TS受けポケ使いが崩されるまで   作:ヤキブタアゴニスト

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第20話

「ところで、このお礼と言ってはなんなのですが」

 

クラベル校長がそう切り出した時、私は内心で身構えた。すでにテラスタルについていろいろ教えてもらった以上、これ以上はもらいすぎだという感触があった。

 

だが、続いた提案は、私にとって予想以上にありがたいものだった。

 

「我が校では、入学される生徒さんが希望すれば、ニャオハ、ホゲータ、クワッスの三匹から一匹を差し上げることになっております。レジェーナさんがよければですが、気になった子を育ててみてはいかがでしょうか」

 

 

そう言うと、校長は手元のボールを三つ並べ、順に開放した。

 

白い光が弾けて、三匹が床に降り立つ。

 

ニャオハはしなやかに伸びをし、こちらを一瞥したあと、わざとらしく興味のないふりをして顔を背けた。

けれど耳だけは、こちらの気配を追っている。

 

クワッスは胸を張り、足取りも誇らしげで、最初から主役の座を取りに来ているようだった。

こちらに向かって鳴く声が妙に自信満々で、思わず笑ってしまいそうになる。

 

そしてホゲータは……ぽてと床に座り込んだ。

 

「ほげぇ……」

 

状況を理解しているのか、していないのか。

ただ目の前の世界が平和であることだけを信じているような顔で、私を見上げている。

 

三匹とも、ガラルでは珍しいポケモンだ。自然と、対戦の記憶が頭の中に並ぶ。

 

ニャオハの最終進化、マスカーニャ。

変幻自在でタイプを変えながら戦えるうえ、トリックフラワーという必中急所の技を持つ。強い。文句なく強い。

 

クワッスの最終進化、ウェーニバル。

アクアステップで素早さを上げて殴り続ける、分かりやすい高速アタッカー。勝ち筋が明確だ。

 

そしてホゲータの最終進化、ラウドボーン。

素早さは高くない。派手さもない。

だが耐久力があり、フレアソングで火力を上げながら殴れる。更に特性てんねんで、相手の積みを踏み潰すこともできる。

 

……私は、受けの人間だ。

 

相手の選択肢を減らし、勝ち筋を消し、急所や乱数に左右されにくい盤面を作る。派手な勝利よりも、再現性の高い勝ちを拾う方が性に合っている。

 

ニャオハとクワッスが弱いわけではない。ただ、私があの子たちを上手く戦わせてあげられる未来が、どうしても想像できなかった。

 

速さと火力で押し切る戦いは、私の呼吸と噛み合わない。一瞬の判断と攻めの決断が求められる。そして、少しでも躊躇したら置いていかれる。

 

その点、ラウドボーンは違う。

おにびやなまけるで盤面を整え、耐久で受け、必要な時にフレアソングで火力を上げる。

技スペースが少ない耐久型の中で、攻撃と安定を両立できる。

 

私の選択は、もう決まっていた。

 

「……ホゲータにします」

 

言った瞬間、ホゲータは「ほげ?」と首を傾げた。

選ばれたことに気づいているのか、いないのか。

 

「……よろしく」

 

「ほげぇ」

 

それでも次の瞬間には、こちらの足元にぽてぽてと寄ってきて、遠慮なく靴の先に頬を擦りつけた。

 

 

 

 

 

部屋に戻って、まずはヌオーとドオーも出して撫でる。

 

「ヌオー、今日もかわいいね」

 

「ドオーも……うん。相変わらず動かないね」

 

二匹はぬぼっとした顔のまま、動かない。撫でられているのかどうかすら判別しにくい。

……だが、そこがいい。

そして最後にホゲータを出すと。

 

「ほげぇ」

 

ホゲータはすぐにヌオーとドオーの隣に並んだ。三体が並んで、部屋の床にぺたりと座っている。

ぬぼっとしている……全員が。

 

空気が、急に柔らかくなった気がした。

すぐに馴染んだみたいだ。

 

私が心配するまでもなかった。ホゲータはホゲータで、私たちの生活に勝手に溶け込んでいく。

 

「パルデアでは、サンドイッチが人気みたいだから……今度食べようね」

 

誰に言ったのか分からない言葉を、私は口にした。アーマーガアが低く鳴き、ヌオーが「お?」みたいな顔をして、ホゲータが嬉しそうに「ほげぇ」と鳴いた。

 

食べ物の話には喰いつくらしい。実に分かりやすい。

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間かけて、ホゲータとの距離を詰めた。

 

その間、あちこちが焦げた。何度か母譲りのピンクの髪が遠慮なく炙られた。でもそれでいい。

まず必要なのはトレーニングではなく、信頼だ。

 

受けの戦略は派手に勝つためのものじゃない。負けないために勝つ。相手の勢いを受け止め、崩れない形を作って、じわじわと崩す。

 

そのためには、技術よりも先に耐える覚悟がいる。

そして、ホゲータにそれを求める以上、こちらが先に誠意を見せなければならない。全体の戦略を理解できないうちは、理屈ではなく、私を信じて耐えてもらうしかない。

 

その点、ヌオーとドオーがいい感じに先輩面をしている……と思う。

 

表情から読み取れる情報量は少ないけれど、たぶん、ちゃんと伝わっている。たぶん。ハピナスは最近別の訓練をしていて世話を焼けないので、これは正直ありがたい。

 

 

 

そうして、ホゲータが落ち着いた頃合いで、アカデミーを出ることにした。

 

やたらと毎日からんでくるネモのお陰でテラスタルも扱えるようになった。あとはフィールドで、慣れていけばいいだろう。

 

まずは手堅く、ボウルタウンに向かう予定だ。

帽子をかぶって、アカデミーの制服。これだけでも、まじまじと顔を見られなければ大丈夫だ。

 

それでも念のため髪を下ろして、伊達メガネをかける。 ……自分でも、どこの文学少女だと思うくらい、それっぽくなるのが腹立たしい。

 

 

 

そうして旅装を整え、ライド用のモトトカゲを貸してもらい、街の東門から探索に出る。緩やかな岩場の渓谷を、モトトカゲで軽快に駆け抜けていく。

 

ガラルであれば、セキタンザンやドサイドン、ダイオウドウといったポケモンが棲み着いていそうな地形だ。 岩と地面、重さと耐久。いかにも、受けが映える環境だと思いながら進んでいた。

 

そう思っていた矢先、休憩を挟んだところでイワンコが姿を見せた。ガラルではやや珍しい部類だが、進化先のルガルガンは俊敏さを売りにするポケモンだ。

 

悪くはない。悪くはないが、私の戦略とは噛み合わない。

 

グライオンに合図を送り、牽制だけさせる。すると草陰から、岩の塊のようなポケモンが慌てて逃げていくのが見えた。

 

コジオ、だろうか。

 

よく見ると、一体だけが逃げ遅れていた。

 

仲間に続かず、その場で”かたくなる”を使い、必死に攻撃を耐えようとしている。

 

……なるほど。

 

グライオンを制止し、ゆっくりと距離を詰める。逃げない。反撃もしない。ただ、耐えることを選んでいる。

 

コジオの進化先、キョジオーン。

 

いわタイプは必ずしも受けには向かない。けれど、専用技の"しおづけ"を持ち、削りと耐久を両立できる希少な存在だ。派手さはないが、相手の行動を縛り、時間を味方につける。受けとの相性は、かなりいい。

 

少なくとも。 今この場で、逃げるより耐えることを選んだ判断は、嫌いじゃない。

 

 

 





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