いつしか異物は喀血となる   作:坂野

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第十一章
大剣の渓谷


 新たに現れた紫の顔付きと連れ去られた白い顔付きの両方は降りしきる雪に紛れて姿を消した。追いかけて追いかけて、追いつけたのはシュルク自身の感情のみだった。

 取り戻したい。人の足では届かない。

 目の前で消えないで。闇雲に走っても無駄に体力を消耗するだけ。

 行かないで。まずは冷静になれ。

 突っ走るだけの感情を理性が背後から押し倒し捕らえたことで、ようやく現実のシュルクの足は止まった。それでも感情は喉こそ震わせずとも、腹の底から体液を掻き回さんばかりの咆哮を続けている。

 両手を膝につき、乱れた息を短時間で強引に整えて再び雪空を睨みつけた。

「絶対に取り戻す」

 己に言い聞かせた低い声が地に落ちる。

「あそこを抜ければもう大剣の渓谷だ。機神兵達が飛び去った方角にはガラハド要塞がある。——行くんだろう?」

 音もなく隣に並び立ったアルヴィースが告げた。情報を淡々と並べ、そしてシュルクの意志を確認するかのように肩に手を置く。出てくる答えが予想通りだと信じて。

「行くさ。要塞でも機神の胎内でも——果てのない海の向こうでも」

 目の前から彼女が消えるならまた探すだけ。逃げるならば追いかけるだけ。彼女の手を掴むまで、ずっと。

 

 巨神の親指を辿れば一面の白銀だった世界は徐々に岩肌が露わになっていく。

 足の裏の感覚が細かな氷雪が砕けるものから硬く重厚な岩と接触するようになった辺りだった。せいぜい一日二日しか見ていないだけなのに雪以外の景色に僅かな安堵を覚える。しかしその安堵を一瞬にして思考の外へ追いやる巨大な物体が目に飛び込んできた。

「おっきな剣刺さってるも! 痛そうだも!」

 リキの叫んだ通りだ。機神側から伸びるあまりに巨大な物体こそが機神の持つ大剣であり、大剣の渓谷と呼ばれる広大な土地そのものである。

「でも……どこか不自然だ」

 巨神に突き刺さる大剣を実際に見てシュルクはある点の違和感を即座に見抜いた。

 単に大剣が巨神に突き刺さっているだけならば、骸となっている二柱の神同様に大剣もまた沈黙していると考えるのが自然だ。しかし実際に目にすると、大剣の各所にはエメラルドグリーンの光が何かに吸い寄せられているかのように走っている。発光している要因はエーテルによるものだろうが、エメラルドグリーンのエーテルとなるとまず思いつくものがある。巨神胎内に流れるエーテルだ。コロニー6の中央採掘場の最奥部で煮えたぎっていたエーテルが(まさ)しくこれになる。

「父上から聞いたことがある。機神は巨神のエーテルを吸い取り糧としているのだとか。なればあの光は……」

「成る程な。メリアの情報で納得がいった。この先にあるガラハド要塞の件と合わせれば、機神に限らず機神兵どものエネルギー源となっている可能性は高い」

 今後の巨神界連合軍の動きも考えると、要塞へ乗り込みフィオルンを助け出すついでに機神界の前線基地を大幅に弱体化、もしくは稼働が困難になるまで追い込めることができれば理想的だ。巨神界を襲う機神兵もそのほとんどは機神の本体ではなくガラハド要塞からやってきているはずであり、下層部への被害の縮小もまた同時に望める。

 口で言うのは簡単であるがガラハド要塞は機神兵の大きな拠点であることに変わりはない。待ち受けるであろう戦力は今までのどの戦いよりも強大である。仲間どころか自分の命さえも落としかねない場に乗り込むのは相当な負担だ。故郷、家族——残してきたものが心配な者もきっといる。フィオルンを取り戻したいのはシュルクという一個人の勝手な願いでしかない。

「もし、こんな危ないことに付き——んむっ」

 告げかけたシュルクの口が物理的に塞がれる。ふわふわの羽が唇に触れてくすぐったい。

「仲間はずれはダメだも。そーいうこと、イマサラなんだも」

 恐怖なんていつまで経っても消えない。傷つき痛みを感じるのは生物としての本能が怖いと叫ぶものだ。それをとっくに承知で、そして本能を吹き飛ばさんばかりの声が内から溢れてくる。置いていかないでほしいと、自分を巻き込んで頼ってほしいのだと。

 忠告も気遣いも要らない。君が大切な存在を取り戻したいと行くならば、俺達は何も言わずについていく。君の進む先には単なる大切なものだけでなく、この世界の未来そのものがあると知っているから。

「ぷはっ。……そうだね、リキ」

「そーだもそーだも。だからシュルクの口からちゃんと言うんだも」

 欲しいのは君が伸ばす手と乗せられた想い。それさえあれば十分だ。

「——うん。みんな、行こう!」

 

 

 巨神の手を完全に抜けたところにはホムスとハイエンターの輸送ポッドが数機ずつ停泊していた。アルヴィースが言うに、この先に何も準備せず進むのは得策ではないからとあらかじめ手配していたものらしい。

「……アルヴィース、最初っからあのポッドに乗せてくれても良かったんじゃないのか?」

 じっとりとした半目でラインが至極真っ当な文句を吐いた。

 そもそも俺達は長距離用ポッドが全て連合軍編成の為に持っていかれたから仕方なく短距離用でマクナ原生林に向かい、そこから徒歩でヴァラク雪山を下ってきたのだ。にもかかわらず目の前にあるポッドはアルヴィースの指示で補給部隊としてやってきている。絶対にこれに乗って大剣まで来れた。

 アルヴィースは薄い笑みのまま答えない。彼のことだからそんなの知っていて敢えてこの手を使ったのは理解できる。シュルクをオセの塔に行かせたいが為にご丁寧にヴァラク雪山を通らせたのだろう。

「あの寒さを耐えたのは何だったんだよー!」

「まあ雪山を通ったことで白い顔付きと少し話せたんだから、楽して全く接触しないよりは結果的に良かったじゃない」

「大剣の渓谷で会えたかもしれないだろ……」

「結果論に過ぎないが、フィオルンはともかくとしてポッドで向かっていたらムムカに撃ち落とされていた危険性の方が重要かもしれん。徒歩であったからこそ全員が無事とも言える」

「ダンバンがそう言うならいいけどよ……」

 アルヴィースの判断が正しかったのかは本人のみぞ知る。気持ちの面では少々複雑ではあるが。

「おうおう、相変わらず騒がしいなお前ら」

 そこへザトールで別れて以来の聞き馴染みのある声が割り込んできた。

「ディクソンさん!」

「随分とご活躍だそうじゃないか。あの顔付きを斬り刻んでやったって? お、モナドも変わってんな。パワーアップってやつか?」

「斬り刻むだなんてそんな大げさですよ。でもどうしてディクソンさんが?」

「先日連合軍だか何だかぶちあげるっていう知らせがあってな」

 カリアン殿下はコロニー9とコロニー6に連絡を入れたのだろう。今ではこの二つのコロニーは互いに連絡を取り合い、物資に限らずコロニー6の復興でも人員を含めて協力体制を取っている。両コロニーで急ぎ話し合ったところ、巨神界中を旅した経験があり、過去に何度か頭部に訪れたこともあるディクソンがホムス代表の一人として召喚に応じた。その際にシュルク達は大剣の渓谷に向かったと聞き、補給部隊に同行して顔を見にきてくれたわけだ。会うだけでなくディクソンお手製の武器や装備も積んできてくれており、戦力の増強としては実に有難い話である。

「お代はきっちりいただくからな」

 守銭奴。

 装備の確認をしつつザトールでディクソンと別れて以降の出来事を軽い休息も兼ねて共有しあうことになった。死んだと思われていたフィオルンが生きていたこと、彼女だけでなく顔付きの機神兵の中にはホムスが乗っていたこと。その中でやはり気になるのはムムカのことだろう。ダンバンとディクソン、ムムカの三人組はコロニー9では特に知られた悪友であり戦友であった。

 ダンバンだけでなく、皆がディクソンの驚きの声を無意識的に想像し期待していた。しかし実際はあまりにあっさりと、分かりきった明日の予定を再度確認したかのように声を漏らしただけだった。

「あいつは元からそういう奴だろ。過去にちっとばかし同情してやらんこともないが、性根は割と初めっからひん曲がってたじゃねえか」

 ダンバンが静かに目を丸くしていた。

『これ本当にダンバンさんの目が節穴なんじゃないのか』

『しーっ! 僕もちょっと思ったけど』

『思ってるんじゃないか』

 会話もほどほどに、悠長にしている時間は俺達にもディクソンにもない。ディクソンと共にアルヴィースも皇都へ戻ることになった。連合軍もそうであるし彼には予言官としての職務がある。ヴァラク雪山も無事に抜けられたことで彼が同行する理由は既にない。何より皇主が亡くなったばかりで慌ただしい今、あまり長い間皇都を不在にするわけにもいかない。

「イノシシに忠告しといてやるか。機神兵の要塞に真正面からぶつかるような真似するんじゃねえぜ」

「馬鹿にしすぎだ。エーテルを糧にしてるってんなら要塞に流れ込む場所くらいあるはずだろう。その流入口を狙うつもりだ」

「宜しい。ま、なんだ、お前ら全員死ぬんじゃねえぞ」

 そう告げて彼らは皇都へと戻っていった。

 

 現在地点はまだ大剣のほとんど切先に位置する。乗り込むべきガラハド要塞は大剣の鍔にある。横幅こそとてつもない広さではあるが実質一本道だ。数日は要すれど迷うことはないだろう。

 渓谷を彷徨(うろつ)いている機神兵は自律可動式のものばかりである。幸か不幸か顔付きの姿は今の所見当たらない。見つからずに進むのが理想かもしれないが隠れる場所はあまりない。雑魚に関しては行く手を塞ぐもののみ速攻で仕留めてさっさと進むのを繰り返す。

 特に厄介なのは要塞型の機神兵である。数は多くない代わりにとにかく巨大だ。大きさだけならば黒や白の軽く数倍はある。一定範囲を命令に従って巡回しているおかげでそのパターンを見切ることは容易かった。背後をつける形で進んでいく。

 話は逸れるが、要塞型を見かける度にタイタンスタンプの字面が脳裏を過って仕方なかった。全体攻撃な上に気絶効果付与。それなのにタレントアーツではないから"(シールド)"では防げない——とはゲームという箱庭での話に過ぎない。現実であんなものを喰らえば潰されるか吹き飛ばされるかして即死だ。絶対に拝みたくない。

 何度かの日没と夜明けを繰り返すだけの時間をかけ四つのゲートを通過し、エーテル貯蔵区までやってきた。

 その際にエーテル流の行き着く方向とは別の道を見てダンバンがどこか遠い目をしていた。余計な時間を費やしてしまうから実際に寄りはしなかったが、彼の見つめる先には大きく抉られた地面があった。使用者を選ぶモナドが赤子が泣き叫ぶが如く英雄を拒絶し、爆発にも等しいエネルギーを解き放った地——モナドの爪痕である。

 一年前、あそこでダンバンは右腕の自由を失い、ムムカの命は一度散り、そして機神兵の大軍を一度退ける勝利をもぎ取った場所だ。

 ダンバンのその視線に気付いたのは俺達(シュルク)だけだった。でも何も聞かなかった。彼の中でも現実としても戦いは未だ続いたままなのだ。感傷に浸るのが許されるのは全てが終わってからだ。

 

 エナルダ管理基地を過ぎた頃だった。ふと気づけば右の手が仄かな温かみを感じていた。内側から放たれる熱なのに何かに覆われるかのようなそれはシュルクがエイルの手を握っているものだ。

『エイル、大剣に来てから疲れてる……というか、辛いんでしょ? 話してよ。分けてほしい』

 以前の自分ならばきっと適当に誤魔化していたか不快にならない程度に突き放していただろう。次々に襲い来る現実に精一杯であるシュルクに余計な不安や圧をかけたくないからと、他者への気遣いに見せかけた自己中心的な考えがあったのは事実だ。

 今は少しだけ変われたと、そう思いたい。

『つい考えるんだ。一年前にムムカにしたことは本当はすべきことではなかったのかもしれない。しなかったら、誰も死ななかったんじゃないかって』

 理不尽な言いがかりだと理解はできる。できるが、感情と切り離すのが上手くいかない。

『そんなことない! 言っただろ、あの人は自分自身で選んだんだって。エイルはモナドを持つななんて一言も言ってない。君は何も悪くないんだよ。ダンバンさんだって言ってたじゃないか。客観的に見てもきっと間違ってないよ。……それでも、まだ苦しい?』

『……それだけじゃなくて、もう一つ。白い顔付き——メイナスか。彼女との対話を成功させたかったんだ』

『どうして?』

 流石に最重要点は伏せた。元から持っている記憶からの判断ではなく、情報から組み立てた推測からこう動いた方が事が良い方向に転がるだろうという伝え方にはした。いずれは全て明かすつもりではある。

『アカモートでも話したしカルナも言っていたが、彼女は行動や発言が今までの機神兵とは明確に異なる。巨神界にいては知り得ない情報や事情も、彼女となら変に感情を荒立てずに得られるかもしれないと思ったんだ』

『でも、知らない顔付き——紫色だったよね。あいつが来て……』

 連れ去られる姿を思い出したのだろう。きゅう、とシュルクの胸が弱く締め付けられるように痛んだ。

『見立てが甘かった。ムムカさえどうにかすれば後は邪魔は入らないと思い込んでいたんだ。少し考えれば分かる上に機神界盟主も言っていた。白については別に対応するって。純粋な俺の落ち度だ』

『違う、絶対に違うよ』

『でも——』

『失敗した時に自分のことを責めるならその前に話して。責任も罪も二人で背負うって言ったろ。抱え込むなら一人じゃなくて二人で。それでも怖いなら僕らを知ってるラインに話そうよ。前に君もそう言ってたのに』

『……悪かった』

『謝らないで。辛いよね。滅茶苦茶な屁理屈で人殺しって言われて、そのすぐ後にフィオルンも連れていかれちゃったら……僕なら倒れてるよ。エイルみたいに普段通りを装うことなんて絶対に出来ない』

 手の温もりが広がる。現実で肉体を持っていたのなら、きっとシュルクが両手で俺の手を握ってくれていただろう。

『エイルはそういうところが強いんだね。でも強いから我慢して、抱え込んで、壊れるぎりぎりまで踏ん張ろうとしてる。

 大丈夫だよ、僕がいる。僕の隣でならいっぱい泣いていいから。いっぱい、話してほしいから』

『……ありがとう』

『ふふっ、宜しい!』

『なんだかその"宜しい"の言い方、ディクソンにそっくりだ。……似るものだな』

『本当? なんか嬉しいな。

 ——ね、これから何かありそう? エイルの予測は多分いっぱいあるよね』

『ああ。早速一つ、すぐ近くで起こる可能性の高い事象があるんだ』

 しばらく歩けば機神港の連絡通路に出る。ご丁寧に「待ってるぜ」と吐き捨てていったから発生地点に大きなズレは起こらないはずだ。

『また——ムムカと顔を合わせることになる』

『あの、人と……』

『モナドの枷と同じ状況になってきた。曖昧なまま決断を先延ばしにするだけの猶予はほとんどない。ここではっきりさせておく必要がある』

 中途半端に生かし続ける限りムムカは俺達を、というよりダンバンとモナドへの執着をやめない。

 例えば奴の中で感情の整理が一段落でもすれば、積極的に望みたくないが巨神界の侵攻に集中するだろう。奴が単純な内面の人間であったのならコロニー9を襲撃した時点でもうとっくに気は晴れていたはずだ。こんなに長く何度も刃を交えたりしない。

 つまりは複雑に絡み合い、どろどろに溶けた歪な形のまま固まったものを胸に抱えているからこうなっているわけだ。

『俺達が死ぬか、ムムカが死ぬか。どちらかにならない限り終わらない』

『……嫌な二択だね。エイルはもう自分の答えはあるの?』

『俺という個だけだったら機会を見逃さずに殺す道を選ぶ。憎いという自分の感情ではなく、ここで完全に止めなければ奴がまた人を殺すから、ゾードの時と同じで仕方がないから。——そう言い訳をしていたと、思う』

 他人の為だともっともらしい理由を並べて、ムムカに殺される理由など塵さえもない人々が命を落とさないようにと、誰かが傷つき死んだと聞いたシュルクを泣かせない為にと。それも結局は理性などではなく、自分の身勝手な感情でしかないことから目を逸らしただろう。

『全てを知るまでは絶対に人を殺さない。理想論の域を出ないとしてもムムカを生かしたままこれ以上の殺人をムムカにさせない。これしかないんだ』

『……あるよ。その理想論を現実に出来る手段が、ある』

 言葉にせずとも俺達の間では考えは筒抜けだ。だからこそ俺はシュルクの言葉と抱いた覚悟に驚かざるを得なかった。

『お前……! 確かに人殺しにはならないが、そんなことをお前の手でする必要は……!』

『忘れた? 罪は二人で背負うって約束しただろ。

 あの人に何を言われようと関係ない。モナドの枷を外したのは人を殺す為だと勘違いして、監獄島で逃がされたことで僕が罪を犯すだけの意志を持てない無力な子どもだとまだ笑ってるあの人に——一発でも直接殴って、手を汚した現実を見せる。

 (ゾード)の罪を君が持つなら僕は黒の罪を持つ。ね、これでおあいこ』

 思わず眩しさに目を細めた。内側のやり取りであるから物理的な瞼が反射の指示に従ったわけではない。物の例えだ。

 しかしシュルクの意思が輝きを放っていたのは本当だ。彼の意思の光(モナド)はずっと隣にいたエイルでさえも知らぬ間に眩く、美しく成長していた。既に並の人間より強大な光でありながらもこれで完成形ではない。シュルクの可能性は果てが見えない先にまで続いており、彼は期待を裏切らずにその果てに辿り着き、そしてそれさえも超えていく。

『二人でってそういうつもりじゃなかったんだが……。

 ——ああもう、分かった。乗ってやる。但し俺も殴る。汚れるのも二人での意味はこっちだ。二人が同時に、同じ行為で同量の返り血を浴びる。咎を同じ比重で背負う。いいな』

『勿論だよ。二人であの人の顔、ぶん殴ってやろう』

『あんまりそういう言葉遣いをするな』

『むう……また子ども扱いしてる』

 

 管理基地を出て機神港連絡通路に出たところで要塞の端に小さな入り口らしき穴を発見した。機神兵の姿も無くこのまま要塞側に渡れば潜入出来そうだ。油断は禁物であるが敵がいない内に向かうのが得策であろう。

 大剣の構造上、既にここは鍔の辺りだ。今まで進んできた刀身部分では心配なかったが、小さな人間が広がって歩くには十分な幅があると言えど隙間が目立ってくる。機神界側は元から人が組み込まれていない機神兵と、飛行能力を全機体標準で有する顔付きしかいないから柵なども一切ない。戦闘中にうっかり足を踏み外して落下などという事態は絶対に避けたいものだ。

 急ぎ足で大型機発着場側へと渡り、中央付近まで来ると一つの人影が姿を現した。

「待ってたぜぇ……?」

 記憶通り、予測通り——因果通りにムムカはそこにいた。

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