曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0097 1月29日

 

 

 

「元気だしなって、あの人はまあ、色々鬱憤が溜まってただけで、そう言う言葉を吐き散らかしたかっただけなんだしさ」

 

「いや、大丈夫ですよ、陛下の言葉は事実ですし」

 

 

 俺はライフズ君を慰めていた。

 先日、パルチザンのリーダーから罵倒されたわけだけど、あんなのほとんど難癖のようなものなのだ。負の感情を抑えきれずに当たっただけ。

 

 実際の感情の動きとしては、レーヘンの噂を知り『あれだけ幼い少女を犠牲にしている己の無力さや、悔しさ』などの負の感情に苛まれ、それをぶつけるにちょうどいい相手がいたから謗っただけ。

 

 

「何言ってんだい、君が無能なら君にいつも助けられてる俺は何になるのと思うのさ」

 

「神官長は天才ヒーラーでしょ」

 

「その天才な俺が認めてるんだ、胸を張ってほしいなぁ」

 

 

 俺はライフズくんの痛めつけられた自尊心を癒すような事実を口にする。これはおためごかしとかじゃなくて事実である。

 

 千の技術を習得した天才、そう謳われる『聖剣守』の最高傑作ライフズくんだ。万能者として勇者パーティーを常にサポートし続けてくれる男の子が無能のわけがない。

 

 まあ、こんな場所で慰めるならあの場で庇うべき、と言われたらその通りなんだけどね。でもそれなりに厚遇されている俺が何か物申せば、ライフズくんの立場はもっと悪くなっていたのだ。

 

 ま、庇わなかったことは事実だけどね。

 

 

「ほんとに大丈夫です、これは内緒ですけど……ホッとするんです。ああやって非難されると、少し心が楽になるというか……」

 

 

 ただ、こういうのは誰かに責められることで楽になるーーってのはまあ、ある。

 特に『幼馴染であり大好きな女の子に代償という重荷を背負わせている』そう勘違いしてる男の子にとって、そんな罵声で心が軽くなっているのは事実なのだろう。

 

 

「それに僕は聖剣守の一族なんです、権利を謳歌しておいて、義務を果たせないなんて無能と言われても仕方はないと思いませんか?」

 

「それはまあ、置いておいて」

 

 

 俺は話題を変えた。

 この義務と権利に関する話は本当に長くなるし……俺はそれを論破するだけの弁論術を有してないからね。

 

 そもそもライフズ君がここまで曇ってる理由は『レーヘンが自己犠牲している』と勘違いしてる点だ。

 

 

「レーヘンの代償は俺が補填した。あまり知られていない『神殿の秘術』でね? だから変に心配する必要はないんだよ?」

 

 

 俺はそういう詭弁には乗らない。

 論点は決してずらさない。

 

 で、その点に関しては明確に勘違いなわけ。俺は丁寧に勇者レーヘンの代償は補填してあることを説明したわけなんだけど。

 

 

「……その、僕は一応聖剣守ですし、流石に代償に関する知識はあるんですけどね……すみません、気を遣わせて」

 

 

 『聖剣守の一族』は聖剣についての知識を誰よりも有している一族だ。次世代の勇者を産み出すための鍛錬だけでなく、初代勇者から続く口伝、或いはノウハウを受け継いできている。

 

 だから代償は治せない、そんな固定観念をライブズ君は抱いているのである。

 

 

「それは今までの話だろう? 技術は進歩するんだよ」

 

「戦争で物資も少ないのに? ノウハウも教育施設も、研究機関もない、あんな田舎の、漁獲豊穣祈願の神殿で?」

 

 

 そりゃまあ今までそんなことできる奴はいなかったのは事実なんだけど……俺は今までの常識を過去にする天才だ。

 

 その気になれば永劫の命を製造し続けられる無限寿命生成マシーンだからね?

 二十日瞑想するだけで、二十年分の寿命を用意できるわけだからね?

 

 

「俺は天才だからね、独学で研究し、独自に開発した新技術があるんだ。最重要機密だから誰にも言えない、そんな技術がね」

 

 

 だからこそ、俺とレーヘンはできるだけこの秘密を隠している。俺が魔王なら確実に俺の命を奪うために、あらゆる手段を尽くすからだ。

 

 俺が死ぬのも嫌だけど、俺が死ぬことでレーヘンという気安く聖剣を放てる戦略兵器を今のように運用ができなくなることは……非常にまずい。

 

 そして、聖剣の使用回数を誤認させることで、魔王軍に致命的なダメージを与えることができる。

 

 勇者パーティーとして、この優位を手放すことは許されない。一応俺にだって責任感はある。だから隠し、誤魔化す。

 情報をいたずらに拡散させない。パルチザン組や亡命組、或いは旧支配者階級の方々にその情報を伝えるつもりはなかった。

 

 その結果ライフズくんが揶揄の対象になろうとも。

 

 

「寿命を魔力に変えられるなら、逆もできる。俺は魔力を寿命に変換する技術を開発したんだ。魔力を集めて治れーってすると寿命が増えるんだよ」

 

「…………そうですか…………」

 

「本当だ、俺はこういう嘘はつかない。信じてくれ」

 

 

 でも流石に身内には明かしていた。

 ここまで勘違いされた以上は言うしかない。

 俺はとっておきの秘密を語った。

 

 

「すみません、ご心配をおかけしました。切り替えます。こんな顔してたらますますレーヘンに負担をかけますもんね」

 

 

 しかし、代償に関して誰よりも詳しいーーそう勘違いしてる男の子の頑固な考えを正すことは今の俺には困難だったのだ。

 もしかしたら専門家に頼めば、わかりやすい資料やプレゼンを用意してくれたのかもしれないし、そう言う人たちを頼れば誤解は解けるのかもしれない。

 

 でも、それは許されない。

 自力でなんとかするしかないのだ。

 

 

「でも少し元気が出ました。神官長にはほんと、いつもお世話になってますね、ありがとうございます、流石は天才ヒーラー」

 

 

 自分を慰めるため、優しい嘘を吐かれている。彼はそう勘違いしてるのである。俺と彼はかなり仲良いから……そんな勘違いが解けないのである。

 

 こういう時気を遣って優しい嘘を吐いてくれるお兄さんって思われてるのである。日頃高めた好感度があるし、人柄も知られているから、落ち込んだら自分を慰めるためにそういう『優しい嘘』を吐くと思われているのである。

 

 

「でも、今日だけ、今だけは許してください」

 

 

 そして。

 ライフズくんはそう呟いた。

 

 

「代償は治せない、だから力を使う場合は、人の手に余る魔王を討ち取る場合に限られる、それ以外では……どれだけ苦しくても使ってはならない、『聖剣守』にはそんなノウハウが語り継がれてきます」

 

 

 彼は瞳を伏せている。

 これは明らかに数ヶ月前の上陸作戦について思いを馳せていた。レーヘンはその戦いで五回、聖剣を行使した。

 今まで用いた回数は合わせて六回。

 

 一回二十年として、百二十年。

 それは人間の一生分の代償だった。

 

 

「レーヘンがそんなにバカだと思うのかい? 補填して治るからあんなに乱用したとは思わない? 俺ではなく幼馴染のことを信じてあげようよ」

 

「……だから、倒さないでいい敵は倒さず見逃す、時に魔族と手を取り合う……なんて心構えもあるんです。僕はあの時レーヘンを止めるべきでした。なにがなんでも……」

 

 

 ライフズくんは、勇者レーヘンは友人や知り合いを守るため、その貴重な回数を乱用してしまうおバカな娘だと思っていた。

 

 ……俺も否定はできなかった。

 仮に俺という存在がいなくとも、レーヘンは命を代償に聖剣を振るっただろう。彼女にはそういう美徳があった。

 

 幼馴染なんだから、ライフズくんはそれを誰よりもよく知っていた。

 

 

「だから僕は無能なんです。そういう義務を怠った、レーヘンを大切に思う人から非難をされるのは当然の最低な人間なんです」

 

「俺はそうは思わないけどなぁ……」

 

「あなたは優しい方ですからね、でも一般的に考えれば僕に責任があるって言えるんですよ、こういう場合はね」

 

 

 それは負け惜しみだった。

 俺はライフズくんの誤解を正すことに失敗した。俺は自分が思っているよりーー口下手だったのだ。

 

 

「でも、神官長って嘘言うの本当に苦手なんですね、レーヘンより下手な人初めて見ました」

 

「いや、流石にあの子よりは上手いから」

 

「すみません、これは褒め言葉です。それだけ誠実だってことなんでしょうからね」

 

 

 

ーー聖歴0097 9月12日ーーーー

 

 

 レーヘンは底なしに明るい。

 なぜなら魔族の被害というものをろくに経験していないからだ。両親は元気だし知り合いも無事、仲良い相手と死に別れる経験なんてろくにない。

 

 そんな魔族の侵攻が起きる前はどこにでもいた、ごくごく普通の女の子。ま、その中でも特に明るくて周囲を照らしてくれる元気いっぱいなタイプだからこそ。

 彼女は周囲に大きな影を残してしまうのかもしれない。

 

 でもそんな少女であるというのに、才能があるからと最前線で剣を振る勇者さまに、日常でも『お前が笑顔で笑ってると周囲が苦しむ』なんて言えないし、眉を顰めて生きることを強要できるわけもないのだ。

 

 

「ね、ねぇ、もしかしてなんだけどさ」

 

 

 そんな勇者さまは、ある日俺の部屋を訪ねてきた。

 四天王の二人目を倒して、早一年。

 魔族の動きがないまま、時間だけが過ぎていく日々を過ごしているはずなのに……どこか影のある表情だったものだから、俺はすぐに彼女を部屋に招き入れた。

 

 

「なんかその……ライフズくんって、なんか変な勘違いしてない?」

 

 

 用意したハーブティーを片手に持った少女はーーまるで深刻な悩みを相談するように口を開いた。

 

 割と鈍感なところもある勇者さまも、幼馴染くんの異変には流石に気がついたらしい。いや、八ヶ月も気がつかなかった彼女が鈍いのか、八ヶ月隠し通したライフズくんがすごいのか……。

 

 ちなみにこのハーブティーも、彼の気を晴らすために用意したうちの一つだったりする。

 

 可愛い弟分のためなのだから、と俺はあれこれと手を尽くしーー失敗に終わっていた。

 

 

「だから言っただろ、勘違いされてるって」

 

「ボクも、変だなーと思ってたんだよね、なんかあれしよう、これしようとか、色々誘われてさ、あれ、おかしいなと思ってたんだけどさ」

 

 

 もちろんレーヘンには話してたんだけどね。『そんな、すぐ嘘は嘘だって気がつくよー』とかかなり軽く考えていた勇者さまは、俺の話を話半分に受け取っていたのだ。

 

 『勇者レーヘン自己犠牲説』

 そんなとんでもない噂を、幼馴染のライフズくんは信じ込んでしまっている。この穏やかな日々の中で少しでも彼女にいい思い出を残してもらいたいと悪戦苦闘しており。

 

 

「ボク、割と結構、元気だよって何度も言ってるのに、なんかこれっぽっちも信じてくれないだけど?」

 

 

 そこに違和感を覚えたことで、レーヘンが真実を悟った。

 

 俺の言葉は届かなかったけど。

 彼女の言葉も、届かなかったようだ。

 

 子どものころの教育で、まるで洗脳のように『代償は治らない』と吹き込まれてきたのだろう。その強固な誤認は非常に堅牢なのだ。太陽が西から登ることはないというが如く、代償は治らないと勘違いしていた。

 

 

「寿命ぽんぽん使っちゃう、そんなバカに見えるかなー、一周回って失礼じゃない⁇」

 

「……でもレーヘン、お前一回目の時は躊躇うことなく聖剣使ってたじゃんか」

 

 

 ま、それはそれ。

 俺はレーヘンの言葉を否定した。

 

 初めて聖剣を使用したとき。

 勇者レーヘンは代償を治すことができるなんて知らなかった。それでも彼女は剣を振るった。なのでこの発言の信憑性は薄い。

 

 お前そんなこと言ってるから怪しまれるんだよなぁ……。なんて俺のじとーっとした瞳に勇者さまは困ったように頰をかく。

 

 

「……いや、あの時は特例じゃん?」

 

「一回やるやつは二回も三回もやるんだよなぁ」

 

 

 ずずずとハーブティーを飲み切ったレーヘンは、そのままお茶請けで出したお菓子をパクつきはじめる。

 

 本人の中ではとっくに終わった過去の話が、幼馴染の中ではいまだに続いていたことにびっくりしちゃったんだろう。で、慌てて俺の部屋にやってきた。

 

 そんな年相応の勇者さまも、ハーブティーを飲んでお菓子を食べて、少し落ち着いたようだ。

 

 

「で、どうしようか神官長」

 

「俺は俺なりに手を尽くしたんだが……この数ヶ月、なんの成果も得られていないんだ……」

 

「えー、ちょっと神官長、しっかりしてよねー」

 

 

 だから、彼女は少し普段の調子を取り戻した。いつものようにワーワーと口数多く、大仰な身振り手振りを繰り返し始めていた。

 にやりとその口元はゆるみ、いたずらっ子のような瞳はキラキラと輝いた。

 

 

「変に拗れる前に誤解とかないと大変なことになるんだからさー、そうなったら……神官長に責任取ってもらうからね?」

 

「それって、俺が責任を取れるものなの? いや、純粋に疑問ね?」

 

「取れる云々じゃないの、取るんだよ!」

 

 

 ぺちぺち、というよりペタペタと、彼女の小さなおててが俺をタッチしているわけだが……で、でも俺の責任は正直低い。そもそも誤った情報を語り継いできた『聖剣守の一族』が悪いじゃん?

 

 レーヘンみたいに『なんだ治るんだ、安心したー』とならないのはそれ以前に積み重ねてきた誤った知識のせいだ。

 

 歴史の重さに下支えされた誤解を解くことは非常に手間がかかる。

 

 

「ま、お前に変にあれこれ言わせたらさらに事態が拗れそうだからなぁ、よし妙案が浮かんだ、何とかして見せようとも」

 

「よ、さすがは神官長、連合王国の王子、イケメンっ、だ、……」

 

 

 自分よりできるやつに無闇矢鱈に持ち上げられたら、バカにされてるのか、と、思うわけだが……レーヘンみたいに俺と互角の会話術の相手にそうされても全く腹は立たない。

 俺はドヤ顔で胸を張った。

 上には上がいるように、下には下がいる。

 

 勇者レーヘンは俺とは比較にならないほどに嘘が下手な女の子なのだから……。

 

 

「というかさ、もしかして勘違いって結構広まってる感じなのかな? なんかパルチザンのおじさんにすっごい気を遣われてる気がするんだけど」

 

「ほんと気がつくのが遅いんだよなぁ」

 

 

 俺はそうため息を吐くのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「ということがありまして」

 

「まあ、それは大変ですよね」

 

 

 姫騎士ワイスはお上品に微笑んでいた。

 ここは姫騎士ワイスのお部屋の中だ。

 勇者レーヘンとの会談の直後、俺は動いた。

 

 ここは勇者パーティーメンバー、姫騎士に与えられた屋敷だ。

 俺とレーヘン、そしてワイス姫の屋敷は近隣にある。

 

 本来であれば顔を合わせるまで数ヶ月はかかる、この世界で二、三番目に高貴なる血筋を継ぐ姫。

 

 しかし俺と彼女は同じ勇者パーティーの仲間。なので顔パスで面談することができる。昔から彼女に仕えていた、ええと『リバース』くんだっけ? 近習の一人に案内され、彼女の私室に案内されたのだ。

 

 『勇者レーヘン、代償で身体ボロボロ説』。

 ライフズ君が抱くそんな誤解だが、実は俺は軽く見ていた。こういう問題は時間をかければかけるほどに拗れるわけだが。

 

 正直、レーヘンの言葉があれば、すぐに解決するーーそんな浅はかな考えが俺の中にはあったのだ。二人は幼馴染だし、理解度も高い、嘘や誤魔化しなどしていないと通じ合えると。

 

 でもそれが失敗した。

 万策尽きたと言わざるを得ない。

 

 人間には得手、不得手が存在している。自分一人でどうにもならない問題を一人で抱え込んでいても解決法など見つからない。

 

 しかし、専門職を頼ることはできない。

 レーヘンが聖剣を無限に打てることは人類の最重要機密。勇者パーティー以外に打ち明けてはならぬ秘中の秘だ。

 

 だからそういう時は仲間を頼るのだ、

 

 魔法使いさんでもいいんだけど……あの人は都市機能に絡んだ魔道具の整備などを請け負っていて、都市復興の真っ最中の今は特に忙しい。

 こういう私事に気を取られてる暇はないだろうしね。

 

 だからこその姫騎士ワイス。

 皇国の姫にして、尊き血を引くお姫さまはこういう悩みを相談できる、誰よりも頼れるお方だった。

 

 

 というわけで案内された姫の私室。

 重要な話ということで、人払いをした上で、二人がけの椅子に腰掛けた俺たちなのだが。

 

 

「……それで本当のところはどうなのです?」

 

「えーっと、本当のところ⁈」

 

「……レーヘンの体調です。どれくらい深刻なのですか?」

 

 

 ぐいと顔を近づけたワイス姫はこそこそとそんな言葉を口にしたのだ。

 

 俺は一瞬、彼女が何を言っているのか理解できなかった。頼れる仲間である彼女は、もちろん俺とレーヘンの発言を信じているーーと思っていたから。

 

 『ライフズは本当に悲観的なのですわね、ま、あとはわたくしにお任せを、三日で誤解を解きますわ?』とか言ってくれると信じていたのだ。

 なのに。

 

 

「微力程度しかできませんが、わたくしも隠蔽には協力するつもりです。レーヘンは……あの子は人類の希望ですもの。変な噂が流れてはならない、ですし」

 

「それが勘違いなんですけどねぇ……」

 

 

 俺は思わず天を仰いだ。

 高貴なるお姫さまは何かを勘違いしていた。

 人類の希望レーヘンに一切の憂いはない。

 消費した寿命はきちんと補填している。

 つまり理論上無限回、聖剣を振れるのだ。

 

 これは間違いなく人類の希望。

 

 なのに、この高貴なお人も幼馴染くんと同じ勘違いをしているのだ。なんでそんな誤認をしてしまうのか……まさか魔王の策略か? そんなあらぬことまで脳裏をよぎった。

 

 なのだが……ワイス姫は俺の言葉にムッと不快そうに眉を顰めた。

 

 

「わたくしは、無能です、祖国も守れず、民に犠牲を強い、挙げ句の果てになにもできませんでした。今もあなたやレーヘンに負担を押し付けて、こうして楽ばかりしております」

 

「ワイス姫、自虐なんてしないでください」

 

 

 ワイス姫も割と結構シリアスな境遇だ。

 

 皇国ーーワイス姫の祖国が滅ぼされる直前、彼女は婚約者を頼り他の国に亡命された。そこで対魔国同盟という、かつて大大陸に存在していた大国の同盟軍を結成なされたのだ。

 

 そんなワイス姫を旗印とする当時の強国の総力を上げた大軍勢も魔王軍の精鋭には勝てなかった。『魔国最強』率いる大軍勢にボコボコにされ、各国の軍勢は壊滅し。

 

 そこから人類は瞬く間に大大陸を失った。

 

 彼女も亡命して国が滅びた末に小大陸に流れつき、その国も滅び、ついに世界の端のソルト王国に流れついていた。

 対魔国同盟も、今ではろくな人員が残っていない。テセウスの船の如く、亡命先で補充に補充を重ねた結果、結成当時のメンバーはもう数人程度。残りは全員戦死した。

 

 連戦連敗し続け、兵や同志を失い続けた境遇は俺やレーヘンとはシリアスのレベルが違っていて。

 

 そのせいか自己評価が非常に低い。

 

 

「俺は本当にあなたのことを尊敬しているのです、過去の業績もそうですが、戦いの場においても俺はあなたに支えられている」

 

「………………」

 

 

 ま、本人はそう思っていないのだろうけど……。

 

 俺は自分の気持ちが届くように、お目目をキラキラさせてそう告げた。

 

 先に言っておくがワイス姫は無能ではない。

 死に損ねたと言うより生き残ったのだ。過酷な戦場で、絶望的な撤退戦で辛くも逃げ延びたことは彼女の素質の高さを示しているし。

 

 今では勇者パーティーで一番辛い壁役ーー敵の攻撃を受け止める、誰よりも痛く苦しい役割を果たされてる。

 

 俺も昔はいわゆる回避タンクとか、回復タンクをしてきたこともある。俺、ライフズくん、レーヘンの三人で冒険していた時はそうだったからね。だからタンク役のキツさはわかっている。

 

 俺も腕とか斬りおとされたことあるからわかるけどね、怪我をすると痛いんだよ? 治るとはいえ痛いは痛い、苦しいは苦しい。

 それをみんなを守るために耐える、それは本当にすごいことなのだ。

 

 それを高貴なお方が自発的に行っているのだ。

 俺はワイス姫を心の底から尊敬していた。

 

 

「……ええ、わかっております、申し訳ございません」

 

 

 なんだけど、姫さまはなんともいえない顔で曖昧な返事をしてくるのだ。なんか変な勘違いされたっぽいが、それがどういうものなのかまでは俺には理解できなかった。

 高貴な方はすぐ感情を隠す。

 そう言う教育を受けてきてるから。

 

 

「しかし、せめて、無能なりに責任を取るくらいはできるつもりです。こうして生き恥ばかりを晒しておりますが……せめて、妹分の負担くらい背負わせて頂けませんか、神官長さま?」

 

「それはあなたが背負う必要もない余計な重荷なんですよねぇ」

 

 

 まあ、余計なことは考える暇はない。

 俺が真っ先にすることはーー姫騎士ワイスが抱くあらぬ誤解の解消である。俺達は仲間だ、言葉を尽くせばわかってもらえる。

 

 だって勘違いだもん。

 俺もね本当にレーヘンが代償を背負ってるっていうなら仲間を頼る。こういう嘘は相手を信頼してないも同然だからだ。

 

 仲間の苦しみは皆で支え合う。

 

 本当にその通りだと思う。俺だってそういう苦しみを隠されていたら、少し声を荒げるかもしれないし、あからさまな子供騙しの理屈で丸め込まれようとしたら傷つくし不快に思う、とおもう。

 

 でも勘違いなのだ。

 

 勇者レーヘンは特に何かを犠牲にしてるわけではない。いつも楽しくはしゃぎ周り、美味しい食事にご満悦な姿は、周囲を気遣うための演技などではない。

 

 俺は彼女の代償を完璧に補填している。

 

 というかレーヘンって嘘下手だからね? 彼女の本音なんて行動の節々から透けて伺える。本当に苦しんでいるなら態度に出るのだ。

 

 

「レーヘンの代償はしっかり補填済みなんですよ? 彼女はいつも元気いっぱい、ご飯も美味しく食べているでしょう? 明日を不安に思うこともなく、ね?」

 

「……そうです……わね……」

 

 

 なんだけど姫さまの苦渋はますます深まっていた。それが崩れて表情が戻るまで、かなりの時間が必要なほどに。そうしてワイス姫との面談は重苦しい沈黙の末に終わりを告げるのだった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「俺は失敗したのかもしれない」

 

「早いおかえりだねー、どうだったの?」

 

 

 俺が部屋に帰ってきたとき、レーヘンはまだ俺の部屋から立ち去っていなかった。なんか当たり前のように家探しし、隠されたはずの資料を引っ張り出して目を通していたわけなのだが。

 それにツッコミを入れる気力もなかった。

 

 

「ん、どーしたのさ神官長……その顔、上手くいかなかったの?」

 

「ワイス姫、誤解されております、代償治ってないと勘違いされてます」

 

 

 俺は単刀直入に事実を告げた。

 

 

「いや、んなわけないじゃん、あのワイス姫だよ? 知的でクールでお上品なお姫さまがそんな勘違いするわけないんだよね、神官長変なこと言ったんじゃない?」

 

「だ、だよな? 俺が口下手なだけだよな?」

 

 

 もしかしたら俺はーー予測を遥かに超えて口下手なのかもしれない。自分の中では結構口が回る方だと思っていたけど、それは自惚れだった。

 誤解を解くどころか、誤解を産み出している元凶ってもしかして俺の口? そんな疑惑まで芽生えてしまう。

 

 

「……でも、姫さまに相談してたんだ……確かに姫さまの匂いがするね」

 

「そりゃ仲間頼るだろう、それしかないもん活路」

 

「まーいいけどね」

 

 

 単独で何とかできるなんて考えるのは自惚れだ。数ヶ月頑張って無理だったんならまた諦めるしかない。まさかワイス姫もこんな真偽の定かでない話を信じ込んでいるなんて……。

 

 

「姫さま、深く考えすぎてるとかじゃない? ほら神官長って一応王子さまじゃん? だからへんに裏探られたとかじゃないかなぁー」

 

「だ、だよなぁ、そうだよな?」

 

 

 レーヘンの言葉に俺は希望を取り戻した。流石は人類の希望。その輝きは俺を明るく照らしてくれているのだ。だよね、俺が王族的言葉遣いを理解してないために、へんな誤解が生まれる表現使った可能性もある。

 

 

「そうだ、こんど二人っきりでいるときどんな会話してるのか聞かせてよ、ボクが客観的に判断してあげるからさ」

 

「たすかる、レーヘン」

 

 

 だから、まだ焦るような時間ではない。 

 間違えたなら直せばいい。

 その上でしっかり誤解を解けばなんとかなる。ワイス姫は知性が高い、心を込めて言葉を交わせば、真実を理解してもらえるのだ。

 

 なんてのが勘違いであると悟るのはそれからすぐのことだった……。

 

 

 

 

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