曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0099 6月18日

 

 

 

 勇者パーティーの姫騎士ワイス。

 

 彼女はかつて、大大陸に存在した大国の姫君だ。聖歴以前から脈々と血が受け継がれている由緒正しい国家の生き残り。

 

 後に元号になった伝説の英雄ーー初代勇者に嫁入りしたのはこの国の王女であった、と聞くと彼女の血統の重さを理解していただけるかもしれない。

 

 そういう点で初代勇者の血筋である『聖剣守の一族』であるライフズくんとは遠縁の親戚にあたるのか。それが縁で二人は実はそこそこ仲が良かったりするんだが……まあいっか。

 

 祖国滅亡の戦いの直前に、家臣達の口車に乗せられ亡命させられたのだ。ちなみにその家臣達のほとんどが姫騎士が亡命するための時間を稼ぐために戦死している。

 

 そんな家族や部下の末期の願いを背負い祖国を復興することを望む亡国の姫だが……悪い人ではない。少なくとも最前線で敵と戦ってるし、祖国復興を逸るあまりにパーティーメンバーを危険に晒すこともない。

 

 そんなワイス姫の役割はーー敵の攻撃を受け止める盾役だ。高貴な姫を盾代わりに用いてるわけだが……まー才能あるからね。

 

 その特異な腕力は、王家に先祖代々伝わる形質らしいが……パーティー随一の剛腕の持ち主なんだが。その腕力を重装備を纏うことに利用している。

 

 巨大な盾に、堅牢な全身鎧。

 常人なら動けなくなるような重装を身につけているにもかかわらず、彼女は機敏に戦場を駆け回り敵の動きを押さえ込む。

 

 その防御性能は極めて高い。

 普段はあまり仕事がないのだが『四天王戦』のように致命的な攻撃をしてくる強敵との戦いでは姫騎士は必須の人材だ。

 彼女がいなければ誰かしらが死んでいたのは確実だろう。

 

 勇者パーティーの頼れる盾役。

 そんな彼女と俺は実はよく言葉を交わす。

 なぜかというと盾役はよく負傷するからだ。

 

 

「感謝いたします、神官長さま」

 

「お気になさらないでください、ワイス姫」

 

 

 ま、怪我自体は戦闘中に治してるけど。

 さらに細かな、いわゆる美容的治療で跡や皮膚の変色も残らぬようにしっかり治してるわけ。彼女は女性だし亡国のとはいえお姫さま、傷跡を気にするタイプだからね、レーヘンとは違って。

 

 それはそんな戦闘後の日常。

 全身鎧、そして鎧下着を脱いだ、少し肌面積の多い格好をしている姫騎士、その肌に残った痣や傷の治療を手早く行っている時のことだった。

 

 

「あれれー姫さま、こんなとこにどうしたの?」

 

「なんでもありませんわ、レーヘン。神官長殿、ではまた」

 

 

 姫さまも割と怪我は隠すタイプだ。

 特に妹のように想っているレーヘンには。

 自分が怪我をしたから治療してもらったーーみたいな話も仲間達にはしたがらない。

 だから姫さまはレーヘンの姿を見たと同時にそそくさと服を羽織り、自分の部屋に帰って行ったのだった。(ちなみにその間に治療は終わった)

 

 

「何してたのさ、二人とも」

 

「怪我というか傷跡の治療。お前に前やったのと同じだよ」

 

 

 ま、言うけどね。隠したい気持ちもわかるけど旅の仲間にはどういう怪我をしたかなどの情報は共有するべきだ。俺は姫君の秘密を遠慮なく暴露した。

 

 

「あんな格好させといて?」

 

「戦闘後に鎧と鎧下脱いだだけだぞ、で治療終わったら普段着を着るって流れだからな」

 

 

 なんだが……レーヘンは何やら疑ってくるのだ。

 俺は気位が高い姫さまのことは友人としては好ましく思ってるけど恋愛、性愛の対象ではない。

 

 それは向こうと同じだ。

 俺のことは頼り甲斐がある神官だと思ってるし、何かあれば腕を犠牲に護り抜く覚悟ではあるし(前の四天王戦での実例)友情もあるけど。

 

 恋愛、性愛の対象ではないのだ。

 というか姫さまって好きな人いるし。

 

 

「えーでも女の人がその、好きでもない人に肌を見せるかなー、あやしいなぁ……」

 

「怪我したら医者には見せるだろ、あと姫さまは跡とか気にするタイプだからな」

 

 

 悪くいえば俺の回復の腕前を信頼し切っておらず、治癒の過程をしっかり確認したがっている感じかな。ただこういう誰かを悪くいうような内容は子どもにいうべきではない。

 

 あと姫さまはなんていうか……異性に肌を晒すことへの抵抗が少ないというか色々経験済みというか……。

 

 ま、ともかく、俺個人としては傷跡の確認をされることに特に不満とかはないしね。俺含めたみんなを守るためについた傷なんだし。

 

 ちなみに姫騎士の恋のお相手はーー実はライフズくんだ。『キテる』素振りを見せることがたまにあるからね……モテる男の子は辛いねー、と思わずニマニマしてしまう。

 

 レーヘン←ライフズ←姫騎士。

 

 これが勇者パーティー内の恋愛事案だ。

 ライフズくんの好意は傍から見てもわかるくらいに露骨で、姫さまの好意は察しが良くないと気が付かないくらいに隠されている。

 

 

「なんだよー、その気色悪いな笑み」

 

「悪い悪い、ちょっと色々と思い出してさ」

 

 

 俺そういう、イチャイチャ見るが大好きだ。誰かの幸せそうな日常を見ると、俺も多くのものを犠牲にした甲斐があるし。

 微笑ましくてニヤついてしまうわけだが。

 

 まあそれはさておき。

 レーヘンはなんていうかなんか男女が一緒にいたからあやしい、と疑念を抱いてしまったらしい。探るような瞳であれこれ不躾に尋ねてくるわけなんだが……。

 

 

「むー、神官長下心出てるでしょ、その……姫さまのこと好きなの?」

 

「お前は俺の好み知ってるだろ」

 

 

 一応設定イラストとかも書いたからね。

 俺の最愛の女性ルーテシア。

 

 『オタクに優しくしてくれる巨乳で清楚だけど実はエッチなお姉さん』

 彼女は姫さまと全然違っている。

 髪型も容姿も何もかもが。

 

 

「……もしかして、まだルーテシアのこと忘れてなかったの?」

 

「夢は追いかけるものさ、諦めることなんてできやしねぇから『夢』なんだ』

 

 

 流石に魔王討伐と冒険の最中に、理想の女の子を製造するつもりはない。なすべきことは山のようにある、レーヘンの代償の補填としてのエネルギーや、重傷を負った兵士の回復。

 

 大いなる力には大いなる責任が伴う。

 俺に与えられたこの力は今は公共のために使われるべきだ。

 

 でもそれはずっとではない。

 

 魔王討伐を成し遂げたその時、俺は理想の女の子とイチャラブハッピーエンドを迎える。ま、死なずに戦後を迎えられたら、だけど。

 

 

「はー、神官長は本当にダメなやつだよねー」

 

 

 俺は一切隠すことなく紡いだ男の本音。

 それは年頃の女の子には受け入れ難いものなのだろうが、何度も何度も聞かされてきたレーヘンは呆れたようにこう呟くだけだった。

 

 

「それ他の人に言っちゃダメだからね? ボクはまあそういうのは全然気にしないけどさ」

 

「いうわけないだろ、姫さまとかにバレたらガチ説教がスタートするんだ、お前も絶対に姫さまに密告するなよ」

 

 

 レーヘンはそういうの全然気にしない……し、もう全部バレてるから明かしてるけどね、俺にだってキャラがあるからね。

 姫さまとかには絶対に言えない。

 絶対小うるさい説教されるもん。

 

 先に言っておくが、俺と姫さまには友情はある。でもだからこそ厄介というか。姫騎士は関係の薄い相手には何も言わないが、親しい相手の行動はしっかり嗜めるタイプ。

 

 そして姫さまはオタク趣味に理解なんてしていない。『理想の女の子を造るなんてせず、現実の女性と交際するべきでは? 子を残すことは王族の義務ですわよ』とか激詰してくるからね……。

 

 

「あのね、神官長、その呆れた眼差しは何なの? 呆れるのボクの方なんだけどなー」

 

「いやなんていうか、レーヘン、お前にも男女が二人でいる=交際してるのではって疑うおませなとこあるんだなって」

 

 

 でもレーヘンがそんなこと言うなんて予想外で、ついそんな言葉を口にしてしまう。

 もちろんいい意味でね?

 

 レーヘンに恋愛に興味を示す情緒が確認できたことは俺としては良かった。なんかもしかしたらレーヘンって無性愛者かなと思ってたからね? 彼女の幼馴染の想いが叶わないなんてことはなさそうだ。

 

 

「……ボクだって女の子だから色恋に興味くらいあるに決まってるじゃん。あそこの二人は付き合ってるのかなーとか色々興味を持つのは当たり前の話だと思うけど」

 

 

 恋とかより今日の晩ごはんに興味が深々で、周囲の『キテる』光景にもろくすっぽ気が付かぬ鈍感女子に、恋させるのは困難なんだろうけどね。

 

 

「よく二人っきりになるしそれは好意があるのかな、とかさ、姫さまはあんな美人だしスタイルも良いわけだしさ、神官長も少しは意識しちゃうかなとか思うの当たり前でしょ、というかそういうことを鈍感なキミがいうことかな、おかしくない?」

 

 

 レーヘンも恥ずかしそうに、超長文でお気持ち表明をしていく。こういうの恥ずかしがる感性もあるんだ、俺は新たな発見に驚きながら、この手のからかいは禁句なんだな、と理解させられたのだった。

 

 

ーー聖歴0099 6月29日 ーーーー

 

 

 勇者一行が暫定首都近隣の森に出撃を命じられたのは、全ての四天王を討伐し、ついに魔王を討つために準備を整えていたまさにその頃のことだった。

 

 戦線は押し上げられ続けた結果、今では最前線から遠く離れているはずの暫定首都。その近隣の森に魔族の部隊が迫っていることが突如判明したのだ。

 

 数年前に発生した暫定首都への大攻勢が脳裏をよぎったのだろう。人類連合首脳陣は即座に動いた。勇者パーティーへの依頼は日常を謳歌する中、突如通達された。

 

 もちろん俺たちは即座に動いた。

 わけなのだが……。

 

 それは杞憂であった。敵兵はいた、ただその軍勢の数は大したことがなかった。ま、大隊だから多いんだけど……三、四百人程度。

 レーヘン一人で皆殺しにできる程度の烏合の衆で。

 なんなら暫定首都を防衛する部隊でも容易く殲滅可能な程度の敵でしかなくーー俺たちはその場で彼らの殲滅を行なっていた。

 

 前衛は三枚。

 レーヘン、姫騎士、ライフズくん、

 後衛は二枚。

 俺と、魔法使いさんだ。

 

 さてそんな戦いなんだが……俺の視野の中で黒鉄の巨大な盾が火花を上げながら敵魔族を吹き飛ばしていた。

 

 シールドバッシュ。

 巨大な盾を相手に叩きつける、それだけの技も姫騎士の剛腕さえあれば必殺の技へと変化を遂げる。顔面を鋼壁に叩きつけられた魔族の指揮官の身体、首は異様な方向に曲がっていた。

 

 戦闘は終わりに近づいていた。

 

 勇者レーヘンばかりに戦わせまいと、ライフズくんや姫騎士はかなり積極的に前線に上がっている。先日の『勇者レーヘン実は身体ボロボロ説』は彼女の耳にも届いてしまっているのだろう。

 

 回復役の俺は一歩下がりつつ戦況を確認しているわけだが、特に危うげなく勝敗は決しそうだった。

 勇者パーティーは一応人類の上澄みなのでみんなめちゃくちゃ強い。ま、流石に勇者レーヘンほど無法の強さをしているものはいないんだけどね。

 

 そんな最中のことだった。

 

 最後の一人となった魔族の男がなにやら、爆発物のようなものを手に特攻してきたのだ。狙いは姫騎士、飛びついて我が身もろとも爆殺しようとしていて。

 

 

「ほら、姫さま危ないよー」

 

「すみませんレーヘン、感謝いたします」

 

 

 そんな魔族をレーヘンが叩き切った。

 こういうカバーもパーティー戦では大事な仕事だ。

 ライフズくんも武器を弓に変化させてたし。

 魔術師も油断なく周囲や見据えてたからね。

 俺も置きヒールしといたので爆発しても怪我はなかったし。

 

 

 「くぅ……ごめん、神官長回復お願い……」

 

 「れ、レーヘン大丈夫⁈」

 

 「……っ、ごめんなさい、わたくしの無能のせいであなたにまた無理をさせました。ごめんなさい」

 

 

 と、完全勝利……と思いきや。

 レーヘンは脇腹を抑えてうめくようにそう告げたのだ。

 明らかに強い痛みを感じている。

 

 ざわりと勇者パーティーの空気が一変する中で……俺は思わず天を仰いだ。先に言っておくが俺は回復術を極めている。

 

 だから割と一目で誰がどういう傷を負ってるのかわかる。

 

 レーヘンはお腹を痛めていた。脾臓がヒクヒクしており、血流を絞り出そうとしている。これはつまり『食事直後に運動した時脇腹が痛くなる現象』だ。

 

 この前買い食いした後、お腹いっぱいになった後で、豚の背脂を揚げたものを売ってる出店を見つけたからね。

 その時じーっと見てたから……。

 おそらくこっそり食べていたのだ。

 

 食の好奇心が旺盛なレーヘン、しかし彼女は鉄の胃袋を持っているわけではない。年齢や性別の割にはよく食べるけど、男顔負けってほどでもない。

 

 つまりそういう料理を多めに食べると胃が痛くなる繊細さを兼ね備えているのだ。

 

 そして、それは耐えられる痛みだった。

 勇者レーヘンは必要とあれば、多少の痛みは我慢できる。四天王戦の時とか割と骨とか折れたりしてるけど動きに変化はないくらいなのだ。

 食後直後に運動したことによる脇腹の痛み、

 戦闘に支障はきたさない。

 

 ただ戦いが終われば我慢も終了ーーってことだろう。

 

 俺は秒で腹痛を治した。

 とはいえ万が一があったら困る。

 念のためにレーヘンを物陰に連れて行き問診をする。

 

 

「食べ過ぎたな? あの豚の背脂揚げたやつ」

 

「だってボク豚の脂をカリッカリに焼いたやつが大好きじゃん? じゃ、食べるしかないじゃん! 超おいしかったしさ‼︎」

 

 

 レーヘンは感動を伝えるように大きく身を揺らした。そこに後悔の色なんてなかった。美味しそうな物をぱくついたことへの罪悪感も存在しない。

 

 まー、今回の依頼は突然のものだった。

 だから『そんな脂っこいものを食べるな』なんていうことはできない。というかレーヘンも戦闘前は粗食を口にし、内臓に余計な負担を残さないようにはしてるからな?

 

 だから戦闘後は、存分に脂っこい料理に舌鼓を打つ、みたいなパターンになってるわけなんだが……。

 

 

「だからさ、だからさ、今度さ、そのさ、神官長も食べ行こうよー!」

 

 

 悪戯っ子のような身振り手振りで感動を伝えてくるレーヘンなのだが、彼女の悪戯っ子のような顔は即座に取り繕われた。

 

 

「神官長さま、少しよろしいかしら?」

 

「あ、姫さまも治療してもらうの? あれー、どっかぶつけたのかな、ボク見てる限り怪我とかしてなかったように見えたけど……ってごめんごめん、変に探るのよくないよね、あははは〜」

 

 

 レーヘンの口数は必要以上に軽かった。

 誤魔化すかのようなその態度。

 

 なにせ、今回の腹痛は脂っこい物を食べて急に運動したことで痛くなったと正しく理解しているからだ。

 

 

「……では少し、向こうで話しましょう」

 

「え、ここでよくない? どうして向こうに向かうのかな? 別にボクの前で治療すればいいと思うんだけどな〜、いやほら誰かしらが護衛しといた方がいいでしょ? 周囲に敵が隠れてるかもしれないわけだしさ」

 

「いえ、あなたは治療されていたでしょう? ライフズに護衛を頼むので問題ありませんわ ……身体を大事にね、レーヘン」

 

 

 こんな情けないことバレたくない。

 夜更かしして、お菓子ぱくついていたことを親に叱られたくないあまりに変に誤魔化す子どものようだった。

 別に隠すことはないんだけどね?

 今回で言えば怒られることはしてない。

 

 というかむしろ逆。

 レーヘンのその何かを隠すかのような口数の多さをーー旅の仲間達はみーんな理解している。だから『レーヘンは何かを隠そうとしている』と疑念を抱かれてしまったのである。

 

 そして頼れる仲間達は、結論を導き出していた。なぜレーヘンは突然痛みを訴えてたのか。それは内臓機能に何か問題が出たからではないのか、と。

 

 

「さて、ここならいいでしょう、レーヘンにも聞こえないでしょうし……ねぇ神官長さま」

 

 

 俺は姫騎士に引っ張れ、別の物陰に連れてかれた。

 ま、他のメンバーは周囲の残党の確認などをしているので、レーヘンの体調についての説明会には参加していない。

 

 

「レーヘンは戦闘前に買い食いをしていたようなのですが……それがどうにも脂っこいものだったようで、消化不良を起こしたんです」

 

 

 俺は速攻で乙女の秘密を暴露した。

 隠したい気持ちはわかる、でも変に心配かけるよりはマシだ。流石にレーヘンが悪いとは言えないけどね。でもより大いなる善のため、俺は一切の配慮をせず事実を述べた。

 

 なのだが……。

 

 

「嘘ですわね?」

 

 

 姫騎士はそう断言したのだ。

 その瞳にあるのは確信だった。

 彼女の雰囲気は鋭くなる。

 声のオクターブが一つ下がり、どこか恫喝的な響きが滲み始めている。

 それはまさしく氷の姫だ。

 

 余裕がないのだ。

 皆を守るための盾である自負がある姫騎士にとって、自分を守るためにレーヘンが『ボロボロの身体で無理をした』と考えて曇っているのは明らかだった。

 疑念はもはや確信と呼べる領域に至っている。

 勘違いなのに、だ。

 

 

「誤魔化さないでくださらない神官長さま。いくらわたくしが愚かであるとはいえ、そんな嘘で丸め込まれると思っているので?」

 

「俺がそういう嘘を言ったことがありますか? これは真実ですよワイス姫、レーヘンは元気いっぱいで、その身体は活力に満ち満ちている、信じてください」

 

 

 キラキラした瞳で俺は力強くそう告げた。

 が、姫騎士の疑念はまったく、これっぽっちも解消されていないっぽいのである。

 

 

「とても信じられませんね、あなたは嘘つきですから。昔よく宮廷にいた家臣たちとよく似ておりますの、神官長さま」

 

「素晴らしい家臣に恵まれていたんですね?」

 

 

 自慢だけど俺誠実だからね? 

 しかも自己犠牲に躊躇いのない高潔な男。

 自惚れではなく事実として、俺は自分のやりたいことを犠牲にして公共に尽くしているわけ!

 

 

「ええ、それは本当に。『国家のため』、『よりよい明日のため』と皆励んでおりました。ですが大義のためならなんでも犠牲にしてしまえる彼らのこと、わたくし実は大っ嫌いでしたのよ?」

 

 

 姫さまはそう言い残して立ち去っていった。

 今は戦闘後とはいえ、暫定首都への報告や敵部隊の目的の確認などやるべきことは山のようにある。悠長に会話してる暇などないからさっさと会話を切り上げたのだろう。

 

 ただ絶対勘違いされてるな、これ。

 俺、自分以外の必要な犠牲とか出せないタイプの不器用な善人だからね? だから最善の手段を選択することができないんだけどなぁ。

 

 

「いや神官長、ボクの犠牲しれっと無かったことにしないでくれない? 出してるからね、現在進行形で」

 

「お前の犠牲を俺の犠牲でなんとかしてるわけなんだけど、レーヘン」

 

 

 木陰からまるで猫のようににゅっとレーヘンが姿を現したのだ。

 

 

「神官長さー、ボクの秘密バラしたでしょ」

 

「そりゃ、変に心配かけるより何倍もマシだろ? 『うまく言いくるめてくれるならまぁバラしてもいいか』と思っているだろうに」

 

 

 どうやらこっそり俺たちの会話を監視していたらしい。秘密を暴露されたくなかったのだろう。ムスッとした顔の勇者さまは今日も今日とて元気いっぱいだった。

 

 特に不調とかもない勇者さまのお姿に俺は思わず天を仰ぎ、即時に言い訳を口にする。

 

 

「むむっ、それはそうだけどさ」

 

 

 レーヘンはまあ、見栄っ張りだが仲間意識はある。いたずらに心配をかけてることに申し訳なさも感じている。

 

 俺が上手いこと言いくるめてくれるなら。

 秘密を開示してもいいとも思っている。

 

 

「ボクもそう思うよ? でも最初にそれいう? 『秘密をバラしてすまない、レーヘン』とか謝罪を口にするのが先じゃん?」

 

 

 ムスッと口先を尖らせたレーヘンはそのまま躊躇うことなく距離をつめ、べたぺたと胸板を触ってくるのだ。叩くじゃないからね、ま、こういう態度こそ彼女の本心『いうほど怒ってないし、それが必要だとわかってもいる』ことを示唆していた。

 

 

「ボクは品位に溢れる勇者って評判なの! そんな屋台で買い食いして、それをぱくついてたせいでお腹痛くなったなんて言えないの‼︎ というか姫さまに説教されるからね?」

 

「今回は仕方ないって、姫さまも怒らないだろ。怒られたのは俺なわけなんだけど? レーヘン、何かいうことはないかい?」

 

 

 ま、祖国奪還を願う姫さまにとって、自分を守るために死んだ廷臣達に似てるってのは割と結構な褒め言葉でもあるんだけどね。

 

『多くの人々を護ることが必要なこととはわかっています。それが正しいことも、わたくしが守られる側にいることも。これが個人的な感情であることも、でも可愛い妹分のレーヘンを犠牲にするなんてイヤです!』

 

 翻訳すると大体こんな感じだし、俺も誰かのことは誤解はすることはあるので許してやるわけなんだけどね? 

 そんな深い暗喩は田舎娘には荷が重かったようだ。

 

 

「いやいやいや、ボク悪くないからね? 悪いのはこんな突然襲ってくる魔族じゃん? お腹痛くなったの生理現象じゃん⁈ さらにいうなら勘違いした姫さまじゃん‼︎」

 

「お前が悪いとは思ってないよ? ただ頑張った俺にかける言葉は何かないのかなーって思うわけよ」

 

「んー、じゃご飯奢ってー」

 

 

 わいわいと元気いっぱいに騒ぐレーヘンは自分の秘密を勝手に暴露されたことへの不満なんて全く忘れてしまっているようだ。

 ちょろいな。

 俺は心底そう思うのだった。

 

 ちなみに魔王軍の行動は、やぶれかぶれの攻撃であったようで、何かしらの軍事作戦的な要素は見られなかった。魔王軍は追い込まれている、そんな判断を人類連合中枢が下すのは当然であり、それはきっと正しい考えだった。

 

 そろそろ戦争は終わるーー或いは魔王との最後の戦いが、始まろうとしていた。

 

 

 

 

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