曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者 作:さらみパスタ
大陸奪還のために勇者一行が大陸に渡ってきて半年が経過しようとしていた。
魔王軍四天王、最強の男の死は魔国の統治の根幹を揺るがすものだった。
四天王二人の敗北はーー魔王軍の戦力が半減したことを意味していた。敵が失ってはいけない駒を失ったが故に、人類は大陸の一部領土を奪還することに成功していたのだ。
勇者一行と連合王国は地下に潜っていたパルチザン『人類解放戦線』と共同で人類領を取り戻す闘いは続けていた。
現地の複数のパルチザンと亡命組、そして連合王国が、習合し、そうして出来上がったのが『人類連合』だった。
橋頭堡近郊にかつて存在したとある国家の大都市を暫定の首都として、そんな人類連合は戦いを続けていた。
俺たち勇者一行は敵幹部を片っ端から薙ぎ払って、『人類解放戦線』の動きをサポートしていた。
勇者一行は強い。聖剣の力がなくとも、四天王以下の軍団長とかは倒すことができている。
というより四天王と魔王が別格で強いというべきなのだろう。生き残りの話を聞くに『魔王軍は兵士の数が多く質も高いが、戦闘単位では数の暴力で押せばなんとかなる程度でしかなく。
四天王という一騎当千の将の存在こそ、人類がここまで追い込まれた原因』であるらしい。
しかし、そんな戦況を覆せる大駒である四天王が投入される様子は見受けられなかったのだ。
魔王軍は明らかに様子を窺っていた。
さて、ここは人類連合暫定首都である。
対魔王のために復興は後回しにすべきーーなんて思われるかもしれないが、対魔王軍のための軍団を維持するためにも近郊に食糧庫を用意しておく必要がある。
農業、工業への投資。
商業の活発化は、魔王軍への攻撃と同時に行われていた。というわけで整備された暫定首都の中の大広場の中は活気に満ちている。
元々、魔王軍との戦いで荒廃しても都市としての下地はできていたとはいえ、たった半年でここまで復旧できるなんて、人間という種族の底力を思い知らされた気持ちになる。
さて、勇者パーティーといえども人間だ。
姫騎士や魔法使いのように、果たすべき責務や、仇討ちという強い原動力がないのがレーヘンという田舎育ちの勇者さま。
当然、余暇は趣味を楽しんでいる。
彼女の趣味は買い食いだ。
美味しいご飯を食べるが好き。
多く食べれるわけではないため、質を重視するタイプ。そんな彼女にとって人間の勢力範囲が増えることは、今まで食べれなかった食材と出会えるというおまけまでついてくるようだった。
それはいいのよ、それは。
「神官長〜、ちょっと口と舌を治療して〜」
北部地域の奪還に成功したことで、一部の香辛料の流入が再開していて。レーヘンは早速、香辛料を沢山使った料理を食べたようだ。
しっかりとしたお店を建築する余裕はないから、露天のような形で元料理人だった方々が得意料理を振る舞う屋台街。
そこに新たなお店が出現していた。
レーヘンは情報収集することもなく、その屋台の飯を買い食したのだ。
が、それはいわゆる激辛料理であり。レーヘンは舌やらお腹やらがヒリヒリしてしまったようである。
いや、いいんだけどね? 変なものを食べて身体の調子が悪くなったら戦闘に於けるコンディションも悪くなるからね? すぐ治療を受けにくるのは自己管理ができてるということだしね。
「って何してるの神官長」
「プレゼン資料作ってんのよ、お偉い人たちに『ここ、こうした方がいいと思いますっ』ってわかりやすく説明するためのな」
パルチザンが合流した、とは説明したと思う。
しかし、連合王国に先に加入した敗残兵や亡命者との軋轢が若干あるのだ。
『さっさと逃げ出した奴ら』と『無謀にも逃げなかった奴ら』の対立というか……そういう感情所以の対立意識が大きな火種にならないよう予め手を打っておくべきで、俺は自発的にそういうことをしていた。
もちろん自発的な行動だ。
必要だと思ったからそうしただけ。
その点で恩着せがましい真似をするつもりはないし、勇者に感謝しろと言い張るつもりもない。
ただね。
「あ、そうだ、神官長おみやげー」
「それが噂の激辛料理だろ、お前のお腹をヒリヒリさせてる元凶……で、レーヘン、なんだって?」
レーヘンは片手に包みを持っていたのだ。
その中には明らかに刺激物が存在していた。
「いやー、その、このご時世じゃん? 出されたご飯はちゃんと食べないといけないわけじゃん? で香辛料たっぷりって言われたら期待するじゃん? ちょっと多めに注文するじゃん?」
「つまり、レーヘン。お前がお腹を痛くするぐらいの激辛料理を俺に食べろっていいたいわけ?」
「うん、後は任せたよ神官長!」
レーヘンはそういうやいなやぴゅーと、部屋の外に逃げ出していった。激辛料理の小包をしっかりこの場に置いて。
なんていうか、悪ガキなんだよなぁ……。
俺はため息を吐きつつ、胃腸に回復魔法をかけながら、レーヘンの食べ残しを本日のランチにするのであった。
「神官長、お腹痛くなった、治療してー」
情けない声をあげたレーヘンが部屋にやってきたのは、それからしばらく後のことだった。
ーー聖歴0097 11月19日ーーーー
敵の大軍勢による反攻が起きたのは、勇者一行が大大陸に渡ってちょうど一年後。
穏やかな日々に人類連合の緊張感が僅かに緩みかけた頃のことだった。
周辺地帯から多くの魔の尖兵を引き抜いて、勇者レーヘン抹殺の大軍勢による侵攻が発生したのだ。
人類解放戦線首都に迫る、夥しい魔王軍の群れ。
戦線を拡大し過ぎた人類連合は、暫定首都の防衛が疎かになりがちだった。
数の暴力で上回られた以上、兵の質で劣る人類連合にできることはなかった。
だからレーヘンは聖剣を使用したのだ。
その光は最も容易く、敵軍勢を滅ぼした。
敵の反攻を出鼻で挫いた結果、他戦線で人類は一気に優位を築くことになる。
魔物は強大だが数に限りがある。
大駒を守ろうとするあまりに、小駒を使い潰したことはーー愚策であった。
人類連合は一気に戦線を押し戻した。
ーーーーーー
「味覚無くなっちゃったー」
暫定首都に迫った脅威を取り除いた祝賀祭。
歓喜に沸くパーティー会場の裏でレーヘンはコソコソとそんな言葉を口にしてきていた。
勇者パーティーの一員であり、青い血を継ぐ俺は、こういう時にスピーチをやる役を任されがちだった。
なんかこう、いい感じなことを言おうと用意されたカンペに目を通しつつ原稿を考えていた俺の元にてくてくやってきた勇者レーヘンは自身の口元を指先ながらそう告げた。
「神官長、なんとかしてー」
「お疲れさま、回復しとくぞ」
勇者の聖剣って大変だよなぁ。
人間の支配領域が広がったことで、幾つもの資料を確保することができた。俺はそれを解読し、考察しているんだが……オーバーロードという技らしい。超常的な力の対価として何かしらの代償を払う必要があるらしい。
基本的に寿命だが、俺から与えられた生命力はレーヘンのものではない扱いになってるらしく、別の要素が対価に捧げられた感じだろう。
味覚というのはとても大事だ、美食という彼女にとっての趣味を失ってしまったのはなかなか堪えることであり。
「はいはい、回復、回復」
「せんきゅー、美味しいご飯食べる前に治してもらわないとって思ってたんだよねー」
ーー俺はなくなった味覚を戻した。
莫大な生命エネルギーを対価として捧げて味覚を復旧させたのである。個人的に寿命消費よりはまし、ちょっと神経復旧させるだけだからね。
「今回のディナーは豪勢らしいよ、楽しみー」
「……演説とか挨拶回りを全部俺がやるからな」
「え、そうだね、それが?」
それはいいのよ、仕事だしね?
レーヘンのことを治すのは仲間として当たり前のことだ。それは彼女が強敵と剣を交えているように、俺はサポートをしっかりやるだけ。貸し借り云々で考えるべきではない。
それはね?
でもレーヘンはそういう豪華な食事を楽しむことのできない俺に向けてそういう言葉を口遊むのである。
「だから、俺はご飯は楽しめないんだ」
「はへー、がんばってね。僕は美味しいご飯をパクパクしてるからさ」
「もっということあるだろうがよ!」
俺はキレた。
いいのよ? 必要なことだからね?
勇者が美味しいご飯を食べる資格は誰よりあると思うし。でも、そのためにせっかくの美食の機会をお偉い様との交渉に費やすことになる俺に、せめてもの感謝の言葉くらいあってもいいだろう?
「うわー、神官長が拗ねて面倒くさいモードに入った」
「俺だって今回は美味しいもの食べたかったの! でも姫さまは表に出たがらないし、他メンは政治の話できないし、俺が全部負担するしかないわけ、わかってますか!」
まあ、姫さまは王女でありながら、最後まで国や国民と運命を共にせず、逃げ出した敗残兵の一人。
『自分が表に立つとパルチザンからの反発が強まり、勇者パーティにも迷惑をかけるかもしれないから』という理由がしっかりあるので仕方ないんだけどね。
他メンもそうだ。
政治的な折衝のやり方も知らない人たちに、無理にやらせるわけにはいかないし。俺も、俺の専門外の分野で彼らには助けられてる。
それはわかってるんだけどね?
それにしたって言い方があるじゃん⁇
なのに勇者レーヘンは相変わらずのふわーっとした顔で、『拗ねた』とか『面倒くさい』とかいうのである。
そりゃ拗ねるし面倒くさくもなるわ!
「にひひ、ボクが美味しいご飯食べてる間、神官長はお仕事大変だね、がんばってね、ボク神官長の分まで美味しいご飯満喫するから!」
「このメスガキ勇者め、この、このっ!」
「ふふふっ、はー楽しい、神官長ってイジると反応面白いなぁ」
レーヘンは加虐的な笑顔を浮かべている。
多分明確に悪意があった。
俺の心を傷つけ、踏み躙り、そうして顕になった姿を目にして悦を浸るというとんでもない悪意が。
……はっきり言って別にいうほど不快ではない。
コミュニケーションの一環として怒ってるふうの言葉を吐いてるだけだしね?
ただね、こういう言動って側から見ると非常に距離感が近く感じられるものなのだ。
俺より幼馴染くんにした方がいいんじゃない?
俺は少しおせっかい焼きで、レーヘンに淡い恋心を抱いているっぽい幼馴染くんへの援護をした。
「おいおい、弄るのは他の人にしとけっての」
「いやいや、それこそあかんやつでしょ。他の人ってやたらと『聖剣の対価』について重く見るじゃん?」
レーヘンは深く深くため息を吐いた。
味覚がなくなっちゃったーとか言い出した時よりよっぽど憂鬱げであるのだ。
「下手に弄ったら、萎縮するからね、ライフズくんも姫さまも、魔法使いさんもさ。表情が強張って、『……ああ……』だの『ごめんなさい』だの陰鬱な空気になるしさ」
「そりゃなるだろ」
幼馴染くんは、自分が勇者という重荷を背負うべきだったと考えているし。
姫さまは、貴人である自分は高貴であるが故に万民を守る責任があると考えているし。
魔法使いは、今度こそ大切なものを守り抜きたいと誓いを胸に秘めている。
そんな三人にとって、レーヘンが聖剣を煌めかせることは過去の誓いや信念が否定されるに等しいわけ。
「ボクも面倒に感じちゃってさ。なんか、支払った代償が治ってないと思われてる節があってさ」
「まあ、そりゃそうだろ?」
そりゃそうなるよ。
自分で言うのもアレだけど、俺ってこの世界の歴史上稀に見る大天才だからね? 普通はコストとして捧げた代償ーー寿命とか感覚なんてものは二度と戻らない。それを治せるのははっきり言って異常なのだ。
「何さその人ごとみたいな反応は」
「いや他人事だから」
聖剣の対価は仲間内では有名だ。
つまり、本当に治っているのか? 勇者レーヘンは周囲を心配させないためにあえて治ってるフリをしてるのでは?
仲間を含めた周囲がそんな誤解を抱いてるっぽい素振りを見せる時がある。
今回の美食でもおそらく、味覚が本当にあるのかどうかを何度も念入りに試されるのだろうなぁ。ま、治してるから問題ないし、誤解もすぐとけるんだろうけどね。
「はー? 神官長だってボクと口裏合わせてるって思われてるんだからね! 他人事なんかじゃないんだけど⁈」
「仕方ないよ、諦めようレーヘン。むしろ心配してくれてるのはありがたいことなんだよ?」
俺も仲間内から、人類救済という大義のためならあらゆる犠牲を許容するマキャベリストと認識されてる節がある。
故郷奪還に執着する姫騎士とか。
妻子の復讐に燃える魔法使いさんにだ。
ちょっと鏡見て欲しいというか、俺は二人みたいなシリアスな過去や挫折経験したことのない甘ったれた夢想家系なんだけどなぁ。
でもそれは、それだけ心配してくれてる人がいるってのはありがたい話でもある。
彼らを疎むんじゃなくて感謝しよ?
俺はレーヘンを諭した。
「……あのさ、そこは『大変だよな、わかるよ』とかいう場面じゃん? なにその面倒くさそうな顔。だれのせいで面倒くさくなってると思ってるの? 神官長のせいじゃんか!」
めんどくさいなぁ……。
勇者レーヘンは自分の言葉を信じてくれないことに拗ねているんだけど、それって俺に向けるべきことなのかな?
俺は思わず、深くため息を吐くのだった。