Harry Potter Quatwizard Tournament   作:マクゴナガル命

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 ダンブルドアとの次の授業、それまでの三日間は酷くゆっくりと流れていった。父さんとの間の微妙な空気が、そうさせていたのは明らかだった。

 父さんは僕に何も聞いてはこなかった。

 いつもよりもずっと無口で、時々何か悩んでるような表情を浮かべてはいても、僕が見ているのに気づくと途端にいつも以上の仏頂面に戻る。

 もともと厳しい顔がもっと圧力を増す感じで、僕の方もなかなか声をかけにくかったから、会話なんて、とてもできなかった。

 意外だったのは、魔法を練習する僕に目くじらを立てなかったことだ。山へ行くのも自由にさせてくれたし、ダンブルドアにもらった硬貨を取り上げられるようなこともなかった。

 ただ、ひとつだけ、

 

「次に会うときは、俺も同行させてもらう」

 

 それだけは譲れないと、断固とした態度で父さんは言った。

 隠していたことに後ろめたさもあって拒めそうにもなくて、結局は不安ばかり募っていって。

 それでも、時間は待ってはくれない。

 

 その日は強い風が早朝から吹いていた。稜線にかかる雲が風に吹かれて遠くの山肌を滑り落ちるのを眺めながら、僕は父さんを伴って、いつもの林道に分け行った。

 木々はしっとりと夜露を抱えて、朝日を吸い込んでキラキラと輝いている。普段ならワクワクとして跳ね回りたくなるような光景も、今はまるで違って見える。まるで価値のないイミテーションみたいだ。 

 あの葉も、滴も、日の光もぜんぶ──嘘っぱちのニセモノだ。

 

「まだか?」

 

 父さんの言葉に「あと少し」とぎこちなく笑って返す。

 しばらく歩くうちにズボンの裾や靴の中がびしょ濡れになってしまったけど、そんなこと、これっぽっちも気にならなかった。

 

「着いたよ」

 

 振り返って伝えると、父さんは無言で沢をぐるりと見渡した。水音に耳を澄ませるようにしてから、低く呟く。

 

「ここで授業を?」

 

「ここ以外でもやる時はあるけど、集まるのはいつもここにしようって……」

 

 言葉の続きを飲み込む。どうしても「おじいさん」という言葉を口にするのをためらった。父さんの険しい横顔にぶつけるには、あまりに脆い響きのように思えた。

 代わりに沢の縁まで近づいて、そのぎりぎりにしゃがみ込む。冷たい水面がゆらめいて、日の光を砕いて細かな粒を踊らせている。

 手を伸ばせば簡単に触れる。顔を洗えば少しはスッキリするのかな。

 でも、ただ眺めているだけでも胸の奥がざわついて、結局、何もできないまま時間だけが過ぎていった。

 

 これから、どんな話し合いがされるんだろう。何を言うために父さんはダンブルドアに会おうとしてるんだろう。

 

「……」

 

 言い争う二人の姿を想像して、思わず口を引き結んだ。そうしないと何かが口から転がり出てしまうような、そんな気がしてならなかった。

 父さんは岩に腰を預けて目を瞑っている。何を考えてるのかわからないけど、確かなのは、父さんはきっと魔法を知ってる。

 もし知らないんだったら、もっと色々聞いてくるはずなんだ。おかしいじゃないか。不思議なものを見ても、父さんは僕に何ひとつ聞いてこなかったんだから。

 

 でも、だとしたら、どうして知ってるんだろう?

 

 そう思ったときだった。

 

「お待たせしましたかな」

 

 聞き慣れた声が背後からして、僕はパッと振り返った。

 いつの間に現れたのだろう。滝を背にダンブルドアが立っていた。

 

「おじいさん……」

 

 声をかけると、ダンブルドアはニッコリ笑ってうなずいた。

 

「合格じゃ、ケイ」

 

「え……?」

 

 わけがわからない。

 戸惑う僕から視線を移して、父さんを見やる。父さんは黙ったまま姿勢を正し、険しい目でダンブルドアを値踏みするように見つめていた。

 

「これほど驚かせられたのは一世紀ぶりかのう」

 

 そんなこと言ってる場合じゃないのに、楽しげに口元を緩めている。緊張感のないダンブルドアの様子に肩の力を抜きかけて、でも、寸前で父さんの声がそれを押し留めた。

 

「……どういうつもりだ、ダンブルドア」

 

 小さい声だった。けど、不思議と耳に響いて聞こえた。底冷えのする声色、押し込められた感情に声が微かに震えている。

 ダンブルドアはスッと目を細めると、父さんの問いかけに静かに返した。

 

「ただの老人が少しばかり好奇心にかられて、弟子をとっただけのことじゃよ」

 

「それで納得させられると本気で思うか? あいも変わらず、そうやって煙に巻くような言い方をするのか」

 

 空気が重い。水音まで遠くに押しやられて、耳に届くのは父さんとダンブルドアの声だけだった。

 

「あの契約を忘れたか、あんたらが勝手に結んだアレを。従ってやるだけでもはらわたが煮えくり返りそうだってのに、俺にこれ以上どんな配慮を望むつもりだ」

 

「配慮、か」

 

「配慮じゃなければなんだ? 譲歩か? 妥協か?……冗談じゃない。頭を下げてやる義理も、強要される謂れもない」

 

「強要などしてはおらん」

 

 込み上げてくる怒りを堪えるように口を引き結んで俯くる父さんに、ダンブルドアはただ諭すように言った。

 

「わしは教師としての務めを果たしたかったのじゃ。学びたいと望む子を導くのは、大人に課せられた当たり前の義務ゆえな」

 

「親の許しも得ずにか!」

 

 怒号が響きわたる。思わず肩が跳ねて、浅く息が漏れた。

 

「この子が自分の力を試そうとするなら、俺にそれを止める権利はないと思っていた。それがどうだ? こそこそと知らぬ間に手を出す人間が現れて、どうして指を咥えて見過ごしてやる必要がある? 何の断りもなく勝手なことをされて、それで怒らない親がいると本気で思ったか?」

 

「言い訳にしか聞こえんかもしれんが」

 

「なら、言わずにしまっておくことだ」

 

 頭から拒絶する言葉に、ダンブルドアは何も返さなかった。一拍置いて父さんが息を吐く。疲れ切ったような、そんな空気が漂っている。

 けれど、ダンブルドアはその空気を意に介さず断ち切った。

 

「君は、それほどに恐れているのか」

 

 父さんの肩がわずかに強張った。険しい横顔の下で、握り込んだ拳の節が白く浮かび上がっている。

 浴びせられたその言葉が、見えない楔みたいに父さんを縫い止めているんだと僕にもわかった。

 

「あの予言を、恐れておるがゆえに魔法を遠ざけようとした」

 

 責めるような言い方ではないのに、父さんはダンブルドアの言葉に圧されている。

 

「そして、今も」

 

「憶測で……っ、他人を語るな……!」

 

 吐き出された声は怒鳴りつけるというより、追い詰められた獣のうめきに近かった。強い言葉を選んでいるのに、どこか切実さが滲んでいる。

 

「……」

 

 わからない……何も、わからない。

 

 自分のことのはずなのに、僕には何を話しているのかも理解ができない。

 “契約”ってなんだろう。どうして父さんとダンブルドアは顔見知りなんだろう。

 すっかり蚊帳の外にされてて、ただ聞いているしかなくて。でも、そんなことより、ふたりが言い争っているところをこれ以上見たい。ただ、それだけだった。

 

「……こんなの、やだよ」

 

 思わず零れた声に、二人の視線が一度にこちらへ向けられた。

 父さんはハッと目を見開いて、ダンブルドアは静かな湖のような瞳でただ僕を見つめていた。

 

「やめようよ……ケンカなんて、見たくない……」

 

 喉の奥がつかえるみたいに苦しくて、頬を熱いものが伝った。見られるのが嫌で、そっと俯いた。

 けど、それだけじゃ何も変わるはずなんかなかったんだ。

 

「お前のためだ、子どもの理屈じゃない。」

 

 突き放すような声音に、胸の奥がズキンと痛んだ。 

 思わず顔を上げた。けど、父さんは目を逸らして僕を見ようともしなかった。

 

「だが、こんなことを聞かせるべきじゃないのは確かだった」

 

「僕の……っ」

 

 僕のことなのに──。

 

 心の中で叫んでも、言葉にならない。唇が震えるだけで声は出なかった。

 耐えきれず、踵を返して走り出す。

 沢の水音も、木々のざわめきも耳に入らない。ただ二人を置き去りにして、どこへ行けばいいのかもわからないまま、必死に足を動かした。

 

 青空が綺麗だ。鮮やかで、白い雲がちぎれながら浮かんで……でも、その鮮やかさが、今は何より苦しくてたまらない。

 

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