鬼滅の刃 黄泉還りの剣士   作:雑多書き

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鬼滅の刃の映画が面白かったので初投稿です


序章
壱話


 幸福が砕ける瞬間はいつも、不意に訪れる

 

 俺は一、二年前からとある病に蝕まれていた。

 生まれつきではないはずなのに、治りにくく、症状は日に日に重くなる。本当に最悪の病だ

 

 今にして思えばだが、あの日の発作がすべての始まりだったといえよう

 

 ある冬の日、いつものように俺は学校から帰ってきた。この日はテストの結果も頑張った甲斐もあって上々に終わり、冬休みを楽しみに待つだけだったため非常に気分が良かったのをよく覚えている

 

 そんなご機嫌な俺に廊下ですれ違った母はやや生暖かい目を向けつつもいつものように「おかえり」と声をかけて、自分もそれに気安くおかえりと返して自室へ向かう。

 

 だが、扉を閉めた瞬間、身体の奥底をえぐるような激痛が襲った。

 あまりに突然の激痛により俺の視界がぐらりと揺れ、床に手をつく間もなく、意識は黒い闇へと沈んだ。

 

 ──知らない天井だ

 

 あまりに突然の状況に事態を飲み込めなかった俺は現実逃避にそんなことを考えつつ、辺りを見渡す

 

 無機質な白い天井と物々しい機械、点滴に繋がれた腕……これらを見たことでここが初めて病院のベッドであることを理解した。

 

 何故病院に? そうだ、自分はあの時激痛で倒れて……など自身の状況を思い出していると扉が静かに開き、医師と両親が入ってくる。

 

 途端に胸の奥がざわつき、背筋に冷たいものが走った。

 

 そんな俺の不安をよそに医師は感情を抑えた声で病名と病状を告げた。

 淡々とした口調で告げられる重い病状と治る可能性は極めて低いという宣告の残酷さが、俺の鼓膜を焼き尽くす。

 

 医師の説明中に母は耐えきれず嗚咽を漏らし、父はずっと母を抱き締めたまま涙を堪えていた

 泣きじゃくる2人を見て、俺は胸の奥が締めつけられるのを感じた。

 

 それからの俺は、満足に生きることすら叶わなかった。

 

 好きだった料理は喉を通らず、読書やゲームさえ体調の良い日だけの贅沢となった

 毎日身体が鉛のように重く、呼吸するたび胸が裂けるような痛みに襲われ、薬の副作用は、苦しみにさらなる苦しみを重ねた。

 

 両親はそんな俺を気を遣い、ベッド脇には俺が好きだと言っていた本やゲーム機、スマホを並べてくれた。

 

 母が俺の好きなものを用意してもってきてくれた時の笑顔と、父がそっと背中を撫でて励ましてくれる温もりに触れるたび、「ありがとう」と同時に「迷惑かけてごめん」「自分が病気にならなかったら……」という感情が胸を締めつけた。

 

 だけど

 

 嬉しかった

 

 気持ちが楽になった

 

 家族から心から愛されてることを実感できた

 

 それでも、去来するのは──

 

 本当ならもっと美味しいものを食べたかった

 本当ならもっと友達と遊びたかった

 本当なら好きな人と恋をしてみたかった

 本当なら両親にきちんと恩返ししたかった

 本当ならせめて「さよなら」を言えたのに

 

 そして

 

『……死にたく……ない』

 

 それだけを遺し、俺の意識は静寂に飲み込まれた。

 命の灯火が消える瞬間に残ったのは、深い無念と、生への渇望だった。

 

 

 

 

 

『…………』

 

 気がつけばそこは、深海のように昏い闇だった。

 一切の光は刺さず、骨の髄まで染みる冷気と、粘土のように絡みつく重みだけが身体を包んでいく。

 

『…………』

 

 あの病気で味わった痛みや副作用の苦しみに比べれば、この深淵は痛みも恐れもない

 ただただ……静かで穏やかな場所である

 

『…………』

 

 どれほど漂っただろうか。

 永遠にも思えた沈黙の果て、深淵の彼方に一筋の光が滲んだ。

 まるで夜明けのような"それ"は曖昧だった感覚をほんの少しだけ明瞭にする

 

『…………行かないと』

 

 無意識に漏れた言葉とともに、俺は光に向かって足を踏み出した。進むにつれて凍えた身体がじわりと温まり、重さが抜けていく。

 

 いつしか視界の闇と冷気が薄れ、輪郭を取り戻したその瞬間──

 

 

 

 

 

 

 俺は再び、目を開けた。

 

(──ここは……どこだ? 病院じゃないのは確かだけど……身体が痛く……ない? おぉ……! 息を吸っても胸が裂けそうにならないし、吐き気もない……! すごい……! すごいぞ……! これで俺は自由だ……!)

 

 目覚めの瞬間、自分の身体が病気以前のように軽いことに気づき、思わず声にならない歓声をあげそうになる。ずっと俺を苦しめてきた激痛は、確かにただの記憶の彼方に消え去っていた。

 

 しかし、その安堵に浸る間もなく、全身に奇妙な違和感が走る。

 いま触れているこの肌は、妙に滑らかで、どこか頼りない。

 動きはぎこちなく、リハビリをしていた頃より不自然だし、耳まで遠くて音がぼんやりしている。

 

(いやいや、そんなはずは……でも、これが一番しっくりくる)

 

 そう思いながらゆっくり視線を巡らせると、目に入るのは障子、火鉢、木造の柱といった、昔ながらの日本家屋らしい佇まいだ

 

 加えて声を出そうと唇を動かすが、返ってくるのは「あー」「うー」という赤ちゃん特有の喃語(なんご)だけで頭で考えた言葉をきちんと出力できない

 

(……そうか。俺、赤ちゃんになっている…………いやいやいや! 待て待て待て! ありえないだろ普通! こんなことってある!?)

 

 動揺で心臓が早鐘のように鳴り、頭の中でツッコミが止まらない。だがそれでも体と記憶、客観的な状況はこの現実を否応なく受け入れさせる。

 

 脳裏に蘇るのは、あの終わりがないような暗く冷たい闇の漂流、おそらく今際の際に遺した「死にたくない」という言葉。そして暗闇を裂くように差し込んだ、夜明けのような一筋の光。

 

 理由はわからない。だが確かに俺はあの深淵を抜けた先で、今こうして記憶を携えたまま、小さな命として再びこの世に生まれ変わったのだ。

 

 転生──我が身に起きたそれは、理屈を超えた奇跡だった。




令和こそこそ噂話
主人公は病気の影響で自己肯定感が結構低い傾向にあるぞ
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