鬼滅の刃 黄泉還りの剣士   作:雑多書き

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どうにかテンポよく物語を進めたり書いたり出来ないか色々悩んだり書き方を変えたりしたけど上手くいかず最終的にエタらず投稿し続けることに意義があるなと思ったので初投稿です。

でも出来れば早く最終選別にいきてぇなぁ……


伍話

 誰もいない山中。藍色の髪と瞳をもつ少年、鬼灯冬夜は木々のざわめきだけが響く静寂の中、周囲に人影がないことを確かめた。息を整え、深呼吸を一つ、二つ──。

 

 ──思い返すは、『鬼滅の刃』の“全集中の呼吸”と、この一年、自分なりに試行錯誤を重ねてようやく形になり始めた我流の“全集中の呼吸”──。

 

 冬夜は意を決して大きく胸を開き、ゆっくりと息を吸い込んだ。

 

「ズオオオオオ……」

 

 胸腔の底から、奈落の底をのぞくような低く鈍い息音が漏れる。その音に合わせるように、冬夜は地面を蹴ると、子供とは思えない高さまで跳躍した。肌をかすめる冷気が一瞬、心地よくも感じられた──だが刹那、胸に鋭い痛みが走り、喉を引き裂くような咳が止まらなくなる。

 

「ッ……カハッ!! ……ゲホッ……! ゲホッ……! カヒュゥ……」

 

 肺が破裂しそうに疼き、頭の血管が逆巻くように痛む。内臓が飛び出しそうな錯覚に襲われたまま、身体をくの字に折った状態で制御を失い、地面に叩きつけられる。

 

「うぐっ……ぐぅぅ……痛っ……ハァッ……ハァッ……」

 

 草が衝撃を和らげるクッションとなったものの、冬夜は膝を抱えてうずくまる。余韻の痛みに呻きながら、なおも必死に呼吸を続けた。

 

 過呼吸寸前の荒い息を吐きながら、かすれた声で彼は呟く。

 

「これが1番……身体に合って……はいるな……やっぱり……まだまだ……心肺機能が追いついてない……みたいだけど……」

 

 夜気を震わせるような呼吸音を背に、冬夜はゆっくりと身体を起こした。痛みで歪む顔を抑えながら、ふらりと立ち上がり、そばに立てかけた斧に手を伸ばす。

 

「ハァ……ハァ……でも“これ”を使うようなことは絶対起きてほしくないな……だけど藤の花の香り以外にも出来ることはやっておかないと……よし、もう一度……」

 

 そう言って冬夜は斧を肩までゆっくりと持ち上げ、全集中の呼吸を纏って振り下ろした刃は、木肌を静かに割っていった。

 

 

 

 

 真菰が我が家にやってきて一年。

 いつもの()()と霊たちの頼み事を終え、俺が戸を開けると、満面の笑みを浮かべた真菰が小走りで駆け寄ってきた。

 

「おかえり、冬夜」

 

「ああ、ただいま。真菰が元気そうで何よりだ」

 

 俺がそう返すと、真菰は照れくさそうに袖の端を指先でつまみ、そっと身を寄せてきた。

 そして、小さな声で囁くように言った。

 

「冬夜が帰ってくるの、待ってたんだよ」

 

「ふふふ……そうかそうか。随分と嬉しいことを言ってくれるな」

 

 頬を緩ませながらそっと真菰の頭に手を伸ばすと、彼女は撫でてもらいたげに額を差し出し、小さく目を細めてその温もりを受け入れてくれた。

 

(この子本当に可愛いな……)

 

 初めは責任感から支えていた面もあったが、この一年で純粋に真菰が可愛いから構い倒してる自覚があるほどだ。

 

「ねえ冬夜。外から帰ってきてお腹すいてない? 春奈さんがお団子を買ってきてくれたみたいだから一緒に食べよ?」

 

 そう言って真菰は俺の手を引き、縁側へ誘った。手の温もりに導かれながら、ふと最初の頃を思い返す。

 

 

 

 

 

 真菰が我が家に住み込みで働くと決めた日から間もなく、両親は空き部屋を整え、彼女は着物仕立て場で母さんの補助を学び始めた。

 

 初日、彼女は仕事を終えると疲れ切ってそのまま深い眠りに落ちたが母さんはその根性と器用さを殊の外称賛していたのを、今でもよく覚えている。

 

 しかし、叔母の虐待で弱音を吐けない真菰を見て、母さんは疲れが見えればすぐに休ませ、同い年の俺と外で思い切り遊ばせるなどして、彼女をただの子どもとして温かく受け止めるようになった。

 

 そんなわけで彼女の心をほどくきっかけにと、真菰が好きだと言っていたシロツメクサの冠作りに誘ったのだが……

 

「……シロツメクサの冠とは思ったより難しいな。初めてとはいえ、草に申し訳ないくらいひどい出来映えだ」

 

「ふふ、大丈夫だよ。私も最初はぐちゃぐちゃにしたことあるから。冬夜も練習すればきっと出来るよ。私が見てあげるもの」

 

 俺が初めて編んだ冠は本当に無残だった。

 それでも真菰は忍耐強く僕の手を取り、一編みずつ丁寧に教えてくれた。その手つきと魂の気配から彼女自身もこの時間を心から楽しんでくれてるのが伝わってきた。

 

 以来、シロツメクサの冠を共に編む静かな時間が、真菰の仕事でのストレスを和らげるひとときとなり、いつしか俺たちが互いを深く知るためにも欠かせない時間ともなった。

 

「……真菰、どうだ? 練習したおかげで多少マシになってきたんじゃないか?」

 

 編み目の歪んだ花冠を差し出すと、真菰は首を傾げて曖昧に笑った。

 

「うーん……まだまだ苦戦してるみたいだね。でも、冬夜にも苦手なものがあるんだなって、ちょっと意外だったかも」

 

「お前さん……俺を一体なんだと思ってるんだ? そりゃ苦手なものくらいいくつもあるさ」

 

 俺はシロツメクサの冠を手直ししながら、少し前の出来事と前世の闘病生活を思い浮かべて口を開いた。

 

「まず蜘蛛やムカデみたいな足の多い生き物はぞわぞわ鳥肌が立つし、何より薬が一番苦手だ

 ──ほんの少し楽になるだけで、代わりに別の苦しみが来るっていう代物を飲んだせいで尚更そう思う」

 

 真菰は目を丸くしてから、ふわりと笑った。

 

「なるほど……たしかにどっちも最悪だね」

 

「だろう? で、真菰はどうだ? 何か苦手なものはあるか?」

 

 俺がそう尋ね返すと、真菰は悩むように唇に指を当てて考え込んだ。ただ、彼女の魂の霞が一瞬、辛いことを思い出したかのように色が揺らめいたのを俺は見逃さなかった。

 

「私は……怒鳴り声が苦手かな。叔母さんに虐められていたときのことを思い出しちゃうから。それと、冷めたお粥。体だけでなく、心までもが凍えてしまいそうで──」

 

「……すまん、嫌な記憶を思い出させてしまったな」

 

 胸に痛みが走り、俺は視線を逸らした。しばらく無言が続いたあと、真菰がそっと小さな手を俺の手に重ねた。

 

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう、冬夜」

 

 その囁きに、張りつめていた何かがふっとほどける。

 ──シロツメグサを編み始めて間もない頃、俺たちは互いの苦手を打ち明け合った。

 

 後から聞いた話だがこの当時の真菰は心の奥でこう思っていたらしい。

 鬼灯冬夜には弱点なんてない、頼もしくて優しくて──でも、どこか遠い存在、であると。

 

 だが今回の一件で真菰は俺を等身大の一人の人間として受け止めてくれて以降、花冠を編みながら交わす言葉の数だけ、俺たちの距離は確かに縮んでいった。

 

 

「私のお母さんはね、春になると野原にシロツメグサを摘みに行って、いつもこんなふうに花冠を作ってくれたんだ。私が上手に作ると、『上手だね、頑張ったね』って、嬉しそうに笑ってくれたの。私、お母さんのことが本当に大好きなんだ」

 

「そうか……いいお母さんだな。俺も幼い頃に風邪を引いて布団に寝込んでたとき、母さんが『もうすぐ良くなるよ』って声をかけてくれたな。その時は薬を飲むのも少しだけマシだったのが記憶に残ってる』

 

「病気のときって、不安でいっぱいになるから、誰かにそうして優しくしてもらうと本当に安心するよね」

 

「ああ、だから俺は時に行動は言葉以上に気持ちが伝えられる時があるって思っているぞ」

 

 ある時は互いの両親との思い出を語り合った。言葉にして記憶を分かち合うたびに、家族への想いと相手への理解、そして共感が深まっていくのを実感した。

 

 

「────それでね……この間お仕事で言われた縫い目をきちんとするやつが難しくて全然うまくいかなかったの……」

 

「あー、あれ難しいよな。針と糸の力加減失敗するとヨレるし」

 

「そうなんだよね……はぁ……春奈さんには何度も教えてもらってるけど……どうしてもヨレちゃうんだ……」

 

「そうかそうか……」

 

「うぅ……私、頑張ってるのに……ねえとうやぁ……私、もっと上手くなれるよね……?」

 

「ああ、真菰はたくさん頑張ってるんだ。きっとこれから上手くなるとも」

 

 ある時は仕事終わりに露骨にストレスが溜まった真菰の泣き言や愚痴を聞いたりもした。

 

 前世で「女子には黙々と話を聞き、無条件で共感して味方でいてほしい」時があると聞いたことがあった俺は、真菰が弱音や愚痴をこぼすたび、その苦しさを思い、自分なりの方法でそっと彼女を励ました。

 

 

「冬夜、見て。この冠、とっても上手にできたでしょ? 実はこれ、お母さんがいちばん得意だった編み方なんだよ。私、今もよく覚えているんだ」

 

「そうか……通りで──さんたちも喜んでるわけだな」

 

「えっ……な、なんで冬夜、お母さんの名前を知ってるの……?」

 

「なんでって……うーん……実は俺、生まれつき幽霊が見えるんだ。だからお前さんの後ろにご両親と妹さんが2人、寄り添ってるのが見えてる。愛されてるんだな」

 

「────」

 

「実はこのことを打ち明けたのは真菰が初めてだが……真菰? おーい、真菰? か、固まってる……仕方ない……おんぶして帰るか」

 

 ある時は真菰のご両親と妹さんたちの霊が見えたのでかなり悩んだが霊が見えることをカミングアウトするなんてこともあった。

 

 とはいえ俺自身、打ち明けてから時間が経つにつれて真菰に“気味悪い”と思われるんじゃないかと胸が締めつけられた。

 

 これまでのやり取りと魂の霞が示す彼女の好意に背中を押されて口を開いたものの、好かれているだけに失敗したらどうしよう──不安は尽きなかった。

 

 が、俺の不安とは裏腹に真菰本人は突然のカミングアウトに戸惑いながらも母親の名を言い当てたことで俺の能力を信じ、それどころか以前と変わらず隣にいてくれた。

 

 今まで俺は霊や魂が視えることで同年代も近所の人々から「気味が悪い」と敬遠され、孤立した経験があった。そのため、できるだけ人前ではこの能力を隠してきた。

 

 だからこそ、打ち明けたあとも変わらず真菰が今まで通り仲良く接してくれたことが胸にじんわり染み渡るほど嬉しかったのは俺だけの小さな秘密だ。

 

 こうして言葉を交わし続けるうちに、真菰は自分の意志で気持ちを伝えられるようになり、半年足らずで裁断から裾折り込みまで手伝えるように成長した。

 

 この調子ならいつの日か、母さんと肩を並べて着物を仕立てる日が来る──そんな未来を、俺は確かな手応えとともに感じていた。

 

 あの日、雨の中で孤独と苦しみに押し潰されそうだった彼女が、今は満たされた幸福をまとい、家族の一員として心を開き、笑顔を日に日に増やしている。

 

 

 そして現在──縁側に並んで座り、春の風に揺れる桜の香りを感じながら、俺と真菰は団子を頬張る。あの日から積み重ねてきた日々が、静かに胸にあたたかく広がっていく。

 

 やがて俺たちの談笑に母さんがそっとお茶を差し入れ、父さんは汗を拭いながら「これも仕事のあとの楽しみだね」と微笑む。何気ない会話と、そよぐ風が真菰の髪を揺らす光景は、今生でも前世でも変わらぬ尊さを教えてくれる。

 

 ───しかし、

 

 このかけがえのない家族と紡ぐ穏やかで幸福な日常の裏側には、夜闇に潜む鬼の蠢きがひそやかに漂い、いつこの柔らかな時間を引き裂かれてもおかしくないことを、俺はよく知っている。

 

 だからこそ、俺はこの幸福な日常と大切な家族たちを鬼に奪われないように、今の自分に出来る最善を尽くし続ける必要があるのだ。




大正こそこそ噂話
真菰の好物の一つに春の花見で食べた桜餅があるが、冬夜から食べ過ぎると髪が桜餅色になるぞと揶揄われてからは自重して食べるようになったぞ
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