木刀を真っ直ぐ振り下ろす。空中にて静止させ、自分の中心まで持ってくる。この動作を繰り返す。何度も何度も。
「みーくん、水はいかが」
何もかも捨てていた世界に鈴のような声が入ってきた。何百回素振りを繰り返しただろうか。すっかり日は昇っていた。振り返ると、黒と紫の綺麗な長い髪に淡い桃色の目をした少女が器を持って立っていた。
「ありがとう。カナエ」
彼女は胡蝶カナエ。胡蝶家姉妹の長女で僕と年が同じということもあり、昔からよく一緒に過ごしている。昔は可愛いという印象が強かったが、だんだんと華麗な女性に変わっている気がする。
「どういたしまして、今日も朝から頑張るわね。昨日は誕生日会するって言ってたから、てっきりまだ家にいるかと思ったのに……」
「こればかりは毎日の習慣だからな」
受け取った器はまだ冷えていた。きっと素振りをしてる僕を見て、わざわざ淹れてくれたのだろう。気遣いができて、お淑やか、外見だけでなく内面もバッチリ。そりゃ町1番の美人さんと持て囃されるわけだ。
「今日は何か約束してたっけ」
カナエが来ることはいつも通りではあるが、朝に来るのはイレギュラー。
「いいえ、これから約束を取り付けるところよ。お母さんが今日の晩御飯、未来君を連れてきてって言ってたからお誘いに来たの」
珍しいこともあるものだ。カナエやしのぶに強引に家に連れてかれる事ばかりだが、両親からの誘いなんて記憶にある中じゃ初めてかもしれない。
「それはありがたいお誘いだ、喜んでいこう」
「ええ。そうしてくれると嬉しいわ。しのぶも喜んでたからね『寝るまで未来お兄ちゃんと遊ぶんだ!!』って」
胡蝶家次女しのぶ。僕とカナエの3つ下で頭脳明晰で才気抜群。姉のふわふわ具合を全部補完してくれているしっかりさ。かと思えば抜けてるような行動もある。少し抜けてる感じが胡蝶家独特な雰囲気なんだろう。あとはなんだ
「あははは……それは大変だ、きっとしのぶが飽きるまで離れてくれないやつだね」
「しのぶがみーくんと遊ぶのに飽きるとは思えないけどね」
お姉さん苦笑いをやめて欲しいです。毎度毎度大変なんですからね?カナエに引き摺られて僕も思わず苦笑いしてしまう。
「あ、お父さんもみーくんと話せるの楽しみにしてたよ」
最後の最後で1番の爆弾を破裂させてきた。叔父さん。調剤など薬剤に関わる仕事をしてる凄い人。まぁそれはさておきだ。1番の難点だ。とても優しいのはわかる。素晴らしい人格者ということわかる。ただ、僕はあまり叔父さんが得意ではない。
「みーいーくーん!時が止まってるよ〜。お父さんが苦手なのはわかるよー。けどもう少し隠しましょうね〜。」
仕方がないと思う。学業の心配をされたり、立ち振る舞いを心配されたりなどなど、色々目にかけてもらっているのだけれど…………
『娘はやるからそれ相応の男になれ!』
そんな感じの気持ちが節々から伝わってくるのは、かなりのプレッシャーだ。カナエは僕の心情を色々わかっているのか、満面の笑みを浮かべながら指で頬を突いてくる。
「が、がんばります」
精一杯出せた言葉はこれだけだった。
「ふふふふ、私は準備もあるからもう帰るね、また夜に」
情けなさ満載の解答に満足したのか手を振りながら颯爽と帰って行った。
初投稿、初執筆
気持ちが思うままに書いたので至らぬ場所が多々ありそう
続くのか?