Harry Potter Quatwizard Tournament   作:マクゴナガル命

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000 The Quatwizard Tournament

 ──揺れる火。

 

 篝火のあたたかな明かり。

 外は暗く、大広間の窓は絵の具で塗りつぶされたような黒一色。

 重い曇天の下、星のように輝く蝋燭と、テーブルには所狭しと料理が並んでいる。居並ぶ生徒の間をすり抜けながら、ゴーストたちが飛び回る様子に誰かが笑った。

 

 いつもの光景、いつもの場所。

 

 ガヤガヤと騒がしく話す生徒たちを前に、アルバス・ダンブルドアが壇に立って咳払いをした。

 

「では、皆に伝えるべきことがある」

 

 これだって、いつも通り。

 

 厳かに見せかけた語り口調は、いつだってキテレツな話に移り変わる。

 今回も当然、適当な──いや、正しく述べればテキトーな──内容だろうなと呆れ半分に校長の顔に見やった生徒たちは、続く話の内容にまさしく騒然とした。

 

四大魔法学校対抗試合(クァトウィザード・トーナメント)。ホグワーツを含む計4校から一名ずつ代表を選抜し、互いに覇を競い合うことになる」

 

「代表一名ってことはだ。我らがホグワーツの希望は、かの教授の脂ぎった髪の毛一択だな、黒く香しい長髪で首絞めノックアウト!」

 

「いやいや、かの教授の鉤鼻だって負けてない! ドラゴンだって釣り上げる大きさだぜ?」

 

 ウィーズリー兄弟が大声を上げ、大広間に張り詰めていた緊張が急に解けた。

 ほとんど全員が笑い出し、不愉快そうなのと言えば、当の“かの教授(スネイプ)”とスリザリン生くらいなものだろう。

 

 蝋燭の火を受けて、ダンブルドアの瞳がキラキラと光を放つように瞬いている。

 怒気をあらわに無言で立ち上がったスネイプと、それを宥めるマクゴナガルを一瞥して、ニコニコと笑んだダンブルドアが口を開こうとしたとき、

 

「校長先生!」

 

 奥から走ってきたフィルチが何事かを耳打ちした。

 

「ふむ……もう少し待つように伝えるのじゃ。少しで済むからとな」

 

 フィルチの背を見送って、ダンブルドアは気を取り直すように言った。

 

「さてと、詳しいことは後ほど改めてじゃ! あまりゲストをお待たせしては忍びないし、諸君らも気になってソワソワしておるのも、よおく見える」

 

「さっすが、校長! わかってるぅ」

 

「皆、盛大な拍手で迎えるように! まずは──ボーバトン魔法学校の生徒と校長、マダム・マクシーム!」

 

 ダンブルドアが高らかに宣言すると同時、大広間の扉が開け放たれた──。

 

 

 

 空色の制服を纏い、蝶のように舞ったボーバトン。

 鉄と火花の演武を魅せ、厳冬を押し除けるような剛堅さを見せたダームストラング。

 

 二校の入場を終え、残すは一校。

 

(どこだろう?)

 

 生徒の大半が同じことを考えていた。アメリカのイルヴァーモーニーか、ロシアのコルドフストリーツか。

 11の連盟登録校すべてを記憶する生徒も少ない中で、思いつくところと言えば、イギリス魔法界とも関係の深い場所ばかり。

 

 だからこそ、

 

「最後は、はるか東方より──魔法処(マホウトコロ)

 

 ダンブルドアが口にした学校名に、おおよその生徒は目を瞬かせた。

 確か、日本だったはずだ。その程度の認識だった。

 

 インドや中国すらも超えて、更に極東に位置する島国。優秀な人材も多く輩出してはいるものの、排他的な気質が根強いせいで、ほぼブラックボックスと言っていい。

 

 どんな学校なのか。あるいは、どんな生徒達が来るのだろうか。

 ホグワーツ生を含め、他の学校の生徒や教師すら大広間の扉を注視するなか──。

 

 

 

 ──それは、生じた。

 

 

 

「……花?」

 

 ひらひらと舞い落ちる桜。

 

 一人の女生徒がそれに気づき、天井を見上げると同時、それを目にした。

 蝋燭の火、橙色の光がいつの間にやら薄紅色へ転じ、火に模られた花弁がふわりと浮かび剥がれ落ちるようにして舞っている。

 花弁が剥がれるにつれて火は徐々に勢いを弱め、小さくか細くなって、やがて一本、また一本と蝋燭の火が消えてゆく。花弁はそれそのものが火で象られたかのように仄かに灯り、暗くなりつつある天井でゆらゆらと揺れているのだ。

 

「なに、これ」

 

 やがて、篝火を含め大広間の火がひとつ残らず花弁へと姿を変えると、暗い空の下で桜の花弁が渦を巻き始めた。 

 何が起きているのかはわからなかった。

 正しくそれを知る者は、ダンブルドアをおいて他には一人としていなかったはずだ。

 

「……綺麗」

 

 誰が言った言葉だっただろう。言った本人すら、その自覚はなかったはずだ。

 その場にいた全員を代弁した言葉は、しかし、いつの間にか誰かの吐息に音もなく消えた。

 皆、眼前に広がる光景に魅せられていた。

 

(見事じゃ)

 

 ダンブルドアもまた舌を巻く思いで、それを眺めていた。

 丁寧に美しく織り込まれた魔術、しかし、それ以上にこれを成しているだろう人間が《たったひとり》とは。

 

(これを学生の身でなさしめる人間がおるとすれば、それは)

 

 それはまさしく、天よりの才。

 

(いよいよ、お披露目かの)

 

 渦を巻く花弁の中心がふわりと持ち上がり、そこにひとりの人影が浮かび上がるのを見てダンブルドアは口端を上げた。

 その姿は、黒を基調とし、軍服に似た衣装を身に纏い、その上には桜の花が金糸で織り込まれた長い外套を羽織っている。

 ふわりふわりと舞う花弁を踏んで下へ降りる様は、まるで東洋の妖のようだ。

 

 とても学生レベルではない。

 

「あれが、生徒ですって……?」

 

 誰かがそう呟いたその時、花弁が再び舞い、彼の頭上で小さな球形を描きだした。

 何が起こるのかわからず再び黙りこんで見つめていると、球が分たれ、数十の桜色の鳥が飛び出した。

 鳥たちは羽音もなく宙を舞い、長机のすぐ上をくるりと旋回し、すうっと空へ昇ってゆく。

 そして、消えた蝋燭に止まると同時に、身体が揺らめき炎へ変わる。

 

 最初とまったく変わらない大広間の景色の中で、たった一つだけ増えた“異物”。

 幼さを残す黒く大きな瞳をまっすぐに壇上のダンブルドアに向けた彼が、浅く静かに一礼した。

 

「お初にお目にかかります。魔法処七年、ケイ・タチバナ(橘花 啓)です」

 

 息をすることすら忘れ、その所作を見つめていたハリーはふと、

 

「……?」

 

 彼の目が一瞬、自身を捉えたような、そんな気がした。




魔法処の制服の設定は原作者の設定したものから少しだけ変えてあります。イメージとしては黒い軍服の上にピンクゴールドの刺繍が控えめに施された外套を羽織っている感じ。ケープでもいいかな。
まっきんきんは流石に…でも、黒に金の刺繍もまだ派手派手ですかね。

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