曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0095 12月18日

 

 

 

 俺とレーヘンが最初に出会ったのは……ちょうど魔王軍が本格的にこの国を滅ぼしにかかる直前あたりのことだった。

 

 当時、既に人類の生存領域は小大陸の半分にまで狭まっていた。大大陸で抵抗を続けていた超大国が滅亡し、その避難民を追うように魔王軍が小大陸の沿岸に上陸。

 

 そこで魔王軍は連戦連勝で破竹の勢いで勝ち進んでいた。人類領土は削られ続ける最中。

 しかし、辺境の田舎国家ソルト王国はそんな中でも本格的な侵攻は受けていなかった。

 

 なぜかといえば、おそらく小大陸の大国が準備を整える前に電光石火で攻撃を仕掛けたかったからだろう。弱小国など後でゆっくり滅ぼせばいい。先に大国から潰すーーそんな魔王の軍略があった。

 

 しかし、弱小国家が魔族から一切の攻撃を受けなかったわけではない。定期的に幾つもの部隊がソルト王国に攻め込んでくることはあった。

 

 俺とレーヘンが最初に出会ったのはちょうどその頃。敵軍が国境沿いの小さな都市を襲撃しようとしているとの一報が軍中枢に伝えられた。

 

 それはちょうど『聖剣守の一族』という、由緒正しき武器を守護する一族の生き残りが亡命し、隠れ住んでいる都市で。

  元々聖剣に選ばれた少女に会うために、近くを訪れていた軍の……ヒーラー兼、指揮官としての役割を任せられていた俺はその都市に直行していた。

 

 まあ、俺ってソルト王国の第二王子でもあるし。

 自慢だけど強い。

 回復しかできないじゃなく、幼少期から英才教育を受けた天才であり近接戦闘も普通にこなせると言うか……当時のソルト王国で一番強い戦士でもあった。

 

 だから指揮官であるわけだが……先陣を切ってその都市に向かっていたのだ。兵士とかに斥候させたらいたずらに死傷者が出るリスクもあるし、国軍が動いていることを敵に知らせる可能性もあった。だから俺が単騎で先行して、敵の指揮官とかを暗殺した方が効率が良かったと言うのもある。

 

 というわけで。

 白い地竜を走らせて街道を駆け抜けて。

 都市近郊の細い山道の峰の袂に、彼女はいた。

 

 正確には勇者レーヘンと、幼馴染ライフズが。

 

 

「あれ、あなたは神官長のゾーニッヒ王子? うわー、王子さまだ、ほんものだー!」

 

「えーっと君の名前は、なんて言うんだい?」

 

 

 足元に魔族の亡骸が散らばる中。

 頭から敵の返り血を浴びた少女は、じーっとこっちを見ていたのだ。パッと見た印象でいうとちょっと凄惨な殺人鬼ってかんじかな?

 

 しかし口を開けば印象はかわる。

 ごくごく普通の女の子と言った感じに。

 

 魔族とはいえ生き物を殺した血生臭さ。

 それとかけ離れた、まるで近所をお散歩しているような年相応の雰囲気のギャップはそれはもうエグかった。

 

 聖剣に選ばれた子どもがいると聞いていたが……一目で彼女だとわかる、そんな異様さがあったことは今でもよく覚えている。

 

 周辺に散らばる魔族の亡骸はもはや数えきれないものだった。山道は血潮で真っ赤に染まり、まるで地獄のようと形容できるほどだった。

 

 レーヘンはいわゆる天才というやつだ。

 聖剣を持たずして、その戦闘力は人類最高と言えた。剣を握ってわずか二年の田舎娘はーー単身で都市に迫る敵兵を皆殺しにしたのだ。

 

 狭い山道で、一対一を繰り返して。

 故郷に迫る魔族の部隊を瞬く間に皆殺しにした、とは、その戦いの唯一の観覧者であった勇者の幼馴染、ライフズくんが口にした言葉だ。

 

 

「ボクの名前はレーヘンっていいます! わー、お母さんが大ファンで、あのあのサインください!」

 

「……サインを書けるものがないだろ、まずは水でも浴びようお嬢さん」

 

 

 俺はあんまりそういうの気にしないタイプであったけど。こういう圧倒的な殺しの実力を持つものは怯えられるものだ。魔王を倒した=魔王より強大な脅威と怯えられる、みたいな話は物語ではあるあるだからだ。

 

 例えば強大なる四天王を一撃で消し飛ばしたとかなら常識はずれ過ぎて逆に想像できずあっさり受け止められやすいけど。

 

 五人の敵兵を皆殺しにしたとか、そういう現実味のある内容の話だと、受け入れられず怯えられる、みたいな感じだ。

 

 英雄というより大量殺戮者と思われる、そんな危険性というか、バッドエンドフラグというものがふと脳裏をよぎったのだ。

 

 

「わーわー、お嬢さんだって! ねぇねぇライフズくん聞いた? あ、あれ、ライフズくん?」

 

「そっちの子は疲れちゃったみたいだね、とりあえず街に向かおうか……敵はその、お嬢さんが倒したんだよね?」

 

「え、は、はい! なんか弱かったです!」

 

 

 弱かったかぁ……他の国は割と滅ぼしてるのが魔王軍なんだけどなぁとか色々思いつつ。

 とりあえず他の兵士が来る前に身体を洗わせ、着替えさせなければ!

 そんな決意を胸に秘め、俺は少女に語りかけ。

 

 そのまま事後処理をあれこれ行い、時にご両親とお話しし、「娘をよろしくお願いします」されたりと交流を重ね、幼馴染の間に挟まれる感じでパーティーメンバーとして加入することになる。

 

 それは勇者レーヘンが聖剣を行使するーー数ヶ月前のことだった。

 

 

 ーー聖歴 0098 6月8日ーーーー

 

 

「なに黄昏てんの神官長、カッコつけてるつもりなの?」

 

「あの時の判断は決して間違ってなかったって、しみじみ思ってたんだよ」

 

 

 大陸奪還のため勇者一行が大大陸に渡って、一年と半年。

 四天王三人を討ち取ったことで、戦況は人類優位となっている。大駒を失った魔王軍は計画的な動きにも乱れが出るようになり。

 散発的に発生する魔王軍の足掻きのような攻撃が何度か起きていた。

 

 それは俺たちが敵の軍団長を倒したりして、人類解放戦線の動きをサポートしている時のことだった。

 

 とある会戦に及んだ勇者一行は寡兵で敵の大軍勢を相手取ることになっていたのだが。

 勇者レーヘンは聖剣を用いなかった。

 

「これくらいよゆーよゆー」と舐めた口を叩いた少女はそれが侮りとか自意識過剰でないことを確かに証明した。

 

 

「一応聞くけど、怪我とかはしてないよな?」

 

「するわけないじゃん。四天王ならまだしも、この程度の数の、こんな雑魚相手にやられるわけないじゃんか」

 

 

 激戦地に潜り込んだ勇者レーヘンはそこで、魔王軍兵士を片っ端から斬り殺していったのだ。危なげなく、怪我一つ負うことなく、迫る魔族を一太刀で殺し続けて敵軍を壊滅させたのだ。

 

 人類戦力のエリート揃いな勇者パーティーメンバーでも同じことはできるやつはいない。もちろん俺でも、だ。

 相変わらず常軌を逸した戦果である。

 勇者レーヘンは間違いなく当代最強だった。

 

 

「あー、首都に帰ったら何食べよっかなー……辛いのはちょっとやだし……トマト料理かな……」

 

「ろくでもない連想ゲームしただろ……」

 

 

 血に染まった大地→赤→トマトとかいう最悪の連想ゲームをしたとしか思えない、とんだ妄言を口にしたレーヘン。

 サイコパスかな? 

 周囲に聞いてるものがいなくてよかった。

 

 魔族の返り血で真っ赤に染まった勇者さまの血化粧と相変わらずののーてんきな言動のギャップは相変わらずとんでもない。

 

 見る人によっては恐怖を感じるだろう。

 

 

「あと、おしゃべりはいいけど、血は拭いとけよレーヘン」

 

「はいはい、っていうかさ神官長もすごいことになってるよ? 人にあれこれいう前に鏡見たら?」

 

「怪我人の治療で忙しかったからな」

 

 

 ま、俺も血みどろだけどな!

 ヒーラーである俺は片っ端から怪我人の治療するわけになる。最優先は勇者パーティーの仲間だが、こういう兵士との共同任務などでは特に重症者の治療もよく頼まれる。

 だからこそ怪我人と接し血みどろになりやすいーーというのは実は建前だ。

 

 レーヘン一人だけ血みどろだと異様に思われるかもしれないからね。俺もあえて血を清めず、時にわざと血を浴びつつ、怪我人の治療を繰り返していたってわけ。

 

 

「もー、神官長ってそーいうとこ、隙あるんだよなー、ほんとにボクがしっかりしてあげないとさー」

 

 

 勇者レーヘンの激闘を終えても揺らぐことのないその強靭な自我。

 

 俺からするとほんとに頼り甲斐しかないわけなんだけどね、そう言うのって怖がる人もそれなりにいる。『勇者レーヘンはバケモノだ』みたいに怯えられたら、この子も……傷つくかもしれない。

 

 ……流石に傷つくよな⁇ 勇者との交流でその辺とちょっとよくわからなくなってきたというか、怖がる奴なんて怖がらせとけばいいじゃんとか素面で言いそうではあるというか。知らない相手にどう思われても気にしないというか……。

 

 本人は気にしないからこそ、周囲と軋轢が生まれるリスクは多分にあった。恐れられ怯えられる、足を引っ張られたり、魔族に漬け込まれる可能性が。

 

 特に今は劣勢ではなく優勢だからね。

 兵士達にも市民にも余裕がある。

 だから余計なことに気が回ってしまう。

 

 

 だからこそ事前に手を打っておく。

 俺はそういうことができる能力があった。

 

 自慢だが俺は軍というか兵士達に強い信頼を寄せられている。こういう会戦のたびに兵の治療してるからね。

 軍人からの信頼も厚い勇者パーティーのヒーラー『神官長』。そんな俺があえて血みどろ(味方の血)になることでこう言う血腥さに慣れてもらおうっていうわけだ。

 一人だけが血だるまより、二人並んで血で汚れたら印象も薄れる。こうして会話をしていれば勇者レーヘンへの恐怖心は薄れる。

 

 その計画は上手く行った。

 

 一つの戦場で魔族の千人斬りを成し遂げたレーヘンは、バケモノと怯えられることもなく、偉大なる勇者としてどこまでも頼り甲斐のある存在として持て囃されることになる。

 

 ま、天才であるレーヘンにとっては簡単に成し遂げた軍事的成果だ。達成するために苦労したわけでもも、無理をしたわけでもなく、何かしらの代償を払ったわけでもない。

 

 だからなんで雑魚をたくさん倒したことをこんなに持て囃されるのだろうと、疑問を抱いてる節があったわけだが。

 

 もちろんレーヘンに余計なことは言わさない。

 俺はカンペを用意し、レーヘンの口で『みんなのおかげで成し遂げた戦果』だとか、『ボクだけの功績ではない』的なことをスピーチさせ。

 

 軍人や大衆ーー護られし人民の中に勇者への恐怖が芽吹かないよう徹底するのであった。

 

 本当にこいつは俺がいないとダメというか。 

 天才すぎて軋轢が産まれてしまうというか。

 大衆が自分をどう思うかについて無頓着なんだよなぁ。そういうところは田舎娘らしいと言えるのかもしれない。

 

 ま、政治的なサポートも俺の仕事。

 他のメンツは……まあ守りきれずよく曇ってるけど、レーヘンが曇ることは絶対に許さない。ご両親から頼まれているのもあるし、俺自身、彼女には笑顔でいて欲しいから。

 本人には絶対に言えないんだけどね。

 

 

 

 ーー聖歴 0098 6月10日ーーーー

 

 

 戦線から数日かけて、暫定首都まで帰還した勇者一行は、移動拠点から降りてーーそこから先は自由行動の時間だ。

 

 最低限、連絡がすぐに届く範囲にはいる必要があるが……それ以外は自由! 何をしようが個人の権利なのだが。

 

 

「あ、神官長、このあとちょっといいかな」

 

 

 勇者レーヘンは俺の腕をがっちり掴んでいる。

「ちょっといいかな?」という控えめな表現とは正反対の本音が透けて窺えた。

 もちろん俺に逆らう術はなかった。

 

 そうして連れて行かれた先は暫定首都の広場に自然発生している露店街であった。

 目を離すと新しい屋台が出来上がり、多くの人々が懇談にふける憩いの場だ。

 

 だが、今日は特に甘い匂いが強く感じられた。カップルと思われる男女の姿もちらほらと目に映る。まるでバレンタインのようにチョコを渡している女性の姿も目に映った。

 

 数ヶ月前に人類が取り戻した領土はカカオがよく取れる地域で。

 こんなご時世であるが、商人たちは逞しくもチョコレート商戦で一儲けするつもりらしい。バレンタインには半年近くあるというのにだ。

 

 まあ、こんなご時世だからこそ愛する人と些細な日常を楽しみたいというのもあるのかもしれないけどね。ほんの数ヶ月前も優勢と思ったら四天王がゲリラ活動して一気に危機的状況に陥りそうにはなっていたわけだし。愛する人と次の2月14日を迎えられるという保証もないわけだし。

 

 

「あー、ここが一番美味しそうだな……」

 

 

 ま、そんな男女の機敏とは程遠いところにいる色恋よりご飯を選んでしまう系勇者レーヘン。

 俺の服を掴んだまま、グイグイ歩いていた彼女はそして立ち止まり。屋台で何かしらのーーパフェかなんかを購入し。

 

 

「神官長ー、今日はボクの奢りだからね、いつも頑張ってる神官長へのお礼だよー」

 

 

 そして俺に購入したお菓子を手渡してきたのだ。得意げな顔をして胸を張りつつ、それとなく俺の顔色を窺っている。

 

 パッと見た限りは年頃の女の子なりの不器用な愛の発露のように見えるかもしれない。

 そう思う気持ちもよくわかる。

 でもね、違うの。

 

 

「んー、食べないの?」

 

「レーヘンこそ食べなくていいのかい?」

 

 

 俺は質問に質問で返した。

 

 

「いやー、ボクは神官長が食べてからでいいかな、さぁさぁ、一口、パクッとどうぞ」

 

 

 なぜ、既売品のお菓子を俺が食べるのを、固唾を飲んで見守っているのかーーその理由はただ一つ。

 

 

 

「うん、普通に甘くて美味しいな」

 

「へー、よかった。じゃボクもたーべよ!」

 

 

 レーヘンはそれを聞いて、待ってましたとばかりに動いた。機敏な動きでパフェを手にして動けない俺から財布を掠め取り。

 

 

「じゃ、これは神官長の奢りねー」

 

 

 そうして自分の分のパフェを購入し。

 パクつき始めるのである。

 甘くて美味しいパフェの味を満喫する姿は年相応の女の子にしか見えないわけだが。

 レーヘンは実年齢以下に無邪気なのだ。

 つまり女の子っていうより女児って感じかな。

 

 

「お前、俺に毒味させただろ……」

 

「ち、違うよそんなわけないじゃーん、これはいつものお礼ってだけ。他意なんてないよー」

 

 

 レーヘンは俺に毒味役を任せたいのだ。

 

 

「あのなレーヘン、ライフズ君とかも誘ってあげなよ」

 

 

 先に言っておくが不快ではないというか、むしろ俺としては楽しいからいいんだけどね?

 奢りも、奢られもいいのよ、

 勝手に俺の財布をすったこともね?

 毒味役もこれはこれで楽しいしね? 決して不快ではないしむしろ誘ってくれてありがたい。

 でもね、そのね、俺だけを誘うのはちょっと良くないんじゃないかなって思うわけ。

 

 

「いや、みんなを頼るのはさ……ほら、たまにとんでもないのあるじゃん? この前の激辛料理とかさ」

 

 

 レーヘンは何かを思い出したように口先を窄めている。激辛料理で地獄を見たあの日の記憶は彼女にとってはトラウマなのだろう。

 

 まあ、人類連合は他人種国家であり、多様な食文化が育まれてきていた。

 好みとする味覚にも違いが存在している。

 俺やレーヘンのまずいを美味しいと感じる人も多くいて、そういう人達を顧客とする屋台も存在している。

 

 

「でもハズレ引くのを含めて、こういう楽しい機会はみんなで楽しんだ方が楽しくないかい? それにそういうのに敏感な反応してるとこ見せたら誤解も解けるだろうさ」

 

「それはあるけどさ……そもそもみんなだったら口に合わなくても『美味しい美味しい』っていうに決まってるじゃん。毒味役なんて任せられないよ」

 

「毒味役って口に出してるぞ、レーヘン」

 

 

 レーヘンは本音を全く隠そうとしなかった。

 まあ、他の仲間達は買った料理をお店の前で『まずい』とか『ハズレ』とは言わないってのはその通りなんだけどね。

 どれだけ不味くても美味しい美味しいと笑顔で感想を言うだろう。

 

 

「確かに姫さまと魔法使いさんは味覚あるのかないのかわからないというか、栄養補給できればそれでいい派ではある」

 

 

 祖国を滅亡に追い込まれた姫騎士。

 妻と娘を惨殺された魔法使い。

 旅の仲間は確かに美味しいご飯に舌鼓を打つ精神的な余裕など持っていない。絆を深めつつある今日では付き合いでご飯に行ってくれるだろうけど美味しいご飯について語り合うことはできない。

 

 

「でもライフズくんはそうじゃないと思うけどなぁ」

 

「ライフズくんが一番、そういうのに無頓着なんだよなぁ……」

 

 

 しかし、勇者の幼馴染はそうではない。

 彼ならこういうグルメデートを思いっきり楽しめる。というわけでそれとなく彼の恋の後押しをしたんだが……勇者さまは大きくため息を吐いて一笑に付してしまうのだった。

 

 

「で、神官長が一番グルメ、流石は王子さまってだけはあるよね」

 

「グルメなのはお前だろ、レーヘン。俺は一応軍用食食べれるけど、お前あれ大っ嫌いだしな」

 

 

 食道楽の勇者さまは、かなり舌が肥えている。そのため兵士に配給される戦闘食を全く食べようとしないのだ。だから戦場でも比較的マシな食事をわざわざ用意する必要があった。

 

 

「あれは人間が食べるものではないよ。……というかさ、あんなの食べてるくせにさ、ボクにはあれこれ言ってくるのほんとまいっちゃうよね、え、あんなまずい軍用食食べても問題ない舌してるくせにさ!」

 

 

 先日の味覚クイズについていまだに根に持っているのだろう。そしてこういう不満というのは一度吐き出すととめどなく溢れてしまうものなのだ。

 

 

「というかひどくない? 本当に仕方ないからあんなまずいご飯の偽物食べてたらさ『やっぱり』だよ? ボクもみんなに迷惑かけられないなって本当に我慢して食べたのにさ、『やっぱり』はおかしいじゃん! ボクの善意なんだと思ってるのって話!」

 

 

 レーヘンはぶつくさと文句を口にしている。

 つい先日の戦闘でも起きたのよ。『勇者レーヘン、実は味覚失っているのでは疑惑』が。聖剣は使わなかったんだけど、他の兵士の怪我とかを見て贅沢いうのはやめようと思ったのか、レーヘンがもそもそ軍用の戦闘食を食べていたんだが。

 

 今まで一向に口にしなかったものを食べてる光景に、仲間たちの疑惑は確信に変わってしまったのである。それが本当に不満なのだろう、レーヘンはとめどなく不満を口にしたのだ。

 

 ま、そんな彼女も気晴らしで甘いものをペロリと食べたら、そういう不満も氷解したようで。パフェを食べ終わる頃には彼女はすっかりご機嫌で、ニコニコと笑顔を浮かべていた。

 

 

「というわけでこれからも毒味役お願いねー」

 

「絶対ライフズくんは連れてくべきなんだよなぁ……」

 

「これだけ言ってんのに、神官長って頑固だなー」

 

 

 それはそれとして俺は意見を変えないけどね。

 俺は執拗に、幼馴染くんの恋の後押しをする。

 だって仲間だからね、当然だよね!

 

 

「……ほんっと、神官長って鈍感だよね……」

 

「お前にだけは言われたくないよレーヘン」

 

 

 ため息吐きたいのは俺の方なんだわ。

 あの子の恋は当分叶いそうもないというか。

 レーヘンが色恋に興味を持つのは果たしていつになるのやら。

 

 と、俺の反応とか返事を聞くこともなく、周囲を見渡しながら次の出店を探していたレーヘンは、また俺のことをぐいぐい引っ張りながら次の出店に向かっていき。

 

 そうして気になるお菓子を、日頃のお礼のプレゼントという体で俺に渡し続けるのだった。

 

 ちなみに11個渡されて、ハズレは三個ありました。もちろんレーヘンはハズレを買うこともなく、美味しいお菓子だけを食したことは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

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