TS受けポケ使いが崩されるまで   作:ヤキブタアゴニスト

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第28話

ダブルバトル。

 

通常のバトル、いわゆるシングルバトルが、ポケモンを一体ずつ繰り出して戦う形式であるのに対し、ダブルは二対二での戦いだ。

 

だが、それは単なる延長線ではない。同時に二体へ指示を出し、複雑化した状況を把握する必要があるのは当然として、盤面そのものの性質が違う。

 

味方が二体いるということは、攻撃だけでなく、サポートや仕掛けが飛躍的にやりやすくなるということだ。

 

守る、引く、積む、縛る。それらを並行して行える。

 

そして何より、攻撃先の選択が重要になる。

 

片方を集中攻撃すれば、防御が高くとも押し切れる。逆に、守られれば一気に不利になる。一瞬の選択が、そのまま数的有利へ直結する。

 

そう。ダブルバトルというのは、圧倒的に攻撃優位なルールといえる。

 

あるいは、防御型戦略が破綻しやすい、と言った方が正確かもしれない。

 

集中攻撃を受ければ、実質的に攻撃力が倍になる。単体で受けることを前提にした耐久は、理論値ほど機能しない。

 

特防の高いハピナスと、防御の高いアーマーガアで回すような構造も成立しにくい。どちらを攻撃するかは、常に相手に委ねられている。

 

選択肢の多さが、そのまま攻勢の優位性として現れる。

 

攻めは、考える余地が多い。守りは、そのすべてに対応しなければならない。

 

それでも、防御の方法がないわけではない。空間配置と連携による守り方はある。

リフレクターや光の壁による耐久強化。フィールドや天候による威力軽減。持ち物の受け渡しによる役割再編。

 

そして、何とか間に合った攻め駒。

 

受けを成立させるには、攻めを内包する必要がある。

戦略の全体像を理解しなくても、目の前の敵を叩くという役割なら、きっとこなしてくれる。

 

 

 

 

 

 

バウタウンスタジアムは、隙間なく埋まっていた。

 

観客席は青と白の波に染まり、旗が揺れ、歓声が反響している。

 

水辺の街らしく、どこか湿り気を帯びた熱気が場内にこもっていた。

アナウンスが響く。

 

『エキシビションマッチ!チャンピオン・レジェーナに挑むのはバウタウンのジムリーダー、水タイプの使い手! ルリナ!!』

 

歓声が一段、跳ね上がる。

 

スタジアムの天井近くに立ちのぼる空気が、まるで水蒸気を含んでいるかのように揺らめく。熱と湿気が混ざり合い、視界の端がわずかに霞む。

 

対面の入場口から、ルリナさんが姿を現す。ここで向かい合うのはジムチャレンジ以来だろうか。

 

歩みは静かで、無駄がない。歓声に手を振ることもなく、ただまっすぐこちらへ視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

「どんな作戦を繰りだそうとも私と 自慢のパートナーがすべて流しさって あげるから!」

 

 

ルリナさんの挑発的な宣言と同時に、ボールが二つ、ほとんど間を置かずに弾けた。

 

ぬめりを帯びた青い影が地面に落ち、のんびりとした声を上げるヌオー。その隣には、水しぶきをまといながら鋭く身をくねらせるカマスジョー。視線は真っ直ぐこちらを射抜き、今にも飛び出してきそうな気配を隠そうともしない。

 

「よろしく!!ヌオー、カマスジョー!!」

 

ヌオーで盤面を組み立て、カマスジョーで削り、隙ができたところでエースのカジリガメを通す。そういうことだろう。

 

私は一瞬だけ盤面を見渡し、すぐにボールを放った。

 

「グライオン!!アーマーガア!!」

 

低く羽音を立ててグライオンが舞い降り、黒鉄の装甲をきしませながらアーマーガアが着地する。

 

ルリナさんの視線が、わずかにアーマーガアへと引き寄せられたのが分かった。積み技を警戒しているのかもしれない。

 

あわよくば、このままアーマーガアで盤面を固めていきたい。けれど、欲張れるほど甘い相手ではない。

 

それでも、初手に誰が出てこようが、やることは決まっている。

 

 

「グライオン、守る!!アーマーガア、リフレクター!!」

 

号令と同時に、グライオンの前に淡い光の壁が展開される。地面すれすれに身を低く構え、完全に迎撃の姿勢だ。

一方、アーマーガアは翼を大きく広げ、金属音を伴う羽ばたきでフィールド全体を覆うような光の障壁を生み出していく。

 

「カマスジョー、クイックターン!!ヌオーは、濁流で妨害!!」

 

ルリナさんの指示と同時に、カマスジョーが水を纏って突進する。鋭い軌道、迷いのない一撃。狙いは明確だ。だが、その水刃は……

 

「……止めた」

 

グライオンの張ったバリアに弾かれ、霧散する。

 

その隙に、アーマーガアのリフレクターが完全に展開される。半透明の壁が味方全体を包み込み、空気の質感そのものが変わったのが分かる。

 

そう……。

強化を味方全体に及ぼせる。それがダブルバトルの面白さだ。

 

一拍遅れて、ヌオーの濁流が押し寄せる。

 

大地を削るような水の奔流がフィールドを覆い、グライオンの足元をかすめて流れていく。守るの効果で、グライオンは無傷だ。

 

そして水流は正面から、アーマーガアを捉えた。

 

重い装甲に水が叩きつけられ、鈍い音が響く。致命傷には程遠い。牽制、妨害、その程度の威力だ。

 

けれども、その瞬間。

 

アーマーガアの体が、不自然なほど軽く弾かれた。

 

「……!?」

 

ルリナさんの言葉にならない驚きの間に、光に包まれたアーマーガアが私の手元へと引き戻される。

 

脱出ボタン。

ダメージを受けた瞬間、強制的に交代する道具。

 

……この状況のために持たせていた!!

 

私は間髪入れず、次のボールを投げる。

 

「ポリゴン2!!目の前のポケモンを、トレース!!」

 

幾何学的な光とともに現れたポリゴン2が、即座に解析を開始する。視線の先にいるのは……グライオン。

 

トレース。

 

相手、いや目の前のポケモンの特性を模倣する能力。

そして意図的に後ろから繰り出した以上、グライオンがコピーされるのは必然だった。

 

ポイズンヒール。

 

次の瞬間、ポリゴン2のどくどく玉が砕けて猛毒がポリゴン2に回る。だが、それは同時に回復の始まりでもある。

 

初手としては、上出来だ。

盤面は、静かに、しかし確実にこちらへ傾き始めていた。

 

 

「カマスジョー、もう一度!!」

 

合図は短い。グライオンが"守る"の構えを解いた、その一瞬を逃さず、ルリナさんは再びカマスジョーを前に押し出す。

 

水を纏った突進。今度は直撃だ。

 

だが、リフレクター越しの一撃は致命には届かない。グライオンに確かにダメージは残るものの、その勢いのままカマスジョーは身を翻し、再び控えへと戻っていく。

 

入れ替わるように、翼を大きく広げたポケモンが舞い降りた。

 

ペリッパー。

 

『おおっと! ペリッパーの周囲で、雨が降り始める!!』

 

フィールドの空気が一変する。さっきまで澄んでいた視界が、にわかに湿り気を帯び、冷たい雨粒が地面を叩き始めた。

 

 

"あめふらし"。

 

水タイプ使いにとって、これ以上ない布石だ。カジリガメ、カマスジョー……特性"すいすい"持ちのポケモンたちは、雨とともに牙を研ぐ。みずタイプ技の威力上昇も含め、こちらにとっては明確な不利。

 

だが……だからこそ。

この展開は、想定の内だ。

 

「グライオン、にほんばれ!!」

 

グライオンが翼を広げ、空へと力を解き放つ。

 

重く垂れ込めていた雲が、まるで見えない力で押し分けられるように裂けていく。降り注いでいた雨粒は途中で勢いを失い、霧となって空中に溶けた。

次の瞬間、白く眩しい陽光がフィールドへと突き刺さる。

 

天候は、奪われるものじゃない。奪い返すものだ。

 

「なっ……ヌオー、濁流!!」

 

ヌオーが慌てたように水を放つ。水が弾け、飛沫が上がる。

 

だが、フィールドの空気はもう、こちら側にある。

そして……その一瞬の隙を、私は見逃さない。

 

特定の天候でこそ、真価を発揮する技はみずタイプだけの特権じゃない。

 

「ポリゴン2。」

 

名を呼ばれたポリゴン2が、即座に反応する。

無機質な体表に、淡い緑色の光が走り始めた。

 

「ソーラービーム!!ヌオーを、貫いて!!」

 

通常なら、溜めが必要な大技。その間に妨害され、止められる危険すらある一手。

だが……今は、晴れ。

 

ポリゴン2の演算が一瞬で完了する。くさタイプのエネルギーを溜め込んだ光は圧縮され、無駄なく束ねられ、解放の準備を終える。

 

次の瞬間。

 

一直線に伸びた緑の光線が、フィールドを切り裂いた。くさタイプのエネルギーを孕んだ一撃が、ヌオーを正面から捉える。

 

逃げ場はない。耐える暇もない。

 

緑の閃光が収束したとき、ヌオーはその場に崩れ落ちていた。

 

『――ヌオー、戦闘不能!!』

 

弱点。それも、完全な不意打ち。

 

さしものヌオーでも、耐えきれるはずがなかった。

 

力なく倒れたヌオーがボールに戻されると、それまで息を潜めていた観客席が、一拍遅れて沸き上がる。

 

歓声。どよめき。名前を呼ぶ声。

 

やっぱり…声が、熱が、直接届く距離でのバトルはいい。

 

 





感想・評価よろしくお願いいたします。



ルリナ戦……また長くなりそうですが、お付き合い願います。
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