ガラルには他の地方のような四天王制はない。これは、ガラルリーグとジムチャレンジの仕組みを作ったローズ委員長による采配らしく、代わりにジムチャレンジをクリアしたもの同士のセミファイナルトーナメント、そこを勝ち抜いたトレーナーとジムリーダーが戦うファイナルトーナメントがメインイベントだ。
年間を通してのジムの戦績によってメジャーやマイナーといった昇降格制度があるなど、他の地方と比べてもプロ興業としての側面が強い。
ジムリーダーやジムトレーナー同士の本気のぶつかり合いとジムチャレンジというデビュー戦。迫力の点から言っても前者に軍配が上がるが、荒削りで若々しいジムチャレンジやセミファイナルもまた別の人気がある。前者は強さと熱さを、後者は勢いとドラマを、ファンはそれぞれ求めている。
そう、だからこそ逆転の起こらない、単調で長閑な戦いは受けが悪いのだろう。
「ここからよー」
「せめて一体でも…!」
「エースバーンで逆転だ!」
このスタジアムに来ているようなまさしく後者のタイプのファンだろう。あくまで手加減パーティとのバトルであるジム戦と違って、このセミファイナルは選手同士の本気のぶつかり合い。
だからこそ、という期待もあったのだろう。正直いえば私にも期待はあった。本気のジムリーダーとの戦いへの準備になればという期待だ。
それかもしくは、やはりパーティにはアタッカーが必要だという信念を感じさせてくれるという期待だ。
私が育てられるポケモンたちで組んだこのパーティは、これをゲームの世界で見れば穴だらけだ。#採点希望 でもつけようもんなら間違いなく原形を留めないまでに添削されるに違いない。
しかし、残念ながら目の前にいるのはステルスロックで少しダメージを負ったエースバーン一体だ。ダイマックスだけは温存しているようだが、こちらはほぼ全快しているヌオーだ。交換の必要性すらない。相手のトレーナーのポケモンはどれもガラルで普通に捕まえられる、もしくは交換で手に入れやすい普通のポケモンだった。ならば、これは当然の結果ともいえる。
「エースバーン!!!お願い!!キョダイマックスだ!!」
エースバーンは珍しいキョダイマックス個体のようで、まさしくこのパーティーのエースなのだろう。相応に攻撃力も高いに違いない。
確かに、いくらヌオーといえども3発もダイマックス技を受けたらまずいだろう。しかし、私がそんなに自由にさせるわけもない。
エースバーンが相手のトレーナーのボールに一旦収まり、巨大化したボールから再びエースバーンが放たれる。スタジアム上に現れたエースバーンは確かに強力だ。
「エースバーン、いけ!!”キョダイカキュウ”だ!!!」
案の定、最大火力をぶつけてくるエースバーン。観客の熱気も会場の空気も燃えるように熱くなる。しかし、交換できない相手に向かってならこちらにも必殺の攻撃がある。
「ヌオー、”あくび”!!」
多くの少年少女はジムチャレンジ前からポケモンバトルを始めているが、ポケモンを育てるというのは一朝一夕にできるものではない。こと高威力技に至ってはいかに習得するか、いかに命中させるかに全精力が注ぎ込まれていて、その効果的な使い所という点の訓練は圧倒的に不足している。当たるか当たらないか、威力があるかないか。
だからこそ、当たったうえで受け流したり誤魔化したりという手段の対処法を確立できない。守ると身代わりで必殺技をやり過ごし、毒の蓄積でダメージレースに勝つようなやり方は苦手だろう。
エースバーンはヌオーに向けて渾身の一撃を放つ。
“キョダイカキュウ”
エースバーンによって全集中力をもって撃ち放たれた火球がヌオーに直撃する。それとほぼ同時、エースバーンが見つめる中でヌオーは大きく欠伸をした。それはただの欠伸ではない。見たポケモンの眠気を呼び覚ますだけの技術を持った欠伸だった。
それによってエースバーンは眠気を誘われる。通常なら交代すればなんてことないただの眠気。ちょっとした刺激で十分解消できる眠気だ。
しかし、それを解消する手段は今はない。
「エースバーン、がんばれ!!もう一度、”キョダイカキュウ”だ!!!」
「ヌオー、”守る”」
となれば当然、もう一度キョダイカキュウを撃つしかない。それをヌオーは”守る”によって受け止め、ダメージを軽減する。おそらく体力を半分程度持っていかれただろうが、それだけだ。
攻撃を終えたエースバーンは我慢できずに眠りに落ちる。いくら技を当てにくいといっても、眠っている相手に技を当てるのが難しいわけがない。”自己再生”によって失った体力をもどしてからエースバーンにとどめを刺した。
“身代わり”
それは言ってしまえばただ一つの技であるが、それ以上のものをポケモン対戦に与えてきた技である。ちょうはつやアンコール等とともに初見での強さが分かりにくい技としても有名だ。
そして、現実のポケモンバトルでもその扱いの難しさは変わらない。だからこそ、私はグライオンとともにこの身代わりの練習をしているのだ。
特に、私のポケモンの中でも機動性の高いグライオンは私からの指示が通りにくい場面も多い。”身代わり”のタイミングや目くらまし効果は機動力がなければ意味をなさないし、うまく翻弄すれば身代わりにより多くの注意を向けることもできる。
固定砲台と化したポリゴン2の”冷凍ビーム”から”身代わり”と”守る”で逃れ続けるという単純だが奥が深いこの訓練を私はほぼ毎日続けていた。
そんな訓練は唐突な来訪者によって終わりを告げる。ホテルのフロントから告げられた名は.....
「ローズ委員長、えーっと、私にどのようなご用件でしょうか?」
案内されたホテルの中の一室、妙に上等なその部屋で私は一人の男と向き合っていた。相手はガラルの大半を手中に収めるマクロコスモス社の総帥にしてポケモンリーグ委員長を務めている男、そして、ポケットモンスター、ソード・シールド本編での最重要人物だ。
ついに来たか。
来る相手は予想外ではあるものの、内容についてはおおよそ見当がついていた。ジムチャレンジ、そしてセミファイナルでの戦い方に対する苦言だろう。
思えば、ガラルのポケモンリーグをこの形にしてエンタメ方面に発展させたのはまさしくこの男であった。それに対して水を差すような行為を許すはずがない。
ルールのちょっとした変更くらいで済めば御の字だが、ポケモントレーナーとしても一流のローズ委員長ならばそれがあまり意味をなさないことを知っているだろう。直接話に来たということはそういうことだ。
思わず身構える私に、ローズ委員長は着席を促す。
「突然押しかけて申し訳ない、レジェーナくん。まずはファイナルトーナメント出場、おめでとう。セミファイナルトーナメントでの試合は、実に見事だった。私はこうして委員長をやって長いが、それでもあそこまで素晴らしくポケモンを使いこなすのを見るのは初めてだ。委員長として以上に、私個人としても素晴らしいものを見れたよ」
口を開いたローズ委員長はやはり、褒め言葉から入ってきた。委員長としての立場と個人としての感想、それを交えながら自然に本題に入ってくる。
「あっ、ありがとうございます」
完全に雰囲気にのまれた私はそうとだけ返す。
「きみのポケモンの耐久力も素晴らしい。何より相手の攻撃に合わせて交代して封殺するきみ自身の判断能力、ポケモンへの適切な指示。まるで初めから完成されたような美しさすらかんじるね」
なおも独唱会は続く。
「少なくとも、ポケモンの攻撃を受け止めるという点できみ以上のトレーナーはガラルはおろか、ほかの地方にもいないだろう。ダンデ君が苛烈な攻撃を操る剣とすれば、きみはまさしく何をも受け止める盾とでもいうべきだろう」
「はっ、はぁ」
ローズ委員長は徐々に私を置き去りにして興奮しながら話を進めていく。というか本題からどんどん離れていくけどいいのだろうか。
「ところで、ガラル地方に伝わる二人の英雄、かのブラックナイトに立ち向かった剣と盾の伝説を知っているかい?」
えーっと、流れ変わった?
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