今回はユウリ視点です。
「こっちよ!!」
シュートスタジアム近くのホテルから一歩出た直後、ユウリたちは街並みを楽しむ間もなく人の波に流された。流される先はもちろん満員のスタジアム。ダンデとレジェーナによる頂上決戦に、スタジアムも街も、いやガラル全土が注目している。
街角の巨大ディスプレイにはこれまでのレジェーナの激闘が映し出され、露店にはダンデとリザードンの人形やグッズが並ぶ。空気は熱狂そのもので、最強が決まる瞬間をみんなが待ち望んでいた。
「早く早く!!」
スタジアムに着くと、暴走しかけたホップとソニアに手を引かれながらユウリは自分の席を目指す。もちろん、ユウリの下調べ通りバトルフィールドの両者の動きが良く見えるいい席だ。
「やっぱり、アニキはギルガルドを出すと思うぞ。ハピナスに対して一番有利なポケモンだからな」
「でもゴーストタイプならドラパルトもあるでしょ。ユウリちゃんはどう思う?」
ここに来るまでに再三再四行われてきた議論。それが尽きる間もなく、いよいよ入場の時間だ。観客の熱で空気が震え、警備員が厳重に配置されている。異様な緊張感の中、二人は現れた。
ダンデとレジェーナ。無敵のチャンピオンと最速攻略のチャレンジャー。ガラル最強に挑む少女の背丈は小さいが、もはやその実力は疑いようがない。あとは、二人がそれぞれのスタイルをどこまで押し通せるかだ。
『試合開始!!!!!』
その合図と同時に、レジェーナが大きく振り抜いたモンスターボールがフィールド中央に弾けた。現れたのは鋼の翼を広げる巨大なカラス――アーマーガア。観客のどよめきが一気に高まる。先発からリザードンを出さないだろうと踏んだ上での選択かとユウリは思案する。
対するダンデはギルガルドを繰り出す。
「アーマーガアは一応”挑発”して”キングシールド”をさせないというのもできるけど…」
とユウリが呟く間もなく、レジェーナはアーマーガアをボールに戻す。先鋒を任せたポケモンに一切の攻撃を、行動すらをさせずにボールに戻すというのは普通のトレーナーなら戦意喪失を疑われてもおかしくない行為だ。
しかし、今やこの流れにケチをつける観客はいない。いきなりの交代も消極的にしか見えない防御も、勝利を手繰り寄せるために必要な一手だと他ならぬレジェーナが示し続けているからだ。
「ドオーが出てきたぞ!!」
交代でレジェーナが出したのはドオー。そこにチャージの終わったギルガルドの”ラスターカノン”が突き刺さる。
タイプとしてはドオーやや有利だが、おそらくレジェーナのドオーは地面タイプの技を覚えていない。お互いに決定打のない長期戦が始まるかと思ったバトルは、意外にもダンデがすぐにポケモンを交代することで動く。
思わずユウリはホップの方を見て、ホップもユウリの方を見る。間違いない。
ダンデはギルガルドでは不利とみて交代に踏み切ったのだ。ダンデですらレジェーナのポケモンとの消耗戦を許容できず、レジェーナの土俵に踏み入らざるを得ない。そして同時にこれに付き合うとした以上、ダンデがレジェーナに対して十分な対策を仕込んでいることもユウリたちは直感していた。
そして、それは両方当たっていた。
そこからは互いに有効打を撃たせないままに次々と交代していき、その間に生じる無数の読みが意思となってフィールドに表現されていく。ダンデのポケモンの圧力をレジェーナは華麗に流してみせる。さりとてダンデ相手に反撃に転じる余裕は作り出せない。”どくびし”や”ステルスロック”はバリコオルに弾き飛ばされ、ダンデ側のポケモンはダメージを受けない。
「またドオーが出てきたぞ!」
「これで一巡したわね」
そんな中、サイクルが一回りして再び同じ盤面が作られる。向かい合うのは最初と同じギルガルドとドオー。
ここでドオーが”どくびし”を使える以上、ギルガルドがゆっくりしていればダンデの交代先は”どくびし”の影響を受けないリザードンとバリコオルに限られてしまう。”ストーンエッジ”を恐れれば、ドオーを退散させられるドサイドンを素早く出さざるを得ない。唯一、こここそがダンデのサイクルの狙いどころであり、分かっていてもダンデの動きを縛ってしまうことが可能な場所だ。つまり……。
「ここが仕掛けどころ、何か出来るならレジェーナちゃんはここでやりたいはず!!」
そして、そんなユウリの予感は当たることになる。レジェーナはドオーをすぐさま交代。代わりにポリゴン2を繰り出したのだ。
「アニキのドサイドンの特性は”ハードロック”。ポリゴン2の”冷凍ビーム”なんて平気で耐え切るぜ!!」
ホップは呑気にそう言うが、レジェーナがそれを考えていないはずがない。ユウリはその点についてはすでに確信していた。
ダンデはアーマーガア対策としてドサイドンに炎技の”ヒートスタンプ”を覚えさせていた。決してレジェーナに対して油断しているわけではない。だからこそ、同じようにグライオン対策に”冷凍パンチ”を、ポリゴン2対策に”馬鹿力”を仕込んでいてもおかしくない。ヌオーも弱点こそ突かれないが、圧倒的な攻撃力とタイプ一致による”地震”による瞬間的な高火力には分が悪い。
そう、ドサイドンに対しては、レジェーナはジャンケンに勝ち続けないといけない。そして、ドオーには有効打がない以上、どこかでドサイドンが出てくることを許してしまう。
「そんなことを続けられるはず…」
もちろん、”どくびし”を撒いておけばドサイドンの次に出てくるのはほぼ間違いなくバリコオル。交代先が分かっているからこそ一手優位に立てるはず。
それを捨ててまでやることとは?”テクスチャー”によるタイプ変更?”リフレクター”による受け切り?分からない。でも、ドサイドンを無力化しないならポリゴン2を出す必要なんてない。
ユウリが結論を出した頃には、会場の誰もがそれが何かを理解し始めていた。
ポリゴン2が巨大化し、フィールドに鎮座していたのだ。
「ここでダイマックス。ダンデのリザードンをダイマックス無しで倒す気?」
ソニアの呟きはダンデの叫びに掻き消される。
「ドサイドン、”弱点保険”で逆襲だ。”馬鹿力”!!」
案の定、ダンデは対応できるアイテムを保持していた。ドサイドンへの弱点技はアーマーガアの”ボディプレス”、グライオンの”地震”、ヌオーの”熱湯”、そしてポリゴン2の”冷凍ビーム”。これだけ多ければレジェーナが初めから知らない限り、弱点保険はほぼ必ず発動されるだろう。もっとも、ドサイドンがこのポリゴン2の急襲に耐えられるのならだけど....
「でも――」ユウリは思わず息をのむ。
「ポリゴン2、”ダイソウゲン”!!!」
レジェーナの声がフィールドに響き渡る。
次の瞬間、ポリゴン2から放たれた緑の奔流がフィールドを覆い、大地から生命のような光の柱が立ち上がる。
「なっ……!?」
ドサイドンは真正面から受け止めた。硬い装甲に草の光が食い込み、全身を揺さぶる。観客が一斉に立ち上がり、スタジアム全体が悲鳴とも歓声ともつかぬ大音声に包まれる。そして、光が収まった時、フィールドに立っていたのはポリゴン2だけだった。
ドサイドンは巨体をぐらりと揺らし、そのまま崩れ落ちる。“ハードロック”すら貫かれ、保険が発動する暇もなく沈んだのだ。
さらに、息つく暇もなくポリゴン2は畳み掛ける。
次に繰り出されたギルガルドの行動を”キングシールド”だと予想したレジェーナはあえて”ダイサンダー”から入って有効打を隠し、”キングシールド”が解除された瞬間にダイホロウを叩き込んだ。
いつものレジェーナからは想像もつかない苛烈な攻めに、ダンデは防御に信頼を置くギルガルドを出してしまった。そして、それは完全に予想されていたのだろう。
ポリゴン2のダイマックスでドサイドンとギルガルドを倒されたダンデはこれでハピナスに抗うことが難しくなった。それが分かっていたからレジェーナは攻め札を潰しに行ったのだ。唯一の希望はキョダイマックスリザードンだが、ドオーとハピナスでリザードンを抑え込める自信がないとはユウリには思えなかった。
この時、ユウリはこのバトルの勝者を知ったのだった。
感想・評価よろしくお願いします。
難産でした.... ちょっと納得できてないのでそのうち書き直すかもです。
Xで小説用アカウント作りました。作品の更新予定なんかを呟くかもです。
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