Harry Potter Quatwizard Tournament 作:マクゴナガル命
誰だろう?
艶やかな花弁に風、鳥の歌声。幻想的な光景。
ポカンと口を開けているとおじいさんが柔らかく微笑んだ。目がキラキラ輝いている。星を閉じ込めたみたいだ。長い髭をベルトに挟み込んでる。風変わりな格好だけど俗世から離れてる仙人とか、そういうのなのかもしれない。
かっこいい……。
こんなにド派手な登場、映画でだって観たことがない。と言っても、あんまり映画を観に行ったこともないんだけども。
すごい、凄すぎる……!
名前を知られてるのが変だとか、不審者だとかなんだとか、そんなことを考えるよりも前に、僕は目の前の光景に心を奪われていた。
「ケイ? どうし──」
「あのっ!!」
おじいさんのところへ駆け寄って、そのままマントを鷲掴む。
「今の、どうやったらできるんですか!?」
思わず声がうわずった。
「僕にもできる!? できますよねっ!?」
無理だなんて言わないで欲しい。でも、もし言われたらどうしよう。そんなことになったら、きっと泣いてやる。
一抹の不安こそあったけど、それでも、おじいさんは丸くした目をパチパチと数回瞬きをしてから、ゆっくり頷いてくれた。
「ああ、できるとも。君ならきっと」
「ホントっ!?」
ひとしきり飛び跳ねて、わあわあと声を上げていた僕だったけれど、やがて自分のはしゃぎっぷりに気づいて足を止めた。
頬が赤くなっていくのが自分でもわかる。胸の奥で燃えてたものが少しずつ静まってきて、急に気恥ずかしさが押し寄せてきた。
なんて失礼なことをしちゃったんだろう。
でも、自分以外の超能力者をはじめて見たんだ。それも、僕なんか及びもつかないくらい凄い人に。
「どうした。もう、飛び跳ねんでも良いのかな?」
「……ごめんなさい。マント、シワになっちゃった」
「いやいや、おかげで洒落た感じになったよ」
悪戯っぽい声で笑う。緊張をほぐそうとしてくれているのがわかったけど、返せる言葉がちょっと見つかりそうにない。
もごもご口を開けて閉じっていていたら、大きな掌がそっと僕の頭に置かれた。
「無理もない。魔法使いを見たのは、はじめてじゃろう」
春の日差しのように、手のひらの温もりがじんわりと染みてくる。
「魔法に目覚めて、どれくらいかね?」
「魔法……が、この力のことなら何日か前くらいです」
沢から水を浮かび上がらせながら答える。けど、“魔法”か。
「超能力じゃないんですか?」
「超能力も魔法もそう変わりはせんよ。じゃが、まあ、わしらはこれを便宜上、魔法と呼んでおる」
「僕のこれも? 魔法?」
「君のそれも。間違いなく」
「“わしら”ってことは、もしかして他にも?」
「勿論、君の知らんところに大勢おるとも。もしかしたら君の知る身近なところにもな。意外なあの人が実はといった具合に、魔法使いは案外おるものじゃ」
「……そうなんだ」
思っていた以上に広い世界がある。その事実に少し地に足がついたような気もすれば、どこか追いつけないような感覚も残った。
「少し残念に感じさせてしまったかの?」
「え?」
顔を上げると、おじいさんは目を伏せていた。翳りを帯びた一瞬のまなざしが見えたけど、すぐにまた元のようなキラキラが戻ってくる。
「その力を持っているのが君ひとりではないと知ってしまったから、特別さが薄れてしまったのではないかと、そう思ったのじゃ」
「別に……そんなこと」
そう言われちゃうと、そうじゃないとは言い切れない。胸の奥のほうで何かが一瞬だけ揺らいだのは確かだったから。
でも、それは“特別でいたい”というよりも、“特別でなくてよかったかもしれない”って感じの安堵に近い。だからこそ、言葉は自然に続いた。
「むしろ安心しました。僕だけじゃないんだってわかって。だって、もし自分ひとりだったら怖かったかもしれないし」
「怖い、か」
「それに、ワクワクしてる。おじいさんみたいに、僕なんかじゃ想像できないような凄いことできる人がたくさんいるなら……もしも、そんな人から魔法?を教えてもらえたら凄く嬉しいし、ためになりそうだし」
僕の言葉に、おじいさんはほんの少し目を細めて満足そうに頷いた。何かを確かめるようにじっと僕を見つめ、それからふっと視線を逸らして山の斜面を振り返る。
色とりどりの花で覆われたその一帯は、さっきおじいさんが生み出したものだ。
「……あれ、本当に僕にもできるようになるのかな」
思わず問い返すと、おじいさんは微笑みながら、白くて長い髭を撫でた。
「いずれはの。焦ることはない。学び続ければ、必ずその日は来るじゃろう」
「そっか……そっかあ」
胸の奥で小さくはじけるような喜びがあった。けれど、さっきみたいに飛び跳ねることはしなかった。嬉しさは確かにあるのに、不思議と静かで、温かい余韻として胸の内に広がっていく。
言葉にするよりも、ただそっと頷くほうが、今の気持ちにはしっくりきた。
「知りたいかね?」
おじいさんが穏やかに問いかける。
「君の内に眠る力、そして、それを操る術を。わしなら教えてあげられる。無論、君が望めばの話ではあるが」
その声音には、どこか試すような響きも混じっている。
鳥の囀りも風のざわめきも消えてしまったかのように思えた。胸の奥で高鳴る鼓動を押さえきれないまま、僕はためらわず強く頷いた。
その答えを待っていたかのように、おじいさんは目を細めた。夜空の星が宿っているような瞳が、僕の瞳をまっすぐに射抜いた。
「よろしい。では、今日からわしが君の先生じゃな」
ぱっと火が灯ったみたいに嬉しさが広がる。僕の先生──そう思うだけで、なんだか背筋が伸びた。
けれど、そこでハッとした。そういえば、この人の名前をまだ聞いていない。胸の高鳴りが一瞬すぼんで、遠慮がちに口を開いた。
「でも、その、なんて呼べばいいんですか?」
僕が恐る恐る口にすると、おじいさんは「ああ、すまんすまん」と髭を揺らして笑った。
「わしはアルバス・ダンブルドア。呼び方は君に任せるとしよう」
「アルバス……ダンブルドア……」
どこか舌に馴染まない響きをゆっくり繰り返す。どう呼んだらいいんだろう。考えてみるけれど、しっくりくる呼び方がすぐには出てこない。
「先生、ダンブルドアさん、アルバスおじいさん……? うーん」
「どれも少し堅苦しいのう」
何かを思いついたのか、おじいさんは腕を組んで「ふむ」と頷いた。
「そうじゃ、アルじいなんてどうじゃ」
「アル、じい?」
「ほれ、こう、親近感が湧いてくる気がするじゃろう? あるいは、そうじゃな、ダンじい、アルおじいちゃん。ふーむ、なかなか悩ましいのう」
冗談なのか本気なのか、判断がつかない。僕は曖昧な笑みを浮かべてごまかした。けれど、おじいさんはそんな僕の様子を楽しむように、にっこり笑うだけだった。
「学ぶにせよ教えるにせよ、互いにあまり気張らずいこうとしよう。楽しまねばな。魔法はなにより楽しいものじゃ。肩肘張らずにゆるりとやるのが、よいじゃろう」