての責務が……!」

「私からの頼みでもあるのだ、メリア」

「兄上!?」

 無論このままメリアを皇都から送り出しては大きな問題が発生する。様々な公式行事もこなさねばならないし、何より皇太子が機神界に向かったなどと発表すること自体が大きな騒ぎに直結する。

「メリア、お前はきっと自らが皇都を離れても良いのかと不安がっているのだろう。……安心してほしい」

 目くばせをしたカリアン殿下の背後から一人の人物が現れた。その姿を見た一同は揃って目を丸くして驚愕の声を上げる。

「メリアがもう一人!?」

 立太子式などで見た礼服を身に纏ったメリアらしき人物が現れたのだ。

「ちがうも! メリアちゃんと匂いがちがうも! メリアちゃんはもっとお花のいい香りがするも!」

「おっさん、その言い方は気持ち悪いぞ」

 公の場に姿を現す際にメリアは皇太子としての式服を身に着けている。そして何より、彼女は皇位を継ぐその日が訪れるまで公的な場において素顔を見せることが出来ないのだ。

 つまり背格好さえ似通っていれば彼女の影武者を用意するのは非常に容易い。

 優しげに微笑んでいた殿下は不意に表情を引き締め、メリアの前に(こうべ)を垂れて(ひざまず)いた。

「皇太子殿下。臣下として分を弁えぬ非礼でありながらお願いしたき儀がございます」

「……うん。申してみよ」

「シュルク殿と共に、皇都を襲撃した機神兵の追撃をお願いしたく存じます」

 その言葉に何より驚いたのはシュルクであった。メリアを送り出すと同時に、シュルクにも橋渡し役ではなく己の信念を貫いてほしいと告げるも同然であったからだ。

 立ち上がった殿下は再び穏やかな笑みを浮かべてシュルクに向き直る。殿下はシュルクの抱える事情をメリアとアイゼルから全て聞いていた。元は黒い顔付きへの復讐の旅であったこと、白い顔付きの中に死んだはずの幼馴染の少女がいたこと、顔付きの存在意義と機神界からの侵攻の理由を知りたいと願うようになったこと。その全てを抑え込ませてまで橋渡し役を頼むのはあまりに横暴だと殿下は理解を示してくれたのだ。

「いつか近い未来、シュルク殿の目的が果たされた時で構いません。その時に改めてお力を貸していただきたい」

「カリアンさん——。ありがとうございます……!」

 建前は皇太子の見聞を深めてハイエンターのより良い未来を築く為。本心は妹の心を一番に考え、それに寄り添う彼女の仲間達の為。摂政としての理論も通しつつ、兄として彼は最適かつ粋な背の押し方を見せてくれた。

 白銀の機神兵——フィオルンらしき搭乗者はガラハド要塞方面へ飛び去ったとの報告が入っている。そこは元より乗り込もうと決めていた地だ。現状では物理的に機神界へと繋がる唯一の場所でもある為、機神兵を殲滅するにも真実を求めるにも通る道は同じだ。

「殿下、大剣の渓谷まではボクが案内いたします」

 離宮の入り口からアルヴィースが姿を現した。予言官である彼がどうしてとシュルク達は首を傾げるも、カリアン殿下は一人納得したように頷いた。

 ガラハド要塞に乗り込むにはまず大剣の渓谷まで辿り着く必要がある。しかしその前に巨神の右腕であるヴァラク雪山を抜けなければならない。文字通りそこは雪深い山脈である。しかも巨神の右腕が機神の剣を掴んでいる体勢上非常に急な斜面が多々あり、初めて訪れる者だけでは思うようには進めないだろうと判断してのことだ。つまりはアルヴィースはヴァラク雪山に足を踏み入れるのは初めてではないのだとも言える。

 なれば早く発とうと発言したダンバンに異を唱える者はいない。

 連合軍の方は大きな問題は無いだろう。カリアン殿下やアイゼルを始めとしてハイエンターの意識は変わりつつある。巨神界の種族が今まで一つになれずにいたのはハイエンターの傲慢さによるものだと省みられたのだから、最大の障壁は取り払われたのと相違ない。

 ただ連合軍が活気づいて勢いを得てしまった場合に一つだけ心配があった。

「カリアンさん、忠告というかそんなに偉そうなことは言えないんですが……」

「いえ、どんなに些細なことでも有難い情報です。何かありましたかな」

 口を開いたのはシュルクではなくエイルだ。先の未来で何が記憶通りで何が違うのかは分からないが、意識させることに越したことはないという心配からどうしても言いたかった。

「攻めに転じるのも良いと思うんですけど、顔付きの機神兵には人が組み込まれていることだけは全員に共有しておいてほしいんです。衝撃的ですしとても辛い事実だけど、目の前にいる敵が本当は身内で、知らないままに殺してしまった……なんてことだけは避けたいんです」

 主に顔付きのユニットとして利用されているのはホムスである。それでも確率としてハイエンターがいないとは断言出来ない。例えば皇都やエルト海から行方不明者が出ていたとしたら、機神界に拉致された可能性が今だからこそ浮上してしまうのだ。

 加えてこれは言葉にはしなかったが、あまり踏み込みすぎると機神が目覚めた際に甚大な被害が生まれる。巨神共々目覚め自体を未然に防げるならば心配はない。それが難しいからこそ安易な攻勢に転じてほしくはない。多少もどかしくとも、強力な防衛線を張り根気強く機を窺う方が引き抜かれた大剣から落下して失われる命は更に減るはずだ。

「分かりました。我らも改めて覚悟を持って事に当たります」

「はい。(ぼく)達も可能な限り早く合流できるように努めます」

 こんな一人のちっぽけな助言であのロウランがハウレスの使用をやめる結果にはならないだろう。そうだとしても使用数が減るだとか微かでも影響があることを望まずにはいられない。

 こうしてシュルク達はカリアン殿下を始めとしたハイエンター達に見送られて皇都を後にした。訪れた時はモナドを持ちし異民族として警戒されていたのが、去る時には同じ人間として少し関係性が良くなれたのは純粋に嬉しいものだ。

 

 センターゲートから外に出たところで改めてガラハド要塞までの道のりを整理する。要塞そのものは大剣の鍔の付近に位置する。剣の切っ先は巨神側なので自ずと機神本体に近づくことになる。そこへ向かうには当然大剣の上を進むしかない。

 一年前の大剣の渓谷での決戦ではコロニー6からポッドを打ち上げて直接向かった。今回はコロニー6が未だ復興の最中である為それが出来ない。

 そうなると巨神の右腕を降りるしかないのだ。右腕にはアルヴィースが手配した短距離ポッドに乗りマクナ原生林を経由して向かうのだが——。

「そのポッドで直接行けないのかよ!」

 ラインの突っ込みが飛んだ。そう言われればそうだ。

「そうしたいのは山々なんだけどね。長距離用のは連合軍編成に備えて全部軍の方に持っていかれたんだ」

 ——とのことである。積める燃料の容量から短距離用では大剣の渓谷には到達が難しいそうだ。マクナまでは楽をして、その先は自分達の足で進むしかない。

 マクナのポッド発着場までは三十分程度の時間を要する。ポッドが出発してから到着までの間は各々談笑なり外の景色を眺めて時間を潰していた。

 シュルクはぼんやりとエルト海の光を眺めている。あんなに激しい戦いがあったにもかかわらず、訪れる前と何ら変わりない監獄島の青い光がどうしてか薄く笑っているように見えた。

「……シュルク。隣、良いか?」

「メリア……? うん、いいよ」

 ちょうど空いていた隣にメリアが腰かける。視線は自然と外から彼女の顔へと移った。少なくともシュルクが自分に意識を向けており、何か口に出せば聞いてくれる姿勢だと察したメリアはゆっくりと話し出した。

 初めはなんてことない内容だった。エルト海は下層住みの者から見ても美しいだろうとか、ホムスとハイエンターの使うポッドの違いだとかその程度のことだ。

 それでもメリアが本当に話したいことではないと鈍いシュルクでも薄々感じていた。会話の相手が欲しいだけならば同性であるカルナや、自身を好いているリキの方がずっと適役なのだから。

 シュルクはそれを口にするか迷った。メリアが話したいと思うまで待つべきにも思えるし、此方からそれとなく聞いて誘導したって良いようにも思える。

『言ってあげるといい。彼女は本質的には内気なんだ。シュルクが気付かない振りをしていたら、メリアは本当にシュルクが気付いていないのだと思い込むぞ』

『ありがと。エイルはメリアのことよく見てるんだね』

 ——元から知っているだけとは言えない。

 誘導はとりあえず上手く働いた。優しく何かあったのか聞くとほんの一瞬だけ目を丸くし、眉を下げたままメリアは緩く口角を上げて本当に話したかったことをぽつりぽつりと零し出した。

「シュルク達はもう何度も……こんな辛い思いをしてきたのだろうか」

 何に対してと尋ねるまでもない。

「……そうだね。否定は出来ないかな」

「気を抜くと父上を殺した機神兵への憎しみが無尽蔵に湧き出てくる。……奴らに屈してはならぬと何度も言い聞かせているのに、同じところへ堕ちたとしても奴への復讐を果たしたいと願う私がいて……それがとても辛くて……どうしようもなく……嫌なのだ」

 それはシュルクが既に通った道だった。愛しい人を明確な悪意と殺意で奪われたことで生まれた復讐心はそう易々と御せるものではない。だからせめて同じ道を辿り、少しだけ先にいる者として進み方くらいは教えたいと思う。

「今は無理に怒りを抑え込まなくてもいいと思う。……だけど本当に堕ちるかどうかは知ってからでも出来るよ」

 モナドの枷を外した時の想いと同じだ。大切な誰かが殺されなければいけない理由があったのか、それともただ理不尽な暴力を受けてしまっただけなのか、それに至るまでに存在した全ての事象に意味は存在するのか。偽りなき真実を己の手で掴み取った時、その上でやはり復讐を遂げたい想いに一切の迷いがないならば進めばいいだけの話だ。

「そうなってしまって、何が起ころうとメリアが黒い顔付きを心の底から殺したいと思う時は……言って」

「それは……」

「ハイエンターの希望になる君の手を汚すことはさせない。君が被る汚い血は()()が全て引き受ける」

 彼女が黒を許せない時はきっとシュルクも同じ想いだろう。輝かしい未来も愛しい人さえも捨てて復讐のみを遂げる鬼と化し、人ならざる者として認知された瞬間にかつて仲間であった者に首を落とされる。何の救いも無い道を歩むのは俺達ただ()()で良いのだ。

「……そうか。未来は分からぬが……シュルクの手が汚れてしまうのは嫌ではあるが……憎しみを抱いても良いと分かって、少しだけ楽になった。ありがとう」

「お礼を言われることじゃないよ。家族を殺されて加害者を憎むなっていうのは無理な話だよ」

「確かにな。とりあえず今はそなたの幼馴染を取り戻さねばならぬ、そうだろう?」

「そうだね。メリアを僕の勝手に巻き込んじゃってごめん」

「謝るでない。それに私もその幼馴染と話してみたいのだ」

「フィオルンと?」

「そうだ」

 メリアの顔からは先ほどまでの黒への複雑で暗い感情の色は消えていた。久方ぶりに見た一人の少女として静かな笑みをたたえる顔にシュルクは首を傾げた。

「彼女の顔を見て……母上を思い出した。顔立ちが似ているとかではなく、どこか温かな太陽に似たものを少しだけ感じたのだ。……今は機神側についてはいるが彼女が単に敵だとは思えぬし……どうしてか彼女をそう思いたくない」

 メリアにとっての本当の母——ソレアン陛下の影妃であったホムスの女性だ。この場においてその人となりを知っているのはメリアしかいない。そのメリアが今現在において厳密には純然たるフィオルン自身ではないにしろ、フィオルンから母の面影を感じた。あの一瞬の遭遇で脳ではなく心で温かさを感じたと言うのならばそれが答えだろう。

「もしも彼女が今もシュルクの知るままであったのなら……その……友に、なってみたい」

 生まれと立場のせいでメリアには長い間同年代の同性の友人はいなかった。同性というだけであればカルナが該当するだろうが、メリアの年齢をホムスに換算するとカルナの方が若干年上になる。メリアと同い年ならばそれこそシュルクやライン、フィオルンがちょうどそれにあたる。

 メリアはフィオルンをまだ何も知らない。更にシュルクへの無自覚な恋心もきっと抱いている。それでも恋心に纏わることとは別に彼女を知ってみたいと感じてくれた。これが俺達にとってどれだけ嬉しいことか。

「……うん! きっと仲良くなれるよ! 二人が仲良くなってくれたら僕も嬉しいな」

「本当か……!? その……フィオルンとやらはハイエンターに良い感情を抱いていないとかは……」

「そんなことないよ。フィオルンもメリアもすっごく素敵な人だから絶対に大丈夫!」

 ——お前という奴は本当に……。

 流れるように褒めるものだから案の定メリアの頬に赤みが差す。博愛故の発言と分かっていても頭を抱えたくなる。

 何も知らずにぽやぽや笑うシュルクと少し照れてしまったメリアを見つつ心の内で苦笑を漏らした。

 

 意識を外に向ければ眼下には既に鬱蒼と繁る森林が広がっている。ポッドの高度も下がり出したようだしもうすぐ着くだろう。

 シュルクの為にもメリアの為にも、ヴァラク雪山でエイルが目指すのはただ一つ。何者にも邪魔をされずにフィオルン(メイナス)との対話を成功させることだ。

 行こう。再会の場所、モナド封印の地、そしてシュルクの始まりたる霊峰——ヴァラク雪山へ。

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