曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者 作:さらみパスタ
勇者パーティーメンバー。
最後の一人、魔法使いバックル。
彼は飄々としたナイスミドルだ。
勇者パーティー最年長で、特に勇者レーヘンの保護者代理であると自認してたりする。
大大陸に存在していた超大国に存在した魔法学園の教師をしていた魔法、魔術のエキスパート。
その魔術の腕前は世界屈指。
実は近接戦も嗜んでいて、格闘術も得意。
ま、そんな魔法学園が存在する超大国もまた、初期に魔王軍に侵攻を受けており、甚大な被害を出している。
ちなみに勇者パーティーの足である移動拠点はこの超大国で開発されたもので。魔法使いバックルが維持、管理、整備をしている。
時々ライフズくんが手伝っているらしい。自分たちの足なんだから皆で管理するべきなんだろうけど、この手の機械は専門知識がない者が下手に弄ると壊れる。
だから彼らに丸投げするしかないのである。
ちなみに自宅で研究などに勤しんではおらず、暫定首都中央にある官庁にて人類連合から依頼されたさまざまな魔道具の管理、修繕などを行っている。
それくらいの、人類連合内では最高峰の魔法のエキスパートなんだが、スパナを持ってタバコを咥え、整備に勤しむダンディーなナイスミドルの姿を目にして、彼が『魔法使い』であると判断できるものは少ない。
「どうかしたのかい、レーヘンの嬢ちゃんに、ゾニ坊。おじさんのことじーっと見てるようだけど」
「いやー、えっとその、こういうの見るのも新鮮でさー」
「手紙待ってるんですよ、機密文書扱いされてるっぽくてしっかり管理されてるんですけど。それを待ってる感じです」
さて、そんな整備を勇者レーヘンはポーッと見つめていた。暇を潰すように足をぶらぶらさせてるもんだから。魔法使いバックルは何かしらの魔道具の整備を一時中断し、目線を上げた。
なぜ俺とレーヘンがこんな場所で暇を潰しているのかと言えばーー答えは一つ、手紙を待っているのだが……レーヘンはそれを誤魔化そうとする素振りを見せていたのだ。
みなさん疑問を抱かれるだろう。
なぜ、勇者さまはそれを隠したのか。
そして、なぜ俺の背中を現在進行形でボコスカ叩いているのか。
ーー聖歴0097 6月23日ーーーー
それは勇者パーティーが大大陸に上陸して七ヶ月が経過した頃のことだった。
魔界最強の男を撃退してから、魔王軍の動きは明らかに翳っている。人と魔の境界線は徐々に押し戻されており、暫定首都一帯を支配していたーーかつてこの地域に存在していた国家のほぼ全ての領土を奪還するに至っていた。
魔法使いバックルにさる嫌疑がかけられたのは、勇者パーティーも戦線に出向き、指揮官の斬首作戦に従事して人類連合の動きを支援している、そんな時期のことだった。
人類連合上層部のとある男が、バックルさんがあまりに多くの手紙を購入している事実を特定し、俺に情報をリークしてきたのだ。
多くの手紙を購入し、しかし、それをどこかに送ってるそぶりも見せない。
一通や二通ならわかる。
しかし、あまりに膨大な手紙を買い続けるなんておかしいのではないかと。
ちょうどその頃、人類連合には魔族のスパイがいるのではないかという噂が広がっていた。
厳密にいうとパルチザン組と亡命組との対立に由来する揶揄が元であるとは思われるのだが……ようは、お前らが逃げられたのは魔族に人類を売ったからだろう、みたいな感じでね。
姫騎士ワイスと魔法使いバックルは、いわゆる亡命組であり、それゆえに勇者パーティーの一員でありながら厳しい目を向けられがちだった。
彼らより、わたし/俺の方が相応しい。
そう名乗り出るものも多かった。
俺も勇者もライフズくんも、三人揃って仲間の無実は信じているものの、そういうタレコミがあるならしっかり捜査した上で無実を確定させた方がいい。胸を張って仲間だと言い擁護するためにもね!
というわけで俺とレーヘンは動いた。
本当は俺一人で捜査する予定だったんだが……こういう時に『勇者の勘』ってのはあまりに便利だったから仕方なかった。
「うーん、と……ふむふむなるほど、こっちに真実がありそうな気がする!」
というわけでレーヘンのなんかふわふわした発言と、彼女の勘を頼りに捜査すること数日、真実は明るみに出ていた。
「こ、これはやばいね」
「……ぁぅぁぅ……」
魔法使いバックルが購入した無数の手紙のほぼ全てを、彼が借りた、さる倉庫に置かれたスーツケースの中から発見し、真実は判明したのだ。
妻と子どもに宛てた手紙だった。厄介なのが彼の妻と子どもはとうの昔に殺されていたってことかな……。
もちろん彼は妻と娘の死を忘れてるわけでも、現実逃避してるわけでもなかった。ただ天国にいる二人に記した手紙として手元に保管していたのだ。
勇者レーヘンが思わず俺の手を握り、黙り込むくらいの鬱展開を経験してきた魔法使いバックルは、端的に言えば病んでいた。
ちなみに更なる捜査ーー魔法学園の生き残りの一人からの証言によると、彼はかつて学園教師時代から筆まめだったそうだ。家族が亡くなる前から遠方の家族にたくさん手紙を書いては、周囲から揶揄われていたらしい。
これは推測になるが、バックルは妻子が殺された後もそういう習慣を止められず、送付先のない手紙を書き記し続けていると思われた。
俺も死者蘇生ができればよかったんだけどね。残念ながら俺の蘇生術には特定の条件がある。具体的にいうとレーヘンと俺自身、そしてルーテシア以外の蘇生はできない。
だから心を病んだ仲間を助ける術は、俺の手の中にはなかったのだ。
ーー聖歴0097 8月7日ーーーー
という出来事がかつてあった。
具体的にいうと一月前に。
そして今日、海の果ての小大陸から手紙が届いたのである。
大陸間を越える念話のやり取りは不可能だ。
一つの都市内では魔導技術で念波は届くんだが、遠距離になると通信が届かない。
というわけでお手紙という存在が重宝されるわけだ。勇者レーヘンはまだまだ年若い子どもであり、彼女を案じるご家族からお手紙が届くのはよくあることだった。
しかし、レーヘンは勇者だ。
魔族に変に悪用されてはならないと、彼女の家族が彼女に記した手紙は機密文書に規定され信頼のおける人員の手で直接手渡しされることになっていた。
それはもちろん連合王国王子である俺も同じ、というか二人仲良く同じ人員に渡されているのだが。
「はー、家族からのお手紙ねぇ……」
「いや、えっと、その……」
「面倒ですけど、魔族とかに悪用されないためですから仕方ないんですよねぇ」
「なんでぃ、そんな話か。一瞬良くないことでもあったんじゃないかって焦ったよ」
レーヘンは手紙の内容を隠し。
俺は即座に情報を公開した。
「ちなみにゾニ坊のお父さんってどんな人なんだい?」
「連合王国国王陛下ですよ」
魔法使いバックルは少し興味を示している。ただその様子に後ろ暗さや、苦悩の色は見受けられない。
「いやそれは知ってるけどよぉ、個人的な人柄とかあるじゃん? どんな感じなの?」
「悪い人ではないです。私人として優しく、親として慕ってますね、子どもの頃は近所の埠頭によく釣りに行きましたし」
「はぇー、王族にしては珍しいんじゃねぇのか? 普通は仲良くないだろ」
まず前提として、ソルト王国は聖歴0060年に俺のお祖父様が建国した国家だ。
今から大体……三十年前に建国された。
偉大なる勇者が魔王を討伐したあとに、幾つもの国家が産まれたのだが……そのうちの一つの多民族国家が60年ほどで崩壊し各地が独立する運びとなって産まれた小国なのだ。
現国王(俺の父上)は二代目。
初代国王(おじいさま)の前職は漁師!
父上も小さい頃は漁師の息子であったそうで、網の修理は今でも得意なわけ。
だからこそ俺は国外に知り合いはいない。
貴族関係の古い縁は殆どないからだ。
社交の場に誘われることも滅多にない、歴史の浅く権威も何もない新参者の王族。なんなら他国の貴族の方が権威ある、漁民崩れの魚臭い王室。
それこそソルト王室である。
ま、それは今や昔の話だ。
旧ソルト王国も魔王軍の猛攻を唯一耐え抜き、人類反攻を成し遂げることに成功した。
その一点で旧ソルトの名前には絶対的な権威が生まれたのだ。だから社交の場で小馬鹿にされることはないんだけどね。
それはさておき、連合王国国王である我が父はーー幼少期に専門的な帝王教育を受けていない。(俺も受けてないけど)。だから小国の王は務まるが大国の王を成し遂げるのは困難である。
手紙にも息子を心配する文章しか記されておらず、王子とか、連合王国の代表者としての立ち振る舞いについては一切触れられていない。
これ国王陛下としては落第だなぁーと思うしかない。
「ちなみにレーヘンのお嬢ちゃんのご両親はどんな感じなんだい」
「ふ、普通のパン屋です、よ⁉︎」
「それであの剣才が産まれるとはねぇ……」
ちなみにレーヘンのご両親は三代前に遡れるパン屋さんだ。多分、高貴な血は引いていないと思われる。
そんな感じで雑談に耽る俺と魔法使いーーそして忙しなく背中をべしべしとしてくる勇者さま。そんなどこか異様な会話は手紙を持った役人がやってくるまで続くのだった。
「ちょいちょい、神官長何やってんのさ!」
そうして、その場を離れた直後。
俺は路地裏に連れ込まれていた。
大通りを曲がって少し先の小道の中。
じとーっとした目でこちらを睨むレーヘン。俺を明確に非難するような、少し珍しい表情を浮かべている。
「なんで言っちゃうのかなー、魔法使いさんに家族からお手紙来ましたーなんて」
レーヘンだってデリカシーはある。
家族を亡くした人にそういう配慮をするべきだ、という当たり前の善性が。
「お前の言いたいことはわかるが、気を使いすぎて逆にマイナスだろ? これくらい堂々としてていいんだよ。向こうだって変に気を使われるほうがキツいんだしさ」
「む、むぅ……」
でも、こういうのは場合によって異なる。人によっては変に気を使い過ぎない方がいいっていうのはある程度人生経験を積まねばわからないことだった。
「現に魔法使いさん全く気にしてなかっただろ? あの人はそういうの気にされる方が苦しむタイプなんだからね」
「……確かにこういうのって気を使いすぎるのと良くないっていうけど……」
レーヘンは勘がいい。だから俺の言葉が事実であることをなんとなく悟ったようだった。
それからレーヘンは手紙が来たことを隠すことはなくなった。
最初は恐る恐る、手紙について切り出していたのだが、やがて彼の態度から遠慮なく話していいとわかったのだろう。親から手紙が来るたびにこういう手紙が来たーと明るく話すその姿が目撃されるようになり。
魔法使いバックルはどこか癒されるような顔をしていたのは確かだった。
自分の家庭が終わってしまったけれど、知り合いが自分のような目に合わないことを喜ぶ、彼はそういう善性を持っているから。
或いはーー自分の書いた手紙を受け取った、娘の姿でも幻視していたのかもしれない。
ーー聖歴0099 9月12日ーーーー
なのだが。
ちょうど人類に潜伏していたスパイ、人類連合に所属していたとあるパルチザンの代表者であり、人類連合の中枢に潜り込んでいた最後の魔王軍四天王を討伐した後。
魔王との戦いの準備を行なっていた頃のことだった。
その日のレーヘンはどこか異常だった。
暫定首都の官庁でいつものようにご家族からの手紙を受け取った彼女の挙動はおかしかった。
いつもはその場で内容を確認しては「こんなお手紙届いたよーと」明るく話すはずなのに、手紙を読んだ直後からどこかぎこちなく目線を彷徨わせている。
居心地悪そうというか、まるで『絶対に人に見られたくないものを抱えている』かのような態度であった。
「おい、どうかしたのかレーヘン?」
「あ、ライフズくんか、よかった……いや、まあ、その……なんでもないよ?」
この時点で俺は察していた。
時期的にーー俺とレーヘンの同居の噂が広がっていたからね。その上、週刊誌などでは『勇者妊娠』などの記事が取り上げられている。
おそらくそれを聞いたご両親が『孫の顔が楽しみね』とか書いたんだろうなぁ……。
生活態度を正すような内容なら、『勘違いなのにー』とか『というかボク陰謀にはめられた被害者だからね⁈』とか俺に愚痴りにくるはずだからね。
レーヘンも一応女の子だ。
変に色々意識して、動きがおかしくなってるのだ。
逆に良かったよ、ニコニコ笑顔で「お父さんとお母さんにこんな話されてさー」とか報告されたらいよいよ、『勇者レーヘン恋愛感情を持たない説』に信憑性がでてきたから。
ま、とりあえずその手紙を処分するまで変に近寄らないようにしようかな、親しき仲にも礼儀あり。本気で弄られたくないことは誰にだってある。
俺も性癖の詰まった
こういうことは自分がそうして欲しいように他人にも振る舞うべきなのだからーーなーんてキメ顔で考えていたわけだが。そんなかっこいい考えが過ちだったと悟るのはそれから数十分後のことだった。
「ゾーニッヒ、悪ぃ、こいつを見てくれ」
緊張し、手紙を誰にも見れない場所で処分しようと思ったレーヘンはーーよりにもよって官庁を出るより先に手紙を落としてしまったのだ。まだ道端とかならマシだったのに……。
俺は過ちを悟った。絶対に落としてはいかないからと無駄に力が入った結果、普段と違う動きをしてしまい、鞄からポロリと荷物を落としてしまうなんてよくあることだ。
だからしっかり見守るべきだった。
何かあった時にフォローするべきだった。
反省してももう遅い。
最悪なことにレーヘンが落とした手紙を拾ったのはーー魔法使いバックルであったのだ。
「レーヘンの嬢ちゃんの元に届いた手紙なんだが……」
彼は深刻そうな顔を浮かべながら、手紙を俺に見せてきた。
その内容は俺の予想通りのものだった。
俺とレーヘンに関する噂はすでに海の向こう、俺たちの故郷の連合王国にまで広まってるらしく、俺たちが交際してる、とか、婚約したみたいなんて話を耳にしたらしい。
『話してくれればよかったのにうんぬん、昔から憧れのうんぬん、本当におめでたいうんぬん。王様に話をしとくうんぬん、孫の顔が見たいうんぬん』
うーん、目が滑る。
遠くに旅立ったまだ幼い娘に宛てた手紙だから、内容が多くなるのはわかるんだけど。……と俺はそんな思考を振り払うように瞳を瞑った。
今は余計なことに思考のリソースを割くべきではない、俺は適当なとこで目線を上げた。
やっぱレーヘンにもこういうことに恥じらいを覚える感性はあってよかった。俺は良かった探しをした。せめて、希望の一つでも探さねばやってられないから……。
「悪ぃんだけど、ご両親に関してお前がフォローを入れておいてほしいんだ。俺が書くべきなんだろうが……面識もない他人だからな」
絶対誤解してるからね。
魔法使いバックル、彼は『勇者レーヘンは妊娠機能を失った説』を強く信じていた。以前週刊誌の編集長を吊し上げようとしていたから間違いない。
でも今回は無責任に引っ掻きまわす他人ではなく、身内からのものだった。
孫を楽しみにする親の気持ちをーー、一児の父であった魔法使いさんはわかっていた。彼らのことを悪くなんて思えるわけがなく。
「そしてレーヘンだ。悪ぃんだけど、あの子のフォローも頼む。俺じゃ、何を言っても響かないだろう? あの子を支えられるのはお前しかいないんだ、すまない、頼む」
親の期待を叶えられないことを気にしている少女のフォローを頼んできたのだ。レーヘンが手紙を隠そうとした理由をそう勘違いしたのだろう。お父さんとお母さんになんて言えばいいのか、影で悩んでるとか思ってるのだろう。
勘違いなんだけどね。
ちなみに勇者さまを気遣うこと言ってるけどね、一番気を遣われるべきはこの魔法使いバックルである。
レーヘンにそんな苦渋を背負わせたこと。
人様の大切な娘を犠牲にしたこと。
そんな複数の思考が脳裏をぐるぐる駆け回り、それはもうひどい顔をしたいるのだから。
「バックルさん? レーヘンは健康ですよ。この前だって生理来てましたし……ただの年頃の女の子に子どもをつくる云々の話は気恥ずかしくなってしまうものなんです。それだけなんです、深い意味はないんです」
流石に今回ばかりは、ね?
俺は正確にレーヘンの個人的な情報を暴露する。もちろん勇者さまは子どもを産める。その機能はしっかり活動してるのだと。ノーデリ野郎の誹りを覚悟で暴露したのだ。
決死の覚悟だった。
知り合いの生理周期を把握してるとか変態野郎の謗りを免れない。俺の、いや、連合王国国民にもその不名誉が降りかかりかねない。
ま、レーヘンは俺がそれを知ってることは知ってるんだけど、それを聞いた他の人がどう判断するかって話ね?
でも知り合いのおじさんのメンタルを思えば……俺は全ての名誉を失うことを覚悟してそう告げた。
なんだが……。
「……俺にはその嘘は通じねぇんだよ」
怒り、悲嘆、そして苦渋。
嘘をつかれた怒り、そして年下の若者である俺に嘘をつかせた悲しみ。それがバックルさんの苦しみを和らげるためのものであることを理解しての苦しみ。
「魔法理論において代償は治せないっての常識だ……ごめんな……気を遣わせた……苦しいのは、辛いのは、お前のほうだってのになぁ……こうしてお前に負担ばっかかけちまう……ダセェ大人でごめんなぁ、ゾーニッヒ」
誰よりもメンタルをぶっ壊しながら、それでも最年長者として、大人であろうと努める立派な人格者バックル。
彼は俺の頭を軽く撫で。
取り繕った笑顔のまま立ち去っていく。
俺は何も言えなかった。
これね、余計なこと言う方が曇るから、余計なこと言えないんですよね。
レーヘンは健康で全ての代償は補填済みだって長文で説明してもね、意味ないの。だって彼は元魔法学園教師だから。代償は治せないって常識に囚われているから。
自慢だけど多分俺って人類史で一番才能あるんだよね。生命エネルギー=寿命の生成なんてできる存在はこの世界の過去にも存在していない。
もっとわかりやすくいうと俺って人類の永遠の希望、不老不死を実現できるってことだからさ。
しかも感覚型の天才なので、『魔力をギューっと圧縮し、ぐるぐるしてキュッキュッとすると生命エネルギーになる』とかこんな説明しかできないのだ。細やかに理論的に説明できないのである。
説得力なんてないのである。
俺は思わず天を仰いだ。
とりあえず魔王討伐後にレーヘンが妊娠とかしないと誤解とけないんだなぁ……と。
「……むぅ……神官長さぁ……」
「すまないレーヘン、俺は無力だった」
と、だが手紙を落としたことに気がつき、探す最中で俺たちの存在に気がついたのだろう。部屋の窓からにゅっと勇者レーヘンの顔が出てきた。そして、まるで猫のように部屋の中に忍び込んできたのだ。
「ボクの……あれを暴露しただけだからねー、神官長はさぁ?」
「でも俺もお前のそういうのを把握してるって露見しちゃったからなぁ……風評が著しく下がってしまった」
俺はあえて手紙の内容には触れなかった。
それは配慮だった。
「はーっ、このノーデリ神官長はさぁ? 別に神官長が知ってることは許すけどさぁ、それを触れ回るってのはとんでもないことなんだからね⁉︎」
ぶつくさと文句をいうレーヘンなのだが。その瞳は小刻みに揺れ、便箋に綺麗に仕舞われた手紙を確認し。
「……それで、その、中身は見た?」
「俺は見てないけど、話の内容から察した」
俺は嘘をついた。
優しい嘘だった。
勇者の勘で真実を察したのか、あるいは騙されたのか。レーヘンはいそいそと懐に手紙を仕舞い込み、大きくため息を吐くのだった。
「なんか奢ってやるから元気出せ、な?」
「……わーい、今日は何を食べようかなー」
だから俺はあえてそんな話をした。
途端に、レーヘンもため息を吐き、いつもの調子を取り戻したーーように話し出した。
俺たちの間には暗黙の了解があった、この話は広げることなく終わらせて、早く次の話題に移ろうという共通の考えが。
色々と言い合いたい気持ちを抑え、話を変える。
そういう暗黙の合意のもと、俺たちは現実逃避を兼ねて美味しいご飯を食べに行くのだった。
別にそんなに恥ずかしがる必要もないのになぁ。というか週刊誌見た時と態度違いすぎない? そんな疑念を抱くものの変につっつくと終わった話を蒸し返しかねないから、胸の奥にしまい込んで……。