曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者 作:さらみパスタ
夏の日差しが街中を燦々と照らすある日のことだった。
俺は勇者レーヘンとデートしていた。
彼女から出店巡りをしたいとか、あれこれと提案されてこうして一緒に出歩いてた。
俺に気を使わせないように天真爛漫の笑顔を見せる勇者さまなんだが……その裏には俺の婚約問題解決のために一肌脱ごうという善意が存在しているのだ。
自分が泥をかぶりながら、俺のためにあれこれしてくれるなんて本当に優しい子である。
「レーヘン、ありがとな? 俺のためにあれこれしてくれてるんだろ?」
「……え? ……えーっと⁈」
そしてそういう感謝はしっかり伝えておくべきだ。俺は勇者さまと目を合わせ感謝を伝えたのだが。彼女の反応は俺の予想していたものとは随分と違っていた。
照れ恥じらうとか、すっとぼけるとか。鼻を伸ばして胸を張るーーていで茶化そうとするのかな、とか。
「いや、俺のためにこうしてデートしてくれてるんだろ?」
「え? ……あー、うん、そうだね」
そう思ってたんだけどね。
はい、勘違いでした。
感動を返せ! 俺はそう強く言いたい気持ちに駆られていた。
なにが、『あいつも俺のこと考えていてくれたんだな……』だよ。
濃い付き合い(二、三年の仲)だからある態度察しはつく。今の彼女は俺の発言に話を合わせただけに過ぎない。
特に深い考えはなかったのだ。
勇者さまは単におバカだっただけだった。
同居疑惑を周囲に告げることで、俺の婚約話をなんとかしよう、なんて殊勝な事を考えていなかった。
全ての真実を悟り、俺は思わず天を仰いだ。
「お前さぁ……俺今キメ顔ですっごくかっこいいこと言ったのにさぁー」
「恥ずかしかったからって面倒くさいモードに入らないでよねー、神官長はそういうとこあるよねー、もーほんとにさー」
この調子だと他に意味もないな。
勇者さまはただご飯を奢ってもらえることに味を占めてるって感じだった。他人の金で食うという最高のスパイスの味を覚えてしまい、暇があればたかりに来てるだけだった。
実は俺は勇者さまが俺に恋してるとか勘違いしてたんだよね。毎度の如くデートに誘われるしさ、同居疑惑を漏らしたことも含めて実は外堀埋めようとしてるのかな、とか色々考えてたわけ。
そう言うわけではなかった。
レーヘンは……単に無知だった。
ほら、言い訳になるけど無数の女の子に言い寄られてると変な勘違いしちゃうというか、意識がそっちに引っ張られるんだよね。
……このことを深く考えていると地べたにのたうち回りたくなるので思考をリセット。
「わー、この串焼きおいしー」
「……ふーん……あ、ほんとだ美味しいねー」
そうして気持ちを切り替え、レーヘンとぶらついて、屋台でご飯買って買い食いしながら過ごしていた昼下がりのことだった。
「あ、ライフズくんだ」
「本当だ、お前よく気がついたなレーヘン」
「そりゃボクは勇者ですから」
以前より随分と賑わいが増した外周地区。その雑多に並んだ出店と、無数の人混みの中に知り合いがいたことを見逃さないあたりは流石の人類最強なのだろう。
せっかく鉢合わせたのだ。
俺たちは彼を仲間に加えようとその後を追いかけるのだった。
ライブズくんはいつもの路地裏ーーではなく、拡張された都市の外周部の裏道。薄い暗がりの中にいた。
都市の拡張により、露店なんかもこっちの方が賑わうようになっているし。
警邏の兵なんてものも多くなっている。
だから、推定魔族の行商人さんも都市深部に踏み入れることが躊躇われたのだろう。
特に今は魔族排斥の声は根強いから。
ま、そんな市民の声とは裏腹に俺はベストールさんへの信頼をかなり強めていた。
洗脳事件中にかなり多くの情報を渡されてたし、その信憑性もかなり高かった。
しかもあの状況でこちらに情報を渡す利というものはないからね? 魔王妃は人間と友好的な存在らしいし……その一派なのかもしれない。
「全く意地が悪いのぉー、ライフズ。妾のこと揶揄っておったのか? 妾割と喉を枯らす勢いで必死に喋っておったのにのぉー」
「えっとその、すみません、ベストールさん」
推定魔族さんの態度はあからさまに冗談と言った感じだった。身内を殺されたと言うより厄介な人をよく排除してくれたと言う喜びと安堵が滲んでいる。
しかしメンタルが落ち込まれているライフズくんにとってはまるで弾劾のように感じられたのだろう。
勇者レーヘンの存在を忘却していた事実。
自分が勇者であると勘違いしていた事実。
それは年頃の男の子には相当キツイことだった。
その上、自分たちは洗脳にかかっておらず四天王討伐に協力したってことになっているのだ。
事件が解決して三、四ヶ月ほど経過したわけだが……彼のメンタルは未だ落ち込んでいるというか。これでも結構復調してきてはいるんだよね。
「……すまぬ冗談じゃ。勝てばいいのじゃ。そのために妾を利用するくらい構わぬからな? 変な罪悪感など感じなくてよい」
「……はい、すみませんでした」
ま、そんな苦悩を、洗脳にかかってるフリをして自分に嘘をついたことへの罪悪感と受け取ったのだろう。
ベストールさんはそれが軽口であると改めて口にしたんだが……。
現在進行形で嘘をついたこと。
四天王ヤムルの目がある中で、魔王軍を裏切るに等しい情報提供ーー非常にリスクある行為をして貰ったのに。
ベストールさんの決死の献身を無駄にしていたこと(勘違い)。それを謝れないこと。
ぐるぐるといろんな感情が渦巻く中で。
ライフズくんは曇っていた。
「そう言えば、一つ聞いておきたいのじゃが……いや、それはやめておこうかの」
「……何かに気がついたんですか?」
「いや、お主じゃなくての? 神官長殿についてお聞きしたいことがあるんじゃが……やめとくことにする」
多分変に情報聞き出そうとしてスパイだと思われることを嫌がったのかな? なぜベストールさんがこの都市にやってきたのか、その理由は一つだった。
「次の敵は魔王さまじゃが……あの方は魔界最強の実力者じゃ。凡ゆる技術を修めた超人で、その腕力は魔界最強じゃ」
最後の敵、魔王。
魔族の王であることしかわからぬ謎多き存在だ。名前も、人類に侵攻をした理由も、何一つわからぬ謎多い存在。
ただ一つわかっているのはその実力。
魔族を武力で支配する最強の男。
「心せよ? 鋼さえ引千切る、そういう怪力の持ち主が体系化された技術を振るうのじゃからな」
俺たちがあれだけ苦労した魔界最強を単身で屈服させた、文字通りの世界最強の生物。
今まで戦った四天王とは一段レベルが上の存在なのだ。
「……真正面から戦わずに勇者の聖剣で消し飛ばすことをお勧めする。変に戦おうとする方がリスクも……勇者レーヘンに振りかかる負担も大きいからのう」
「…………」
ライフズくんは、そんな言葉になんの反応も示せなかった。ただ苦渋の表情と固く握り込んだ指先がその内心を示唆していた。
「そして魔王陛下の傍には常に近衛がある、彼らも魔界最精鋭だけはあるのじゃ、単なる烏合の衆などではない、心するのじゃ、難敵じゃからのう」
ま、そんな幼馴染くんの苦悩する中でも情報提供は続いていく。なるほど、近衛の存在は俺としては全く認知していなかった。
そりゃ王の護衛はエリート揃いになるわけなんだけど。こうしてわざわざ別枠として説明されるということは本当に厄介なのだろう。
「それと、これは魔王城の地図の写しじゃ。かつての聖王国の城を改築されておる、人間世界に残る資料だけを信じると痛い目を見るぞ」
そうしてばりっばりに利敵というか、多くの情報を渡すだけ渡して、謎多き行商人は店終いをして立ち去っていくのであった。
「ああそうそう、魔王さまは強奪した皇国の国宝である剣を愛用しておる。が、あの方の本気は腕力にものを言わせた近接戦じゃから、剣を捨てたら注意せよ」
ーーーーーー
ーーということがあったんですよ、神官長」
そんな情報はその日のうちに、というかその後すぐにライフズくんが報告してきたのだ。場所はいつもの喫茶店の中である。
俺の屋敷にまっすぐ向かう彼に偶然を装って話しかけ、そのまま歓談をすることになっていた。
いや、一緒に聞いてたけどね?
「ベストールさんはヤムル討伐の時にも多くの情報を教えてくれたからね、信頼がおけそうだ」
「……っ、え、神官長⁈」
「あれ、言ってなかったっけ? 洗脳されてふらふら歩いているライフズくんのことを尾行したことがあってね、その時あれこれ言われてたのを聞いていたんだよね」
あとその前にそれとなく、ライフズくんの曇らせを晴らす。知り合いの行商人さんの情報提供は決して無駄ではなかったと、しっかり言葉に出して報告するのだ。
「本当にありがとうね? そういう信頼をこつこつ積み重ね続けていた君のおかげで色々と情報のピースが手に入ったってのはあるからね」
「……そ、そうだったんですか……よかった……」
ライフズくんが、行商人さんと交流し続けたからこそ得られた情報だと。
俺はしっかりライフズくんを持ち上げる。
こういうケアは気がついた時にしておく必要があるからね。
あと忘れていたのは事実だけど、役に立たなかったわけではないこともここぞとばかりに吹き込んでおく。
ま、こうしてライフズくんが背負った苦悩の種を一つだけ取り除くことに成功したのだ。
まだまだいっぱいあるんだけどね。
彼を苦しませる無数の問題は。
「にしても、魔王はライフズくんと姫さまが一つになったような敵ってことか」
「本当に厄介ですね……あと、僕は皇国の宝剣の情報について調べてみたいと思ってます。刃渡とか知っといたほうが訓練になりますし」
「ああ、じゃあお願いするよ」
というわけで俺はそういうお仕事を幼馴染くんに頼むのであった。
俺がやれ、と思うかもしれない。
いや、やるけどね?
俺も亡霊さんに話聞くつもりはある。
でもライフズくんの成功体験を少しでも積ませ、自己肯定感を上げるためにも幾つかの仕事は任せた方がいい。
生きた人間から情報を集めるのは彼のお仕事。
俺は仲間を頼った。
ーーーーーー
「あ、おかえりー。意外と早かったね」
そうしてライフズくんから情報を受け取り。
屋敷に帰って俺の目の前にいたのは、勇者レーヘンであった。なんなら散策終わった後一時的に別れたのだが……彼女はそのまま勝手知ったる我が家と言わんばかりに俺の部屋の中でくつろいでいたのだ。
まあ、今回ばかりは大目に見る。ライフズくんから受け取った情報をもとに早急に作戦を練る必要があったからね。
「にしても姫さまの腕力と、ライフズくんの技術かー……二つ揃ったら流石に厄介だなぁ」
「片方だけでも厄介だと俺は思うけどなぁ」
勇者パーティー一の腕力の持ち主姫騎士。
皇家に代々伝わる、怪力という形質を受け継いだお姫さまの力は勇者パーティー随一。彼女のシールドバッシュは並の魔族を一撃で殺すほどの威力がある。
そして勇者パーティー随一の技術の使い手ライフズ。
聖剣守の一族であり、千の技術を習得した天才。あらゆる技術を必要に応じて放つ万能手。
その本質は敵のあらゆる動きを先読みできる守りの知識だが……。
「いや腕力だけなら避けられるし、ライフズくんの技術なんて極まってないでしょ? なら別にって感じだし」
「ま、お前にとってはそうなんだろうなぁ……」
勇者さまの妄言はさておき、片方だけでも厄介なのに、それら二つが合わされば文字通り手がつけられなくなる。
流石に俺の回復技術や、レーヘンの勘、空間把握能力、肉体制御能力、魔法使いさんの魔法知識はないだろうけど……。
「ま、魔王は取り合えず、剣使ってるうちに聖剣で焼き払うわけだけどどーしよっかなー」
「城を外から消し飛ばすのはありだと思う。玉座の間ごとぶっ飛ばせばいい。あと近衛は真っ先に処理するべきだな」
こういう話は仲間の前ではできない。
確実に反対されるし、悪戯に曇らされるだけ。
俺もね、こうして生きてきて色々と学習するわけ。
信用してないわけじゃないんだよ?
逆なの、勇者パーティーの仲間は勇者に自己犠牲させて、仕方ないと割り切れるような薄情ではないって信頼してるの。
でもこんな敵を相手にしたら仲間にも万が一は有り得る。悪戯に犠牲を出すくらいなら、俺は目先の曇らせを選ぶ。
魔王討伐が終わってから、勇者さまが元気に長生きすれば勘違いなんて解決するのだからね。もう出し惜しみする必要はない。
そして聖剣は強敵と戦う上で必須。
どこでどう使うのか予め作戦を立てておく必要がある。
「でも避けられるんだよなぁ。ゼンネルシアは普通に見切ってきたし、多分魔王も同じことできる気がする」
「そこなんだよなぁ……」
まあ、流石に初手で聖剣使うわけにはいかないというか。普通に回避されるからね。魔族最強と呼ばれた魔族は、聖剣の動きを見切って回避した。魔王にそれができないとは思えない。
ということは。
囮を用意するのが手っ取り早い。
そしてそれはーー
「……そうだ、神官長を囮にするのはどう? 近衛を倒してすぐに代償の補填を行えば、魔王もからくりに気がつくはず。そうすれば真っ先に神官長を狙ってくるだろうからさ!」
「……おう、そうだな……」
ーーいや、いいんだけどね?
言われなくても囮くらい引き受けるつもりだし、なんなら俺から言い出すはずだった。でもここまで、一切の逡巡もなく、さも名案であるかのように提案されると……ね?
「大丈夫、安心して! ボクは全然気にしないから!」
「少しは気にしたっていいんだぞ……」
……いや、本当にいいんだけどね?
変に色々気にされて曇られるよりずっとマシだし。
ただ、ね? 曇らない瞳で元気いっぱいに言い切られたらそりゃね、なんか違うよねってなるよね?
「むぅ、ボクだって何も知らなかったら気にしたと思うけどさー」
「……痛いもんは痛いんだぞ……」
勇者さまは意味深そうに俺の研究ノートが記された資料と、隠された研究室を一瞥したのだ。何かあった時のために編み出した秘中の秘……ってわけでもないか。理想の女の子を生み出す研究の副産物だし。
「それをいうならボクだって器削ってるんだけど!」
「えっ、あれって痛かったりするのか?」
「いや、別に痛みとか苦しいとかはないけどさぁ」
俺は思わず素に帰ったんだが……別にそういう余計な負担はないらしい。よかったよかった、俺は安堵した。
「ならいっか。いつもありがとうレーヘン。お前の自己犠牲は……本当に美しいよ」
「神官長さー、舌戦で分が悪くなったから話誤魔化すためにおちゃらけたでしょー、そーいうのわかるからね? もーもー」
俺もね、負けたとは思ってないのよ。
ただこの話題が続いた場合に、あまりに分が悪いことは自覚していた。だからこそ全力で目を逸らしすっとぼけるしかないのである。
そんな俺のことを、勇者レーヘンは得意げな顔で見つめていた。
ーー聖歴0099 7月16日ーーーー
もちろん、仲間達にも情報は伝達する。
情報提供を受けた翌日のことだった。
勇者パーティーが定期的に会合する席にて。
魔法使いさんと、姫騎士ワイスにも魔王についてあれこれと説明されていたんだが。
「……そうなのですか、あの剣を魔王が……」
「姫さまもしかして詳しいの?」
「それはそうでしょう? 皇国はわたくしの祖国ですのよ? わたくし一応姫なのですけど」
ワイスは皇国の姫。
つまり国宝についてはかなり詳しい。
「あの剣は、剛力を持つ皇国出身者のための剣ですの。極めて重く、頑丈な剛剣。気をつけてくださいまし、腕力と重量がもたらす破壊力は人体が耐えられるものではありませんから」
「まー、つまり敵の攻撃に当たらなければいいんだね。なんだ、簡単じゃん!」
「掠めただけで身体を持っていかれるぞ、レーヘンの嬢ちゃん」
勇者パーティーの作戦会議はそうして進んでいくのであった。ちなみに聖剣のせの字も話題に上がることはなかった。
レーヘンも色々学習してるからね?
仲間の前で余計なことは言わないのである。
「剣を捨てたら本番ってことは、多分動きが速くなるってことだよなぁ……厄介な」
「その分、攻撃力自体は下がると思いますわよ?」
会議中、勇者パーティーメンバーは真剣に思い悩む表情を浮かべていたのだけど……一人だけ例外がいた。
姫騎士ワイスである。
彼女はどこかほっとしたように吐息を吐いていたのだ。
紛失中の国宝が見つかったからかな?
と思っていたのだけど。
「というわけで、何かわかったことがあればご報告お願いしますね」
「あー、疲れた。ボクお腹ぺこぺこだよ」
会議を終えた後も彼女の、どこか安堵したような雰囲気は消えることなく続いているのだ。
まあ、今って情勢的にかなりの余裕がある。だから姫騎士も色々余計なことを考えてしまったのだろう。戦後を見据え、あれやこれやと政治という暴力で解決できない厄介な問題に手を打つ必要があった。
それは彼女にとって、大変負担が大きかったのだ。
姫騎士は結構、武人タイプというか。
政治はできるけど好きではない。
社交界で優雅に政争するより、最前線で戦うほうが気が楽というか……つまり俺と似てるとこがある。
でも、高貴なお方としての責任感で政治に取り組んでいるわけなのだが……目下強大すぎる敵の存在を前にして、余計なことを考えないでいい理由が生まれたのだ。
彼女を苦しめる諸々の課題を全て後回しにできる。
「すみません神官長さま、少し宜しいですか?」
そんな姫さまは、会合後に俺に声をかけてきた。
どうしたのか?
俺は勇者レーヘンのじとーっとした眼差しを背中に感じながら、姫さまに物陰に連れ込まれるのだった。
「一言謝罪させてください。申し訳ございませんでした」
「ええ、受け入れますよ姫さま。その代わり魔王討伐の時はお願いしますね」
何を謝りたいのかはさっぱりだけどね。
俺は謝罪を受け入れた。
「ええ。おまかせを。今は最後の戦いについてだけ考えることにします。……ああ、でも、その、もしわたくしに万が一があったら祖国のことをお願いしてもよろしいかしら?」
「そのときは俺が責任持って復興手伝いますよ」
「ふふ、ぜひわたくしの父の形見の王冠を身につけてくださいね?」
そして魔王との闘いで最も危険なのはーー姫騎士だった。敵の攻撃を受け止める肉の壁である彼女は魔王の恐るべき技をその身で受け止めなければならない。
姫騎士は覚悟を決めていた。
死ぬ可能性が高いと自覚していた。
俺がやればいいと思われるかもしれない。
でも俺は回避盾なので、後列目掛けて放たれた攻撃をなんとかすることはできない。となると盾役は俺が全うすることはできない。
「まあ、姫さまが死なないように俺も力の限り回復を飛ばし続けますけど、結構痛いと思います。頑張って」
「ええ、感謝しますわ」
姫さまは穏やかに笑っていた。
それは洗脳中によく見た、曇りのない笑顔だった。