「ドオー、一旦休んで!!アーマーガア、任せた!!」
凌いだドオーを即座にボールへ戻す。入れ替わるように、鋼の翼がフィールドを覆った。
続くムウマージのサイコショックは、硬い装甲に弾かれる。
防御の高さ。そしてタイプ相性による減衰。
ダメージは、ほとんど通っていない。
そして、ここが読み筋だ。
ムウマージの技で、まだ見えていないものが一つある。挑発がかかっている間に一度も使われなかったという事実。それだけで、可能性は大きく絞られる。
変化技。まず浮かぶのは鬼火。物理アタッカーを止め、攻めの駒を一気に無力化できる定番の一手。
次点で、黒いまなざし。逃げ道を断ち、強引に詰めに持ち込む選択。もしくは滅びの歌、強引に持っていくならありえなくもない。
どれにせよ、共通点は一つ。
挑発が切れた瞬間にこそ、価値が生まれる技だ。
そしてナンジャモさんの視点では、こう見えているはずだ。アーマーガアは、挑発がかかっている間だけ動けるポケモン。
挑発が切れれば、ムウマージが強化され、受けが成立しなくなる。
だからこそ、こちらは挑発を重ねたい。もう一度、縛る。
だが。
ムウマージには、猛毒が回っている。時間が経つほど、体力は確実に削られていく。
ナンジャモさんがそれを嫌うなら、ここで居座る理由はない。
こちらが挑発を選ぶ、その一瞬。行動が固定される、わずかな隙。
そこを……読み切って、交代してくるはず!!
「はねやすめで回復!!」
「タイカイデン、出番あげちゃうよん!!」
想定通りの交代。フィールドに現れたのは、風をまとったタイカイデン。
それならこちらも迷わない。すぐさまドオーに交代する。
「タイカイデン、ボルトチェンジ!!」
間一髪、交代したドオーはボルトチェンジを受け止める。電撃はすり抜けるように霧散し、ドオーは首をかしげる。
一瞬、不思議そうな表情を浮かべたのは、タイカイデンの方だった。
だが、ナンジャモさんは止まらない。すぐさま次のボールが投げ込まれる。
その隙にこちらは自己再生でドオーの体力を危険域から回復させる。とはいえ、油断はできない。もう一度サイコショックを撃たれれば、耐えきれるかは怪しい。
一旦、アーマーガアで時間を稼げばムウマージは毒で弱る。
「アーマーガア、お願い!!!」
「マルマイン!!ビリっといってきて!!」
釣られた!!
相手は高速で名をはせた巨大爆弾。マルマイン。
交代を挟みすぎるところをねらい打たれたのか、同じタイミングで交代をされてしまった。
「グライオン!!任せた!!」
慌ててアーマーガアを引っ込めてグライオンに交代する。でんきタイプの技がくれば無効にできるところだが、そこはジムリーダー。そうやすやすとはやられてくれない。
「マルマイン、影分身!!」
マルマインの姿がブレ、一瞬にして大量のマルマインが存在しているように錯覚させられる。けれど、グライオンもどくどくだまで猛毒状態に移行、ポイズンヒールによる回復で受け止める準備に入る。
「いっしっし、マルマイン、高速移動!!」
その間にマルマインは高速移動で跳ね回り、影分身と一緒にフィールドを埋め尽くす。これには流石のグライオンも困惑して、動きがとまる。
「さらに~、やっちゃえ、シグナルビーム!!!」
四方八方からシグナルビームがグライオンに襲い掛かる。緑の光線が飛びまわり、むしタイプのエネルギーが次々とグライオンに突き刺さる。
「グライオン!!……ってあれ?」
が、その殆どは影分身から放たれたもので見かけだけであり、さらにグライオンに当たったものも威力はごく限られたものだ。目をこすってグライオンの状態を観察しても、当たったダメージはおそらくポイズンヒールで回復できる程度のもので全くもって余裕そうだ。
「反撃の地震!!」
そして、グライオンは地震でマルマインに反撃する。跳ね回っているマルマインには当たらないが、均された地面に加わった振動は確かにマルマインの移動を制限していた。
仕留めるには至らないが、気が付けばこっちには身代わりがあり、マルマインは少々動きにくそうだ。
「ちょっぴりピンチかも!? 皆の者!!もっと応援して~!」
軽やかな声とともに、ナンジャモはマルマインを引っ込めた。
次の瞬間、フィールドに躍り出たのはエレキブル。
挑発。おそらくはグライオンの動きを止め、主導権を奪う算段だったのだろう。
だが、相手が悪い。
グライオンにとって、地震は元より主力の一撃。エレキブルに効果抜群だ。
「グライオン、地震!!」
躊躇はなかった。地面がうねり、衝撃が一直線にエレキブルを襲う。
耐えた。
大きくよろめきながらも、エレキブルは踏みとどまる。こだわりめがねを掛けたエレキブルはそのまま距離を詰め、さらに挑発を重ねる。動きを縛り、流れを引き寄せるための必死の選択。
だが、グライオンは止まらない。
身代わりを犠牲にしてでも前に出る。地面を蹴り、間合いを詰め……
再び、地震。
轟音とともに大地が沈み、エレキブルの巨体が崩れ落ちる。
「ヤバッ! マジマジ!?ビリッと バリッとレントラー!!!」
叫ぶような声と同時に、フィールドに飛び出してきたのはレントラー。
「グライオン、守る!」
咄嗟に指示を飛ばす。だが、もう遅かった。
挑発状態のグライオンは止まらない。翼を畳み、低く突っ込むように前へ出る。
迫り来るレントラーに向かって、グライオンは爪を振るう代わりに、ひとつの球体を放った。
どくどく玉。
小さなそれが弧を描き、レントラーの胸元にぶつかる。中から滲み出した毒が、レントラーを縫うように広がった。
「レントラー、氷の牙!!」
次の瞬間、空気が一気に冷え込む。白く凍りついた牙が形を取り、一直線にグライオンへ突き立てられた。
直撃。
だが、グライオンの防御は高い。タイプ相性は厳しいが、何とか耐えれるはず……
「グライオン……!?」
その前提が、崩れた。氷が砕ける音とともに、グライオンの身体が大きく弾かれる。そのまま、地面に落ちた。
急所、ではない。少なくとも、そうは見えない。それでも、あの一撃で落ちるとは、思っていなかった。
理解が、一拍遅れる。
混乱したまま、私は次のボールを投げていた。
「……ヌオー!」
鈍重な影がフィールドに立つ。考えるのは後だ。
今は、盤面を止めなければならない。
「ヌオー!自己再生!!」
まずは回復。万が一を考えれば、ここは安定を取るべき場面だ。
ヌオーに、即座に大きなダメージを与えられる技があるとは思えない。
そのはずだった。
回復の指示を出しながら、頭の中では別の計算が走り始める。さっき、何が起きたのか。
氷の牙。急所ではない。それでも、グライオンは一撃で落ちた。
こだわりハチマキではなさそうだ。動きに縛りはなかった。では、いのちの珠か達人の帯?それだけでは足りなさそうだ。
そこで、ようやく気づく。あの火力。違和感のあったのはレントラーの特性だ。
通常の威嚇じゃない。
なら、特性は何か。答えは、一つしかなかった。
根性。
どくどく玉による状態異常。そして、攻撃力の底上げ。
すべてが、一本の線で繋がる。
「……しまった……」
理解した、その瞬間。
「どんどんいっちゃおう!!くさわけ!!」
レントラーが、地面を蹴る。加速。
そして衝撃。
自己再生が発動する、その前にヌオーの体力が、一気に削り取られた。
闘争心は死んだ……