アブリボンの”サイコキネシス”を受け止めたドオー。テラスタルまで使ったパーモットの全力の攻撃に耐えたアーマーガア。
この少女のポケモンは耐久力が高すぎて私の攻撃ではなかなか倒しきれない。トップやジムリーダーのポケモンの強さは技の威力が高くて直ぐにやられてしまうという強さ。それとは別の強さを今私は感じている。
どんな技を撃っても、逸らされ、受け止められる。
そうしているうちに、倒しきれないままにじわりじわりと追い込まれていく。
転機はジュナイパーだった。
相手のアーマーガアは耐久のための技が多くて、攻撃技はかくとうタイプの”ボディプレス”しか覚えていない。本来は次々交代して戦う作戦で補えるとしても、ジュナイパーの”影縫い”で捕まえてしまえばいい。
ゴーストタイプのジュナイパーに対して、かくとうタイプの技しか使えないアーマーガアは”影縫い”によって逃げもできず、攻撃もできない。
けれど、”鉄壁”によって上昇した上がった防御力は私のジュナイパーの攻撃を殆ど通さず、アーマーガアの受け流し技術の高さもあって気持ちよく攻めきれない。そのうえ、少女も慣れたもので、恐ろしく適切な指示でこちらが見つけた隙に踏み込むことをためらってしまう。
“影縫い”で完全に動きを封じたはずのアーマーガアだったけれど、相手はそこで引き下がらなかった。
「アーマーガア、挑発!」
鋼の巨体とは思えない鋭い威圧が放たれ、ジュナイパーの集中が乱れる。
挑発を重ねられたジュナイパーは、わずかな姿勢の乱れからバランスを崩し、ついに撒かれていた毒びしを踏み抜いてしまった。
「くっ……まずい!」
アーマーガアは”ボディプレス”を構えてこちらに圧をかけ続けている。ジュナイパーには技が当たらないと分かっていても、あの体勢では不用意に交代できない。
その間にも毒は確実にジュナイパーの体力を奪っていく。
やがて、ジュナイパーは膝をつき、そのまま倒れた。
強い、信じられないほどに。
でも、ここで止まるわけにはいかない。それに、何よりこんなバトルができていることに私は心の底から喜びを感じていた。
私はボールを構え、声を張る。
「いくよ、ジャラランガ!!!」
飛び出したジャラランガはすでに傷ついているのに、むしろ闘志が研ぎ澄まされていた。胸の奥で、妙な確信が灯る。
今なら突破できる――!
「ジャラランガ、”かみなりパンチ”!!」
電撃を纏った拳が走る。長期戦で疲れが溜まっていたアーマーガアの、一瞬だけ緩んだガードを的確に突き破り、ジャラランガは一撃でアーマーガアを打ち倒した。
アーマーガアを倒して、ようやく流れがこっちに傾きかけた。そう思ったのも束の間だった。
フィールドに残った 毒びし。その影響が私のポケモンに焦りを生み出す。
「ヌオー、受け止めて!」
そうやって繰り出されてきたのはヌオー。
長期戦に持ち込まれてしまえば、すでに毒を浴びているジャラランガは不利になる。かといって、すぐさまアブリボンに交代すれば隙をつかれて攻撃されてしまう。
「”ドレインパンチ”!!」
ジャラランガは一気に距離を詰めて”ドレインパンチ”で再びヌオーの体力を吸い取る。ゴツゴツメットの上から強引に体力を吸って、
「アブリボン、お願い!!」
アブリボンに交代する。
「ハピナス!!」
だけど、そこで出てきたのがハピナスだった。
やはり、アブリボンでは何度攻撃してもどうしようもないほどの耐久力でこちらは交代せざるを得ない。
そうやって、ジャラランガ、ルガルガン、そして最後に残していたミミズズはヌオーとグライオンに完封され、アブリボンはハピナスで止められる。そして、ジリジリと私のポケモンが倒れていく。
「くぅ……ルガルガン、もう一回いこう! 攻めるしかない!」
叫びながらも分かっていた。この状況では、どの技も決定打になれないと。
それでも、ルガルガンはヌオーに”じゃれつく”を放ち、アブリボンは”ムーンフォース”を懸命に打ち込む。けれど、そこまで傾き手の内も晒しきった私に勝たせてもらえるほど甘くはなかった。
「ヌオー、”熱湯”!」
最後は、粘っていたミミズズがヌオーの”熱湯”によって火傷を受けて力尽きたのだった。
最後のポケモンが倒れた瞬間、私はしばらく立ち尽くしていた。
受け切られて、毒や火傷で削られて、ひとつひとつ動かされて、気づいたら出口がなくなっていた。
悔しいけれど、心の奥がゾクゾクするほど刺激的だった。
「……こんな作戦があったなんて。うまく攻めきれなかった……思った通りに戦えなかったよ……!」
自分でも驚くくらい素直に言葉がこぼれた。そのとき、横で見ていたクラベル校長がゆっくりと頷いた。
「そうするのも、立派な戦術というものですよ、ネモさん」
静かだけれど、芯の通った声だった。
「対戦相手の行動を制限し、選択肢を奪い、じわじわと追い詰める……短期決戦とは異なる、もうひとつの強さですね」
私は唇を噛む。でも、その悔しさと同じくらい、胸の奥が熱くなっていた。
「レジェーナさん、見事なバトルでした。拝見できて光栄です」
クラベル校長は対戦相手の少女を見やり、私に目線を戻して眼鏡の奥の目を細めた。
「どうですか? ガラル地方の新チャンピオンの戦いは」
……あ。
改めて、彼女の顔を見る。
落ち着いた表情。余裕のある立ち姿。
アカデミーの制服を着ているが、それは紛れもなくガラル地方のチャンピオンだった。
さっきまで繰り広げられていたあの戦いを思い返して、ようやく実感が追いついた。
私は一度、深く息を吸った。それから、思ったままを口にする。
「……すごいよ。強い!ガラルには……こんなトレーナーがたくさんいるんだね!」
校長は満足げに微笑む。
「ええ。そのような強者たちと切磋琢磨できるのが、ポケモントレーナーの醍醐味です」
私は拳を握りしめた。
もっと強くなりたい。
また戦いたい。次は、絶対に負けたくない。
レジェーナとのバトルは、そんな思いを全身に刻みつけてくれた。
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