曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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本編
聖歴0096 5月17日


 

 

 

 

 

 人類は窮地に陥っていた。

 偉大なる勇者が魔王を討伐してーー百年を経たずして、人類は再び魔族に侵略されていたのだ。

 

 数十年前に起きた魔王軍の侵攻はズルズルと人間の生存領域を削り続けている。多くの国が滅び、二つの大陸のほぼ全てが魔の支配下に置かれた。

 

 残るは辺境のソルト王国。

 小さい方の大陸の、さらに端にあるがゆえに魔の侵略が遅かった地域であり、しかしそれ故に悪報が立て続けに知らされ続けていた。

 

 超大国が滅んだこと、大大陸が滅亡したこと。

 友好国が滅んだこと、隣国が滅んだこと。

 そんな知らせの果てに、魔の尖兵たる『四天王』が王国に迫っていた。

 

 幾度かの前哨戦を辛くも勝利したものの。

 小手調べは終わりと魔王軍は本気を出したのだ。

 大地を埋め尽くす魔の尖兵。

 それを率いるは強大なる魔国幹部。

 港を上陸し、そのまま街道を進む魔族の進軍はもはや誰にも止められず、人類はこのまま滅ぶのだと誰もが考えた。

 絶体絶命の窮地に追い込まれ、亡国の危機にあった国家はーーその日救われた。

 

 夕方から始まった魔王軍の侵攻。

 決着したのは未明のことだった。

 

 まるで日が昇ったかのように、平原は眩い煌めきに包まれた。王都からも視認できるほどの、太陽が地上に現れたような極光が。

 侵略者たる強大な魔族は、そして大地を埋め尽くすほどの魔の尖兵は体細胞一つ残さず焼き殺された。

 

 それは紛失したとされた聖剣の力だった。

 

 女神が地上に投げ入れて、後に先代の勇者が手にして魔王を討伐した、伝説の聖剣に選ばれし、勇者レーヘン。

 その名はまさしく人類の希望であった。

 

 

「……レーヘン、ごめん」

 

 

 しかし、そんな偉業を果たした勇者パーティーのメンバーの顔にあるのは悲壮感であった。強大な四天王を討伐した直後とは思えぬほどに。

 

 前線基地に用意された一室。

 歓喜に沸く基地の雰囲気とは一線を画すほどに暗く澱んでいる。

 

 錬成士ーーサポート枠でありレーヘンの幼馴染である少年は苦悶の表情を浮かべていた。

 

 女神が地上に投げ入れて、先代勇者が振るった伝説の武器聖剣。その正体は寿命を代価に力を与える呪剣である。その莫大な力の代価で、使用者は寿命を削り取られていく。

 

 先代勇者を敬えど、先代勇者が何を犠牲にしていたのか、その真実を知るものはこの世界では極少数のものしかいない。

 

 

 その中の一つ、聖剣を継承する一族に産まれたのがこの錬成士の男の子である。名前はライフズ。

 幼少期から努力を重ねた真面目な少年。

 その精神性はまさしく勇者に相応しいものだった。

 

 本来ならば聖剣を受け継ぎ勇者になるーー筈だった。

 しかし彼には才能がなかった。

 だからこそ仲の良かった幼馴染がその宿業を果たさなければならなくなってしまっていた。

 

 寿命を消費し、世界を救う勇者。

 そんな人柱のような職務を、自らの才能がない故に子どもの頃から親しんできた何の因縁もない少女に背負わせる事になった。

 

 その事実は男の子には受け入れ難いものがあるのだろう。『使わせてしまった』『護りきれなかった』そんな苦悩に包まれた苦悶の表情を浮かべ、机を弱々しく叩いた少年を尻目に。

 

 

「いや、仕方ないじゃん? これ使わなきゃみんな死んでたわけだしさ」

 

 

 それに引き換え、ヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべる少女、レーヘン。華奢な身体つきのあどけない女の子は二十年分の寿命を喪っていた。

 

 彼女は元々単なる村娘だった。

 なんの因縁もなければ、世界のために命を懸ける義務もない。

 田舎でのほほーんと暮らしていたごく普通の女の子が、だ。

 高貴なる義務を謳歌したこともない、誰かに傅かれたこともない。美味しいご飯を食べたことも、何かしらの特権を得たこともない。

 ただ聖剣に選ばれただけの、子どもだ。

 

 

「ま、取り敢えず、解散ってことで」

 

「レーヘンっ!」

 

 

 勇者レーヘンも場の空気は察するのだろう。

 沈み切った空気は彼女としても気が滅入るからか、彼女は片手をハラハラ振って他の部屋に逃げ帰っていく。

 

 その後ろ姿を目にして……俺は覚悟を決めた。

 いわゆる寿命の移譲だ。

 

 俺だってさ、勇者のことは仲間だと思ってる。かけがえの無い友人が寿命をすり減らしているのに何もしないわけにはいかない。

 

 

 だから俺は人混みに紛れ、騒ぎの中で淡い笑みを浮かべていたレーヘンに声をかけたのは、その直後のことだった。

 

 

「レーヘン、お前の負傷を治してやる」

 

「えっ、神官長?」

 

 

 だから、ヒーラーの俺は生命力を分け与えることにしたのだ。

 

 代価はもちろんある。

 俺にとっては……とても重い代償があった。

 でも仕方ないだろう?

 レーヘンは大切な仲間だから仕方ない。

 

『オタクに優しくしてくれる巨乳で清楚だけど実はエッチなお姉さん』型ホムンクルスを生み出すために用意していた寿命百年分をレーヘンに託すことを決めたのだ。

 

 寿命を代価に力を得られるならば、その逆ができてもおかしくはないだろう? 莫大な魔力を編み込んで生命エネルギーに変化させ肉体に適応させる、癒しにおいて天賦の才を持つ俺だから可能な超高等技術である。

 

 ま、この手の適性って反比例するので癒しに特化した俺は、逆ーー寿命を魔力に変換するなんてことは逆立ちしても無理なんだけどね。

 

 まあ、それはともかく。

 俺は大体、一日で一年分の寿命を編める。

 その百年分、つまり百日だ。

 と言っても俺にだって仕事はある。

 天才な俺に任された、亡国の危機に瀕した国家を支えるための非常に大事なお仕事が。

 具体的にいうと国軍の重症者の治癒とか、治療とかそういうとても大切なお仕事だ。

 

 だから休日じゃないと命の生産はできない。

 つまり、単純計算で一年の休日の全てを費やした百年分の余命。

 

 そっから急患の怪我人とか、末期の重篤患者の治療用に費やす分をマイナスするとさらに少なくなる。

 

 そんな俺の汗と涙の百年分の寿命の五分の一。

 四月に働き始めて、五月をいっぱいまでの全休日を合わせた日数だ。

 晴れの日も雨の日も働く労働者に与えられた、魂の安息日を全て捧げた時間が、ふと脳裏をよぎった。

 

 でも流石に、ね。

 年若い少女が寿命擦り減らしてるの無視して個人的欲求になんて費やせないのだから。

 

 

 勇者レーヘンの寿命が二十年増加した。

 

 

ーー聖歴0096 5月19日ーーーー

 

 

 翌朝のことである。

 一晩経過して冷静さを取り戻した幼馴染くんが第一声で口にしたのは謝罪だった。

 

 

「その、レーヘン、昨日はごめん。僕も謝りたくて。君の失った寿命は僕がなんとかする、できるかはわからないけど、それでも!」

 

 

 多分相当、あれこれ思い悩んでいたのだろう。失った寿命をなんとかする、とかね。

 でも、その決意に水を差してしまったことは少し申し訳なく感じてしまうが、流石に怪我人優先だからね、こういう話は。

 

 

「あー、その件なら神官長がなんとかしてくれたよ? なんか、代々伝わる奇跡の一つとか、云々かんぬんで」

 

「えっ、そうだったんですか神官長っ⁈」

 

 

 レーヘンはチラリと俺を見てそう言った。

 彼女の生命力は全快している。減った寿命は補填されており、まだまだ永く生きることはできるのは確実だった。

 

 うんうん、よきかなよきかな。

 

 はっきり言えば惜しい気持ちはある。俺の夢を果たすことは……もしかしたらもうできないのかもしれない。

 この情勢で寿命を増やすことができるとは思えない。現状維持か、ゆるゆると消費の方が増えていくことは目に見えていた。

 沢山の人に託された夢を捨てたーーそんな重みも、レーヘンの健やかな姿を見ているとすぅーっと軽くなる気がしていた。

 

 そうだよな、人の命に勝る夢はない。

 彼女がいたら、きっとそう言ったはずだ。

 ルーテシア、そう名付けるはずだった彼女がいたら背中を押してくれたはずなのだから。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 勇者パーティーは憂なくお偉いさんが用意してくれた歓待の宴を存分に楽しんでいた。

 国王が跪き、勇者レーヘンに感謝を告げたシーンを忘れることはできないだろう。

 大臣とか幕僚も半分くらいガチ泣きしてたからね。人類存亡を背負ったなかで、滅びの足音を聞かされ続けた為政者は明らかに重荷がとれた顔をしていたのだ。

 

 そんな状態で行われる祝宴は、それはもうとんでもないものだった。

 とはいえ現状、人類の生存領域はこの辺境の小国のみ。交易相手はいなければ、輸入品なんてものも存在しない。

 そんな中で、貴族達が自発的に外国で作られた二度と手に入らないかもしれぬ贅沢品を持ち出して宴を開いたのだ。

 

 楽しい祝宴だった。

 王が、貴族が、大臣が、騎士が、兵士が。

 身分を忘れ、立場を忘れ。

 手を取り合って騒ぎに騒いで楽しんだ。

 

 その中には勇者パーティーの姿もあった。

 

 そりゃ仲間が大きな犠牲を払ったと思ったらご飯なんて美味しくならないけど、それが無事治療できたとなればそりゃ楽しい時間を満喫できる。

 俺も、本当に美味しいご飯を満足するまで楽しんだーーその日の夜のことだった。

 

 歓喜と安堵、そして重責。

 世界を救う唯一の希望になった重さを噛みしめながら、俺は城にある自分の部屋の扉を開け。

 

 愕然とした。

 部屋の中は、まるで強盗にあったかのように荒らされていたのだ。箪笥は引っ掻き回され、戸棚は引き抜かれ、研究資料の悉くがばら撒かれて。

 

 そんな部屋の中央に勇者レーヘンがいた。

 先に離席していたはずの少女は椅子に座りながら一つのノートを閲覧していた。

 

 

「うわ、きっしょ」

 

 

 それは俺が長らく構想していたヒロイン製造計画の資料であった。イラスト付きでキャラクター設定までしっかり行われた俺の理想のヒロイン製造計画書。

 

 この部屋で最も厳重に隠れていたはずのノートを探し出すとは、これが勇者の勘というやつなのか。

 

 そんな理性が齎した感想は、勇者の考え足らずの失言でかき消された。

 

 

「すぞ!」

 

「いやこんなの気持ち悪がられて当然じゃん」

 

 

 ようやく俺の存在に気がついたレーヘン、その瞳にあるのは呆れと軽蔑の色だ。

 勝手に家探ししたことへの罪悪感なんてものはこれっぽっちも存在していないわけだが……そんなことよりーーあいつ男の夢をバカにしやがった。

 

 俺をバカにするのはいい、でも理想のヒロインを作り出そうという光源氏から続く男の夢と理想を愚弄することは許されない。

 

 

「なにこの、『処女で一途で純真だけど、エッチにはノリノリで夜な夜な」

 

「音読するな」

 

「ここ矛盾してるじゃん、純真ならエッチにノリノリになんかならないわけでしょ?」

 

「男の夢をバカにするな‼︎」

 

 

 俺はキレた。

 あのね、理想の女の子ってのはそういうもんなの。矛盾する要素を兼ね備える、本来ならあり得ぬ奇跡を成すからこその理想のヒロイン。

 

 そんな存在を産み出す方法は一つ。

 すなわち、人造人間の製造しかないのだ‼︎

 

 

「ちなみにこの資料に書いてある生成した生命エネルギーってあとどれくらい残ってんの?」

 

「現状は八十年分くらいだが」

 

 

『ルーテシア』そう名付ける筈だったホムンクルスの製造には百十年分の生命エネルギーが必要でありーー現状は百近くまで貯まっていた。そこから二十引いて八十年。

 それが俺が自分の寿命とは別に確保している生命エネルギーの総量だ。

 

 

「へー、ということは……」

 

「使うなよ、絶対に使うなよ!」

 

 

 俺はキレた。

 勇者は「ふーん、ならあと八十年分は使えるなぁ」とか考えてる目をしていた。俺が必死に夜鍋して編み込んだ生命エネルギーなのにだ。

 

 休日の一日で一年くらいの生命エネルギーを生成できるわけだから……おおよそ100日。

 一年の休日全てを費やすに等しいわけ。

 

 

「そんなコツコツ貯めた寿命をさ、浪費することへの罪悪感はないわけ?」

 

「いいじゃん別に、減るもんじゃないし」

 

「減るんだよ! 生命エネルギーは無限じゃないの‼︎」

 

 

 しかもここから難病の患者さんとか、重篤患者の治療にも充てるわけだからね?

 仮に人命救助のために聖剣を振るわざるを得ないならわかる。仕方ないしね? でもそれは重い判断であって欲しい。俺の努力を消費している事実を忘れないでほしい。

 

 

「ていうかさ、神官長こんなの必要なの? 助けた相手に適当に言い寄れば、誰とだって付き合えるでしょ」

 

「いやぁ、恩を対価に関係を持つって、なんか嫌じゃない? 俺の献身をさ、軽く扱われてない? これってエッチで返せる程度の恩なの⁈ ってならない?」

 

「うわ、面倒臭さ」

 

 

 レーヘンの言葉から最低限の敬意が消えていた。ま、小娘には男の本音満載な資料は刺激が強すぎたのだろうが……本当に生意気な小娘である。俺はしみじみとそう思った。

 

 

 

 

 

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