「………小腹が空いたか……」
大魔王バーンは、己の胃袋がささやかに鳴いたことに気づいた。
「ふむ……どうしたものか………夕食までまだ時間がある。」
腕を組み、思考を始める。
しばらくして、立ち上がった大魔王は__
__バーンパレスにある調理場を訪れていた。
「いくら余でも空腹はな…………」
まな板にはナタ包丁が刺さったまま放置されている。
天井から鎖で吊るされた大きな鍋には、大量の食材が詰め込まれて、良い香りのするスープが出来上がっていた。
「ん……良い匂いだ。仕込みは既に粗方済んであるようだな。とはいえ、つまみ食いをするなど……はしたないことよな……」
大魔王は倉庫に赴くと、再び調理場に戻ってきた。
「ちょうど材料が揃っておったな……少しなら使っても問題なかろう。」
その手に持っていたのは……
小麦粉、卵、バター、砂糖。
大魔王は、身に着けたローブが邪魔にならないようたすき掛けをし、調理の準備をし始める。
「簡単に菓子でも焼くとしよう。」
ボウルに小麦粉を入れ、バターを溶かし、卵を割り、砂糖を混ぜ……
出来た生地を程よく混ぜ、丸く成形する。
ソレをいくつか、天板に乗せていく…………
「こんなものか。」
そうして一息つく大魔王。
まだこれで終わりではない。
最後の仕上げ、焼きの工程がある。
生地を乗せた天板を石窯のオーブンに入れる。
「火、火……えーと……
薪をくべ、そこに指先から小さな火球を灯すつもりだった。
駄菓子菓子。否ッ!
だがしかしッ!!
どういうわけか、長年の魔力の癖が勝ってしまった!!!
「カイザーフェニックス!!!」
ゴォォォオオオオオオッッッ!!!
大魔王が感覚を誤り出たのは、絶大な魔力から生み出される火炎の不死鳥であったッ!!
爆風と共に業火に包まれる調理場!
「はぁっ…!し、しまったぁ…!よ…余としたことが……!うっかり火加減を間違えてしまうとは……ああ、飛び火があっちにも……」
さらに灼熱の業火は床、天井、戸棚……クッキーどころか調理場の半分を吹き飛ばす勢いであらゆる方向へ燃え広がる!
棚が燃え、壁が焦げ、煙が充満する!!
「あっ、まずい……あっ…あっ…あっ……ど、どどどどどどうしよ……………!!!」
オロオロする様はさながら、はぐれメタル。
汗が額をつたう。
大量の汗が、身体中から滲み出る。
あの大魔王が、動揺しているのかーッ!?
「えーと、えーと。」
大魔王は混乱の末、咄嗟に叫んだッ!!!
「マ、
──しばらくして。
ミストバーンが来た時にはすでに、調理場はまるで氷河に閉ざされたように時が止まっていた。
さらには、調理場に至るまでの通路には霜が出来ている。
また、そこから放たれる冷気が、他の階層にまで影響を与えている。
「…………調理場が氷付けになっていたのはそのためですか。」
「ミスト……面目ない…………」
しょげた大魔王が、ミストバーンにこうべを垂れている……
氷漬けの調理場への通路には、ほのおのせんしやフレイムといった、火炎を操る魔物たちが集まってはいるが……
大魔王の氷結は、なかなか溶けそうにないようだ。
「バーン様の氷結呪文となれば、たとえ半日かけたとしても全く溶けはしないでしょう………かといってバーン様自らが火炎系呪文を使おうとすれば、急激な温度差で建物が崩壊する恐れもあるので………」
「うん……だよねぇ……………」
主の不祥事を目の当たりにしても、ミストバーンは怒ることなく、淡々とした様子で接する。
「
「本当に面目ない………」
大魔王のテンションは下がったままだ。
「バーン様。幸い、調理場は他にもあるので御夕食自体はご用意できるとのことではありますが………恐縮ですが、本日分は質素になるということだけは覚悟していただけませんか……………」
「うん………ごめんね………………」
……バーンのテンションは、下がったままだった……………
~終わり~