曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者 作:さらみパスタ
初代勇者は偉大な存在だった。魔王を討伐し人類を救った彼を記念し、世界は新たなる暦を産み出したのだ。『聖歴』それは初代勇者への敬意の表れである。
さて、そんな初代勇者は王国を建国したわけなのだが……。彼は自らの子どもの一人の継承権を剥奪し、代わりに聖剣の管理を任せた。それが後の聖剣守の一族である。
いずれ世界が危機に晒された時に聖剣を振るうーー次の勇者を産み出す役目を与えられた彼らは世俗に関わることを禁じられ、継承権を与えられず歴史の裏に消えた。
しかしそれは冷遇ではなかった。
『聖剣守』の一族は、国庫から予算が与えられ、自己練磨する義務と王の命令にさえ逆らう権利を与えられていた。
権力はなくとも権威はあるのだ。
偉大なる英雄の血を継ぐ存在であり、来たる日に世界を護る役割を背負うことになる救世主の一族。
敬われるのは当然だ。
つまり勇者の幼馴染ーーライフズくんは俺を遥かに上回る高貴な血を継いでいると言えるのだ。
ーーーーー
三人目の四天王を討伐した勇者一行はーー休暇を与えられていた。人類連合の暫定首都の中で穏やかに過ごす日々。しかし、勇者パーティーはただ時間を浪費していたわけではない。
魔族との戦いのために、自己鍛錬を行い、技術を研ぎ済ませる。パーティメンバーの皆は自発的に修行を行なっていたのだ。
神官長である俺も、兵士の治療の合間を縫って鍛錬に明け暮れていた。
だが、誰もが鍛錬漬けと言うわけではない。
俺も兵士の治療とか、生命エネルギーの錬成とか、レーヘンとかは買い食いとかイタズラとか日常を楽しんでいるわけなのだが。
ライフズくんも与えられた屋敷の中庭でほとんど毎日のように鍛錬に明け暮れている。……じっとしていられないのだろう。
彼は明らかに曇っていた。
先祖代々(曽祖父世代だけど)受け継いできた聖剣に選ばれるという役割を。よりにもよって魔王が世界を攻撃している今日、果たすことができず。
代役を果たしているのはよりにもよって幼馴染。
なんの権利を持たず、高貴なる権利を謳歌したこともない田舎娘が寿命を対価に聖剣を振るう『勇者』という役割を背負うことになったことは、ライフズ君のメンタルを耐えず圧迫しているのだ。
口さがないものには、彼が義務を果たせなかった無能と呼ぶものもいる。特に勇者レーヘンに救われ、後に彼女の払った代償について知ったものは必ずそんな言葉を口にすることもある。
でも幼馴染くんのことを内心で一番口汚く謗っているのは他の誰でもない幼馴染くん自身なのだろう。
「今日も精が出るね、ライフズくん」
「おはようございます、神官長」
彼はそんな自己嫌悪を鍛錬という形で昇華しているのだ。毎日休むことなく剣を振り続けている。
やばいかやばくないかでいえば、ヤバい。
なんとかしたいんだけどね、俺の専門外なのよ。
怪我だけでなく病気とかも治せるけど……精神系は完全に門外漢でどうすることもできず。
でもできることがきっとあるはず、と俺はちょくちょく様子を見に来るようにしていた。話すだけでも楽になることってあるからね。
ちなみに俺と彼は結構仲がいい。
一応初期からパーティーに加入した縁もあるし。
プライベートで交流することも多い。
「や、おはようライフズくん。相変わらず真面目だなー、なんか会うたびに鍛錬してるような気がするよ」
「うん、ほぼ趣味ってのはあるよね、鍛えるの楽しいからさ。おはようレーヘン……一週間ぶりかな?」
そんなある日のことだった。いつもの訓練場に、勇者レーヘンが姿を現していたのだ。
顔を合わせるや否や幼馴染特有の気安いやり取りが行われたわけなんだけど……。
あれ、一週間会ってなかったの?
と、俺は疑問を抱いた。
何せレーヘンとはこの最近毎日会ってるというか、うちの屋敷に足繁くやってきては遠慮なく部屋に上がり込み、飯をたかってきている。他の人ともそんな感じなんだろうなぁと勝手に予測していたのだが……。
ま、気まずいのはあるのかもしれない。
レーヘンが聖剣の莫大な力の対価に『代償』を払っていると信じる仲間達はーー曇っている。
だからなんというか座りが悪くて、少し距離を置いてしまう、そんな彼女の気持ちは痛いほどに理解できた。
「さて、今日きたのは他でもない、一緒に模擬戦するためーーだよ!」
「わかったレーヘン、やろう、一緒に」
でも。
そんな幼馴染の前にレーヘンは姿を現していた。
なぜ彼女がこうしてやってきたのかといえばーーライフズ君に自分の壮健さを知らしめるためであった。俺は察した。
『ボクこんだけ動けるんだから、『代償』なんて治ってるに決まってるでしょ』と。
なんとも脳筋極まるやり口である。
正直上手くいくとは思えない。
「こうして訓練するのはいつ以来かな? 最近は神官長のとこにばっかいるからね〜。ほぼあそこの屋敷の子みたいな感じなんだよね〜」
「……っ、そ、そうなんだ……」
だってこう言うこと言っちゃうんだもん。
幼馴染ライフズくんは、レーヘンのことが好きだ。
『自分が不甲斐ないせいで迷惑をかけてる彼女に好意を伝える資格はない』と、告白などはしてないようだけど、行動の節々で勇者さまへの想いが滲んでいる。彼の恋愛感情は周囲からすればバレバレ。
なんだけどね、レーヘンはそんなあまりにわかりやすい好意にまるで気がつかない鈍感系なのだ。
だからこうして『他の男と親しくしてます』的な発言をしてしまうのである。
恋の駆け引きじゃないからね?
関係を匂わせてるわけでもない。
ただ何も考えず、事実を口にしただけの単なるノーデリ発言ってわけ。
大丈夫かなぁ。
俺は不安で、首突っ込もうと決意したんだが。
「あのね、ボクを信じて、神官長。これで全てうまくいくはず! なんとなくそんな気がする」
その様子をすぐに察知したレーヘンは、ぐいぐいと距離を詰めてきて、幼馴染くんに聞こえないようにそんなことを口にするのだ。
レーヘンがそういい切るものだから。
俺は結局流されてしまうのだった。
ーーーーーーー
「にしてもこうして訓練するのっていつぶりだろうね、ライフズくん」
「数年単位じゃないかな、色々忙しかったし、レーヘンは身体を休める必要もあったからね」
幼馴染二人はそうして訓練を始めた。
ちなみに聖剣守の一族として、勇者候補として、幼少期から鍛え抜いてるから、ライフズ君は普通にめちゃくちゃ強い。
その剣技は剃刀のように鋭いし、また、多くの流派を収めており、魔法、剣技、弓術、癒しの技、他諸々を多数習得している。
『千の技術を使いこなす万能手』
そんな少年に錬成という道具を作り出す技能まであるときたら、そりゃ鬼に金棒と呼べるだろう。タンク、遊撃、回復、魔法攻撃、遠距離狙撃、戦況や敵の種類に応じて武器を変え役割を変え、勇者パーティーみんなのフォローを陰日向に行う名サポーター。
剣技一本で考えても複数の流派で免許皆伝。
技の引き出しが多く、他の兵士とは一線を画した戦闘力を持っている。
「じゃ本気で来てね、ボコボコにするから」
しかし、それを遥かに上回るのが剣を学び始めて数年のレーヘンとかいうぽっと出系勇者さまだった。
家柄は普通。
ごくごく普通の一般家庭出身。
こんなご時世だから剣を習い始めたという、どこにでもいる女の子。
彼女は控えめに言って天才。その剣技は身の毛もよだつほどに速く、巧みで、鋭い。
「もーそれは勘違いだって、ボクはこんなに元気だってのにさー、代償は治療されてるんだって」
「……くっ、はぁはぁ……」
レーヘンは身体の使い方が上手い。
余計な力を入れすぎず、無駄に大きく避けすぎず。攻守の切り替えが神がかっていて、打ち込んだと思ったら、霞のように剣は当たらず。
その隙にいとも容易く後の先を取る。
身体を完全に意図したように動かせるのだ。
さらに付け加えると空間認識能力も高く、間合いの管理も常軌を逸している。
「ほらほら、ライフズくん、そんな切り上げなんて当たらないよー。ちゃんと見えてるからね〜、視力もしっかりあるからね〜」
「くっ、レーヘンっ‼︎」
レーヘンとしてはウォームアップのつもりで打ち込んでいるのだろう。本気の動きとはまるで異なる準備運動のような猛攻。
それをなんとか凌ぎ続けるライフズくんの呼吸は既に乱れていた。最初は長物を使っていた少年は切り結ぶたびに獲物の長さが短くなっていく。戦斧、長剣、片手剣。
間合いを詰められているのだ。
確かにライフズくんは、あらゆる手段が許される戦場に於いてその真価を発揮するタイプではある。剣で戦いつつ間合いを取った相手には弓を射て、時に魔法で面攻撃するなんてね。
模擬戦とか試合とかではその実力は十全には発揮されない。しかしそれでもその試合運びはあまりに一方的だった。
それは純粋な才能の差だった。
レーヘンという今代最強の天才剣士に、『千の技術を使いこなす万能手』でも叶わない。
一方的に追い詰められていく。
そんな戦闘の最中のことだった。
圧倒的に優位に試合を運んでいたはずのレーヘン……その動きがあからさまに乱れ。
ライフズくんに一本取られたのだ。
「……レーヘンごめん、大丈夫?」
「あてて……ちょっとストップ。神官長、ちょっといいかなー」
レーヘンはちょっとたんま、と手で静止し。
小脇で見ていた俺の元にトコトコとやってきたのだ。まるで肘を庇うような動きをしている。
そしていつものとは逆の手で俺の服の袖を引き、物陰に向かう。
「ちょっと肘が痛くて、治してもらえる?」
レーヘンは服の袖を捲りながらそう告げた。
流石にボコボコにすると言っても、魔族を惨殺してきた本気の攻撃を仲間にするわけがない。威力は抑え、怪我をしないようするという配慮はあったのだろう。
しかし自身の健在を示すために動き自体は本気のものだった。レーヘンの剣は全身運動で振るわれている。だから腕の力を抜くのではなく逆方向に力をかけて威力を下げていたのだ。
だから身体への負担が強く筋を痛めてしまったのかな。俺はそう診断を下しつつ、手早く回復する。
「あー、なるほど確かにそうかも」
俺はなぜ彼女が筋を痛めたのかの解説を口にする。原因を推察しないとまた同じことが起こるからね。
レーヘンの剣は戦場で鍛えられた生粋の殺しの剣だ。訓練をしたことがあるけれど、スポーツの試合のように相手を殺してはいけない状態で本気で剣を振るったことがないため、こういう時の勝手がよくわからなかったのだろう。
「よし、反省! でも突然そんなこと言われても直せないし、仕方ないからここはボコボコにしても治るサンドバ……げふんげふん、神官長を相手にすることにしよう!」
レーヘンは特に気にすることもなく、俺を対戦相手に指名した。生意気な小娘ムーブであるが……まあいい。
「別に構わないけど、でも訓練を始める前に事情を説明するぞ? 黙っていたらあらぬ誤解を生みかねないしさ」
「えー、ボクにも面子ってものがあるんだけど!」
勇者はごねた。
どうりで「筋を痛めた」こと言わないわけだよね。
本人なりに負傷を隠してるつもりだったのだろう。
ちょっとあからさまで全く誤魔化せてはないわけなんだけど。
そしてこういう場合、隠した方が問題になる。
絶対『勇者レーヘンの身体は実はボロボロで、あちこちにボロが出てる』みたいな疑念を抱かれかねない。
俺は馬鹿ではない、隠せないことも、隠した場合に起きることも大体予想がついていた。なのでレーヘンを根気強く説得し。
「わかったわかった、それでいいですー……でもちゃんと責任はとってよね、神官長さー」
「わかってるって、あと姫さまを呼ぶ。ライフズくんの訓練相手が必要だろうからさ」
「まー……そうだね、任せるよ」
というわけで俺たちは元の場所に戻り。
ライフズくんにも事情を説明した。
報告、連絡、相談は大事なことだ。
何かを隠している、なんてことを気取られてあらぬ疑惑が芽生えないようにあらかじめ手を打つべき。
というわけでなぜレーヘンが肘を痛めたのかという詳細な説明とその対策について医学的見地に基づいてしっかり説明し。
俺を相手に再び鍛錬を再開し始めーーようとしたのだが。
先ほど述べたばかりだがレーヘンの誤魔化しは、周囲の人たちからすればあからさまだった。絶対に何かが起きて、回復されたってことはライフズくんも理解しているわけ。
当初は痛みを隠していた勇者さまが、帰ってきたら態度を一変、事細かく事情を説明し始めたことに違和感を覚えると言ったらまあ、そうだろう。
「神官長、レーヘンは無理をしてるのではないですか?」
だから俺は詰められていた。
俺は勇者レーヘンの負傷を誤魔化す手伝いをしているという疑惑を方々に抱かれてるようだからね。『全ては人類救済のための必要な犠牲』とか考えてると思われてるっぽいからね。
つまり、俺はレーヘンと裏でコソコソ、『彼女の肉体的な不調を誤魔化すための言い訳を一緒に考えていた』と思われてしまうのである。
「あれだけの動き、対面してわかりました。身体に相当負担が強いはず。筋も関節も悪くなっていく……あなたとてわかっているでしょう、神官長!」
「ライフズくん、世に常軌を逸した天才はいる。レーヘンがそうなんだ、負担とかないんだよ、あの動きにはさ」
華奢な身体を存分に用いるレーヘンの剣技は肉体に多大な負荷をかける。あれだけの動きを成し遂げ続けるなんて相当無理をしてるのではないか。
ライフズくんはかなり深刻な顔でそう尋ねてきていた。多彩な技術を習熟しているからこそ、そのデメリットもよく知っている。
膝や肘、筋というものは消耗品だ。
無理をすればするほどに、ダメージは蓄積していく。このままいけば、レーヘンはやがて歩くこともできなくなるのでは?
そんな疑念を抱いているのだ。
勘違いである。
先に言っておくと彼の理屈は正しい。
武術とは、人体という同じ構造の肉体をいかに運用するかの技術である。であれば身体に負担がかかる動きも皆同じ。
レーヘンの動きを他者が真似すれば身体を壊す。
その理屈はまったくもってその通り。
なんだが、だからレーヘンが無理をしているというのは勘違いである。
ヒーラーとして言わせてもらうと、レーヘンは別に負荷が蓄積してるとかそういうことはない。なぜかというとレーヘンは天才だからだ。
いや、ほんとにそうなのよ、俺も最初知った時はびっくりしたんだけどね? レーヘンは身体の動かし方が天才的でーー各部位に無理な負荷がかからないような調整を無意識に行っており、彼女の筋、関節は消耗なんてしていないのである。
ま、してた場合も俺が治せるんだけど。
「常識的に考えたらそうだけどね、レーヘンは常識外の存在、勇者さまなんだ。本人もなんともないって言ってるだろう?」
まあともかく。
現人類で他にできる奴はいない。
歴史上でもいないんじゃないかな?
武術の常識とはかけ離れた天才。
それこそ勇者レーヘンである!
ちなみにそうやって各種部位に負担をかけつつ回復魔法で回復させるってやり方をしてるのは実は俺だったりする。おかげでいわゆるリミッターを超過できる俺の身体能力は高く、近接戦闘技術も極めて高い。
……自己回復によるゾンビ戦法込みでレーヘン以下だけど。
「だから大丈夫、ライフズくんは心配しすぎさ。勇者レーヘンは本当にとっても元気なんだから、余計なことに気を悩ませるべきではないよ」
「……あなたはいつもそう言いますよね……そりゃ、世界を救うためなら必要なことなのかもしれませんけど……でもっ!」
ま、ともかく。
だから幼馴染くんの発言は俺に該当するわけ!
そんな俺は今まさに詰め寄られてるんだけどな‼︎
いや治してるから問題ないんだけどね?
後遺症とかもないんだけどね?
でも一応自己犠牲じゃん?
治るとは言っても削ってるのは確かじゃん⁇
かわいいかわいい弟分のライフズくんは俺のそういう献身には全く気がついてくれないのである……。
いや、俺はレーヘンと違ってしっかり隠し切ってるから知らなくて当然なんだけどね? 変に心配されたらそれはそれで罪悪感あるんだけどね?
でも全く気が付かれないのは、ね……。
でもいいんだ、俺にはルーテシアがいる。
『オタクに優しくしてくれる巨乳で清楚だけど実はエッチなお姉さん』はもちろん俺の自己犠牲にも気がついてくれる。
だって彼女は俺の理想の女の子なのだから。
ーーーーー
「みたいなこと考えてたでしょさっき。でも神官長もさ、治ってるとはいえボクの代償の扱い軽いわけじゃん? 神官長ってボクのことチヤホヤしてくれたことあるっけ」
「ぐぅ……」
「それなのに自分の自己犠牲? は曇ってほしいんだ……へー、ほー、ふーん……」
「男ってのはそういう生き物なのさ」
その日の帰り道のことである。
俺は論破されていた。
図星を突かれ反論もできない、
見事な指摘であるわけだが。
勇者レーヘンの『実はレーヘン全然元気なんだよ!大作戦』は大失敗で終わった。誤解を解くどころか、あらぬ誤解が広がっただけで幕を閉じていた。
ライフズくんはますます曇っている。
彼からすると幼馴染のレーヘンが無理をしてることーーに加えて、自分が試合の中で幼馴染の不調に気がつかず攻撃してしまったことへの後悔も根強かったのだろう。
大好きな女の子の苦しみに気がつかなかったこと。
そんな相手を攻撃してしまったこと。
それは年頃の男の子には耐え難き苦しみだ。
全部勘違いなんだけどね?
でも誤解を解くことはできなかった。
訓練はその場で終了し、俺とレーヘンは逃げるようにその場から立ち去っている真っ最中なんだが。
勇者レーヘンは自己の短慮で周囲を曇らせたことを反省もせずそんな言葉を口にしていた。
先ほどの幼馴染くんとの会話の最中、レーヘンは俺の顔を見て何を考えてるのかを察していたのだろう。曇りに曇る幼馴染への配慮もしないでな!
「……レーヘン、お前の自己献身は美しいな、いい匂いもする。本当に哀しくもすばらしいものだね」
「うわっ、きしょ……みてみて鳥肌立っちゃったよ神官長。似合わない真似するんじゃないね」
俺は天を仰いで冗談めかした言葉を吐いてから。
本題を切り出すことにした。
「さてレーヘン、現実逃避はやめよう。俺たちは失敗したんだ。疑惑は解けないばかりか……深まってしまった」
「うっさいなー、やっぱ隠すべきだったじゃん! へんに情報を明かしたから誤解されたんじゃん‼︎ 神官長のおたんこなすー!」
やらかした、その自覚はあった。
代償を払ったとか、魔族との戦いではないから油断していた。こういうなんてことない日常にも曇らせ展開は巻き起こるものである。
だが、大事なのは過去を悔やむことではなく、前を向いて失敗を明かすことにある。
次はこういう自体が起きぬように気をつける。
それが反省する、ということなのだろう。
「じゃ、次は気をさらに使うことにしよう、な」
「もー、神官長の責任は重いよ? ……これはしっかり責任とってもらわないとだね」
そして彼女はニヤリと笑った。
悪戯っ子のような、いつもの顔。
レーヘンも切り替えはかなり速いタイプだ。
過去のことをいつまでもクヨクヨしない。
つまりこれが何を意味をしてるのか、と言うことだ。
「……今日は反省会するからまっすぐ帰るぞ」
「えー、ちょっと屋台でなんか食べようよ! ボク訓練頑張ったんだよ? 食べたい、食べたい、おごって、おごって!」
これはご飯奢ってというサインだ。
これなら幼馴染くん連れてくるべきだったな。
ご飯食べようぜとか、誘って奢ればよかった。
流石にこのレーヘンのおちゃらけてる姿を目にすれば、シリアスな空気が勘違いであるとわかるだろうに……。
本当にままならないな。
『おごって!』とかまるで俺におねだりしてるようなこといいつつ、腕を引っ張り屋台街に向かう勇者さまに抗うことを諦めた俺は、そうしみじみと考えるのだった。