TS受けポケ使いが崩されるまで   作:ヤキブタアゴニスト

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第14話

『決まったーーーー!!!ドラパルト起き上がれない!!!!』

 

ドオーのストーンエッジがダンデさんのドラパルトに命中し、ついにフィールドに倒れ伏す。これでダンデさんのポケモンを6体全て戦闘不能にしたことになる。

 

つまり、私の勝ちだ。

 

 

会場は爆発した。

耳をつんざく歓声と割れんばかりの拍手、立ち上がる観客の熱気が一気に渦巻き、巨大なシュートスタジアム全体が揺れているようにさえ思える。

名実ともに最強のチャンピオンを打ち破った瞬間、全員がその証人となったのだ。

 

あまりに長く、そして激しい戦いだった。

ダンデさんのポケモンは一匹一匹が牙を隠した怪物で、常に逆転の可能性を秘めていた。

ほんの一手の油断ですべてを失う。

だからこそ、私は一瞬たりとも気を抜けなかった。

張りつめた糸の上を走り続けるような緊張の連続。その反動で、勝利を確信した途端、体から力が抜け、膝が崩れ落ちる。

 

 

「チャンピオン タイム イズ オーバー !!最高の 試合に ありがとうだ!」

 

差し出されたその手は、敗者のものではなかった。

最後まで王者として観客を魅了し、全力で戦い抜いた者の、温かく、力強い手。

 

私はその手を握ろうとした――だが。

極限まで張り詰めた緊張と疲労が、一気に押し寄せてくる。

歓声が遠のき、視界が揺れる。

 

……やっと……勝てたんだ……

 

そう思ったところで、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらっ、チャンピオンさんはようやく目が覚めたみたいね」

 

耳に届いたのは、どこかからかうような優しい声だった。

瞼を開けると、白い天井が広がっている。私はどうやら病室かなにかにいるようだった。視線を横にやると、ベッド脇の椅子に腰かけていたのはラニュイ姉さん、そして、その隣には……

 

「お母さん!?」

 

驚きのあまり思わず声が裏返る。

「そうよ。気絶したのはお医者さんの話じゃ緊張と疲労が原因でしょうね。痛いところはある?」

 

母はそう言って、そっと私の手を握った。温かくて懐かしい感触に胸が締め付けられる。

「フィールドで気絶したときには、どうなることかと心配したばい。ほんに、無茶するけんやなぁ。スタジアム中の人間が息止めとったんばい。」

ラニュイ姉さんは腕を組んで、少しあきれたように、けれど誇らしげに言い添える。

私は安堵のため息をつきながらも、まだ頭の奥がぼんやりしている。

「……ありがとう。試合前に顔を見なかったから、てっきり来てないのかと」

母は苦笑して首を振った。

「そのほうが集中できると思ったのよ。顔を見せたら、きっと気が散るでしょう? 昔からバトルに夢中になってるときは、私が口を挟むよりラニュイちゃんに任せた方がいいと思って」

そう言われて、私は小さく笑うしかなかった。思えばジムチャレンジ中に寄ってから、家に戻ってなかったか。

 

「……そうだ、みんなは?私のポケモンたちは」

「別室で休ませてあるわ。ちゃんと回復させてあげてるわ。あなたが一番心配すると思って」

母の言葉に、胸の奥に溜まっていた重しがふっと軽くなる。今回のバトルではポケモンたちに随分無理をさせてしまった。念入りに撫でてあげないと。

母はそんな私の表情を見て、穏やかに目を細めた。

 

「やっぱりね」

そう言わんばかりに、優しく手を伸ばし、額から乱れた前髪をそっと撫でる。その温もりに、疲れ切った心がじんわりと解けていく。

緊張が解けたことで、今の私はいつも以上に今世の自分に寄っている気がする。私がバトルにすべてを懸けて生きていられるのは、戦いの外にこうして帰る場所があるからだろう。

母は私の頬を一度だけ撫で、ふっと微笑むと、静かに立ち上がった。

椅子の脚が床を擦る音が病室に短く響く。

「じゃあ、様子を見てくるわ。ここで待っていて。すぐ戻るから」

病室の扉が静かに閉まる。

残されたのは、私とラニュイ姉さんだけだった。

 

 

「……ありがとう……ございます。ポリゴン2の特訓に付き合ってもらって」

 

私は小さく頭を下げた。今回の試合、その一番の大仕掛けであるポリゴン2による奇襲はまさしくラニュイ姉さんの協力の賜物だった。

本来なら大試合の前に技や戦い方を変えるのは、ポケモン自身にとっても、戦略面においてもリスクが大きい。普通は手持ちを入れ替えることで対処するのだろう。だが生憎、私にそんな余裕はなかった。

 

だからこそ、あの無茶な挑戦。ローズさんに便宜を図ってもらい、ダイマックスが使えるローズタワーの一室を借りて、ラニュイ姉さんと何度も特訓を重ねたのだ。

 

 

ラニュイ姉さんは肩をすくめ、にやりと笑う。

 

「おめでとう、レジェーナ。うちのランドロスも喜んどるばい。あんたの相手ばした甲斐があったっちゃ」

 

それから少しお茶目な顔をして、にやっと歯を見せる。

 

「それにしても……あんたもチャンピオンになってしもうたかぁ。ほんとはバトルシャトレーヌになってほしかったっちゃけどね?」

 

「あはは……。でも私がチャンピオンか。正直、実感がないです」

 

それは偽りのない本音だった。

確かにゲームでは毎回チャンピオンを倒し、殿堂入りを果たしていた。

けれど、現実でその座を得るというのは比べものにならないほど重い称号だった。

一戦ごとの緊張感、観客の熱、背負うものの大きさ。今回の戦いで、身をもってそれを思い知らされた。

 

ラニュイ姉さんは腕を組み、懐かしむように笑った。

 

「うちもバトルシャトレーヌになったときは、同じ気持ちやったよ。肩書きば先に与えられても、心が追いつかんとね。……でも、人は肩書きどおりに振る舞う相手を、その通りに扱うようになるっちゃ」

 

なるほど、と私は思った。

確かにラニュイ姉さんは、あの「ぺろぺろりーん!」というキャラクターを徹底的に押し通している。だからこそ、良くも悪くも誰もが姉さんをそういう存在として認めているのだ。私は絶対そうはなりたくないけど。

 

「正直、ダンデさんと次に戦ったら厳しいと思います」

 

言葉を選ぶように、ゆっくりと息を吐き出す。これが私の本音だった。

 

「今回だって決して完璧に受け切れていたわけじゃない。ポリゴン2の奇襲がなければ勝てなかった」

 

ラニュイ姉さんは相槌も打たず、ただ静かに私を見つめ、受け止めるように聞いてくれている。

その眼差しに背中を押されるように、私は胸の奥に引っかかっていたもやを言葉にしていった。

 

 

「言い換えれば、今回はメタが刺さっただけです。特定のポケモンに向けた対策が噛み合ったにすぎません。ダンデさんが何をするかを知っていたからという点が大きいです。そして今度からはこちらが対策するように、向こうも対策してくる。いくら強いポケモンでも、完璧に読まれたら受けきるのは難しい……」

 

 

そこまで言うと、胸の奥にずっと引っかかっていた重しがふっと軽くなるのを感じた。

次のバトルを考えれば考えるほど、不思議と「なら、どう立ち向かえばいいのか」と考える力が湧いてくる。

 

気づけば、その思考は私の胸の奥に小さな炎を宿し、やがて確かな熱となって広がっていた。

 

 

久しぶりに、私は新しく何かに挑戦したいと思えたのだった。

 






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