チャンピオン――。
この世界において、それは単にその地方で最強のトレーナーというだけではない。
ポケモンバトルが普及し、人々の生活や文化の一部になっている以上、その影響力は計り知れない。特にエンターテインメントとしての注目度が群を抜くガラル地方では、それが顕著だった。
テレビのCMから子ども向けのバラエティ番組まで幅広く出演し、地域のポケモンバトル大会では開会の挨拶を務め、ジムチャレンジでは宣言役として観衆を沸かせる。
もはや「バトル」そのものよりも、「チャンピオンが姿を見せること」に人々は熱狂していると言っても過言ではなかった。
近年はダンデさんとローズ委員長が二人三脚で“ガラル全体の盛り上げ役”を担ってきたこともあり、チャンピオンの影響力はさらに拡大。結果として、ダンデさんのスケジュールはとんでもないことになっていた。
反して、バトルの方はといえばトーナメント以外といえばエキシビションマッチが主であり、ジムリーダーたちのようなリーグ戦には参加しない。いうなれば、チャンピオンとしての業務を除けば一年後の本番に向けて準備する時間が十分すぎるほどあるのだ。
私としては、とてもではないがダンデさんほどの働きは出来そうにない。
別に私は社交性や強烈な個性でチャンピオンになったわけではない。
ペーパーテストの出来で社交性を測れないのと同じように、ポケモンバトルに強いことと人を惹きつける力は直接の関係にないだろう。
威厳も、実績も、まだまだ不足している。
知名度だって比べるまでもない。
「チャンピオン」という肩書きだけが、私の実力をはるかに先行して走っているような感覚だった。
このギャップを埋めるにはどうすればいいのか。
どうしよう。
結論からいうと、この悩みはローズ委員長の計らいによって消え去ることになった。
「そういうことなら、メディア対応はダンデくんに任せることにすればいい。彼は人前での振る舞いも板についている。君はまだ子供だし、今は無理に背伸びする必要はない。スポンサーたちも、君に場慣れを強いるよりは、既に実績のあるダンデくんを前に出す方を望むかもしれない」
というローズ委員長の言葉はなるほどそう言われれば、確かに納得できる。
私は人前に立つよりも、バトルそのものや研究に集中したい。そこに無理やり自分を押し込む必要はないのだ。
それに、話を聞く限りダンデさんが特別なようだった。ダンデさん以前のチャンピオンはむしろ「バトルに打ち込む職人肌」の人物が多かったようで、チャンピオン像自体も時代によって揺れ動いてきたのだ。必ずしもチャンピオンがリーグの広告塔である必要はないのだろう。
「同時に! ダンデくんには“バトルタワー”を任せたいと考えております!
本来は一、二年後にお披露目の予定だったのですが……いやあ、これはもう、このタイミングがじつに! すばらしいと思いましてね!」
ローズ委員長の瞳は熱を帯びていた。
ローズ委員長の語るバトルタワーとは、シュートシティにそびえるローズタワーの上層に新設される施設のことだ。私自身もその一室を借りてダイマックスバトルの特訓を行ったことがある。
詳しく話を聞けば、ローズ委員長はラニュイ姉さんからカロス地方の「バトルハウス」の話を耳にしており、ガラルにも同じように腕試しができる舞台を用意する必要性を感じていたらしい。
「トレーナーが自由に挑戦できる場所を作れば、ガラルの競技人口はますます増える!
ポケモンバトルはさらに豊かに、さらに熱狂的になるでしょう!
そしてその象徴として! ダンデくんに立ってもらうのが理想なのです!」
と熱く語っていた。
かくして私はチャンピオンとしての一年のモラトリアムを享受することになる。もちろん、多少の業務というのはどうしてもあるものだが、チャンピオンに就任してからの数週間で落ち着いた。
その傍らで、私は次なるパーティ強化策を練っていた。
今後もパーティの主軸が受けであることには変わらない。
やはりジムリーダークラスの攻撃とまともに撃ち合えるアタッカー、それもこちらの意思と連動して動けるようなポケモンを6匹育成するのは非常に困難だ。戦略によって出すポケモンを変えるとなれば、さらにその倍くらいは育てないといけないだろう。
受けサイクルを強要して盤面を支配する。
私が目指すべきバトルのあり方は一言で言えばこれに集約される。勿論、全てのポケモンが受けに特化する必要はない。明確な役割を持たせた攻め駒を用意するというのは、ある種受けに対する対策の対策として機能するだろう。
現状で受けとして戦術に幅を出すことが出来ないのは、やはりポケモンを固定してしまっているのが最大の原因だ。私の受けでの優位性を活かすためにも、通り一遍の対策を通させない新たな仲間を探す必要がある。
この世界にポケモンは多いが、受けに向いているポケモンは限られている。圧倒的な耐久値、優れた耐性、回復手段と妨害手段。その辺りを考えれば、自ずと候補は限られてくるのだ。
それにくわえて、ここでは扱えるかと捕まえられるかという問題が立ちはだかる。クレセリアやディンルーは確かに優れたポケモンだが、私が使役するのはあまりに難しい。
では、実際に候補に挙がるのは誰か。再生力によって回復が可能なドヒドイデやママンボウ、とにかく頑丈なクレベースやエアームド、優秀な耐性を持つナットレイ、特性が優秀なキョジオーンにヘイラッシャ。ざっとあげればこのあたりになるだろう。
もちろん、それらを捕まえて戦略を教え込み、戦えるかは分からない。
岩や氷をまとったクレベースやキョジオーンを操れるかは未知数だし、ヘイラッシャほどの巨体を養う経験もない。
狙い通りのポケモンを、狙い通りに戦わせる。
それができるのは、主人公か神の領域だ。
それでも、今の私には「ポケモンと戦術の選択肢の幅」が必要だった。
そこで私が目を向けたのはパルデア地方。
数多の強力なポケモンが生息し、さらに“テラスタル”によってタイプを自在に操れる、可能性に満ちた土地だ。
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