曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0097 1月20日

 

 

 それはちょうど、俺たちが大大陸に乗りこみ魔国最強と謳われた四天王と莫大な軍勢を激闘の末に下し、三ヶ月が経過していた頃のことだった。

 

 魔王軍最強の駒と、膨大な軍勢の消失は魔王軍にとってはあまりに大きな痛手であった。橋頭堡を築き上げた湾港近郊の兵力は激減し、この近隣に隠れ住んでいたパルチザンの反抗も始まり、一気に戦線は押し上げられていた。

 

 かつて、この地を統治していた国家。

 その王率いるパルチザン、だけでなく。この近隣国家の生き残りも連合王国軍に合流し、先の激闘で失われた兵力は回復の兆しを見せており。

 

 俺たちはそのまま、かつてこの地を統治していた国家の首都を容易く奪還しそこを拠点に定めていた。

 

 人類反攻の象徴とも呼ばれる都市は、決して無事ではなかった。魔王軍は人を根絶やしにすることを目論んでいるかのような統治をしていた。

 かつて首都であった都市も荒らされ、荒廃していた。

 

 しかし、都市の噂を聞いて命からがらに生き延びたものや、近隣に隠れ棲んでいたもの、都市に帰還した多くの人々の目には希望の光が宿っていた。四天王を二人ーーしかも片方は魔国最強の男、を討伐したことはまさしく希望の光そのものだった。

 

 それを成し遂げた『勇者レーヘン』御一行は、丁重な扱いを受けている。復興が行われつつある都市の中で、真っ先に再建された屋敷が勇者一行に与えられるほどに。

 

 さて、そんな屋敷の中の部屋の中に俺はいた。

 

 連合王国の王子である俺は、ぶっちゃけ連合王国軍のトップなわけだが……目下の課題は人類連合という組織が抱えるある問題だった。

 

 

 ソルト王は実は数代前まで漁師だった。

 今では小大陸全土を支配する連合王国国王も、幼少期は網を編んで過ごす漁師の息子であった。

 

 彼は幼少期に帝王教育など施されていない、気のいいおじさんなのだ。

 

 そんな俺の父上はーー限界だった。

 決して無能ではないが、この情勢で世界の王として君臨できる器ではないし、諸々の実務を処理できる能力もない。

 なにせ小国の王程度ならなんとか務まるが、人類連合のトップなんてものにはなれないのは明らかだ。

 

 そして後継者の俺もね、中規模国家の王は務まるけど戦闘やりながら政治なんてできない。大陸をまとめ上げることも不可能である。

 

 というわけで俺は、各地のパルチザンを統合こそしたものの、それを連合王国の下部組織にはしなかった。

 

 人類連合は各組織単位で、亡命組やパルチザンが組織としての体裁を保ったまま参加するという形態をしている。

 

 そこに連合王国も参加している。

 小大陸全土を支配する絶対的な大国としての影響力はあれど、あくまで同じ人類連合構成組織の一つでしかないのだ。

 

 少なくとも旧ソルト王室内では反対意見はなく、全く問題なかったし、この組織も結構うまく回っているのだが……。

 

 ただ一つ問題がある。

 

 パルチザンと亡命組の対立だ。

 

 例えば亡命した王族率いるA政権と。

 現地に残った王族が率いていたB政権。

 

 二つは自分こそが正当性ある組織であると主張する訳だ。ま、この魔族と現在進行形で戦ってる現状で人間組織内で対立を起こす人はいないんだけどね。

 そんな事したら正当性失うし。

 

 ただこの二つの組織はお互いをライバル視し合い、『国を守らず逃げた』とか、『土地に拘って無駄な犠牲を出した』と対立してるわけだ。

 

 でもパルチザンにはパルチザンの。

 亡命組には亡命組の。

 辛く苦しい戦いがあったことは忘れてはならない。

 

 

「と、いうのが今の人類連合の現状ってわけ」

 

「ぅぅ……ボクそういうことは神官長に任せてるので……」

 

 

 俺は自分の部屋にレーヘンを呼び、解説をしていた。

 なぜかというと、勇者レーヘンにとって共に戦う旅の仲間『姫騎士』と『魔法使い』は亡命組であるからだ。

 

 当然、二人は合流したパルチザン組からは好ましく思われておらず敵視されている。はっきり言ってこの敵意は予想外もいいとこだった。

 

 俺、レーヘン、ライフズくんにはかなり好意的だったりするんだが。あの二人に対してはやれ、『実は魔族のスパイなのではないか』とか、『国を売って安全を買ったのではないか』なんてことを遠回しに言ってくるからね。

 

 

「むぅー神官長、ボクパン屋の娘なんだけど〜、そういうの覚えるにしてももう少し先でいいじゃんかー」

 

「だから、まああちらさんにもこういう事情があるからね、下手に首突っ込むと問題になるんだよって話なんだよ」

 

 

 しかし、それには彼らなりの論理がある。真っ先に逃げた連中()が、助けに来てくれた人たちの中でデカい顔してたら不満を抱くのは仕方ないと言うしかない。

 彼らには彼らの苦しみがあったのだから。

 

 ちなみにこういう対立を放置をしとくつもりはない。幾つか仲直りというか、融和のための策は練ってるのだが……1日や2日でなんとかなるわけはなく。

 

 そんなパルチザン組の態度に、勇者レーヘンが物申してしまうとね、そういう対立に確実に巻き込まれるし悪化させる可能性もある。

 

 『勇者さまに都合のいいこと吹き込みやがって』とね。

 

 だから予め、パルチザン組はこういう理由で敵視してるけど、それは仕方ない事なんだよ! と勇者さまに教えておく必要があった。

 

 

「うわーん、めんどくさいよー」

 

「つまりレーヘン、そういう会話してた時はへんにお気持ち表明するなって話だ」

 

 

 ただ俺はヒーラーとしては人類史上最強だし、メイス使いとしても人類最高峰なんだけどね、政治家としてもまあ、才能あると自覚してるけど。

 

 こういう話をわかりやすく説明する才能がないことはすでにご理解いただけていると思う。

 

 レーヘンもお目目を若干ぐるぐる回して、俺のわかりにくい説明をなんとか飲み込もうとしーー失敗しているようなので。

 

 ま、最低限これだけは、と俺は要点を伝えた。

 

 

「するわけないじゃん、ボクのことなんだと思ってるわけ⁈ 」

 

「勇者」

 

 

 レーヘンは仲間想いだ。

 政治的な問題とはいえ、仲間を悪く言われたら絶対に反発する。

 

 

「ちがうよ! いや、違わないけど……ボクはパン屋の娘の一般市民って知ってるでしょー、いくらなんでもお偉いさんに物申すわけないじゃん!」

 

 

 今はこんなこと言ってるくせして、実際に目の前でそう言う言動を目にしたら確実に物申してしまう。彼女はそう言う美徳を兼ね備えた女の子だった。

 

 というか、その辺のお偉いさんよりよっぽど偉いのが人々の希望の光となった勇者さまである。ま、彼女はその自覚がないようだけどね……。

 

 

「一応、今お前の目の前にいるのは連合王国王子なんだけどね……自慢だけど政治的に超大物なんだけどね」

 

「……神官長はルーテシアとかいう女に心を奪われてる時点で尊敬の対象にはなりませんよーだ!」

 

「だからいたずらに情報を流布するなって、誰が聞いてるかわからないんだぞ、部屋の外で盗み聞きされてたらどうするんだよ」

 

 

 知り合って一年、多くの戦いを切り抜けてきた友人だし、そりゃ身分の差も関係なく親しくもなるわけなんだけど。レーヘンは本音を口にするのを恥じらって、そんな冗談を口にした。

 

 まあ、理想の女の子について、へんに触れるのはやめろと思ってるのも俺の本音だけどね。この無知な小娘はよく理解できてないみたいだけど俺にもキャラがあるの。

 

 性癖を詰め込んだ理想のお嫁さん産み出す計画を練ってるとか下手にバレたら社会的に死ぬの。

 

 と言うわけでペナルティーも込めて、俺は『現在の社会情勢とこれから先の変化の予想』という小難しい話をレーヘンに語り出したのだ。

 

 

「と言うわけで、現在はかつてこの地に存在していたり、逃げてきたパルチザンを仲間にしたわけなんだけど、おそらく他の地域にもこういう組織は存在するんだよ。となると領土を奪還するごとにパルチザンが増えていって、亡命組との対立はますます深まっていくと思われる。……」

 

「待って神官長……ぅ、うー、頭がいたい、うっ、胸もくるしい、吐き気もしてきた」

 

 

 そしてレーヘンはふざけたように頭を抱えて『頭が痛いよー』と戯れ始めた。小難しい話を聞いて脳疲労起こしたという、軽口の一環だ。

 

 無駄に演技力があるその声は本当に体調が悪くなってるとしか思えないが……。レーヘンはチラリと一瞬、俺のことを見上げ、また頭をかかえ、うーうーと口走る。

 

 もちろんこんなことわざわざする辺り、逼迫性などない。親しい友人間のじゃれ合いにすぎないことは言うまでもないだろう。レーヘンの目も笑ってるし、口元も明らかにニヤついている。意外と演技力あるんだなぁ、と俺は内心で少し驚いた。

 

 

「これで楽になっただろ」

 

 

 ちなみにそう言うのも回復魔法の適用範囲。俺はしれっと回復魔法で彼女の頭脳の疲れを癒してあげる。これも軽い冗談のようなものだ。

 レーヘンのパントマイムに話を合わせつつ、話を軌道修正するーーという演技というか、かけあいというか。

 

 

「というわけで話の続きだが……」

 

「ぅー、全然良くなってない、なんか気持ち悪くて頭痛くて、つらくて、たすけて、たすけてよぉ、ボクやだよぉ、こんなのっ、神官長」

 

「ごめんなぁレーヘン。お前を助けてあげられない俺の無力を許してくれ」

 

 

 お前の知恵熱は治らない。

 だって気からの病だからね。

 ごっこ遊びで面倒な話をスキップしようとする、なんていうか年相応の子どもっぽい振る舞いをするレーヘンに合わせて、俺も知能指数を三段階くらい落として遊戯に興じるわけなんだが。

 

 これが意外と楽しいというか。

 レーヘンがさっきから演技し続ける気持ちは少し理解できた。俺と彼女はそれと目線が絡み合い、どちらともなく笑みを浮かべる。

 

 でもそんなくだらないごっこ遊びを真面目な顔でするーー親しい間柄故のそんな軽快で楽しい小粋なトークは……もしかしたらちょっと配慮が足りていなかったのかもしれない。

 

 そんな会話の最中。

 がちゃんと、何かが割れる音がした。

 

 音がしたのは扉の向こう。

 声だけ聞いてしまったのだろう。

 

 俺は慌てて、部屋の扉を開けるも……そこには誰もいなかった。ただ割れたカップが三人分置いてあったから、誰かが来ていたのは間違いない。

 

 

「え、もしかして今の話聞かれたのかな? は、恥ずかしいなぁ……誰だろライフズくんとか?」

 

「よかったお医者さん役で本当に良かった、俺のキャラは壊れないですんだ、はー危なかった」

 

「はー神官長だって似たようなもんじゃん! 開き直るな、このアホアホポンコツ王子さま‼︎」

 

 

 レーヘンにだってキャラはある。

 自称『礼儀正しくて真面目な女の子』である彼女は、こんな難しい話で頭が痛くなってウーウー言いはじめる姿は誰かに見られたくないものなのだろう。

 

 俺は微笑ましく見ていた。

 この時はね?

 

 

ーー聖歴0097 1月29日ーーーー

 

 

 レーヘンは政治は俺に投げることにしたーーそうだ。いや、必要なら演説とかはできないこともないけれど。パルチザンの有力者や旧支配階級の方々との交流などの面倒臭い仕事は、『神官長に任せたのだった』だそうだ。

 

 まあ、それは正しい判断だと思う。

 

 でも先にも言ったが、ソルト王室は三代前は漁師であった歴史の浅い一族だ。

 

 つまり、ソルト王室出身の俺は、由緒正しい皇国のお姫さまであったワイス姫や『聖剣守の一族』のライフズくんよりよっぽど卑しい産まれである。

 

 自覚はあるというか、俺は子どもの頃近所の埠頭で父と釣りしたことあるけどね、そういうのが許されるくらいには権威がないからね。

 

 だから社交絡みも権威ある二人のどっちかにやってほしかったと言うのが本音だった。と言うか俺としては『そういうことはワイス姫に任せるのだった』と丸投げしたかったんだけどね。

 

 どうにも彼女はパルチザンから嫌われていて、本人も表舞台に立ちたがらないし。幼少期から過酷な鍛錬を続けてきた『聖剣守の一族』ライフズくんも社交には慣れていない。

 

 となると俺がやるしかない。

 ま、小大陸の覇者となった()王室の一員としてはこう言う場に顔を出さないわけにはいかないわけだしね。

 

 でもあまり良くない目で見られるかな、とは思ってはいた。ま、流石にそう言う世界をレーヘンには見せられないから誤魔化したんだけど……。

 

 父も『魚くさい王室』とか言われない? と不安に思っていたくらいだし。何かしら皮肉とか言われるかなと覚悟していたのだが……はっきり言えばそれは勘違いだった。

 

 初めて出た会議の席で、パルチザンのリーダーは涙を流し、その場に跪いて俺の手を握っていた。

 かつてこの地を支配していた国王、その態度に嘲りの色なんてなかった。むしろ俺の靴を舐める勢いだった。

 

 ソルト王室は漁民崩れの一族であり。

 見下されていたからこそ、好感度が反転したと言うか……異様に持ち上げられていたのかもしれない。あんな弱小国が魔王軍を撃退した、つまりその王室の能力は極めて高いのだと。

 

 ちなみにレーヘンも似た理由でとんでもなく持ち上げられている。元々村娘であった彼女も俺と大体似た理由で評価されているーーと思っていたんだけどね。

 

 ちょっとレーヘンに関しては話が違う事情があるのかもしれない。この日から一週間後に俺はその一端に触れるのであった。

 

 

ーーーーー

 

 

 レーヘンとくだらぬおままごとを楽しんだ日から一週間後、俺はパルチザンリーダーと立ち会っていた。定期的な会合である。都市中央に存在する王城跡地にて行われ、各地の戦況や人口の流入、復興に関しての話し合いの場となっている。

 

 その場には俺だけでなく、こういう時に率先して下働きをしてくれる心強い男の子ーーライフズくんも立ち会っていた。勇者パーティー屈指の万能者は書記官の真似事をしてくれていたのだ。

 

 政治はしたことはないし、そういうのは苦手だが……それでもこの子って本当に有能だなーーなんて感想を初期は抱いていたんだけどね……そんな考えはパルチザンのリーダーと出会った瞬間に消え失せた。

 

 リーダー、この辺りを統治していた元国王は、どこか沈痛そうな表情を浮かべていた。先日、この都市を奪還した時に見た朗らかな笑みとは正反対の重苦しい表情で。

 

 

「ゾーニッヒ王子、一つお聞きしたいのですが……勇者レーヘン様はもしや癒えぬ苦しみに苛まれているのでは?」

 

「ふふ、どこでそんな噂を耳にされたのですか? そんなわけないでしょう、勇者レーヘンは今日も元気にこの都市の観光をしていますよ」

 

 

 『勇者レーヘンは寿命を代償にしたのか』と。聖剣の代償は、古い王族なら当たり前に知っている話だった。『だから初代勇者は偉大だったし、聖剣守の一族は敬意を払うべし』なんて言葉を教えられる程度には。

 

 もちろん俺は嘘はつかなかった。

 変な誤解はすぐに正すべきだ。

 

 レーヘンは、今日は復興が進む街の中で整備された花壇を見に行くらしい。姫騎士との交流の一環なわけだが、レーヘンも花を見るのは嫌いではないーーというか好きらしいしね。

 

 だから、噂は噂、何の根拠もないデマであるとしっかり訂正したのだが……俺の隣にいたライフズくんはまるで図星を突かれたような鎮痛な表情をしているもんだから、残念ながらパルチザンのリーダーも何やら誤解をしてしまったらしい。

 

 

「……そういうことにするおつもりなのですか、ゾーニッヒ王子。しかし……いえ、わかりました。しかし今、身分あるものの間で一つの噂が囁かれているのです」

 

 

 そうして彼は語り出した。

 勇者レーヘンは先の戦いで多大な代償を払い、常に強い体調不良に苛まれているーーそんな噂が。

 

 だからこそ勇者さまは社交界などには足を運ばない。彼女の身体はボロボロで休日はしっかり休まないと戦うこともできないからだ、とかなんとか。

 

 とんだ誤報である。

 代償は全部補填済み、レーヘンの寿命はざっと見積もっても百年分はある。と言いかけてーー俺は先日の出来事を思い出したのだ。

 

 同時に灰色の脳細胞にスパークが駆け抜ける。

 まさか、あれで誤解された⁈

 あんなおままごとみたいな会話で⁈

 しかもそれが広まったのか⁇

 この数日で⁇

 

 俺は思わず黙り込んで。

 それは、もしかしたら彼らの疑惑を少しだけ深めてしまう効果があったのかもしれない。何かしら思い当たる節があるような態度と言われたら否定はできなかった。

 

 

「そう言えば、そこにおられるライフズ殿は『聖剣守の一族』……つまり、そのレーヘン様に負担を押し付けたということになるのか、のう? 田舎産まれの、あんな、花でも愛でてる方が似合う幼い少女に」

 

「……はい、おっしゃるとおりです、陛下」

 

 

 発言のタイミングを逃したことで、会話は次の議題に進んでしまう。

 

 

「……この無能め……」

 

 

 吐き捨てるようにパルチザンのリーダーは呟いた。それは多分、彼の胸中に浮かんだ強い本音だった。隠すべき言葉が咄嗟に漏れた、そんな態度だった。

 

 

「……申し訳ない、ライフズ殿、今のは口が過ぎましたな」

 

 

 数日前まで、ライフズくんは親しまれていたと言うのに……今のパルチザンのトップの視線はどこか冷たいものだった。

 

 あんな幼い子どもに役割を渡した。

 あんな幼い子どもに代償を払わせた。

 

 一族に払われてきた敬意や権利に相応しい義務の履行できず、幼馴染であった単なる村娘にその苦役をおしつけている。

 

 それは『聖剣守の一族』への敬意が完全に反転してしまったのだ。

 それは『魚臭い王室の次男坊』だったり『その辺の村娘』であるレーヘンが偉大なことを成し遂げたことでやたらと持ち上げられているのと対照的なことに。

 

 

「陛下、何か勘違いされておいでではありませんか? 勇者レーヘンの治療は済んでおります、代償の治療ももちろん済まされていますよ」

 

「そうですか、なるほどなるほど……そういうことにしておく必要はわかりますとも。兵も市民も動揺するでしょうしな……心中お察しいたします、ゾーニッヒ王子」

 

 

 もちろん俺は慌てて介入し。

 必死に言葉を紡ぎ続けた。

 ああ、しかし、彼の誤解を解くことはできなかったのである。

 

 

ーーーーーー

 

 

「ということがあってだね、これからは会話に気をつけよう!」

 

「ちょっと神官長、悪質なデマは修正しといてよー」

 

「したんだよなぁ」

 

 

 俺は姫騎士と交流を終えた後の勇者さまに報告していた。

 こういう勘違いをされてるよ、と。きちんと、何度も訂正をしたのに全く信じてもらえなかったと。

 

 なのに彼女はため息混じりにそう反論してくるのだ。

 

 

「それで? そんなの噂でしょ? それいうならその……姫さまとかどうなるって話じゃん?」

 

「まあ、あの噂は本当だけど……ま、考えすぎかもな。所詮は噂は噂だし、事実無根の話なんてすぐ忘れ去られるよな」

 

「そーそー、まさか本気でそんなの信じてる人なんていないって!」

 

 

 俺たちは深くは考えてはいなかった。

 だって勇者レーヘンは五体満足の健康体。

 

 節々に生命力が満ち溢れる、いつも元気な少女の姿を見ていればまさか誰もが真実を理解する。寿命がすり減ってるとか、無理をしてるなんてデマ、そのうち自然消滅するだろうし。

 

 しっかり説明すれば、誤解なんて解けるに決まってる。また目と目を合わせてしっかり言葉を交わせばね!

 

 

「えっ、姫さまの噂って本当なの⁈ ……で、それをなんで神官長は知ってるわけ?」

 

「この前偶然、街の中で二人がデートしてるとこ見ちゃってさ! もーキャーキャーって感じなんだよね!」

 

 

 そう、この時はそう信じていたのだ。

 

 その後、俺とレーヘンは一つの誓いを抱くことになる。外部の人が耳にした時に、変に誤解されるような言動は慎むというルールを。

 悔やんだところでもう遅いかもしれないけれど……。

 

 でも言い訳になるが……あの時はあんなやり取りを真剣に受け止められるなんて思ってもいなかったのだ。だってそんな、ごっこ遊びじゃん? こんなの真剣に受け止められたら軽口とか言えないわけじゃん⁈

 

 そう、軽い冗談を言っただけでやたらと裏を探られ、深刻に受け止められてしまうーー立場あるものが抱くそんな苦悩を、当時の俺とレーヘンはまるでこれっぽっちも理解できていなかったのだ。

 

 

 

 

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