TS受けポケ使いが崩されるまで   作:ヤキブタアゴニスト

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第29話

 

「グソクムシャ、任せた!!」

 

短い声とともに、重たい鎧をまとった影がフィールドに躍り出る。

水を滴らせながら着地したのは、グソクムシャ。分厚い外殻に覆われたその姿は、見るからに堅牢で、簡単には崩れそうにない。

 

鎧による高い防御力。

加えて、追い込まれた瞬間に退く危機回避の特性。

みず・むしというタイプの耐性も相まって、前線に立たれると実に厄介な存在だ。

 

先制技を複数持ち、インファイトのような高火力の格闘技まで備えている。受けに徹するだけのポケモンではない。

 

 

 

「グソクムシャ、"インファイト"!!ペリッパーは"ハイドロポンプ"で押して!!」

 

ルリナさんの指示は迷いがない。グソクムシャが低く構え、一直線に踏み込む。狙いは明確…ポリゴン2。

 

同時に、後方のペリッパーが大きく羽ばたき、水圧を限界まで高めていく。放たれれば、ただでは済まない一撃だ。

 

「グライオン、守るで受け止めて!!ポリゴン2は、後ろから"放電"で援護!!」

 

私は即座に指示を返す。グライオンが前に滑り込み、光の膜を展開する。

 

"インファイト"の衝撃が正面から叩きつけられるが、守るの障壁がそれを完全に遮断する。

続けざまに放たれた"ハイドロポンプ"も、グライオンの位置取りによって受け止められ、飛沫だけを派手に散らして霧散した。

 

その瞬間……ポリゴン2から放たれた電撃が、フィールド全体に走る。

 

"放電"。

逃げ場のない範囲攻撃が、グソクムシャの鎧を叩き、確かなダメージを与える。一方、ペリッパーは、わずかに距離を取っていた。電撃は届かず、致命打にはならない。

 

「ペリッパー、"ワイドガード"*1!!」

 

ペリッパーが翼を広げ、前方に分厚い防壁を展開する。空間そのものを遮るような守りが、フィールドに張り付いた。

 

『ペリッパーの"ワイドガード"!!これではポリゴン2の"放電"は使えない!!果たして有効打が残っているのか!?』

 

実況席がざわめく。確かに、このままでは攻め手が止まる。

 

範囲技を封じられ、守るだけでは盤面は動かない。だからといって、焦って踏み込む必要はない。

無理に崩さなくていい。やるべきことは、まだ残っている。

 

「グソクムシャ、"不意打ち"!!」

 

鋭い動きでグソクムシャが飛び出すが、ルリナさんの狙いは外れる。守りを固めたこちらに、有効な標的はない。

 

「グライオン、"ステルスロック"。そして、ポリゴン2は"トリック"」

 

グライオンが地面に力を叩きつける。フィールドの各所に、見えない岩が配置されていく。

 

"ステルスロック"。出入りの激しいこのバトルにおいて、確実に効いてくる布石だ。

同時に、ポリゴン2とグライオンの間で、光が交錯する。

 

"トリック"。

互いの持ち物が入れ替わる。

グライオンの体が、紫色の光を帯びる。どくどく玉が発動し、ポイズンヒールが始動する。

一方、ポリゴン2は進化の輝石を手に入れた。耐久は跳ね上がり、もはや簡単には崩れない。後方から盤面を制圧するポリゴン2が固定砲台の完全形となって君臨する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペリッパー、もどって。アズマオウ!!」

 

ペリッパーが翼をたたみ、すぐさまボールへと戻される。

入れ替わるように、鋭い角を携えたアズマオウがフィールドに飛び出した。水を蹴り、地面に力強く着地するその姿は、素早さと突破力を前面に押し出す構えだ。

 

「グライオン、交代。アーマーガア、任せた!!」

 

私も即座に応じる。グライオンをここで削らせる必要はない。代わりに、重たい羽音とともにアーマーガアが前に出る。

 

一見すれば、単なる交代合戦。だが、こうした場面ほど差がつく。

盤面は、まだ崩れていない。有利とも、不利とも言い切れない。

 

だからこそ、次の一手がものを言う。

 

「グソクムシャ、"インファイト"!!!」

 

ルリナさんの声が、はっきりと響く。狙いは明確だった。

 

グライオンが去ったことで生まれた、一瞬の隙。そこに踏み込むように、グソクムシャが前進する。

分厚い鎧をきしませながら、一気に距離を詰める。拳に込められた力は純粋な破壊衝動そのものだ。

 

ポリゴン2。

狙われているのは、後方で盤面を支える要。

 

"インファイト"の衝撃が、正面から叩きつけられる。

 

『グソクムシャの"インファイト"が、ポリゴン2に命中!!効果抜群のはずですが……ポリゴン2に、動揺は見られません!!』

 

実況の声が、わずかに裏返る。

確かに、攻撃は通っている。だが、ポリゴン2は後退すらしない。

 

"リフレクター"に守られ、進化の輝石で補強されたその耐久は、生半可なものではなかった。体表に走る光が衝撃を吸収し、ダメージは最小限に抑えられている。

 

……効いていない。当然だ。

その事実が、場の空気をじわりと変える。

 

「……"ソーラービーム"で、迎撃!!」

 

ポリゴン2は一切の焦りを見せない。攻撃を受けた直後だというのに、演算はすでに完了している。

体が再び、緑の光を帯びる。

 

天候は晴れ。条件は整っている。

チャージは一瞬。次の瞬間、圧縮されたくさエネルギーが一直線に解放された。

反撃というより、当然の応答。受け止め、耐え、そのまま打ち返す。

 

着弾によって体力を削られたグソクムシャは早く身を翻し退いていく。

 

特性"ききかいひ"。

 

無理に踏み込まず、戦線を崩壊させない。ここは危険だと、本能に近い感覚で察知したのだ。

そして、代わって現れたのは……ペリッパー。

 

大きく翼を広げ、悠然とフィールドに舞い降りる。足元には、鋭い岩が配置されているはずだった。だが、ペリッパーはそれを意にも介さない。

厚底ブーツ。"ステルスロックを無効化する装備"だ。

 

『グソクムシャ、危機回避でペリッパーと交代!!そしてまた、雨が降り始めます!!』

 

実況の声と同時に、空気が変わる。さきほどまで照りつけていた陽光が陰り、再び雲が集まり始める。

ぽつり、と。そして、次の瞬間にははっきりと分かるほどの雨。

 

グライオンが晴らした天候は、わずかな時間で塗り替えられた。視界が滲み、地面が再び湿り気を帯びる。

……主導権は、まだ固定されていない。

 

「ハピナス、よろしく!!」

 

私は即座に判断する。雨下での特殊攻撃。それを、アーマーガアで受け続けるのは危険だ。

入れ替わるように、丸みを帯びた白い体がフィールドに出る。

 

「ポリゴン2、"自己再生"!!」

 

同時に、後方のポリゴン2にも指示を飛ばす。

先ほど受けた"インファイト"の傷が、淡い光とともに修復されていく。盤面は、ひとまず整ったはずだった。

 

「戻ってきて!!」

 

だが、ルリナさんの声は、その流れを許さない。

ペリッパーが素早く身を翻す。蜻蛉返り。攻撃の勢いを利用し、そのまま後方へと退いていく。

 

同時に、反対側ではアズマオウが水を蹴る。鋭い軌道で飛び込み、すぐさまクイックターンで引き返す。

二体同時の離脱。

 

攻撃し、様子を見て、即座に戻る。テンポを渡さないための、完璧な動きだ。

……やはり、簡単には流れを固定させてくれない。

 

*1
範囲攻撃技を無効化する技

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