ボウルタウン。
この街は、アカデミーを旅立ったトレーナーが最初に訪れる、大きな町だ。
生活圏としての規模も、トレーナー向けの設備も整っていて、当然のようにポケモンジムもここに置かれている。
ガラルにたとえるなら、ターフタウンか、あるいはバウタウンに近い。
ポケモントレーナーとしての資質の試金石としてはちょうどよく、ここで躓くかどうかが、その後の方針を決めることも多い。
街はスタジアムの周辺を始めとして緑が多く、どこか余裕がある。 石畳の合間から草花が顔を出し、所々に彫刻というか謎のオブジェが配置されている。
なるほど。これは、ジムリーダーの趣味がそのまま街に染み出しているタイプだ。
この街のジムリーダーを務めるのは、コルサという芸術家だ。
これはあくまで私の持論だけど、芸術家には大きく分けて二種類いる。周囲に迷惑をかけるタイプと、かけないタイプ。
そして、今私の目の前にいる人物は……どう見ても後者だった。
芸術家と聞いて、もっと浮世離れした人物を想像していたのだけれど、実際は違う。
立ち居振る舞いは大仰でも、距離の取り方はきちんとしている。
こちらが背後から入ったせいか、最初は一般のチャレンジャーだと思われたらしい。そのままジムチャレンジの導線に案内されかけた。
振り返って、軽く名乗る。それだけで、彼の目の色が変わった。
「ああ……なるほど。なるほどなるほど!」
両手を広げ、舞台役者のように一歩踏み出す。
「あの戦い方……実にアヴァンギャルド!!あれはもう、芸術だ!」
押し付けがましい威圧感はない。だが、自己主張は強い。褒められているようで悪い気はしないが、少々暑苦しさを感じる。
こちらの返事を待たず、言葉が次々と積み上がっていくあたり、いかにも芸術家だ。
「ぜひ、芸術の扉をひらこうではないか?私のウソッキーと、ひとつ。ひとつだけ、作品を仕上げてみたくてね」
芸術家らしい理由だと思う。
勝敗そのものよりも、過程と配置、そして間。どこで止まり、どこで受け、どこまで耐えるか。
それを見たいのだろう。
なら、こちらもそれに付き合えばいい。
もっとも、先の予定もある。全力での消耗は、正直、避けたい。私は少し考えてから、条件を口にした。
「……えっと。一対一なら、いいですよ」
一瞬の静寂。それから、彼は満足そうに頷いた。
「いいね。制限があるからこそ、芸術は際立つ。さあキャンバスは整った」
「ハピナス、お願いできる?」
準備のためにスタジアムの控室を一つ借り、ハピナスと向き合う。 この時間は、単なる最終確認ではない。
ハピナスにとっては技構成を変えてから、初めての実戦になる。
ダンデさんやネモとの戦いを経て、反省点ははっきりしていた。ゴーストタイプへの耐性が、あまりにも脆い。
受けとして成立させる以上、そこを放置するわけにはいかない。
だから、トライアタックを外した。代わりに選んだのは、より割り切った“アシストパワー”。
さらに、"ステルスロック"を忘れさせ、その代償として"のろい"を覚えさせる。ハピナスに求める役割としては、かなり無茶だ。 それでも、この先を見据えるなら、必要な変更だった。
深呼吸して、今度は相手のことを考える。
ウソッキー。
草タイプのジムリーダーが使っているせいで勘違いされがちだが、れっきとしたいわタイプだ。そして何より、ウソッキーといえば"カウンター"。それに、"不意打ち"。
こちらのテラスタルはゴーストなので"カウンター"は問題ない。
だが、"不意打ち"は素直に痛い。
もっとも、それも織り込み済みだ。 "不意打ち"を逆手に取って弱点保険を発動させられれば、返しの一撃で一気に形勢を崩せる。
耐えて、受けて、まとめてひっくり返す。
もっとも、私のハピナスは、"アシストパワー"のワンウェポン構成。だから、もし相手が"不意打ち"の威力強化のために悪テラスタルを切ってきた場合、そのまま殴り合っても効果はない。
その時は、こちらもゴーストテラスタルで"のろい"を使えばいい。
そんな私の考えは、いきなり初手から打ち砕かれた。
「題して、『ウソから出た実』、ウソッキー、テラスタル!!」
ウソッキーは、コルサさんの草テラスタルによって、草タイプへと変容した。
なるほど……これは、一本取られた。たしかに、そうだったような気もしてきた。
岩タイプか悪タイプ前提で組み立てていたこちらの読みを、ずらしてくる。というか、こっちがずれていた。
それでもやることは変わらない。
ハピナスの防御は、正直心もとない。けれど、だからこそだ。
一度強化してしまえば、物理も特殊も関係なくなる。受けきれる形に持ち込めば、あとは時間の問題だ。
「えっと、ハピナス、"のろい"」
「やらせるな、"けたぐり"!!」
テラスタルの発光に一瞬、判断が遅れた。ウソッキーの"けたぐり"が、真正面からハピナスに叩き込まれる。
威力自体は高くない。だが、格闘タイプ……弱点だ。
それでも、ハピナスは倒れない。体力は、まだ半分も削れていない。
そして、弱点技を受けた、ということは。
弱点保険。
その効果が、確実に発動する。攻撃と特攻が、一気に引き上げられる。
「……おや?」
コルサさんが、目を細めた。
「これはこれは… 偶然か、必然か……実に、刺激的だ。ウソッキー!臆せず"けたぐり"!!」
ウソッキーが、さらに間合いを詰めてくる。
その瞬間。私は、迷わず、次の手を選んだ。
リングが輝き、ハピナスの周囲にエネルギーが収束する。 光が弾けるように広がり、そして……その中から現れたハピナスは、ゴーストタイプへと姿を変えていた。
「ハピナス、瞑想!」
ウソッキーの"けたぐり"は、空を切る。ゴーストタイプ相手には、意味をなさない。
その一瞬の空白で、ハピナスは静かに意識を集中させる。特攻がさらに高まり、次の一撃へと精神を研ぎ澄ます。
「ウソッキー! 諸刃の頭突き!!」
「ハピナス!! アシストパワー!!」
正面からぶつかる二つの動き。だが、結果は一瞬だった。
積み上げた力が、そのまま形になって放たれる。
一撃!!
ウソッキーの体力が、まとめて刈り取られた。
感想・評価よろしくお願いいたします。
パルデア遠征が長くなりすぎるのでさらっと流しました。コルサファンの人すみません。