「アーマーガア!!! ボディプレス!!」
私の叫びと同時に、アーマーガアは鋼の翼を大きく広げた。鉄壁によって幾重にも高められた防御力が、そのまま質量と破壊力に転じていく。
「……っ!」
パーモットは全力の突撃を終え、まだ息を整える暇すらない。雷撃に全てを注ぎ込んだ小さな身体は、もはや一瞬の間、動きを止めざるを得なかった。
そこにアーマーガアの巨体が弾丸のように落下し、フィールドを揺るがす轟音と共にパーモットを押し潰した。
『パーモット、戦闘不能』
一撃でパーモットを倒したアーマーガアは、呑気にオボンの実に噛り付き次のポケモンに備える。
でんきテラスタルによる強化された電光双撃、それも拘りハチマキを纏ったパーモットによる弱点を突いた攻撃だ。それをアーマーガアは耐えきって見せた。
ネモがこのタイミングでアーマーガアを潰しにかかったのは流石の判断で、一手遅れていればアーマーガアが吹き飛ばされていてもおかしくない。それもあって、テラスタルという切り札を切ってまで放たれた一撃をしのぎきった意味は計り知れない。
しかも、それを不意打ちに近い形で受け止めさせたこと自体が、私にとって大きすぎる収穫だった。
ネモの電気最大火力、おそらく今の攻撃がそれだったはずだ。
つまり、これ以上アーマーガアを突破できる手段を彼女が持たない可能性が極めて高い。
もしそうなら、この戦いの趨勢は一気にこちらに傾く。
体力さえ立て直してしまえば、アーマーガアという壁をちらつかせるだけで、不利な相手からは容易に退避できるのだから。
だが、不気味なのは――。
バトルコートの反対側で、ネモが笑っていることだった。
静かに、それでいて楽しげにボールへと手をかける姿は、説明のしようもない威圧感を放っていた。
彼女は単なる電気の一撃で勝負を終わらせる気などさらさらなかった。ここから逆転を狙う、隠された秘策を握っているのではないか?
ゲーム本編を思い出すと、ネモのパーティはタイプバランスがいい。パーティに偏りがないということは、逆に言えばアーマーガアを止められるようなでんきタイプのポケモンを何体も入れている可能性は低い。
「暴れてきて!!ジャラランガ!!!!」
ネモのボールから繰り出されたのはジャラランガ。全身に纏った鱗を鳴らしながら強者のオーラを醸し出している。かくとうタイプということもあって、ひこうタイプを含むアーマーガアに有利とは言えないポケモンだが、アーマーガアがはねやすめで地面に降りている時を狙われたら厄介だ。
ジャラランガは物理も特殊も器用にこなすうえ、火炎放射すら使う可能性がある。鉄壁で固めたとはいえ、特殊に振られればアーマーガアは脆い。
さらに、こちらが撒いたどくびしの存在を考えれば、時間は確かにこちらに有利。
だからこそ、私は迷わなかった。
「ヌオー、いってきて!」
即断。
アーマーガアを手元に戻し、代わりにフィールドへ躍り出たのはヌオー。
どっしりと構え、間抜けな顔で相手の出方を伺う姿は不動の盾そのものとは言えないが、その能力は一級品だ。
次の瞬間、ネモの声が鋭く飛ぶ。
「ジャラランガ、ソウルビート!!!」
想定外だった。
私が恐れた火炎放射でも、ドラゴンテールでもインファイトでもない。
ジャラランガは己の体力を削り、全身を震わせるように咆哮した。
鱗の一枚一枚が甲高く響き、闘志の旋律を奏でる。
ソウルビート。
代償に体力を失うが、攻守の全てを引き上げることができる技。
「……」
だが、ヌオーの前では意味がない。天然の瞳を光らせ、何事もなかったかのように構えるヌオー。
「ジャラランガ!!ドレインパンチ!!」
交代と能力上昇が交錯し、場の空気が一瞬固まった。
だが次の瞬間、フィールドは再び激流のように躍動する。
ジャラランガが素早い機動で間合いを詰め、鋭い拳を突き上げた。
ヌオーの身体を貫いた衝撃とともに、鮮やかな光が吸い取られていく。ドレインパンチ。
一気に体力を奪い返そうとする猛攻。
しかし、
「ヌオー、自己再生!」
鈍重に見える身体はジャラランガの攻撃を軽々耐え、傷ついた皮膚がみるみる癒えていく。
さらに、触れた瞬間に反撃するようにゴツゴツメットの棘がジャラランガの拳を裂き、猛毒が血潮を蝕んでいく。
ジャラランガの攻撃と回復を狙った一撃は、相殺どころか逆に負担を積み重ねる結果となった。
ネモが一瞬歯噛みする気配を見せる。だが、直ぐに笑みが戻り、そして鋭く叫んだ。
「っ……ジュナイパー!交代!!」
「ヌオー、熱湯で攻撃!!」
翡翠色の弓手がフィールドに降り立つ。
だが着地の瞬間、待っていたかのようにどくびしが突き刺さり、体力を削り取る。
そう思ったところで、ジュナイパーは木の実を食べて猛毒状態から回復する。
そこに追撃の熱湯がヌオーから放たれるも、ジュナイパーに効果はいまひとつだ。
「ここでジュナイパー……!」
ネモの意図は明白だった。ジュナイパーの得意の出の早い草技でヌオーを仕留めに来る。
「ジュナイパー!!リーフブレード!!」
「アーマーガア、お願い!!!」
ここで私が繰り出すのはアーマーガア。
アーマーガアからジュナイパーに有効打がないことは分かっているが、ここでアーマーガアに回復させる余地を作り出せるのは魅力的だ。
繰り出したアーマーガアに対しジュナイパーは距離を保ったまま、鋭い葉の刃を矢のように飛ばす。しかし、鋼の鎧に阻まれたそれは表面をかすり傷一つ付けるのがやっとだ。
「アーマーガア、はねやすめ」
ここではねやすめで態勢を立て直しさえすれば、次はポリゴン2へ交代し、後ろの相手に負荷を掛けていける、そう考えた矢先だった。
私は一つの技の存在を、致命的に見落としていた。
「ジュナイパー、影縫い!!」
ネモの鋭い声が響く。
その指示に従ってジュナイパーはアーマーガアを縫い付け、動きにくくなると同時に交代を封じられてしまった。
幸いなことにアーマーガアは攻撃自体は耐えて、そのままはねやすめで体力を取り戻していく。
しかし、アーマーガアの唯一の攻撃技である格闘技のボディプレスではゴーストタイプのジュナイパーに有効なダメージを与えられない。これでアーマーガアは耐える以外にやることが無くなってしまった。
さあ、どうしようかな。
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