誤字訂正にも大変お世話になっております。
ユウリ視点です。
チャンピオンカップ、それはガラル地方最大のエンターテインメントであり、誰もが注目する一大イベントである。老いも若きも男も女もあらゆるガラルの人々が、テレビで、ラジオで、配信で、そして足を運んでスタジアムでそれぞれにこのイベントを楽しんでいる。特に、全力のジムリーダー同士が激突するファイナルトーナメントの人気は凄まじく、子供たちは皆、テレビにかじりつくようにして見ていた。それも、自分たちと大きく変わらないような子供が出ていればなおさらだろう。
「なあ、ユウリ。いくら凄い試合だからって、何回見るつもりなんだよ」
褐色肌の少年が何時間もテレビの前から動かなくなった幼馴染に声をかける。セミファイナルの試合でもノートにメモはしていたが、ここまでではなかったなあ。そう嘆息する彼も、時々挟まれる両トレーナーの行動についての議論には乗ってくるあたり、この対戦にそれなり以上の興味は持っていた。
対戦しているトレーナーの一人はカブ、エンジンシティのジムリーダーを務めるほのおタイプ使いで長い経験からくる判断力には定評がある。
対するはレジェーナという名の少女。ホップとユウリと同じか少し幼い少女で、相手のポケモンの攻撃をしのぎ切って勝つという独特のスタイルでここ最近のバトル界隈を賑わせている。ジムチャレンジを最速で突破し、セミファイナルでも圧倒的な実力で自分のポケモンを一体も倒されずに勝ち抜くという力を見せつけていた。
そして彼女こそがユウリが熱を上げている相手であり、この戦いの勝者でもあった。
「もー、この凄さが分からないの?例えばここなんかはね」
そう言ってリモコンを操作したユウリが映し出したのは、グライオンがレジェーナの指示によってカブのウインディの攻撃を躱したシーンだった。
「ここをよく見て、まずウインディの"フレアドライブ"、これをグライオンが守るで受け止めてるよね」
「そうだな。あの威力の"フレアドライブ"を正面から受け止めるのは流石だな」
ユウリがコマ送りで進める映像を見ながらホップはそれに同意する。"守る"という技の精度の高さには確かに目を見張るものがあった。
「そうじゃなくて、ここ。レジェーナちゃんが"守る"の指示を出したのはカブさんが"フレアドライブ"の指示を出した後。なのに、"守る"が間に合ってるの!」
「……え?あ、ほんとだ。普通ならタイミング的に間に合わないはずなのに」
ユウリは興奮しながら続ける。
「つまり、戦う場所を自分の近くにすることで指示を後から出せる。それだけじゃなくて、次のシーンはグライオンが受け流して、それをウインディは"しんそく"で追撃してるよね。それをグライオンは指示もなくあえて受けて、飛ばされながら"身代わり"。これでウインディはカブさんの指示を待つしかない状態になったの」
ホップは画面を見つめたまま、少し黙っていたが、やがて感心したようにうなずいた。
「トレーナーの指示が無くても攻撃や防御を続けてるのは凄いな。グライオン、完全に信頼されてるんだな」
「そう、そうなの!グライオンは"フレアドライブ"という大技を受けるときはレジェーナちゃんの近くで指示を受けて、"しんそく"という威力の低い技を受けるときは離れた位置で指示を受けずに動いてるの。もちろん、逃げ回るためにはフィールドを広く使わないとだめなんだけど、トレーナーの指示が必要なときだけはレジェーナちゃんの近くにいて、相手の反応を見てから動けるようにしてるの!!ねえ、ホップ。凄いと思わない!?!」
ホップは少し笑って、肩をすくめた。
「さっ、流石はユウリだな。でも、グライオンが"どくどく"をウインディに当てた時はちがうだろ?」
ユウリの目がさらに輝いた。自分を分かってくれた時にユウリが見せる表情だ。
「そう、そこなの!当然カブさんもこのカラクリには気が付いていたはず。だから、レジェーナちゃんの近くにある岩を"インファイト"で壊して、攻撃の機会を増やそうとした。そして、レジェーナちゃんもそれは分かってて、攻撃のチャンスだと思った。これはいいよね?」
ユウリは食い入るように画面を見つめながら、少し身を乗り出して言った。口元は興奮でにやけている。指先はリモコンを握りしめたまま、何度もそのシーンを巻き戻しては再生している。
ホップは隣で頷きながらも、やや呆れたように肩をすくめる。
「うん、両方の読みが交差してたな。でも、カブさんもウインディに警戒はさせていた。だから、"しんそく"で攻撃したのが"身代わり"だと気が付いたときに、レジェーナちゃんから離れるように逃げた。トレーナーの指示で攻撃されるならレジェーナちゃんの近くのはず、って思ったからだよな」
テレビの中では、ウインディが素早く方向転換し、レジェーナから距離を取る動きを見せていた。ホップの言葉通り、カブの判断は冷静で的確だった。
ユウリは嬉しそうに、でもどこか悔しそうに頷いた。
「そう、それが分かってたから、グライオンはウインディが逃げそうな場所に先に隠れることで裏をかいたの。でも、"地震"で攻撃する隙はないから、予想外の"どくどく"で攻撃して、すぐに距離を取って逃げてる。高度な読みあいの結果なんだよ!」
彼女の声には震えるような興奮がこもっている。まるで自分がそのバトルに立ち会っていたかのように。
ホップはそんなユウリの横顔を横目で見て、小さく笑った。
「……ユウリってもはやレジェーナちゃんのマネージャーみたいだな」
「えっへへ〜。レジェーナちゃんのバトルなら、たぶん誰よりも見てると思う!」
「いや、それはさすがに言い過ぎ……でもないか」
そう言いながらも、ホップはリモコンを受け取り、次のシーンに早送りした。そこには、グライオンとシャンデラが向き合った瞬間が映っていた。
画面に映るバトルの駆け引きに、二人の視線は再び吸い込まれていった。
シャンデラによる炎の渦の使い方、コータスの"ボディプレス"による奇襲、ポリゴン2による"電磁波"等々、バトルの諸要素についての議論は白熱した。単純な破壊力という点では劣るものの、一つ一つの技の完成度の高さとその使い方は二人を画面に釘付けにするのに余りあるものだった。
「なあ、ユウリ。結局、カブさんはどうやったら勝てたんだ?」
ホップは疑問だった。確かにお互いの場のポケモンの技術は両方高い。でも、それは所詮は戦術の話である。ポケモンバトルは相手のポケモン全てを倒しきるまでは終わらない。ホップはこの年齢にして、ここの戦闘・戦術の上にバトルの趨勢を決める戦略レベルの要素があることを見抜いていた。そして、同じようにユウリもそれを掴みかけていた。
「具体的にどうやっていいのかは分からない。でも......」
「でも......?」
「レジェーナちゃんは基本的にこのポケモンはこのポケモンで対応するっているのが決まってると思う。だから、コータスの"ボディプレス"みたいに対応できるポケモンっていう予想を覆せる技をもつとか、あえて似たポケモンを使って同じポケモンに対応させて疲れさせるとか、かな」
そう答えるユウリの横顔は、ホップが見てきたどんな顔よりも真剣な顔だった。
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ちょっと予約投稿ミスりました。すみません。