いつしか異物は喀血となる   作:坂野

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再会と集合、七人(ラッキーセブン)

 用意された部屋は人数分の寝台と背負う武器を置く程度の空間しかないこぢんまりとしたものだった。それでも休息を取るには十分すぎる。周囲への警戒をせずに足を放り投げ、仰向けで無防備に腹を出したまま眠れる環境は旅をする者として最上級のものだ。

 寝具も布や綿などの有機物から作られたものであり、巨神界のそれと大きな違いはない。機神界人(マシーナ)と呼ばれる人々の集落であるから、身体に限らず日用品の至るものまで金属製かと勝手に思い込んでいた。考えてみれば酷い偏見である。巨神界の人間だって無機物と有機物の両方を利用して生活しているのだから。

 加えて既に保護されたホムスがいる以上、彼らに合わせたものも数こそ少ないが用意があるのだろう。細かい部分からも彼らの優しさを感じた。

 困る存在がいれば手を差し伸べる。近くにいて交流があるならば愛すべき隣人である。思考して愛情を感じられる心を持ち、行動に移せる彼らは心を持った同じ人間に変わりない。

 

 薄い掛布に身を包んで瞼を閉じる。休めと言われたもののシュルクの胸には未だ煤竹色(すすたけいろ)の靄がかかっている。決して機神界人を信じていないからではない。リナーダにも里の人にも疑心を抱いていないし、抱くこと自体あまりに無礼ではないか。リナーダであれば適切な処置をしてくれる。カルナも近くにいる。環境に心配する点は何もない。

 シュルクはただフィオルンのことを考えていた。コロニー9で永遠のはずであった別れを突き付けられたあの瞬間から、彼女は自分とは別の道を独りで歩いていた。

 一度命を落とし、次に目覚めた時には機械の身体にされた挙句メイナスという知らぬ存在の魂が身体に宿っていた。紆余曲折を経てようやく自分の意志で活動出来るようになったのに、今度は顔付きのユニットであったが故の不調を負わされている。

 どれだけ怖かっただろう。どれだけ寂しかっただろう。今もどれだけ辛くて苦しいだろう。

 見知らぬ場所で見知らぬものに囲まれ、自分の声さえ発せない状況でも壊れることなく自我を保っていた。再び死んでなるものかと強い命の光を失うことなく彼女は帰ってきた。

 ——それなのに自分は!

 旅立った瞬間から自覚はしていた。復讐の道は一かけらも彼女の為だと言うつもりはなく、徹頭徹尾自己満足でしかないと言い聞かせてきた。

 それでも、それでもだ。自分は復讐だの新たな仲間だの真実を知るだの、能天気に自分の好きな道を歩んでいた。その間にもフィオルンは一時(いっとき)も心休まる暇さえなかったのに。無知な己は死んでしまった彼女を幻想として抱え、現実にもう彼女はいないのだからと好き勝手に彩った。こんなの彼女への冒涜でしかない。

『……無理もない話だろう。死んだ人間は生き返らない。自然の摂理を疑って生き続ける方が狂気染みているんだ。シュルクが罪悪感を抱く理由も必要も無い』

『分かってる! 分かってるよ……!!』

『仮に俺がどれだけ根拠を集め推測を立てて、お前に"フィオルンは生きているかもしれない"なんて伝えたところで信じられないだろう。それに監獄島でメイナスと出会うまで推測は推測のままだ。たとえかなり正確に未来を見せてくる未来視(ビジョン)だったとしても、実際に観測されない限り一秒先の出来事だって現実にはなり得ない』

『でも、でも……っ、僕が機神兵に憎悪を燃やしている時も、仲間と出会えてへらへらしてた時も! フィオルンはずっと苦しんでたんだ!! それにやっと帰ってきてもまだ辛いままで、それなのに僕は何も彼女にしてあげられない!! そんな僕を——たとえ君が許してくれたって、僕が! 世界中の中で一番僕自身が僕を許せない!!』

 掛布も巻き込んで身体をより丸め込む。自分を抱きしめるかのように両手の爪が腕に食い込む。布越しであっても貫いてくる痛みで己を罰しようと必死だった。

 力みすぎた身体が震えて布の擦れる音を微かに立てた。単なる身じろぎ、ちょっとした寝返りとも大差ない。

 静かで小さな自傷行為は誰にも気付かれない。それで良い。着込んでいる自分ならば傷の一つや二つ簡単に隠してしまえる。ああそうだ、早く背中もくっつけないと。適当に縫い合わせて隠さないとまた彼女を泣かせてしまう。身も心も繕って彼女の心配が自分に向かないようにしなきゃ、いつも通りの僕を振る舞って、隠さなきゃ——。

「やっぱり添い寝、要るだろ」

 額に熱を感じた。は、と瞼を持ち上げた先には困り眉のまま笑う親友が寝台に腰掛けてシュルクの髪を持ち上げていた。

「その悪い癖、直せよな。ちょっとは良くなったかと思ってたのにやっぱり変わってない。隠したって俺にしろフィオルンにしろ一発でバレるんだから意味ないんだよ」

 ぽん、と頭部に大きな手が置かれてすぐに離れる。添い寝が要ると言いつつも彼は自分に割り当てられた寝台に腰かけたまま動かない。添い寝なんて空気を重苦しくさせない為の冗談に過ぎない。

 抱え込むなと言いかけてラインは視線を宙に泳がせる。数秒間黒目をうろうろとさせながら、シュルクよりは貧弱な語彙と表現から何とか適切な言葉を彼なりに探していた。

「誰が悪いとか、そういうんじゃないと思う。何ていうか……うーん、別にさ、自分勝手に泣いていいんじゃねえの?」

 右の人差し指で頬を掻きつつ彼は続ける。

「苦しいとか悔しいとか、いっぺん全部出しちまえよ。メリアの親父さんの時も結局泣ききれなかったし。

 今回だってシュルクはフィオルンを傷つけさせないってとっくに決めてんだろ。それならいいじゃねえか。あとは余計なモンだけ出してすっきりする方が、お前も俺達も嫌な気持ちで足引っ張られなくて楽だぜ」

 反論の一つでもしようかと思った。抱え込んで苦しむことも身に痛みを刻むことも罪を犯した己への罰だからと首を横に振ろうとした。手を伸ばしてくれているのは分かっているけれどこのままで良いから。言おうとして渇いた唇を開き、でも出てきたのは意味のある言葉などではなく抑えられなかった慟哭だった。

「あ、あぅ……ぅああ……っ、ああぁぁ……っ……!」

 咄嗟に口元を掛布で覆い隠し声を抑えようとした。それでも涙も声も止まらない。自分自身の様々な調節機能が壊れてしまったかのように鳴き声は大きくなるばかりで、涙は熱さを増してとめどなく溢れてくるばかりだった。

 ただ、泣いた。十にも満たない子が感情の波に身を任せるのと同じように。

 悲しかった。辛かった。怖かった。

 ごく当たり前の感情さえ碌に吐き出せないまま来た。幼い子ではないから、一人だけ泣き言を言うわけにもいかないから。

 知らぬ振りをしてきた。否、もしかしたら本当にシュルクは知らなかったのかもしれない。身近な人に限らず人の命が消えることは悲しくて当然で、自分や仲間もいつ命を落とすか分からない恐怖と隣り合わせで。その全てを怒りだとか立ち止まれないからだとか、これ以上犠牲を出したくないからと部屋の隅に押し込んで扉を閉じ切った。部屋の容量は有限であるにもかかわらずに。

 だから一度吐き出さねばならない。もう詰め込めない部屋にこれ以上何かを入れてしまえば空間そのものが破裂してしまうか、きっと再び泥の形となっていつ暴発するか分からないものを抱えるだけ。単にシュルク自身が崩壊するのが早いか遅いかの差しかなかっただろう。

 泣いて、親友の前で包み隠さず感情を吐露して、全部ぜんぶ吐き出して。そして疲れ切って寝てしまうのも幼い子みたいで。

 身体とシュルクの精神が眠りに落ちてしまっても、ラインのどこか安心したような「おやすみ」の言葉を俺だけは聞いていた。

 

 ***

 

 陽の光が瞼を照らす。窓から差し込んだ細い線は狙ったかのようにそこだけを的確になぞっていた。

 外部からの刺激により深い眠りにあった意識はゆっくりと引き上げられる。よく眠れたとぼんやり考えつつ身体を伸ばしたところで誰かの気配を感じた。隣の寝台には確かにラインがいるはずだが、この気配はどうも自分に覆いかぶさっているように思える。寝起きの頭では第三者が室内にいる危険性にまで考えは及ばない。まずは確認してみればよいかと軽い気持ちで瞼を持ち上げた。

「おはよ。昨日と同じだね」

 ぱちくり。この表現が見事に当てはまるほどにシュルクの瞼は一瞬閉じ、再び持ち上がる。それはもう見事にぱっちりと開いた双眸で、故郷での記憶と寸分違わぬ彼女の笑顔を捉えていた。覗き込む形であるから朝日の陰になっているものの表情ははっきりと見える。

「ん……? フィオルン……?」

 寝起きで擦れた声が少々情けない。

「そうよ。一晩したら忘れちゃった?」

「そんなわけ……! ——あれ、なんでここに?」

「元気になったからに決まってるでしょ。リナーダさんにばっちり調整してもらっちゃった。もう大丈夫だよ」

 慌てて上体を起こして改めてその顔をまじまじと見つめる。数少ないホムスとしての部位である顔は確かに肌色も良い。澄んだ緑の瞳も揺らいではおらず、隠し事をしている色は何もない。

「良かっ、たぁ……!」

 肩の力が抜けるどころではない。腹に溜まっていた重たい何かが抜けていくようだった。

「泣くくらいいっぱい心配かけちゃったね」

「な、泣いてないよ!」

「うそ。目元、まだ赤いのに」

「うぅ……。……かっこわるい」

「ふふっ、そんなことない。シュルクのとびっきりの優しさの証拠だもの。

 ……昨日も言ったけど私ね、まずは機械の身体とか関係なしに——生きるよ。身体のことは色々終わってから考えようと思うの。それまでシュルクの隣で一緒に戦わせて」

「当たり前だよ! よかった……本当に嬉しい……!」

 二人が笑い合う隣でフィオルンと共にやってきていたカルナもまた微笑んだ。まず一つ大きな問題が無事に解決したのを見届けた彼女は未だ爆睡しているラインの頬を優しく叩いていた。むにゃむにゃと言葉にならない声を漏らすもカルナは力こそ入れぬまま容赦なく起こそうとしている。昨晩は大泣きしたシュルクに付き合ってくれたので大目に見てほしいが、残念なことにカルナはそんなことなど知らないのだった。

「カルナとも改めて話せたんだ。とってもいい人だね」

「うん。彼女がいなかったら僕らはとっくに倒れちゃってたな」

「それに婚約者さんのことも聞いたの。……もしかしたら私と同じかもしれない」

「顔付きのユニットにされてるかも……ってこと、だよね」

「そう。それに姿を消したのが私の一ヶ月くらい前だから、私や黒みたいに人の形のまま改造されてる可能性が高いと思うの。そうだとしたらリナーダさんのところで診てもらえればまた一緒にいられる。カルナも機械の身体とか関係ないって言ってたし、なんとか探してあげたい」

 シュルクも強く頷いた。もとよりコロニー6を出発した時からその思いだ。今となっては姿を消した理由としてただ死ぬ以外の例が明確に判明した。一筋縄ではいかないだろうが、死体の状態で再会するという最悪の事態は避けられるかもしれない。それだけでもカルナの気持ちはかなり楽になっただろう。

「それじゃ朝ごはんにしましょ。みんなはお腹空いてるでしょ?」

「フィオルンはまた水だけ?」

「とりあえずそうかな。でも落ち込まないで。リナーダさんが私みたいな人でも何とか巨神界の食事ができないかって考えてくれてるの。本当にここの里の人達は優しい人ばかり」

「……そっか、分かった。じゃあとりあえず起きなきゃだね」

「シュルクの服の背中も縫っちゃわないと」

「あ、そうだった」

「機械の身体だしなんかミシンみたいな便利機能ついてないかな? 変形! みたいな」

「えぇ〜……。かっこいいと思うけどフィオルンがやるのはどうだろう……」

「もう、冗談よ。もしそんなのあったら私も悲鳴あげちゃうもん」

「待てよ、フィオルン以外の人が欲しがってたら僕もちょっと興味あるかも……。機神界人の技術者に相談して改造出来たら本当に後付けで……」

「いいわよそんなの! それするくらいなら生身の身体に戻る方法探してほしい!」

「あっはは。ごめんごめん」

 フィオルンが帰ってきたのは嬉しい。でもこの距離の近い触れ合いを至近距離どころか直接体験させられるのは正直厳しい。これで恋人ではないのが余計に辛い。微笑ましいからいいけども。

 

 食事、セーターと上着の応急処置——すべきことを済ませたらいきなり手持ち無沙汰になった。

 そこでちょうどリナーダに促され、隠れ里の長であるミゴールに先に一度挨拶だけすることになった。かなり長生きな機神界人とのことで多くの部品を取り付けてきており、身体が随分と肥大化していたことにラインが驚いていた。最早身体というか、ふくよかな中年の男性が巨大な椅子と一体化したかのような容貌をしている。

 ミゴールはそんな自身の姿で驚く人の顔を見るのが趣味らしい。しかし見た目こそインパクトが大きいだけで、他の機神界人と違わず彼もまた心優しき人間であった。ホムス的に見るなら恰幅が良く茶目っ気も大いにある、子ども達にも大人気な近所のおじさんと言ったところだろうか。非常に親しみやすい人である。

 保護やフィオルンの治療へのお礼を伝えれば「ひょひょひょ」となかなか癖のある笑い声で返してくれた。無理はせずもう少し休んで良いとのお墨付きも頂けた。加えてまだ見つかっていない仲間がいることも伝えれば、その分を含めての滞在も快く頷いてくれた。下手に動かずここで待っていた方が良いし、里の周囲を見て回る者にも伝えると言ってくれて何から何まで頭が上がらない。

「里長(さとおさ)! ちょうどホムス、ハイエンター、ノポンと思わしき三名が里周辺に近づいているそうです!」

 そこへジャンクスに飛び込んできた一人の機神界人が声を上げた。特徴からしてきっとダンバン達だろう。

「お主達の仲間ではないか? 行ってくるといい」

 ふっくらとした頬肉で細くなっていたミゴールの目が更に細められる。明るい声で改めてお礼の言葉を残し、四人揃ってジャンクスを飛び出した。

 ジャンクスを出てすぐ、里の入り口から見覚えのある三人が警戒と若干の驚き、好奇の表情でやってくるのが見えた。

「メリア! ダンバンさん、リキも!」

 思わず駆けだした。それはあちらも同じで仲間の全員が無事であることを心の底から喜ぶ声でシュルク達を呼んだ。

「お前達、無事だったか——。良かったよ」

「ダンバンさん達も無事で何よりです」

 たった一日しか離れていないのにとても久しぶりの再会に思える。リキは寂しかったのか大きく跳躍してラインにもふもふの頭突きを喰らわせていた。降ってくる文句も普段と変わりない証拠であると、頭突きで憤慨するラインを他所にリキは笑顔で踊っている。

「それに——」

 シュルク、ライン、カルナの三人で顔を見合わせて口角を上げる。示し合わせたわけではないが、同時に振り返りダンバンの視界を開かせれば白銀の身体がゆっくりと歩いてきた。

 余計な言葉は必要なかった。笑っているのに目を潤ませて、でもその表情は間違いなくどこまでも明るくて。

「お兄ちゃん」

 別人などではない。やっぱり今まで会話をしていた彼女とは全く違う。最愛の妹だと表情が、瞳が、声が全てを物語っていた。

「フィオルン——! 思い出して、くれたのか」

 声は震えていた。誰よりも強い英雄の初めて聞くあまりに頼りない声だった。

「うん。心配かけてごめんね」

「——っ、いいんだ……っ。生きていてくれただけで——!」

 白い両腕が伸びる。シュルクの時とはまた違う、迷子になっていた妹がようやく兄と再会出来た瞬間のように強く背中を抱きしめた。硬くても少しくらい冷たくても、残されたたった一人の家族の身体であることは変わらない。

 ここにフィオルンがいる、生きている。紛れもない本人が、ダンバンの知る妹が。やっと心が本物だと理解出来たから、左手で優しく愛おしく妹の頭を撫でた。

 泣いているのだろう。でも涙は——やっぱり妹以外には見せてくれなかった。

 

「あれがお前の……本当の幼馴染なのだな」

 再会できた兄妹を幸せそうに見つめたままメリアが呟いた。メイナスとは異なる雰囲気を感じても彼女は笑みを崩さなかった。監獄島で初めて邂逅した際に感じた温かさに偽りはなかったとゆっくりと首を縦に振って、ゆるりとシュルクを見てまた笑った。

「良かったな。無事に会えて」

「ありがとう。みんなのおかげだよ」

「シュルク、その子がメリアね?」

 いつの間にやらダンバンとの感動の再会を終えていたフィオルンが足取り軽やかに駆け寄ってきた。

「そうだよ。改めて紹介するねメリア。彼女がフィオルン、僕とラインの幼馴染でダンバンさんの妹」

「宜しくね。ハイエンターとは初めて会うんだけど羽、すごく綺麗ね。とっても可愛い子で私びっくりしちゃった!」

「な……っ!」

 一瞬にしてメリアの顔が朱に染まる。湯気が出たのではないかと思いたくなるほどに見事だ。

「シュルクから少し貴方のことを聞いたの。とっても素敵な人だって。私も貴方と友達になれたらいいなって思ってた」

「そ……それは、その……光栄、だな……」

「あら~。照れちゃって可愛いわね、メリア」

「カルナ! 揶揄うでない!」

「ふふふ。フィオルン、メリアはねハイエンターのお姫様なのよ。あ、もう次期皇主ね」

「ええ~! すごい人だったんだ! 何だか友達になるのが私なんかでいいのか不安になってきた……」

「そんなことはない! あっ……いや、私は……私が、そなたと友になってみたいと……損得勘定などなく、ただなりたいと思ったのだ。身分や立場など関係ない。だからその……同年代の同性の友は初めてで、振る舞いも分からぬことも多いが……そなたさえ良ければ、末永く……? 懇意に……?」

 だいぶいっぱいいっぱいである。メリアがここまでの程度になるのは初めて見た。親への婚約のご挨拶か。

「勿論よ!」

 アカモートを離れる際にメリアが話してくれた。フィオルンを見て母を思わせる温かい太陽にも似た何かを感じたと。本当にその通りだ。凍てついた氷を溶かす日差し、生命を見守り育てる力を持つ光と表現するに相応しいとびきりの笑顔でフィオルンはメリアの手を両手で握った。

「私こそ宜しくね、メリア」

「……うむ。宜しく頼むぞ、フィオルン」

 頬は赤いまま、セリオスアネモネが朝陽を浴びて上品に咲くようにメリアも笑った。

 

「盛り上がってるところ悪いが……お前達は何でこんな村に? いや、そもそもこの村は一体——」

 ダンバンの疑問に答えたのは入口への通路を上がってくる機神界人達の姿だった。見慣れぬ人型の存在にダンバンの表情が一気に険しくなる。

「大丈夫ですよ。ここの"人"達に助けてもらったんです」

「まあ驚くのも無理ないわね。シュルクも初めて私達を見た時は同じ気持ちだったでしょう?」

「あはは……」

 機神界人達が道を開けたところにリナーダが穏やかそうな微笑みを湛えてやってきた。

「これでお仲間は全員揃ったようね。では改めて——私達は機神界人(マシーナ)。機神界で暮らす人間です。ここだと道を塞いでしまうわ、ジャンクスの前で説明しましょう」

 ジャンクスの前に集められた我々に向けてリナーダが一つずつ説明をしていく。主に今やってきたばかりのダンバン達の疑問に答える形ではあるが、シュルク達も機神界にいる人間としかまだ彼らのことを知らない。

 まず機神界人が機神兵であるかどうか。機神兵と呼ぶ兵器は彼らの文明が造り出したものであることは事実だ。しかし機神界人の身体は根源は機神にある。機神は機械で構成された巨大な神であり、そこから生まれたものとなれば巨神界の尺度で言うならば同じ機械とも言える。

 別に難しい話ではない。ホムス、ハイエンター、ノポンといった巨神界の生命は巨神より生まれた有機生命体なのだ。身体を構成する物質に多少の差があるだけで同じ心を持つ存在だ。

「何故あんた達は巨神界を蹂躙する? 我々が何をしたというのか?」

 七人の中でダンバンだけが珍しく感情を荒立てていた。無理もない話だが彼だけというのは初めてではないだろうか。メリアやリキは意外と落ち着いてリナーダの説明を受け入れているから余計にそう感じてしまう。

「気持ちは分かるけど話は最後まで聞くものよ? ホムスの御仁よ」

「そうよお兄ちゃん、まずは話を聞いてあげて。ここの人達は悪い人なんかじゃない。調子悪かった私の身体を治してくれたの、リナーダさんなんだから」

「む……。……そうか。無礼な態度を詫びよう、すまなかった。それに妹のこと、感謝する」

 リナーダは首を一度縦に振り、今度はジャンクスの中に入るよう促した。話の続きと合わせて里長であるミゴールからも頼みがあるそうだ。これには昨日到着したシュルク達も揃って首を傾げた。先ほどミゴールに簡単な挨拶こそしたものの何かを頼みたそうな雰囲気には見えなかった。

 とりあえずリナーダについていってみよう。疑問はあるが不安や警戒心などはない。寧ろ全員が揃って同じように話を聞ける状況そのものが嬉しかった。シュルクも、エイルも。

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