曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0098 3月18日

 

 

 

 翌朝のことである。

 夜通しの修行を終え、そのまますやすやと寝てしまった勇者さまは、ベットの脇でぐいと身体を伸ばしていた。

 

 多くの血を流す、負担の大きな修行を終え。

 俺たちはそのまま、倒れるように寝てしまいーー気がついた時には翌朝だった。やっぱ片腕を斬り落とすってのは負担が大きいからね。

 

 俺たちは血の拭き残しの確認を終え、二本の腕と血のついたシーツなど諸々を全部を回収した後、臭いを誤魔化すために窓を大きく開けていた。

 

 

「っていうかさー、なんかさー、神官長さー、慣れてたよねー!」

 

 

 部屋に来た時とは違う服に着替えた勇者さまは、改めて昨日の特訓について思いを馳せたのだろう。事後処理の最中もベッドの上でぼーっとしていた勇者さまはそう口にした。

 

 ムスッとした要望には強い不満が滲み出ている。

 俺が妙に手慣れていたから、色々と経験があることを察されてしまったのだろう。

 

 確かに俺は経験があった。強大な魔族との闘いの中で俺はすでに何回も四肢を欠損している。

 

 なんなら魔界最強の男との闘いでは、素手で引きちぎられているからね? マジで痛いのよ、毟り取られるって。俺だから耐えられたけど……人によっては発狂するかもしれない。

 

 それに比べると剣でスパって斬られるのはなんていうか……予想以上に痛みはなく、俺はかなり平然としていた。

 

 それがご不満なのだろう。

 

 のだが。

 

 

「ちょ、ちょっと違和感あるかも……」

 

 

 お気持ち表明のためにベッドから飛び降りた勇者さまは、そのままバランスを崩してしまったのである。

 

 腕という重量物を失うと人体の重心は変化する。

 そのため腕を欠損するとすぐには歩けない。

 

 全く同じ理屈で失っていた腕が生えれば、人体の重心は変化しすぐには歩けなくなる。

 

 少し俺の部屋で休ませたほうがいい。

 このふらふらの状態を仲間達に目撃されれば『勇者レーヘンボロボロ説』というデマをより強く信じ込んでしまうのは目に見えていた。

 

 ということで、レーヘンも違和感がなくなるまで俺の部屋で過ごすことにしたらしく。そのままついでとばかりに一緒に朝食を食べるのであった。

 

 もちろんそういう血がついたものや……俺とレーヘンの腕は信頼できる伝を用いて処分した。

 

 俺だって絶対にバレるわけにはいかない。

 こんなの知られたら仲間達のメンタルが本当に擦り切れてしまうかもしれない。だから、俺は全力で隠蔽措置を敢行したので、この非人道的な訓練は外部に全く感知されずに済むのであった。

 

 

ーー聖歴0098 3月20日ーーーー

 

 

 『魔族四天王、ルッデバランについての考察』

 俺とヤムルさんが連名で作成した資料は各パルチザン上層部に広まっていた。

 

 流石はヤムルさんと言ったところで、俺の作成した資料は、かなり色々補足が入れられていた。

 

 過去の戦闘データの解析は完璧と呼べるものだった。

 

 飛行中は魔法が使えないとか、戦闘時の視野角度とか……目ではなく空気の振動でこちらの動きを感知してるとか。

 

 人類連合の生き残りが残した全データを集積して提出された資料は、ルッデバランという魔族の攻略法が徹底的に記されていた。

 

 多くの戦線を荒らして回ったが故にーー多くの情報が残された。それを結実し、敵の技法を暴くことに用いる、まさしく先人達の犠牲を意味あるものに変化させたといえよう。

 

 お前はなんでできなかったと思われるかもしれない。でもね、死者に話を聞くって万能じゃないのよ、

 

 そもそも遺体か、死んだ場所じゃないといけないとか、故人の知らないことは答えられないとか、死の恐怖で会話不能とかよくあることだし。

 

 亡霊っていうより残留思念だからね。

 魂はとっくに彼岸にいるわけ。

 

 だから生者から話を聞いた方が多くの情報を得られる。

 

 あと、正直に言えば俺とヤムルさんの能力差というやつだ。俺の知能ではそこまで辿り着けなかっただけってのはある。

 

 やっぱね、プロは違うのよ。

 

 でも人類ってのはそうやって足りない部分を補って生きていくのだから、別に気にしてはいないんだけどね?

 

 やっぱあの人すげぇわ……と、俺は他人事のように思っていた。しかし俺はとある大事な要件を見逃していた。

 

 そう、この完璧な資料に俺が、連名で制作者扱いされてるってことなのだ。50%くらいは手伝ってんだろうなぁと認知されてしまっていることだった!

 

 

「神官長、すごいじゃないですか。あんな資料作ってたなんて知りませんでしたよ!」

 

「いや、あれは実は俺一人の功績ではないんだよ?」

 

 

 だからライフズくんの、キラキラした眼差しは少し居心地が悪いものだった。

 

 道端でばったりあった俺は、近所のカフェで交流していた。勇者パーティーの仲間ーー以前の親しい友人としてのオフの会話である。

 

 彼のおだてるような言葉に。

 俺はクールに謙遜していた。

 

 

「本当に色んな人の手を借りたものなんだ。ヤムルさんとか、各地のパルチザンの人達、それに懸命に戦われた先人の残したデータがあったからこそなんだよ」

 

 

 いやね、俺だって自分が調べて100%独自に用意したものなら鼻伸ばしてドヤれるのよ。でも今回は八割割、いや九割近くがヤムルさんの功績だった。

 

 俺言い当てたの風速だけだからね? 

 他の要素は全部あの人の功績だし。

 

 なんならかつて多くの犠牲を出しても戦い、多くの情報を残してくださった先人達の功績でもある。

 

 俺一人が称賛を浴びるべきではない。

 

 

「……かっこいいな……」

 

「そんなに持ち上げられるほどではないんだけどね……」

 

 

 と言うわけでそういう話をしっかりしたはずけどね……俺が口下手なのか、ライフズくんの目線のキラキラはまるで全然翳らないどころか強まる一方なのだ。

 

 俺は困っていた。

 自虐風自慢に聞こえるかもしれないけど、過剰に評価されるのもそれはそれで大変なんだ。

 

 俺は大した男であるが、等身大の俺ではなく、囃し立てられた偶像を認知されてるってわけだからね。

 

 

「僕も色々と調べていたんですけど……碌な情報を集められませんでした……あはは……」

 

「それを判断するのは俺だよ? ライフズくん、調べたことを教えてもらえないかな?」

 

 

 ま、それはさておき。

 俺はお目目をキラキラさせながら、声をかけてきたライフズくんに優しく語りかける。

 柔らかな雰囲気に、彼は少し口籠れど調べた情報を語り出した。

 

 

「ルッデバランは……バックルさんのご家族の仇みたいなんです」

 

「そうなのかい、それは誰から聞いたのかな?」

 

「ベストールという行商人さんです。それと、すみません彼女にその……レーヘンの代償のこと話してしまいました」

 

 

 俺はライフズくんの評価を上げた。

 そういうことを自発的な謝罪するというのはなかなかできる事ではない。この年齢でそれができるってのは……大したものである。

 

 俺だったら素知らぬふりするからね。

 現に、魔法使いさんの倉庫に忍び込んで手紙盗み見たことまだ謝ってないもん。

 

 

「むう、それは困ったな。次からはやめてくれよ? 情報の流出は避けたいからね」

 

「はい、すみませんでした」

 

「ただ報告したことはグッド、失敗は誰にでもある、次改善すればいいさ」

 

 

 そんな俺がどの面下げて人様を叱れるか、思われるかもしれない。

 俺もそう思う。

 でも、ライフズくんはこういう時に叱られた方が楽になるタイプの男の子だった。

 

 

「レーヘンのことはある程度噂になっているからね。代償のことも広く知られているから、そこまで深刻な情報流出ではないんだし」

 

 

 そしてもちろんしっかりフォロー。

 ちなみにこれも事実だ。

 旧支配階級の間で箝口令が敷かれているとはいえ、人の口に戸は建てられない。

 

 ま、そこらへんをどうにかするための手は考えてあるんだけどね。とりあえずルッデバランの対応が終わり次第着工するつもりだ。

 

 

「それで家族の仇という情報につい聞いてもいいかな?」

 

「はい、ルッデバランはバックルさんの誘拐を目論んでいたそうです。多分、魔王の指示で」

 

 

 ライブズくんは彼が入手した情報について語り出した。

 

 というかいきなりでかい情報が入ってきた。

 これはかなり有益な情報と言えた。

 

 魔法使いさんの誘拐?

 特に社会的地位のない彼を??

 

 

「そのための人質という形でご家族が囚われていたようです。ところがそのとき、彼は元教え子の女性に頼まれて国外に移動していたそうで……」

 

 

 たぶんその教え子がベストールさんになるわけか……。

 

 怨恨ではなく誘拐⁇

 

 かなり貴重な情報だとは思った。

 でも……はっきり言って俺にはどうしようもない情報でもあった。

 

 わかることは魔王には何かしらの目的があったってことくらいかな。

 

 残念ながら知能が足りない。

 俺は事件の裏に秘められた真実に辿り着くことはできないーーそんな確信があった。

 

 

「まあこんなこと聞かされても……って感じですよね。……あれ、神官長」

 

「……いや、そうか……因果なものだな」

 

 

 でも、可愛い弟分がなんとか集めてくれた情報なのだ。俺は腕を組み、意味深ムーブを敢行した。甘い男だと思われるかもしれない。でも俺はライフズくんに成功体験を与えてやりたかったのだ。

 

 これは情報流出の汚名返上となる、大功績だと。

 

 俺はそのまま瞳を瞑り、天を仰ぎ、何か察しがついたふりを続けた。

 

 

「ありがとう、ライフズくん、大手柄だ。でもこのことは内密に頼むよ?」

 

「え、あ、はい、ありがとうございます!」

 

 

 でも嘘をついた価値はあったと思う。

 ライフズくんは、凄く嬉しそうに瞳を煌めかせたのだ。役に立てた、そんな確かな実感が彼の中に渦巻いていて。

 

 彼の自尊心を少しでも満たすことができたならいいなと、俺は心の底からそう願った。

 

 

「あっ、そういえば、その……」

 

 

 なのだが、そんな楽しい会話の最中だった。

 ライフズくんは僅かに目線を彷徨わせ、何か質問したそうな素振りをしている。どうしたのだろうか? 

 

 しかし彼は口を閉ざしてしまう。

 でも,俺はかなり気安く考えていた。

 

 

 

ーー聖歴0098 3月20日ーーーー

 

 

 で、この報告書を用いてどうするかと言うと敵の出現地点の絞り出しであるのだが、ここからが一番大変な作業であった。

 まず今までの計測データを元に色々計算するわけなのだが……そんなもの専門知識がなければわかるわけがない。

 

 

「ご活躍の程は耳にしておりますわよ、神官長さま。流石ですわね」

 

 

 俺が姫騎士ワイスと鉢合わせたのはーー人類連合の拠点の中でのことだった。今まで、彼女はここに近寄ることを避けていたから、その特徴的な髪色が視界に入って、思わず二度見してしまったのである。

 

 

「感謝を、神官長さま。わたくしが無駄死にさせてしまったもの達の死に意義を与えてくださったことに感謝いたします」

 

「いえ、俺の功績など大したものではありませんよ」

 

 

 また何度目になるのか、俺は物陰に移動しながら、そんな説明を改めて行った。

 

 

「それでワイス姫はどうなさったのです?」

 

「わたくしは、その……亡命組の中には……知的教育を受けた方々も多くいらっしゃられます。その方々からの意見書をこうして持参したのです」

 

「大丈夫なのですか? 姫さま、無理はなさらないでくださいね?」

 

 

 はっきり言って、姫騎士はパルチザン組によく思われていない。彼女が社交の場に出て揶揄され傷つくーーそれは、俺としてはあまりいい気分ではない。

 俺はお目目をキラキラさせながらそう語りかける。

  

 俺はライブズくんにこういう瞳で話しかけられると嬉しくなるからね。他人にも自分が喜ぶように接するべし。俺はワイス姫に寄り添った言葉を投げかけた。

 

 

「わかっております。今更であることなど、痛いほどに。ご足労をおかけしたことを謝罪いたします。ですがわたくしはなすべきことをなさねばならないのですから」

 

「そうですか、ならお願いしますね」

 

 

 でも彼女の意思は硬いようだった。

 何が姫騎士を動かしたのかは、わからない。

 でも彼女が前を向いたことは理解できた。

 

 それは間違いなく、いいことだった。

 

 

「……そう言えばある噂を耳にしました、あなたとレーヘンが男女の仲になったという噂が……」

 

「デマですね、どこからそんな噂が?」

 

 

 なんて思ってた俺は愚かだった。

 ワイス姫を動かすものなど、どう考えてもレーヘン絡みの曇らせでしかない。

 

 俺からすれば完全に意識外からガツンと殴られた気分だった。俺とレーヘンの修行内容が露見したのかと一瞬焦ったからこそ、そういう色恋沙汰であるかのような言説に惑ってしまうのは仕方ないと思う。

 

 ワイスさまは沈痛そうな表情を浮かべていた。

 

 

「朝、あなたの屋敷からレーヘンが出てきたことや、その時歩き方がぎこちなかったこと、それから定期的に夜になるとレーヘンがあなたの部屋を訪れていること、見ているものは見ています」

 

 

 ……俺は己の短慮を悟った。

 嫁入り前の男女が同じ部屋に泊まること。

 朝帰りをすること。

 それが何を意味するのか、完全に頭から抜けていたのだ。

 

 仲間達を絶対に曇らせないことに意識を囚われてしまっていたのだ。

 

 

「愛し合い、交際に至ったなら喜ばしい限りですが……心の安定のためにそのような行為に及んでいるならば、やめておいた方がいいと忠告をしに参りましたの」

 

 

 しかも、絆を深めて交際したわけではないと思われているのである。

 まあ、勇者レーヘンは色恋への関心が疎いタイプだ。親しい関係だからこそワイス姫もそれを理解している。

 俺への恋愛感情などーーないことも。

 

 流石に、好きな相手の腕を斬り落とさないでしょ?

 レーヘンは俺と仲はいいが、そこに恋愛的な要素は存在しない。

 そういうのは恋愛経験豊富な姫騎士からすれば一目でわかることなのだ。

 

 

 つまりワイス視点だと。

 レーヘンは精神的に追い詰められ人肌を求め。

 俺は彼女のために身を捧げた。

 

 

「どちらにとってもよくないことでしょう、神官長。あなただって……お辛いはずでしょうに」

 

 

 俺に向ける罪悪感からして、そう思われてるっぽいなこれ。

 そう、俺にも労りの眼差しが注がれているのだ。望んでもないのに仲間の精神安定のために身を捧げた、と。

 

 俺は男なのに、だ。

 

 いや、無垢な子どもを騙して搾取してるとか、そういう勘違いではないんだけど……ね、完全に誤解であった。

 

 ワイス姫は、なんていうか……辛くて苦しくなると支えてくれる男の人を求めてしまうタイプの女性だった。そしてそんな過去に関係を持った誰かとのことを俺たちに当てはめているのかもしれない。

 

 よくない別れを遂げてしまった、誰かとの蜜月を。

 

 

「わたくしが言えることではありません、ですが、あなたには……」

 

「あれー、二人ともこんな人目のつかない場所で何してるのかなー?」

 

 

 不幸は続くものである。

 そんな会話をしてるまさにその時のことだった。

 勇者レーヘンがこの場に姿を現してしまったのである。

 

 もちろん、彼女がいる時にこんな会話を続けることはできない。姫さまはスッと表情を切り替えたのだが。

 

 

「……あのさ、ボクは普通に神官長のこと好きだからね。ワイスの言ってることはその、難癖なんだけど」

 

「……レーヘン、聞こえてしまいましたか……」

 

 

 もちろん勇者さまは俺たちの会話が聞こえていたのだ。

 

 彼女なりに誤解を正さんとしているのだろう。

 姉貴分が余計に背負った精神的負担を和らげようという善意でそう言ったのだろう。

 

 でもレーヘンは色恋への知識が疎かった。

 そんな平然と好きだから、なんて言える女の子はいない。普通は赤面したら動じたりするものなのに……勇者さまは全く動じることなく、顔色を変えることもなくそう断言してしまったのだ。

 

 どう考えても嘘だった。

 

 あと、男女の仲であることを誤魔化すべきなのに、依存ではなく恋仲であることをアピールするのは間違っている。

 

 

「ですがそれなら、神官長さまのお気持ちはどうなるのです?」

 

「……というかワイスもよくいうよね、好きでもないのに神官長に迫ってるくせに」

 

「……それは……」

 

 

 あとそれも勘違いなんだよなぁ。

 そりゃ俺と姫の距離感は近い。今もかなり密着して話している。でもそれは勇者パーティーの内密な話をこっそり行うためであって、そこに性的なニュアンスなどはないのに。

 

 そんな嫌味を言ってしまうくらいに、ストレスを抱えてるーー普段の元気な姿は周囲を誤魔化すための演技だと思われてしまうのに。

 

 別れ際にそんな嫌味風に見当違いなことを呟いた勇者さまに引っ張られながら、俺は帰路につくのであった。

 

 

 

ーー聖歴0098 4月16日ーーーー

 

 

 

 ワイス姫の勘違いはその気になれば容易く解ける。

 腕を斬り落とした証拠を提示すれば、『あ、こういう訓練していたのですね?』と。

 

 でも「精神的な苦しみから人肌を求めるくらいに追い詰められている」ことと、「敵に勝つために腕を斬り落とすという常軌を逸した訓練をさせた」こと、どちらが精神負荷が軽いのか。

 

 俺には全くわからなかった。

 

 あと、レーヘンに悪い噂がつくのは避けたいけど。 望んで片腕を切り落としたのと比較したときにどっちがマシなのか。彼女を異常に思われないか、人間関係に支障をきたさないか。

 

 どちらがマシなのか。

 

 そんな答えのない問題に俺が頭を悩ませている間に、人類連合は直面した困難を乗り越えようとしていた。

 

 姫騎士ワイスの社交復帰。

 それは亡命組の知的エリートが意見を陳述する直通ルートが産まれたということだった。

 

 パルチザン組にも危機意識はあった。

 今までの対立は……悪く言えば余裕がありすぎたことにあったのだろう。『勇者レーへン』が成し遂げた多くの軍事的な功績は、この地の人々に余裕を与え過ぎていた。

 

 自分たちだけでなんとかなると思うから、先に逃げた連中を悪く謗っていたわけであり。

 

 手を取り合う必要があるならば、感情を抑えて手を握るーーそれができるからこそ旧支配階級という地位に至れたのだろう。

 

 姫騎士ワイスという大物が、亡命組の窓口と化したことで、意見交換や情報共有は格段と潤滑に行われるようになっていた。

 

 人類連合の頭脳は僅か数日の間に答えを導き出した。

 

 次のルッデバランの出現ポイント。

 勇者一行は一週間後の出撃が命じられ。

 

 

「うーん、なんか違う気がするなぁ」

 

 

 勇者レーヘンがそんなことを言い出したのは作戦開始前日のことだった。

 

 勇者さまの勘は何にも勝る指標である。

 なんの理屈もないが、俺はそれを信じた。

 

 

「ボクはなんか、ここら辺が怪しい気がする」

 

 

 勇者レーヘンの過去の功績を知っていれば彼女の勘を無碍にすることなどできるわけもない。

 

 多分だが敵はブラフを用いていた……いや、あえて裏を狙うため不利な戦場に出撃したーーかな?

 

 となると、かなり本腰を入れてくるってことになる。勇者一行を遠方に遠ざけた隙に深く切り込んで大打撃を与えるという作戦。

 

 ということで俺は旧ソルト王国の、俺が最も気安く使える部隊を動かし。

 

 勇者レーヘンが指し示した地点に独断で向かったのだ。

 

 そこは戦略的な要所ではあるものの、この時期は風が強まるため、攻撃の可能性が低いと目されていた地域だった。

 

 

 

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