Harry Potter Quatwizard Tournament   作:マクゴナガル命

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「よいか、ケイ。想像せよ、仔細を想像するのじゃ。曖昧に願ったところで君の力は応えてくれん」

 

 魔法とは、主の御業を人の身で体現する奇跡なのだから──その言葉は、僕には難しくて半分もわからない。

 けど、なんとなく。本当になんとなくだけど伝わってくるものはあって。

 

 水面から浮かした水で花を描く。茎、葉、花弁、それらを精巧に考えられる限り美しく。そして、宙に浮いて揺らめく花にさらに意識を向けていく。

 想像するのは冷たさだ。

 氷の冷たさ、冬の寒さ、白く凍った花弁が光を乱反射してキラキラと瞬き、光と影とを内包する氷の花を想像する。

 

「意識を逸らすでないぞ。丁寧にじゃ。針に糸を通すがごとくにな」

 

 顔にあたる空気のなかに、徐々にひんやりとした冷気が感じられるようになってきた。

 ミシミシと音がする。何かが軋むみたいなそんな音。

 

「そう、それでよい。髭にくっついてしまったレモン・キャンディーをゆっくりと剥がすときを考えてみよ。あれほど集中を要する場面はないぞ?」

 

「ん……んん…っ!」

 

 変なこと想像したせいで、花弁が少し崩れた。なんとか形を整えて、息を吐く。

 

「ほれ、心頭滅却、火もまた熱し。わしはな、ピクシー妖精が飛び回っておっても熟睡できることがたったひとつ誇れることじゃ」

 

 だから、なんだって言うんだろう。

 

「集中、集中」

 

「ん? 火は涼しくなるんだったかのう?」

 

「……」

 

 なんて、性格が悪いんだろう!

 

 目を閉じてるからわからないけど、多分にやけ面に決まって……。

 いや、違う。そうじゃない気がする。

 むしろ、いつも通りに優しい感じで笑ってる気がする。きっと蝶や鳥を愛でるみたいに微笑んでるんだ。

 

「いや、ダメだ。気を逸らしちゃダメだ」

 

 氷の細工、それは一つの目標だった。魔法を学び始めて一番最初に立てた目標だ。

 

「なんと、こりゃたまげた」

 

 ダンブルドアと出会ってから、すでに数日が経っている。

 魔法とはそもそも何か、そんな基礎的なところから始まったこの授業はひとつの段階を越えつつあって、

 

「氷がアイスキャンディに変わりおった!」

 

 でも、もう少しかかるかもしれない。

 

 レモンイエローの花びらを一欠片つまんで、口に入れたダンブルドアがニッコリ笑う。その顔に思わずため息を吐きながら、僕はふと数日前のやり取りを思い出していた。

 

 

 

 例えば火を起こすとして、僕ならライターやマッチを使う。例えば水を飲むとして、川や水道からくめばいい。

 けれど、そういった水や火は一体どのようにして生じているのか。生じた結果、僕はそれらに何を感じるか。

 物理や科学や、そんな難しい話じゃなくて、僕自身がどれほど実感を持ってそれを認識することができているか、

 

「少なくとも魔法において、“知る”とはそういうことじゃ」

 

 ダンブルドアはそう言った。

 

「ここまで言えば、何故この水球を凍らせられなんだか、わかるじゃろう」

 

「僕が知らないから……?」

 

「その通り。水が凍るのは当たり前のこととして、水が凍っていく様を君は知らん。知らんのでは想像もできず、しかるに魔法も使えはせんと」

 

「じゃあ、どうすれば知ることができるんですか?」

 

「それはな」

 

 こうやって──と、ベルトに挟んであった杖を抜いて、ダンブルドアはその先端を水球に向けた。

 

 

「グレイシアス」

 

 

 短い呪文を唱える。と、白いもやが杖の先端から漂い始めて、水球をすっかりと覆ってしまった。

 

「凍っていってる……」

 

 変化はゆっくりだったけど、注意深く見つめていたおかげで、すぐにわかった。

 水球の外縁に薄く皮膜のようなものができ始めていた。触ったら、それだけでも割れてしまいそうなくらい薄い氷の膜は眺めているうちに徐々に厚さを増していって、少し経つと完全に凍りついてしまった。

 

「触ってみなさい」

 

 言われるままにそっと指先を伸ばす。凍りついた水球に指が触れた瞬間、ひんやりとした感覚に思わず肩がすくんだ。

 

「どんな感じかね? 冷たくて固い。氷である以上、それは無論そうじゃろう。では、他には?」

 

 目を凝らして見れば、氷の表面に小さなきらめきが浮かんでいる。凍る時に空気が入ったのか、小さな泡が白く線状に入っている。その一つひとつを確かめるようになぞりながら僕は返した。

 

「撫でるとツルツルしてるけど、指を止めると肌が引っ付く。なんだか、ゾワゾワして、それに少しだけ痛くて……けど、なんだろ、鈍い感じ?」

 

「それこそ、君にとっての氷であり、君にとっての冷たさじゃよ」

 

 今ならなんとなくできる気がする。漠然とそう感じた。僕がそう感じたことをダンブルドアも同じように感じていたのかもしれない。

 

「ケイ」

 

 呼びかけられて試した瞬間、違いがはっきりとわかった。

 

「わあ……!」

 

 気づいたら、氷の球が掌の上に浮かんでいた。

 できた、どうしてこんなことができなかったのか不思議に思うくらい簡単に、僕は水を凍らせられるようになっていた。

 

 でも、ダンブルドアはそれだけじゃきっと満足できなかったんだろう。

 

 

 

「ここまで量があると、食べきれんのがもったいないな。いくらか持って帰りたいんじゃが、よいかね?」

 

 山際に傾いていく陽の光を眺めているところへ、突然声をかけられて思わず「えっ」と声が漏れた。

 視線を向ければ、彼の手元には透明な袋いっぱいに詰められたアイスキャンディが数袋分ある。いつの間にそんなに……。

 

「甘いものに目がなくてのう。特にこれは絶品じゃ。レモン・キャンディーの味がするところが実に素晴らしい」

 

 そう言いつつ、ダンブルドアは器用に花弁を摘んで、袋に入れていく。いったい、どれだけ食べるつもりなんだろ。

 お腹、痛くなっちゃわないかなぁ。

 

「僕も少し持って帰ろっかな」

 

「よしよし、では、そうしよう!」

 

 そう言って肩を揺らす笑いは、授業で見せる厳しさとは違って、どこか家庭的で親しみやすい。

 僕はつい力を抜いて笑ってしまった。緊張が緩んだせいか、完全に意識がそれてしまって、氷の花が崩れて水に戻ってしまった。

 

「あ」

 

「これは……まあ、仕方あるまい。よい、よい、魔法は消えるもの。残るのは経験と記憶じゃ」

 

 ダンブルドアがそう言った時、僕は胸の奥に小さな熱を感じた。冷たい氷を作りながら、不思議とあたたかさを得ている。

 

 次は、きっと花の形を保てる。

 

 そう思えた瞬間、今日の授業がようやく終わりを迎えた。




一応ですが、だいたい15話分この過去編が続きます。
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