ナンジャモさんとのバトルは、ひとまず終わった。
派手で、騒がしくて、それでいて緻密だった。配信者の看板に偽りはないけれど、それ以上にジムリーダーとしての強さがあった。テラスタルという選択肢が残っていると受けがやりにくいというのも面白い発見だった。ダイマックスとは違い、ただ受け流せばいいものではないというのが面白い。
それでも、ガラルのチャンピオンとして、恥じない戦いはできたと思う。少なくとも、胸を張っていい内容だった。
バトル後、控室で軽く言葉を交わしていると、そういえばと思い出して私は切り出した。
「……昨日、ハッコウシティの外れで結晶を見たんです」
ナンジャモさんがぴくりと反応する。
「おっ、どのへんどのへん?」
「街を出て北東側です。テラスタルエネルギーが濃くて、ポケモンの気配もありました」
言葉にすると、昨日感じた圧が蘇る。不用意に触れなくてよかった、と改めて思う。
ナンジャモさんは腕を組み、うんうんと頷いた。
「あー、それは間違いなくテラスタル結晶だね。パルデアではあっちこっちにあって、強めのポケモンがいることがおーいかな」
とのことで、ガラルでの巣穴と概ね似たような存在なようだった。ナンジャモさん曰く、電波が悪いから配信には向かないとのことであまり好きではないみたいだったが、リスク相応のリターンがあることは確かなようだった。
ということで、ガラルへの帰国のタイムリミットが迫る中、私は結晶に挑むことにした。
数日後、私はモトトカゲにライドしてハッコウシティから前に見つけた結晶に向かう。幸いにして、その結晶は前回私が見た時と同様の輝きを持って、私を出迎えてくれた。
見れば見るほどに不思議な輝きで、なんというかポケモンという存在に与えられた根底の力がむき出しになって現れたようだった。或いは、アルセウスが持っていたというプレートの力は本当だったのかもしれない。
結晶に触れた瞬間、空気が震えた。光が弾け、視界が歪む。
巣穴と同様に相手の領域に引きずり込まれる感覚。何度味わっても奇妙で、そして興奮する感覚だ。
そして現れたのは結晶と同じ青、水タイプでテラスタルした巨大なナマズ。
ヘイラッシャがそこにいた。
巨大な体躯。分厚い脂肪と、底知れない耐久。こちらを睨むその目は、明らかに場慣れしていて歴戦であることを感じさせる。
「でかっ……!」
思わず素の声が出る。
それは実際の物理的なサイズと発する威圧感の両方から来るものだった。
「アーマーガア、グライオン!!側面に回り込んで攻撃!!」
まず繰り出したのは飛行可能な二体だ。機動力と自律的な攻撃に慣れている二体には左右から確実な削りを入れてもらう。
「ヌオー、ドオー!!攻撃を受け止めて!!」
中央には天然コンビを繰り出して、守勢に専念させる。
「ハピナス!!全体の援護を!!」
一番全体を見れる相棒のハピナスにはアシストパワーによる援護を頼む。
「行くぞ、ポリゴン2、テラスタルだ!!」
そして、最大の火力要員、砲台たるポリゴン2を拘りメガネとでんきテラスタルで最大まで攻撃力を高める。
「ポリゴン2、十万ボルト!!グライオンは地震、アーマーガアはボディプレスで攻撃!!」
突進してくるヘイラッシャを、ヌオーとドオーが正面から受け止める。衝撃で地面が抉れるが、二体は退かない。
その背後から、ポリゴン2の電撃が走る。でんきテラスタルで増幅された電撃が、水の巨体を正確に撃ち抜いた。
さらに、左右から、アーマーガアとグライオンの攻撃が重なる。地震が足元を崩し、鋼の圧が押し潰す。
だが、それでも倒れない。
ヘイラッシャは咆哮し、全身を振るって反撃する。水しぶきが爆ぜ、天然コンビが弾き飛ばされる。
「ハピナス、回復!!」
即座にたまご産みを二体に対して使い、体勢を立て直す。防御の核が崩れれば、前線は持たない。
押しては押し返され、削っては立て直される。まるで巨大な城壁を、少しずつ削っていくような戦いだった。
それでも、削りは確実に積み重なっていた。
最後は、再びポリゴン2の電撃だった。
「全力で"十万ボルト"!!!」
火力を最大まで引き上げた一撃が、ついに均衡を崩す。
ヘイラッシャの巨体が大きく揺れてから力尽きる。
静寂。
私は深く息を吐いた。
……激闘だった。
正面から受け止め、側面から削り、後方から撃ち抜く。攻撃的な布陣には向かない中でみんなよくやってくれたように思う。
ボールを投げる。
一度。
二度。
三度。
カチリ、と静かな音が鳴る。
捕まえた。
結晶の光がゆっくりと霧散し、パルデアの強い日差しが私を照らした。
まだまだパルデアの大地を駆け回ってみたいところだった。
広い空、乾いた風、遠くまで続く地平線。そしてテラスタルという不思議な現象。考え付いた戦術を試すには、あまりにも魅力的な土地だ。
けれど、新チャンピオンがあまり長くガラルを離れているわけにもいかない。
リーグ戦に参加する義務こそないものの、チャンピオンという立場は、思った以上に公的なものだった。
各地で組まれるエキシビションマッチ。 地方間交流戦。 スポンサー絡みの顔合わせ。そういうものをすべて放棄するわけにもいかない。
その一つ目が、もう迫っている。
相手は、水タイプの使い手、ルリナさん。 そして形式はダブルバトル。
思わず苦笑する。受けという戦術と、ダブルバトルの相性は決して良くない。
単体の盤面制圧ではなく、二体同時の圧力と、交差する攻撃。守勢を固める前に、崩される可能性も高い。
それでも、あまりに恥ずかしい負け方をさらすわけにはいかない。
“ガラルのチャンピオン”という肩書きは、
強さそのものよりも、立ち振る舞いを問われる。
対策。特訓。技の再構築。持ち物の最適化。そして何より、ダブルバトルでの立ち回りの研究。
やるべきことは山積みだ。
受けをダブルで成立させるなら、単純な耐久ではなく、役割分担と噛み合わせが必要にな
る。片方が時間を稼ぎ、もう片方が制圧する。あるいは、二体で一つの“壁”を形成する。
そして今回加わったホゲータ、コジオ、ヘイラッシャ。
彼らと心を通わせて、受けという戦術を少しずつ覚えさせていくことも肝要だ。
受けというのは、単体の性能頼りではない。全体の総合力で勝ちを取りに行く戦術だ。
誰か一体が突出して強ければいい、というものではない。むしろ、互いの弱点を埋め合い、崩れた瞬間に自然と支え合える関係性がなければ成立しない。
そのためには、時間がいる。
指示に従うだけでは足りない。
「なぜここで引くのか」
「なぜ今は攻めないのか」
それを、感覚として理解してもらう必要がある。
信頼関係のないチームでは、受けは成り立たない。
焦って形だけ整えても、本番で綻びは必ず出るだろう。
パルデアを出る前に、制服を脱いでジョーイさんの服に着替える。
アカデミーの制服も悪くはない。パルデアで学生としての立場を示すには便利で、パッと見れば他地方のチャンピオンとは夢にも思わない。
けれど、やっぱりこの服に袖を通すと、不思議としっくりくるものがある。
鏡の前で一度、姿を確かめる。
ばっちりだ。荷物をまとめ、アカデミーで最終確認を済ませる。
足元をうろうろするホゲータをボールに戻し、ハピナスに一部の荷物を預けて大階段を下る。
階段の下で校長とネモに別れを告げつつ頭を撫でられ、私は列車で北を目指す。太陽に照らされた大地を抜けて、あっという間にカロス、ガラルへと向かうのだった。
高評価・感想よろしくお願いいたします。
次回からガラルでのバトルが多分始まります。