Harry Potter Quatwizard Tournament   作:マクゴナガル命

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 授業はそれから数日、数週と続いた。寒々しかった山肌には徐々に青葉が見え始め、梅の木は僕が魔法をかけなくても満開の花でおめかしをしている。

 もう少しで春が来る。けど、だから何が変わるってこともなく、一日一日がゆったりと過ぎていく。

 授業の時間は早朝から夕方まで、と言っても毎日ってわけじゃない。ダンブルドアが来るのは三日に一回くらいだけだ、他の日は授業で出された宿題をやって、次回の授業に成果を見せるっていうのが日課になっていた。

 

「変身術とは数ある魔法のなかでも、もっとも個人の資質に左右される分野だと言われておる。単純な魔法の才とは全く別の、いわば、そのモノの構造を見抜く目の良さとでも言うべきか」

 

 魔法の力は本当に奥深い。知れば知るほど深く引き込まれるようで、本当に想像することさえできれば何だって叶えられる気がする。

 こういうの、“万能感”って呼ぶのかな。

 昔一度だけ開いた分厚い辞書のページのどっかに、そんな言葉が載ってたはずだ。

 ほとんど開かれることもなくて、日の目を見ずにしまい込まれてあったのを、この前、父さんが漬物石がわりに使うために引っ張り出していたのを見た。

 

 けど、どんなに上達したところでダンブルドアに追いつける気がしないのは何でだろう。

 僕ができるようになった分だけ、それ以上に凄いことをしてみせる。しかも、片手間で。

 

「その点で言えば、きみはなかなか見込みがある。教えて十分で半変身まで漕ぎ着けておるのだから、これは驚嘆に値すると言ってよい」

 

 「驚嘆」なんて言いながら、ダンブルドアは特に驚く風もなく、ただただ朗らかに笑っている。杖先に蝶々を二、三匹遊ばせながら──しかも、その蝶っていうのが普通に生きているように見えるのに元はただの硬貨だってことを考えれば、本当に驚嘆に値するのはどっちだろう。 

 とんでもなく精巧でキンキラキンの身体に翡翠まで散りばめられてる。アレに比べたら僕のなんか、羽が生えただけの虫もどきもいいとこだよ。

 

「手元がお留守じゃよ、ケイ」

 

「え!? あーあ……」

 

 手のなかを慌てて見ると、硬貨はクシャクシャの潰れたティッシュみたいになっていた。

 変身を解いて元に戻そうにも、にっちもさっちもいかなくて思わず息を吐いた。

 

 集中が切れちゃったみたいだ。こうなると、もうどうにもならない。

 ぐっと背を伸ばす。いつのまにか西の空が真っ赤になっていて、夕陽に照らされた雲が山際に影をひいていた。

 

「まこと見事な夕焼けじゃ。この光景を見ておると、心が洗われるような心地がするよ」

 

 ふさふさの眉毛の下から覗く目がしみじみと細められている。心が洗われるって感覚はよくわからないけど、確かに綺麗な景色だ。

 

「日も暮れてきたことだし、ちょうど愛すべき生徒も集中の限界と見える。今日はここまでにしようかの」

 

「……あと少しだったんだけどな」

 

 あと、ほんの少しだけでもしっかり集中できていたら、何かコツみたいなものを掴めそうな感じがしたのに。

 完成間際のパズルを投げ出すみたいで、どうしても悔しい。

 

「今終えては口惜しいか。じゃが、別な考え方をしてみるのもまた一興」

 

 ダンブルドアが口元を緩めて、僕の手に杖先をチョンと当てた。

 

「次の授業でわしの鼻を明かしてやれたなら、それはどれほど喜ばしいことか」

 

「えっ!」

 

 驚いた。手の中で硬貨が見る間に元の姿に戻っていく。でも、完全に同じじゃなくて、中央の絵柄だけ違ってる。

 

「これ、僕とおじいさん?」

 

「さよう。我ながらうまくできたと思うんじゃが、どうかね?」

 

「どうって」

 

 小高い丘の上で並んで夕陽を見ている二人が、小さな硬貨に実に精巧に描かれている。それに、よく見るとなんだか……。

 

「動いてる……?」

 

 硬貨の上で夕陽が徐々に沈んでいっている。それにつれて浮き始めた錆は夜になりつつある空の様相を表していて、暗くなるにつれて丘の上の二人もくるりと踵を返すと、硬貨の中から姿を消してしまった。

 この一枚だけでも、お前なんかまだまだだぞって言われてるみたいだ。手のなかの硬貨をじっと見つめながら僕は口を尖らせた。

 

 こんなの、うまいなんてもんじゃない。

 

 きっと自分でもわかっているはずなのに、どうして出来栄えを気にする必要があるんだろう。

 

「凄いけど……なんか、ズルい」

 

 そう言った瞬間、ダンブルドアの瞳がいっそうキラキラとした。

 

「悔しかろう。しかし、これだけ自信満々にやって見せたものより、さらに高等なことを君が成し得たならば、それはどれほど相手の度肝を抜くことじゃろう。試してみたくはないかね?」

 

「えっと、それってつまり」

 

「つまり、それが宿題じゃ」

 

 ダンブルドアを驚かせることが、僕の宿題?

 

「なにそれ」

 

 次は三日後──そう言うや否や、僕の答えを聞くこともなく、くるりとマントを回転させながらダンブルドアは消えてしまった。

 いいこと思いついたみたいな顔して、なんだかとんでもないことを注文された気がする。

 

 

 

「ただいまー」

 

 戸を引くと、廊下の奥に明かりが見えた。鍋のふつふついう音と一緒に、父さんの低い声が聞こえてくる。

 

「おう、おかえり」

 

 外の冷たい空気と違って家の中はほんのり暖かかった。靴を脱いで居間へ向かうと台所のほうから父さんが顔を覗かせた。

 作業着の袖をまくって手にお玉を持っているあたり、仕事が終わってそのまま作り始めたんだろう。

 

「今日はどこまで行ってたんだ? 随分と遅かったな」

 

「えっと、なんか、いい感じの洞穴があったからそこに」

 

「……そうか。熊にでも出くわさないよう気をつけるんだぞ」

 

 適当に返事をして腰を下ろす。

 テーブルに肘をついて考えるのは、ダンブルドアから出された宿題についてだった。

 

 驚かすって言ったって何をどうすればいいだろう?

 せっかく教えてもらったことだし、まだちゃんとできるようになってもいないから、変身術は練習したい。

 ポケットの中の硬貨が確かな重みを伝えてくる。経験と知識がものを言うってダンブルドアの言葉を反芻しながら、自分に何ができるかを悩んでいた。

 

 そんなだったから、僕はまったく気づかなかった。

 僕を見つめる父さんの視線にも、父さんが隠すようにしてさりげなくベルトに挟み込んだ手紙にも。

 居間の隅に置かれた作業着のポケットから、何か紙切れが覗いている。けれど、僕はそれすら気にも留めず、

 

「手洗ってないだろう。もう夕飯だぞ」

 

 父さんの声に「うん」と答えて、ゆっくりと立ち上がった。

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