DSAA男子部!(仮   作:tbrh

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脳内で予定してた更新期間を最近大幅にオーバーしてしまっている。





第九話 転禍為福

第一ラウンドが終了した。互いに決定打とは言えないまでもダメージは与え合っており、ステージ上では両選手がそれぞれの待機場所に戻っていく。トーヤは僅かに息を乱しながらも余裕の表情を崩さず、自身の消耗度合いを確認しながらセコンドの元へ向かう。ヴィトニルは対照的に肩で息をしながら、先程の攻防の疲れが滲んでいた。

「お疲れ様。やっぱり強いねえ」

ステージ脇にセコンドとして控えるジェスターが、笑顔のままヴィトニルにタオルを渡す。

「あ、ありがとう……」

息を切らせながらタオルを受け取ったヴィトニルは汗を拭い、唇を噛んだ。彼の顔には悔しさが滲んでいる。

「もっと食い下がれると思ってたのに、ここまで差があるなんて……」

「そうかな? 俺はそうでもないと思ってるよ」

ヴィトニルの言葉を遮り、ジェスターは人差し指を立てて笑顔で言った。

「思ったよりも粘れてる。それは間違いない。きっとトーヤ選手も少し予想外なんじゃないかな」

ジェスターはヴィトニルが全く戦えていないとは思っていなかった。確かに防御は容易く突破されているがそれはトーヤの得意分野であり、仕方がない所がある。むしろ、それを考えれば直撃を受けることなくラウンドを乗り切ったヴィトニルの戦いは上出来であるとさえ言える。

「で、次のラウンド。チャンスがあるんじゃないかと俺は思ってる」

ジェスターは相変わらず感情の読めない笑顔を浮かべながら続ける。

「次のラウンドでは向こうも本気で倒しに来るだろうけど、今の試合の流れは向こうに一つの誤算を生み出しているかもしれない。」

「誤算……?」

ヴィトニルが首を傾げるのを見て、ジェスターは解説を加える。

「第一ラウンドは確かに一見すれば一方的な展開だった。負ける寸前まで追い込まれたシーンもあったしね。だから向こうは『倒し損ねはしたが、負ける寸前でも新たな動きを見せることはなかった』って思ってるんじゃないかな」

真剣な表情で話を聞くヴィトニルに、内緒話をするように顔を近づけながらジェスターは人差し指を立てて見せた。

「そこで、俺から一つ作戦の提案があるんだけど……聞いてくれるかい?」

「……変な作戦じゃないよな?」

その言葉を肯定と受け取ったジェスターは笑みを深くしながら大きく頷いて見せる。

「モチロン! さっきも言ったけど、多分トーヤ選手にとってヴィーの粘りは予想以上だったはずだ。けど、ヴィーの魔法は彼にダメージを与えるだけの力はない。この二つの要素があるとすれば、ヴィーを倒せる隙が出来たと見えたら……」

 

 

一方、トーヤも待機位置で休息を取りながらセコンドに付いたコーチと試合内容について話し合っていた。

「第一ラウンドで終わらなかったのは予想外だったか?」

「ええ。思ったよりもこちらに対する対応が早い。全力ではないにせよ、何度も倒すつもりで打ち込んだのですが」

ヴィトニルに比べると彼には明らかに余裕があり、しかし手応えの違いを意識するように右掌を握ったり開いたりしていた。コーチの指示で水分補給と簡易的な回復魔法を受ける一方で、トーヤは先の戦いを反芻するように考え込んでいる。

「そういえば……」

ふと思い出したかのようにコーチが口を開く。

「ヴィトニル選手の後ろにいたセコンド……お前が練習試合を見に行った時の奴だよな。試合の方には出てないみたいだが」

「ええ。ジェスター選手、本戦出場経験もある強豪。あの時の練習試合を見る限り、かなりの切れ者でもあるようだ」

こちらと同じように休憩と作戦会議を行う二人を見やりながら、トーヤは少し考えこむそぶりを見せた。しかし、考えたところで自分は取れる選択肢の多い選手ではないと思い直す。

「第一ラウンドで終わらなかったとはいえ、有利なのはこちらです。今まで通り、手堅く追い詰めていきます」

 

 

『第二ラウンド、試合開始!』

アナウンスが鳴り響き、各ステージで試合が一斉に再開された。

トーヤは第一ラウンドと同じように様子を見ながら、じりじりと前進する。ヴィトニルもまたチェーンバインドを展開して応戦するが、合計八本のチェーンバインドを駆使していた第一ラウンドとは異なり、両手から二本ずつの計四本を用いていた。トーヤは第一ラウンドと同じくデバイスにあえて巻き付かせ、バインドブレイクで相殺しようとする。しかし巻き付いた魔力の鎖は簡単に霧散せず、束の間動きを鈍らせた。

(あの時もだったが、本数で強度が変化するのか)

強引に引きちぎるようにチェーンバインドを相殺し、再びトーヤは前進を始める。それに対しヴィトニルは不用意に接近せず、相殺される度にバインドを展開し直しながら一定距離を保つようにステージを駆けまわり、隙を見せない。バインドの展開方法も異なっており、第一ラウンドの様な包囲する使い方ではなくこちらの接近を阻むように前面から側面にかけてを塞ぐように伸びてくる。

「まぁ、そうなるだろうな」

その動きはトーヤの予想通りだった。本来彼のチェーンバインドは一本でも絡みつけば残りで更に拘束の強度を増す。そのまま締め上げて判定勝ちを狙う戦い方を想定していたのだろうが、バインドでの拘束がトーヤに通用しなかったため守りを固めつつ隙を伺う戦いにシフトしたのだろうとトーヤは当たりをつけた。

付かず離れずの距離を維持する二人だったが、ステージ端を避ける為にヴィトニルが移動方向を変えた一瞬、その距離が近づいた。その一瞬を見逃さず、トーヤは一瞬全身の力を抜き、身体がステージに沈み込む動きそのままに滑るように距離を詰める。観客席から見てもその動きは一切の予備動作を感じさせず、バインドの操作もトーヤの動きについていけず、遅れて追いかけようとするもすでに遅い。

バインドの間をすり抜けながら滑るようにトーヤはステージを駆け、寸暇の間にヴィトニルの眼前に迫った。構えを崩すことなく間合いに入ったトーヤは、即座に叩きつけるように拳を叩き込む。回避の間に合わないヴィトニルはチェーンバインドの鎖を交差させ、更に両腕で防御姿勢を取って拳を受け止めた。

「っぐうう!」

強固に形成されたバインドが勢いを削いだことでダメージが抑えられ、ヴィトニルは何とか姿勢を維持する。しかし休む暇を与えることなくトーヤは更に打ち込んだ拳を引き戻す勢いで二撃目を叩き込む。今度はプロテクションを展開してそれも防ぐヴィトニルだが、明らかにその表情には余裕がない。自ら弾き飛ばされるように距離を取り、魔法を展開し直している。

(ここが決め時か)

トーヤはより姿勢を前のめりにすると前進の速度を速め、休ませることなく拳の間合いへと即座に接近。顔を顰めるヴィトニルに容赦なく攻撃を畳みかける。

ヴィトニルは両手にプロテクションのプログラムを展開し、破壊される度交互に防御しながら後退を続けるが、トーヤは持ち前の足捌きで間合いを空けることなくぴたりと張り付き、攻撃を浴びせ続ける。時折不意打ち気味に放たれるチェーンバインドは先の反省を生かし受け止めることなく回避し、ヴィトニル本人を攻撃することで操作を阻害して維持を困難にする。

ヴィトニルは何とか後退ルートを確保しようと左右に動くが、トーヤはそれを許さず移動先に先回りする形で位置取りを行い、やがて二人の立ち位置はステージの端へと近づいて行った。

「もう逃げ場はない。ここで決めさせてもらう!」

ヴィトニルが狙い通りの位置にいることを確認し、トーヤは更に攻撃を畳みかける。その攻撃はこれまで以上に重厚で、しかし驚くほどに動作は小さく速い。ヴィトニルのプロテクションの強度は、バリアブレイクの乗ったその拳を防ぎきれる程頑丈ではない。次々に叩き込まれる連撃に再展開が間に合わず、遂にその全身が無防備に晒される。

「もらった!」

防御しようと動くヴィトニルの腕を左腕で払い、続いて突き出された右拳はヴィトニルの腹部を深々と貫いた。

「カハッ!?」

息の漏れる音。トーヤはそのまま拳を振りぬき勝負を決めようとしたが、そこで手甲越しに拳から伝わる感覚に違和感を覚える。

(……?)

手応えが、考えていたより軽かった。そして何より、ヴィトニルはこちらの巨大な手甲を抱え込むようにして抑え込んでいる。まともに当たれば一撃で落ちるこちらの打撃を、あえて身体で受け止めたというのか?

困惑するトーヤの目の前で、ヴィトニルは苦悶の表情を浮かべながらも口の端で笑みを作った。まるで、「この瞬間を待っていた」とでもいうように。

これまでの戦いの経験が危険信号を発し、背筋に冷たい感覚が走る。反射的にトーヤは拳を引いて距離を取ろうとするが、直後、ヴィトニルの両手から伸びたチェーンバインドの鎖がトーヤの右肘から肩までに強固に絡みついて固定してしまう。巻き付いた魔力の鎖は、明らかに今までと違う強烈な閃光を発していた。

(不味い……!)

『「アレクサーチェーン!!」』

ヴィトニルが叫ぶと同時に魔力光は一層光を増し、直後に強烈な閃光と共に大爆発を起こした。

「ぐああああ!?」

至近距離で炸裂した熱と衝撃は手甲に覆われていないトーヤの右肘から上を至近距離から襲い、重度の熱傷と骨折判定が発生する。エミュレートを貫通する程の威力ではないが、この負傷ではもうピクリとも動かすことはできないだろう。

(やられた……!)

よろけながら後退したトーヤはヴィトニルの姿を探そうとするが、至近距離からの魔力光と衝撃で視界が定まらない。同じ理由で右耳にも強い耳鳴りが残っており、足音を聞くこともままならない。

(正面にはいない。側面? いや、まさか……!)

直感的にステージ中央へと振り向く。閃光の影響が少ない左目は、ステージ中央からこちらに向けて疾走するヴィトニルの姿を辛うじて捉えた。その両手には既に魔力が漲っており、距離は既に対処できる猶予を越えている。何より今は自分が逆にステージ端を背負う体勢になってしまっている。

逃げられない。咄嗟に身体を守るように左腕を構えたトーヤの元に、両手を体の前に構えたヴィトニルが疾走の勢いそのままの跳躍で身体ごと飛び掛かった。

『「プロテクションスマッシュ!!」』

プロテクションを展開した状態で打撃を行う攻撃をそう呼ぶが、ヴィトニルのそれは文字通りの突撃。小柄とはいえヴィトニルの全体重と疾走の勢い、加えてプロテクションの斥力がトーヤの身体に襲い掛かる。

「おおおおおおお!!」

正面から受け止めたトーヤだが、体勢不十分かつ両腕が使えない状態では勢いを殺しきれない。プロテクションの斥力に弾かれるようにして、その身体は宙を舞った。

「うおおああ!?」

そしてその先に、ステージの床はなかった。

本来ある筈の足場がなかったことで体勢を崩しかけるも、本能的に受け身を取って背中からステージ外の床に落下する。衝撃で肺の空気が抜け、口から悲鳴のような声が漏れるが、トーヤの感じている衝撃はそれ以上だった。

(リングアウト……? この俺が……?)

トーヤの実戦経験は、魔導戦技の選手としてのキャリアより長い。元より身体が強く正義感の強い彼は、自身の近くで発生する事件に首を突っ込んでいく事が多かった。解決に貢献しながらも大小の怪我を負うような経験は枚挙に暇がなく、今のジムに通うようになったのもそうした行いを門下生の先輩達に見咎められ知り合った事が理由である。何度も命の危険のある戦いに身を投じていた経験は咄嗟の直感や極限状態の判断力を鍛え上げており、DSAA公式戦でもその能力は通用する物であった。ナカジマジムで学んだ格闘戦のセオリーや特徴的な武術の要素は彼の経験と合致し、近距離の殴り合いでは同世代でもトップクラスにいるという自負があった。故に、格闘戦に強いとはとても言えない相手からの、このリングアウトの衝撃は大きかった。

(侮った。これ以上の反撃はないと、反撃が来ようと対処できると)

自分を見下してかかる犯罪者の目。それを何度も覆してきたことが、彼の誇りだった。しかし今、自分がそちら側に立ってしまっていた事を認めざるを得なかった。

(終われない……! こんな形で終わらせてなるものか……!!)

右腕は全く動かせない。ダメージより、関節を狙ったピンポイントのクラッシュが効いている。リングアウトのカウントが進む中、左腕と両足で起き上がり、ステージ上に戻る。ヴィトニルは既に中央に戻っている。拳の命中した腹に手を添えながら荒い息を吐いているが、その目には未だに強い闘志が漲っていた。

(アレクサーチェーン。第一ラウンドでは温存されていたか使えなかったか……どちらでも良い。問題は、彼は俺が止めを刺しに来るタイミングをあの時、完全に読み切っていた事だ。ステージ際まで自然に後退し、止めを刺せると錯覚させ、止めの一撃を完全にタイミングを合わせた後退でいなし、そして……全て、計算の上だったという事か)

左腕一本で構えを取るトーヤの口元に、自嘲的な笑みが浮かぶ。しかし、一度瞬きを挟んだ次の笑みは、驚くほどに力強く真直ぐだった。

「認めよう、ヴィトニル・スカイライン。君は……強い!」

 






本当は今回でこの対戦は終わらせるつもりだったけど、思ったより字数が増えてしまったので次回で終わらす事にしたらしい。
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