曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0098 4月18日

 

 

 

 四天王ルッデバラン。

 空飛ぶ魔族は、風が強く吹く環境では本領を発揮できない。当然彼らは風速が弱い地域を好んで荒らして回る。

 

 だからこそ、人類連合の乾坤一擲の作戦を裏手に取り、風が強い付近に猛攻をかけるという魔王の計略は恐ろしいものであり。

 

 勇者レーヘンの勘は、頭脳戦を制する鬼札のようなものだった。

 

 四天王ルッデバラン戦はかなり余裕があった。

 

 嵐の中での戦いはこの魔族四天王の本領を発揮できる戦場ではなかったのだ。視認できる程度のわずか上空を滑空した敵は、後衛を自由に襲撃することもできなかった。

 

 その上、行動のほとんど全てが解明されていたのだ。奥の手であるはずの魔法技能もーー師匠である魔法使いさんがいるので完全に対応できていた。

 

 ワイス姫の盾に受け止められ。

 遠距離に引けば魔法使いさんに牽制され。

 魔法も師である魔法使いさんに無効化され。

 

 四天王とは思えぬほどに順当な戦いが続いた。敵が率いる部隊は瞬く間に殲滅され。

 

 そして、嵐の中で撤退を選択した敵と残存兵力はーー勇者の聖剣の光に飲まれて全滅したのだ。

 

 勇者一行は圧勝した。

 

 

ーー聖歴0098 4月21日ーーーー

 

 

 戦後、皆が勇者の代償を受け止める時間が必要だった。

 戦いには余裕があった。

 無理に聖剣を使う必要はなさそうな戦いではあった。

 

 しかし、これだけの好条件で闘える機会は稀であるし、ここを逃せばまた多くの死者を出し得る。それに今回を逃せば年若い魔族であるルッデバランはますます力を強めていく。

 

 聖剣を使う理由はあった。

 その判断は正しかった。

 

 だからこそ勇者レーヘンに聖剣を使わせたことで、仲間達は己を責め、曇りに曇ったわけなのだけど。その中に一人だけ温度が違う人がいた。

 

 魔法使いさんである。

 

 情。

 それは知的な社会的生物であれば決して逃げられぬものである。言葉を交わし、仲良くしていれば絆は芽生えるものなのだ。

 

 つまり、妻子を殺したとはいえ……魔法使いさんはかつての教え子に確かな情を抱いていた。

 

 俺は彼が復讐に燃えており、暴走すると思っていたけど……いざ戦闘となると彼の動きは明らかに鈍っていて。

 

 それは、もしかしたら向こうも同じだったのかもしれない。

 

 戦闘の中で空飛ぶ魔族は強引に距離を詰め、多少の痛手を覚悟して後衛を襲った。

 

 的確に妨害を繰り返す魔法使いさんは敵にとっては厄介な存在で、無理にでも排除することを選んだのは当然のことと思えた。

 

 なのに。

 

 ここぞというタイミングで、敵は攻撃を止めた。絶好の好機をふいにしてしまったのだ。

 魔法使いさんと目があって、一瞬体を硬直させ。

 そのまま距離を取ったのだ。

 

 動揺したのは魔法使いさんもだった。

 そこから彼の動きは崩れた。

 その後、撤退を選んだ魔族にーー彼は妨害の魔法を行使することができなかった。

 

 そうして飛び去った魔族を、レーヘンは聖剣で薙ぎ払ったのだ。

 

 敵がどうして手を止めたのか……もう知る術は無いけれど、魔法使いさんの中に確かなモヤモヤが残ったことは間違いなかった。

 

 スカッとした復讐などではなかった。

 

 そんな弟子を勇者が消し飛ばしたこと。

 レーヘンが代償を払ったこと。

 

 それが胸中に渦巻いて、彼は沈痛な表情を浮かべていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

 先に言っておくが……俺は人間だ。できることとできないことがある。やらかすこともあれば失敗することもある。

 

 魔族ルッデバランが家族の仇と知ってーー俺は魔法使いさんから少し距離を置いていたことは事実だった。

 彼が無意識に滲ませる憎悪に塗れた空気から距離をとりたくて、あれこれ言い訳をつけて直接合わないようにしていた。

 

 俺ももう少しフォローすればよかったのかもしれない。ライフズくんから聞いた『誘拐事件の末に人質を殺害した』話をするべきだったのかもしれない。

 

 彼の強烈な意思表示に説得は無理と早々に諦めず、言葉を重ね続ければ、なんてうっすら思う気持ちはあった。

 

 ま、俺は万能ではない。

 

 怪我人の回復、レーヘンのフォロー、政治に資料の用意など。俺は忙しかった。

 魔法使いさんの対応まで抱え込むことはできなかっただろう。

 

 俺は天を仰いだ。

 魔法使いさんは……確かな情を抱いていた。かつての弟子に、かつての弟分に。妻と娘を殺されてなお。

 

 そんな存在の命を彼自身の手で奪わさせないで済んだことは、本当によかったことだ。

 

 

「だからなんていうか、な?」

 

「そーそー、神官長はよく頑張ってたと思うよ? ボクは隣でいつも見てたから知ってるもん」

 

 

 もしかしてコイツ、俺の擁護をしてるのか?

 

 

「できないことはできないんだからさ、なんでもかんでも背負おうとするのは傲慢な事だと思うよ?」

 

 

 ちなみに今の長々した述懐が何かというと勇者さまへのフォローだ。だからレーヘンにも責任はないよね? 仕方ないよね、という話だ。

 

 

「神官長は巷じゃ、やったら過剰に評価されてるけどねー、……ボクだけはありのままのあなたをちゃんと見ていてあげてるから、ま、安心してね」

 

 

 俺としては、彼女がもしかしたら和解できたかもしれない存在を殺したことに後悔とか抱いてるのかなーと思っていた。

 

 そういう曇らせはよく聞く話だ。

 

 俺はレーヘンだけは曇らせないと決めている。だからもしそうならフォローいれないとなぁーとか色々考えていたんだが。

 

 

「ほんと、ボクが側にいてあげないとダメなんだからさー」

 

 

 なんだが、勇者レーヘンは全く曇っていなかった。

 

 俺の目をじーっと見ていた勇者さまは、訳知り顔でそんな言葉を口にし続けるのだ。

 馴れ馴れしく俺の肩をポンポンとたたき、頭を撫でながら言葉を紡ぐその姿は……なんていうかその、ありがたいんだけどね? なんかそれとなくディスりが入っているようにも聞こえなくもないわけで。

 

 いや、いいんだけどね?

 

 

「お前は思うところはないのか、レーヘン」

 

「ないよ。ボクだって田舎で穏やかに暮らしてる魔族の人を斬るつもりはないけどさ、でも今回はパリッパリで襲ってきて何人も殺してる相手じゃん」

 

 

 勇者さまのお目目に一切の罪悪感の色はなかった。

 

 意思ある存在の命を奪う重荷をレーヘンは全く感じていないのである。いや心強いわけなんだけどね?

 

 そもそも人類侵略されてる側なわけだし。

 何万人もの死者を出してるわけだし。

 

 

「それにさっきのことを魔法使いさんに言ったところで何も変わらなかったと思うよ? もしそうならボク神官長にそう言ったと思うんだよね」

 

 

 ただこれ、聞くの俺でよかった。

 俺は本心から思った。

 

 俺は全然気にならないんだけどね? この一切の躊躇のなさは……冷淡と呼べるほどのものであり、普段の彼女の人懐っこい態度とは相当かけ離れている。

 

 悪い印象を覚えるものがいてもおかしくはない。

 こういう点は特に気をつけてこれから先もフォローするべきだな、俺はそんな確信を得るのであった。

 

 

 

ーー聖歴0098 5月3日ーーーー

 

 

 祝勝会を終えた後も、まだまだ戦いが終わったわけではない。

 魔族四天王を三人倒したとはいえ、残る一人と魔王は残されたままなのだ。

 

 というわけで今日も今日とて社交のお仕事だ。

 豪華な社交会場の中で歓談に耽る旧支配階級層。その数は以前より遥かに増加している。いわゆる亡命組であった方々もこうした場所に姿を現すようになっていた。

 

 その中央に姫騎士ワイスはいた。

 多くの人々に囲まれながら、愛想良く振る舞う姿は流石の皇国の姫君と言ったところであろう。

 

 はっきり言えば肩の荷が下りた気分だった。

 もう随分と慣れてきたし連合王国の王子としてこういう場に出る必要もあるとはいえ……勇者パーティーの政治担当は大変なのだ。

 

 しかも俺ヒーラーとしての仕事もしてるからね?

 そんななんでもかんでもワンオペで回すのは大変だった。こうして彼女が多少の揶揄を覚悟して政務に復帰してくれたというのは大変ありがたいことなのである。

 

 

「ゾーニッヒ王子、ご活躍の程はよく耳にしていますよ? 娘も本当によく貴方の話をしておりまして、『王子がなんとかしてくれるんだからそんな慌てる必要はない』なんて口にしておりましてね?」

 

「あはは、それは光栄です」

 

 

 この場にいる人々の顔には安堵の色が浮かんでいる。

 空飛ぶ魔族のゲリラ戦は、この場の多くの者たちに人類の敗北を意識させていた。それが無事解決したのだからほっと安堵するものである。

 

 ま、こういう時の勇者パーティーへのご挨拶というのは基本的にワイス姫が担当していく感じになるわけだが……。

 

 俺は挨拶周りに勤しんでいた。

 俺は人類連合で決めた計画を自己判断で変えた。必要なことだったとはいえ、主導した人間としてはきちんと挨拶することは礼儀である。

 

 賢人風な装いをした博士とか。

 無骨な姿の元将軍とか。

 そういう方々に謝罪と挨拶して回った。

 

 

「おめでとうございます、王子」

 

「全てはヤムルさんのおかげですよ、本当にありがとうございます」

 

 

 その中にはヤムルさんの姿もあった。

 ワイス姫から聞いたのだが、敵の出現地点の考察には彼も大変尽力なされたとか。今回の俺の行動は彼の顔を潰したに等しい。

 

 

「……せめて前もって一声かけて欲しかったものですがねぇ……ですが勝利は勝利、今はそれを喜びましょう」

 

 

 実際、かなり苦い顔をしていたけど。

 すぐに笑顔を見せてくれたのだ。

 俺は彼との間に確かな絆を感じていた。

 

 

「それにしても、どうして作戦を変更したのですか? 何か気になることでもあったのです?」

 

「実は独自の情報網が……なんてカッコつけたことを言いたいのですけどね、本当は勇者の勘を信じただけなんです」

 

 

 社交の場でそんな質問をされることはよくあった。今回なぜ敵の動きを読み取れたのか、と。そして俺の答えも全部同じだった。全ては勇者レーヘンの勘とね。

 

 正直、ヤムルさんとの合同資料のせいでやたらと持ち上げられてるというか……俺も人類最強の将軍云々言われることも多い。でもそれは間違いなく持ち上げ過ぎであった。

 

 俺はまあ回復の天才だし、メイスの腕前も天下一品だけど……謀略なんてできないし、軍事だって平凡に過ぎない。部下が死んでないのも指揮が巧みだからではなく、回復技能のおかげでしかない。

 

 というわけで俺は全て正直に答えていた。

 すごいのはあくまでレーヘンです、と。

 

 そんな話は雑誌などでインタビューを受けた時にもしており、勇者レーヘンの名声はとんでもないことになっているのだが……。

 

 

「何を仰いますか、神官長さま」

 

「ワイス姫、どうなされましたか?」

 

 

 なんて会話をしてたらまさにその時だった。

 ワイス姫はいつの間にか近寄っていたらしく、俺たちに声をかけてきたのである。

 

 

「わたくしは覚えておりますのよ? 先日、『ルッデバランとの戦いで盾役のあなたは特に気をつけるように』なんて仰られて……全部読み通りだったのでしょう?」

 

「ふむ……なるほど、なるほど……」

 

「いえ、あれはその……恥ずかしながら敵が空を飛ぶことを失念していまして、うっかりミスなんです」

 

 

 ワイス姫は今、少しメンタルが弱っていて。二つの事実をやたらめったら結びつけて真実を見つけ出してしまう状態にあった。責任ある立場の方がそんな真似するのはほんとやめてほしいのだが……。

 

 現にヤムルさんはこんな陰謀論をすっかり信じ込んでしまってるようなのだ。常識的に考えてみろよ、そんなことないってわかるだろ!

 

 知ってたら、レーヘンの腕を斬るとかいう非人道的な訓練などするわけがない。余計な疑惑だけ産んだのに何の役にも立たなかったからな!

 

 もちろん俺は真実を話した。

 いや、流石に腕の件は伏せたけど。

 

 全ては偶然というか、流れに身を任せたらなんかそうなったってだけである。深い叡智なんてそこには存在していない。

 

 

「相変わらず、ゾーニッヒ王子は奥ゆかしい方ですなぁ」

 

「ほんと、気取らなくてすてき……」

 

 

 なのに影響力のある人が軽い気持ちで吐いた言葉はあっという間に広く広まってしまう。社交の場では、俺は今回の敵の動きを粗方読んでいたーーなんて少し考えれば嘘だとわかるデマが信じられてしまうのだ。

 

 俺はチラリとワイス姫を見た。

 

 彼女の瞳には俺を労る色があった。

 今回のも俺へのフォローのつもりなのだろう。

 その善意はね、本当にありがたいんだけどなぁ……。

 

 俺もね承認欲求はある、チヤホヤもされたい。

 努力や成し遂げたことを褒めて欲しい。

 でも、見当違いな陰謀論で称賛されても全然嬉しくないのである。

 

 

「わたくしはあなたも称賛を得るに相応しいことをしたと思っておりますもの。レーヘンに功の全てを譲るのは良くないことですのよ?」

 

「……お心遣いには感謝しますよ、姫さま。ただ今回のは本当に偶然なんですけどなぁ……」

 

 

 俺は苦渋に満ちた表情を浮かべた。

 

 なんとなく、周囲の温度が一度下がったような気がした。ヤムルさんもじーっと俺の顔を見ているのである。

 

 俺は慌てて表情を繕った。

 仲間にあれこれ言ってるんだから、俺も変な誤解が生まれかねない真似はしてはならないからね。

 

 

「まあ、お言葉に甘えることにいたしますね」

 

「……ええ、その通りです神官長さま……」

 

 

 まあともかく、怪我人を少なく抑えたとことか、論文作りがんばったとことかを評価してくれたらよかったです。なーんて気持ちを込めながら取り留めもない雑談に耽っていたのだが。

 

 その後のことである。

 きらびやかな社交会場から出た俺は、人類連合の建物で物陰に連れ込まれていた。

 相手はワイス姫であった。

 

 

「どうかされました、姫さま」

 

「……レーヘンのためにせめて名誉だけでも、というお気持ちは理解できます。ですがあなたは称賛されるに足る事を成したのですよ? 情報を集め、敵を見事に誘い出し、死者を出さず討伐した。大偉業です」

 

 

 先ほどの会話を蒸し返されていた。

 俺とワイス姫の間には確かな絆がある。

 だから先ほどの会話を、俺が適当に流したことを察していたのだ。

 

 そう、俺とワイス姫には確かな絆があるが……実は互いの理解度は低い。だから余計に勘違いが発生するんですね。俺が魔法使いさんの弟子への情に気がつかなかったように。

 

 勇者レーヘンは今回の戦いで『子宮の機能』を失ったことになっている。(実際は補填完了済みなんだが)

 

 そのことを仲間たちは毎度の如く誤解しており、ひどい心労を抱えており、それゆえに判断力が低下した結果、更なる勘違いを招いてしまうことは往々にあった。

 

 

「それは勘違いなんですよ、姫さま。あれは、さっきと言った通り俺がポカしただけですから」

 

「……ああ、そういうことですか」

 

 

 今回もそうだった。

 俺としてはまた変な勘違いされたら大変になるのは目に見えているからしっかり誤解を解こうとしたのに。

 

 俺の行いは代償に苦しむレーヘンのため、せめて称賛と名誉を与えてやりたいと願うが故の言説であるーーなんて誤解されたのだ。

 

 100%自分のための行動なのに、勇者のための自己犠牲の類と思われているのである。

 

 

「あの子を犠牲にしてしまったから、栄誉を手にすることを疎んだのですね?」

 

 

 俺はそっと手を握られた。

 

 しかも今回は勘違いが連鎖してしまったのだ。

 

 ワイス姫はあの目をしていた。

 勇者様を見る時に見せる罪悪感と苦悩の混ざった曇り切った瞳で、俺のことをじっと見ていた。

 

 

「……わたくしも覚えが……いや、わたくしは栄誉を得ることのできない、家臣を無駄に殺しただけの無能な女ですが、それでも似た経験はあります」

 

「俺はあなたが無能だとは思ってませんけどね」

 

 

 俺はレーヘンと同じくらい、彼女を曇らせているのだ。

 勘違いに勘違いを重ねた結果、疑惑は複雑に絡み合いすぎてしまったのである。もうなにをどうすればいいのか……。

 

 

「……ですが……それで身を削るのは良くないことです、楽になっているような気がするだけなのですよ?」

 

「……それも誤解なんですけどねぇ」

 

 

 そこに他の勘違いまで合流してしまったのだ。

 

 勇者レーヘンは、精神的に追い詰められ人肌を求めーー俺と愛などない依存だけの関係を築いていると思われており。俺は望まぬ相手と関係を強要されている悲劇のヒロイン的扱いを受けているのだ。

 

 男なのに、だ。

 おかしいだろって思うでしょ?

 俺もそう思う。

 

 どうすればいいんだろう。

 俺はこの問題を解決できる方法がまるで思いつかないのであった。

 

 

ーー聖歴0098 6月20日ーーーー

 

 

 四天王を三人討伐したこと、亡命組とパルチザン組が共同歩調をとるようになったことで、人類の反抗は一気に加速していた。

 

 ネッテルシー上陸作戦、先の首都侵攻で魔王軍は莫大な兵数を失っていた。各戦線に突入される魔族の数は明らかに減少している。

 さらにそういう劣勢を単独でひっくり返せる四天王という大駒も三人討伐されてしまっているのだから。

 

 今の情勢は人類優位であった。

 多くの人間領土を取り戻し、暫定首都には今まで以上に多くの物資が流入するようになっている。チョコレート、魚醤、幾つもの香辛料。産地が魔族に支配されもう二度と食べれないのでは、と考えられていた物品も露店などで気安く味わうことができていた。

 

 もちろん勇者パーティーも働いている。

 激戦地にて味方の支援のための指揮官狙いの斬首作戦。

 あるいは、敵兵の殲滅であったり。

 

 勇者レーヘンはその剣才を活かし、多くの武功を立てていた。

 『千人斬り』なんて偉業を果たしたその戦いっぷりは、彼女が聖剣なんてなくとも世界最強であることを広く知らしめていた。

 

 ルッデバランが動いていたより数が減ったとはいえ、戦地には死傷者は一定数は出ている。魔族は烏合の衆ではない、同じ数では人間に勝ち目がない強大な存在だ。

 

 それでも現状には余力があり。

 

 

「勇者さまには、今しばらくお休み頂くことはできませんか?」

 

「……ヤムルさん、そこまで反発が生まれているのですか」

 

 

 だからこそ、『代償』なんてものに思いを馳せてしまう人は多くいた。俺が予想しているよりずっと多く。

 

 初めて行われた時よりずっと豪華になった祝勝会の席。あの頃よりずっと、メンバーが増えた社交会場の中で。

 俺は小難しそうな顔をしたヤムルさんにそう伝えられたのだ。

 

 彼は今ではパルチザン組の半ば中心人物と呼べるほどの存在となっていた。

 

 元々の名声もあったけど、こういう時に伝え難い話を口にするーーある種の憎まれ役を続けたことで確かな人望を築くに至ったのだろう。そんな彼は、何故か俺に勇者パーティーへの意見を伝えにきている。

 

 

「ええ、かなり突き上げがあるのです。勇者さまに世話になっていないものなど、この場にはいませんからなぁ」

 

「全く……誤解なんですけどね。レーヘンは元気なのですが……」

 

 

 巷で噂されているように『勇者が功績を立てることを疎んでいる』という話とまるで逆。

 これ以上、勇者に代償を払わせるべきではない。

 これ以上、勇者に無理をさせるべきではない。

 

 そんな考えを抱く有力者は多くいるのだ。

 話をしている最中も、何人もの人がこちらの様子を伺っていた。

 

 

「……わかっております、ですが彼女も人間でしょう? 身を休めなければいずれ身体を壊してしまう、違いますか?」

 

「ええ、その通りです。勇者とはいえ年頃の子どもでもありますからね、ずっと動き続けることなどできません」

 

 

 ま、今の状況で無理に出撃する必要がないのも事実だ。

 ま、そういうわけだから、勇者パーティーはしばらく羽休みをすることになったのである。

 次なる敵との戦いに備えるべきだろうしね。

 

 

「お言葉に甘え、しばらく休みを取らせることにしましょう、あとはよろしくお願いしますね?」

 

「ええ、勇者さまが抜けた穴は、このヤムルが完璧に埋めてみせますとも」

 

 

 俺だって馬鹿じゃない、日々学習している。

 敵のデータを集め、情報を得ることの大切さは学習済み。

 ルッデバランではまあ及第点だったけど、次の四天王はしっかりした資料を制作してみせると意気込んでいた。

 

 あと、忙しいからと先送りにしてきた『仲間の勘違い』と向き合うべきでもあるからね……。

 

 

 

 

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