TS受けポケ使いが崩されるまで   作:ヤキブタアゴニスト

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第27話

ガラルへ戻った私が、最初に向かったのはソニアさんのもとだった。

 

ガラルに着いたその足で鉄道でブラッシータウンへ向かう。車窓の景色は見慣れているはずなのに、どこか懐かしい。

パルデアの乾いた風とは違う、湿り気を帯びたガラルの空気。曇りがちな空も、今はすこし落ち着いた気分だ。

 

駅をいくつか過ぎるごとに、視線を感じるようになる。

 

「あ、チャンピオンだ」

「レジェーナちゃん!」

 

小さく声を掛けられたり、手を振られたりする。

チャンピオンに向けるものというより、近所の子供に向けるような、そんな手の振り方。

思わず、小さく手を振り返す。

 

肩書きは重いが、ダンデさんみたいにふるまえるほどの度胸はないので、この距離感は嫌いじゃない。

 

ブラッシータウンに到着し、事前に伝えていた時間通りにポケモン研究所へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです、ソニアさん。押しかけてきてすみません。それで、こちらの子は……」

 

言いながらも、内心は落ち着いていなかった。

焦っていた。

 

それはソニアさんと会うからではない。ポケモン研究所のドアを開けてくれた、私とそう変わらない年頃の二人に、見覚えがあり過ぎたからだ。

 

ホップ。そして……ユウリ。

 

ダンデさんがいる以上、ホップについてはそれなりに覚悟していた。いずれは正面から会うことになるだろうと。

 

だが、ユウリまでいるとは聞いていない。

 

というか、気のせいだろうか。ユウリちゃん(推定)の目が、キラキラを通り越してギラギラしているような気がする。

 

じりじりと、二人が距離を詰めてくる。

 

これは、逃げ場がない。助けを求めるようにソニアさんを見ると、彼女はにやりと口角を上げた。

 

「これはこれは、チャンピオン。ようこそ研究所へ」

 

わざとらしく畏まってくる。

 

……楽しんでいる。

 

だが、私にも秘策がある。

私はスマホロトムをさっと起動する。

 

「ミアレシティ……懐かしいですね」

 

画面に映るのは、派手なドレス姿でポーズを取るソニアさんの写真。

以前、見せるなと強く念押しされた一枚だ。この二人には、まず見せていないはず。

 

お姉さんぶっているだろうし、効果は抜群だろう。

 

「あー、もう!」

 

即座に距離を詰められ、スマホロトムはすっと奪われる。ソニアさんは私の髪をくしゃりと撫でながら、器用にポケットへ戻した。

 

「久しぶり。立派になっちゃって」

 

そして、耳元で小さく囁く。

 

「悪かったから、それだけはやめて」

 

小声なのに、妙に必死だ。

 

……勝った。

 

改めて撫でられると、悪い気はしない。むしろ、妙に安心する。

ただし、背後から感じる視線は、まだ消えていない。

 

ホップは腕を組んで興味深そうに見ているし、ユウリはというと、完全に戦闘モードの目だ。

 

 

 

 

「紹介するわね」

 

ソニアさんが、ぱん、と手を打つ。

 

「こっちがダンデくんの弟のホップ。それからこっちがユウリ」

 

分かってはいたが、やはりホップとユウリで間違いないらしい。いろいろ聞いているとまだポケモンは持っていないという。

 

だが、その目の熱量は本物だ。

バトルそのものが好きな目をしている。

 

「ちょうど貴方が来るっていうからね」

 

ソニアさんが、モニターを操作する。

 

「あるバトルについて、分析してたのよ」

 

映し出されていたのはナンジャモさんとの、あのバトル。

 

一瞬、視線が固まる。

 

「……」

 

ソニアさんが、にやりと笑う。完全に、楽しんでいる顔だ。

 

 

二人から、いやソニアさん含めた三人から、それぞれの場面での判断を問われる。

盤面を止め、巻き戻し、角度を変え、別の選択肢を並べる。私は一つひとつ、考えを整理しながら答えていく。

 

それにしても…………まだトレーナーにすらなっていないはずの二人の視点が、想像以上に鋭い。

 

単純な勝敗ではなく、残すべき駒の優先度。相手に先に手札を切らせる意味。サポート役をどう活かし、どう退かせるか。

一対一ではなく、チームとしてどう勝つかを見ている。

 

最悪を避けるために、あえて傷の浅い形でポケモンを切るという概念。相手の選択肢が読めないとき、賭けに出るのではなく、冷静にクッションを挟むという発想。

 

ナンジャモとのバトルでは、あえてそこまで露骨な選択はしていない。だが、もしあの場面で切っていたらどうなったか、そう問いを立てられること自体が、驚きだった。

 

理論として理解するのも驚きだけど、実際に選ぶには、ポケモンとの信頼がいる。

退くこと。倒れる役割を引き受けること。その意味を共有していなければ、受けは成立しない。

 

この二人には、そこへの理解がすでに芽生えているように見える。勝ちたいだけではなく、構造を理解したいという目。

 

ソニアさんは腕を組み、その様子を静かに眺めている。どこか誇らしく、どこか羨ましそうに。

そして、満足そうに頷いた。

 

「ほらね。いい教材でしょ?」

 

 

 

 

 

二人を私のポケモンたちと遊ばせておいて、私はソニアさんと少し離れた机へ移動する。

グライオンは意外にもホップに懐き、翼を広げて見せながら器用に距離を取っている。ヌオーとドオーは、ユウリの観察を受けながらも、いつもの調子でゆったりと構えている。

 

ハピナスは少し離れた位置で、全体を見渡すように静かに立っていた。

研究所の奥は、静かだった。

 

「それで、ルリナについて教えてほしいと言われても。悪いけど親友を売るわけにはいかないよ」

 

ソニアさんは最初に、きっぱりと線を引いた。

その潔さは、むしろありがたい。

 

私は秘密が欲しいわけではない。誰がどんな型を使うのか、どのポケモンの調子がいいのか――そんな話を聞くつもりはない。

 

知りたいのは、もっと根っこの部分だ。

 

普段の人となり。

何を良しとし、何を許さないか。

 

ダブルバトルというのは、シングル以上に戦い方の差異が大きい。ポケモンの相性だけではなく、トレーナーの性格が露骨に盤面へ出る。

 

「チャンピオンさんも大変ね」

 

半ば冗談めかした声で、ソニアさんは肩をすくめる。

それから、昔話をいくつか聞かせてくれた。

 

ジムチャレンジでの出会い。

まだジムリーダーになる前、将来を迷いながらも水辺に立っていた頃の話。

モデルとジムリーダーの両立に苦労していること。

撮影現場からそのままジムへ向かい、表情を切り替える難しさ。

ヤローさんとの対戦の話になると急に目の色が変わること。

負けた日の帰り道は、頭を掻きむしりながら悔しがること。

 

口調が穏やかで冷静に見えるルリナさんとは少し違った印象を受ける。ただ、良く思い出すとジムチャレンジでも本気で悔しがっていた気もしてくる。静かな表情の奥に、強い火が揺れていた。

 

冷静に見えて、内側は熱い。それなら、守りを固めての持久戦は却って勢いづかせるかもしれない。

 

受けに徹する構えを見せれば、彼女は確実に圧を上げてくる。押し切れると判断した瞬間、最短距離で詰めに来るだろう。

 

ならば、こちらも攻めの手を仕込んでおくのがいい。

 

雨下での制圧力は、ダブルでは特に危険だ。片側を削り、もう片側を一気に落とす。受けが形になる前に崩される。

 

天候をどうずらすか。それとも、雨前提で受け切る構造を組むか。

 

 

研究所を出た私は、曇り空の下を歩きながら、その盤面を何度も組み直すのだった。

 

 

 

 

 





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