曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0098 2月29日

 

 

 

 

 寒さが肌を切り裂く冬。

 

 魔王軍四天王の動きは一気に活発化していた。

 文字通り失策を悟ったのか、ここにきて魔王軍四天王が動いたのだ。

 とある戦線に姿を見せたのだと報告が入ったのだ。

 

 勇者パーティーの出番なのだろう。敵幹部や緊急時に対応するために、戦略的な要地に陣取り、敵の動きを牽制していた勇者一行は、約四ヶ月ぶりに活動を活発化させていた。

 

 

 もちろん移動は徒歩ではない。

 竜車、そう呼ぶには少し巨大な『動く拠点』と呼ぶべき車輌がある。

 パルチザンが所有していた、かつての超大国が作成した貴人用の移動式拠点であり、それが勇者一行に譲渡されていた。

 

 貸し出しじゃなくて譲渡な?

 

 竜が牽引する車輌にのり、戦場までに余計な疲労を蓄積させない手筈は整えられている。大大陸はとても広い、歩いて移動するなんてまさしく徒労なのだから。

 

 さて、そんな竜車の中の空気はーー悪い。

 というのもパーティーメンバーの魔法使いの嫁と娘の仇がその四天王だからであった。

 隠しきれぬ憎悪と殺意を撒き散らす彼の存在で竜車の中の空気は緊張しているのである。

 

 

「ふー、神官長どうにかしてー」

 

「俺にだってできないことがあるに決まってんだろ」

 

 

 というわけで、動く拠点の中の俺の部屋にのそのそとやってきたレーヘンは開口一番にそう告げた。

 

 俺だってどうにかできるならしている。

 しかし、俺と魔法使いは大人の同僚的な距離感であり決して親しいわけではない。なのにどうにかできるわけがない。

 

 なんなら彼の戦う理由『妻と娘が魔族に惨殺された』みたいな話も俺は直接聞いたことはないからね?

 

 だから変にあれこれ言っても響かない。

 それが可能なのは子ども連中ーー特に死んだ自分の娘とよく似ているレーヘンのみなのだ。

 

 

「ここは協力しようレーヘン。俺がカンペを作るからお前が読むんだ、いいな?」

 

「ふっ、自慢だけどボクは人の作った作文を自分の考えたことのように読むのは得意なんだ、まかせて!」

 

 

 実はそういうことは結構やっている。

 勇者レーヘンが演説しなければならない場面というのは実は結構よくあるのだ。

 記念式典とか、戦い直前の兵士への鼓舞とか。

 

 そういう時には俺がカンペを作り、レーヘンがそれを読んでいる。時に演説の練習なんてのもこっそりしている。

 

 というわけでこっちで発言内容を用意してレーヘンに発言させることで対応しようと話し合いをしてる時のことだった。

 

 

「えっ、四天王が別の地点に出没した⁈」

 

 

 本部から、また連絡が入ったのだ。

 件の四天王が今度は別の戦線に姿を現したのだと。

 

 

 

ーー聖歴0098 4月18日ーーーー

 

 

 ゲリラ的に戦線を荒らし回る四天王の動きに人類戦力の動きは鈍っていた。真正面から攻撃はせず、師団が壊滅するような事態は起きておらず、それ故に人類側への被害はそれほど出ていないが、だからこそ厄介と言えた。

 

 じわじわと削られている。

 

 人類連合中枢に薄ら浮かんでいた楽観論は完全に消し飛んでいるし。亡命組とパルチザンの対立も完全になりを潜めている。

 

 勇者は最強の駒であるが、瞬間移動はできない。

 勇者がいない戦線を狙われたならどうしようもないのだ。

 

 だからこそこの一月ろくな手立てを打つことができていなかったが……その間、人類はただ翻弄されていたわけではなかった。

 

 情報を集め、対策を練る。

 人類連合の頭脳集団が総力を決して考察した四天王が次に攻撃する地域の予測が立つようになっていた。

 

 

「うーん、なんか違う気がするなぁ」

 

 

 そこへの派兵の途中で、なんかイヤな予感がするからと全く別の場所に移動することを選んだのは流石の勇者といえよう。

 そして勇者がイヤな予感がすると言ったからには、信じるしかない。俺も立場を利用してかなりの軍勢を動かした。

 

 そうして、勇者一行と王国の軍勢は少数精鋭を引き連れた魔王四天王の一人と遭遇したのだ。

 パーティーメンバー、魔法使いと因縁深き強敵で、戦闘前にちょっとごたついた訳なんだけど。そうして始まった激闘はーー勇者の聖剣の力で幕を閉ざした。

 

 強かった。

 ゲリラ戦を得意とするだけあり、気配を殺し不意をつくことに異常に卓越した四天王は、去り際の見極めも非常に巧かった。

 今倒さねば次はさらに倒しにくくなる。

 それを本能で理解したのだろう、闘いに余裕はあった、無茶をしなくともなんとかなりそうではあった。しかしレーヘンは聖剣を抜き、四天王を消し飛ばしたのだった。

 

 この戦いは、ただでさえ絶対的な英雄であった勇者レーヘンの名声を決定的なものにする闘いだった。勇者の勘が、人類連合の頭脳陣を上回ったことを意味していた。

 

 口さがないものは、『旧支配者層が、勇者の活躍を疎み、自分たちの功績を上げようとして失敗した』なんて嘯くほどに。

 勇者という名は絶対的なものに変化していた。

 

 ま、余計な因縁ができないように、社会的立場のある俺は色々と政治的な活動に励んでいたので、政権中枢ではそういう対立は起きてないんだけどな!

 一応俺は青い血を引いてるので、そういう政治的折衝は完璧に行えている。

 変に対立してなければ足を引っ張られることもない。というか政権中枢にとっても勇者は自分達を救ってくれた恩人にして英雄という認識が非常に強い。

 

 勇者を無理に戦わせるべきではない、寿命という対価を払わせるべきではないーーなんて主張はあるかもしれないが……。

 

 

 さて、そんな難しい政治の話なんてこれっぽっちもわからない勇者さまが部屋にやってきたのは、四天王の三人目を討伐したまさにその夜のことだった。

 

 

 ーーーーーー

 

 

「あれー?」

 

 

 戦闘が終わり、お偉いさまとの会談も終わり。

 四天王三人目の討伐という大功績を挙げた勇者一行は、人類連合中枢が開いたパーティーに出席していた。一応彼らの面子を潰してしまったわけだからね、謝罪行脚というわけではないけれど。

 ある程度顔を立てるべく色々してたのだ。

 

 ま、向こうも気を悪くなんてしてないんだけどね。

 自分たちのメンツより魔王軍幹部の討伐の方がよっぽど重視してるというか。

 お偉いさまもこのままいくと全員死ぬという危機意識を持っていたから、それが解決した安堵は何にも勝るものだったのだ。

 

 そしてこの件で、パーティーメンバーの姫騎士さまが政治的な活動を再開し始めていた。

 結構危機的状況だったからね、パルチザンと亡命組の対話の窓口役としたあれこれしてるうちに、亡命組の事実的な代表のように扱われるに至っていたのだ。

 

 豪華なドレス(母親の形見の品)に袖を通し、気品に満ちた態度で重鎮達と折衝を行う姿に、自身の負担が減ることを強く期待していた俺なのだが。

 

 

「ねぇねぇ、神官長、ちょっといい?」

 

 こっちの仕事は当分続きそうだ。

 そう、しみじみ思うのだった。

 

 いつものように部屋にやってきた勇者レーヘンはいつものようにベットにちょこんと腰を下ろしーーこてんと首を傾げていた。

 

 

「僕、多分神官長のこと忘れてるはずなんだけど……あれ、もしかして僕と神官長って幼馴染だったりする?」

 

「なわけないだろ、初対面はパーティー結成したときのことだぞ」

 

 

 俺は腕を組んでため息を吐いた。

 聖剣に選ばれた子どもがいる、そう『聖剣守の一族の生き残り』から報告が来たので国内で最も優れたヒーラーである俺は彼女と組むことを決意し、その街に向かう途中に鉢合わせたのが俺の彼女の出会いの始まりだ。

 

 

「あ、そうなんだ。神官長がいきなり仲間になったから『実は知り合いだったから』なのかなとか思ったんだよね」

 

 

 レーヘンは腕を組みながら記憶を探っている。

 おそらくだが……寿命を消費したわけでも、五感の調子が変なわけでもないからだろう。

 

 

「なら、裏でこっそり交際してたりした⁇」

 

「勝手に記憶を捏造すんな」

 

 

 もちろん俺は信用できない語り手ではない。実は勇者と付き合ってたみたいな話はないし、読者の皆様の陰に隠れてデートを隠していたこともない、何かしらの過去のイベントもない。

 

 

「多分、対価は記憶なはずだよね……」

 

 

 と、レーヘンはじっと俺を見つめてーーそのまま一歩距離を詰めてきてのだ。なに? 視界に問題でもあるのか? 

 

 

「……いや、違うな……」

 

 

 が、そうではないらしい。

 レーヘンは今回の対価をあれこれ考えているようだが、どうにもそういうわけではないようで、困惑している。

 

 ちなみに正解は『子宮の機能』である。

 つまり子どもを残せなくなったということだ。

 もちろん治療可能なので治すわけだが。

 

 それを年頃の女の子にいうのはね……。

 

 

「とりあえず治しとくから、この件は気にしなくてもいいぞ、レーヘン」

 

「……神官長、あのその、もしかして代償が何かに気がついたの? それとも他の何かに?」

 

「いや代償は妊娠機能というか、お前は子ども作れなくなってたんだよ、治しといたから問題ないぞ」

 

 

 ぽりぽりと頬を掻き、探るようにそう呟くレーヘンの姿はまるで年相応の子どものようだ。本人も代償が何なのか分からないことが不安なのだろう。

 

 ま、レーヘンだからいっか。

 変に何を失ったのかわからないままの方が精神的な負担が強いだろうし、と。

 俺の言葉に一瞬目をぱちくりした勇者さまは、嫋やかな手で自分のお腹を軽く撫でた。

 

 

「あー、内臓系かー、それはわからないな」

 

「生理痛とかも起きなくはなるなら、直ぐに違和感は気がついただろうが……」

 

 

 と、ここで気がついて流石にグレーゾーン踏み越えたか、と俺は焦った。俺はヒーラーなのでパーティーメンバーの生理周期をしっかり把握しているわけなのだが……それを口に出すのは流石にNG。

 

 

「確かにそれもそうだけどね!」

 

「お前ほんとに図太いよな」

 

 

 溝川で悠々と泳ぐ鯉のごとく、勇者のメンタルは頑強だ。並のストレスで動じぬタフな女の子はそういう発言を気にしないのだ。

 これ姫さまが相手だったら一月はあれこれ言われるだろうになぁ……。

 

 

「いや、図太くなんかないよ。

 さっきさ、姫さまがね、突然ボクのことを昔ながらの妹分とか言い出したんだけどさ」

 

 

 代償の治療を終えたあと、ふとした様子でそう口火を切ったレーヘン。

 

 話の切り替えがあまりに雑だった。

 多分、胸の中に燻る想いを愚痴りたいあまりに、無理やり話を繋げたな? 俺は察した。

 

 この時点でレーヘンが何を言いたいのかは明らかだった。というかその時遠巻きに俺いたからな? 関わりたくないからお偉いさんとのお話忙しいですー的な雰囲気出してたけどさ。

 

 

「もうね、ボクとしては適当に相槌打つわけじゃん? なんか政治的な話でそういうことにしたいのかとかさ、仕方ないからそういうことにしてあげよう、みたいな」

 

 

 レーヘンは大仰に身体を動かした。身振り手振りで一生懸命に自分がどれだけ大変な思いをしたのかを伝えようとしてるわけなんだが。

 

 

「そしたら空気が変わってさ、気がついた時には過去の記憶チェックが始まったわけ」

 

 

 いやでもね、記憶消えてる疑惑のある女の子が軽々しくしていい真似ではないのよ。

 レーヘンは些か、代償というものを軽く見過ぎているというか。そういう周囲の反応は決して大袈裟ではないというのに。

 

 

「覚えてるわけないんだよね、5歳の頃の話とかさ。神官長もそうでしょ? 隣に住んでたおばさんの名前なんてすぐに出てくるわけがないんだよ、それをみんな、わーきゃーわーきゃー大事にするしさ」

 

 

 レーヘンの愚痴は止まるそぶりを見せず、結局夜遅くまで延々とそんな感じの言葉を紡ぎ続けていて。俺はああ、この子もしっかり女の子であると心の底から思い知らされるのであった。

 

 

ーー聖歴0098 4月19日ーーーー

 

 

「レーヘン、多分今回の代償は記憶だと思うんだ。だから一時的にソルト王国に戻って」

 

「いやライフズくん判明したよ! 代償は子どもを作る機能だったらしくて、神官長の秘術で治してもらったから」

 

「……っ……」

 

 

 翌朝のことである。

 レーヘンの記憶チェックは朝から行われようとしていた。もちろん幼馴染として同じ時間を過ごしてきた幼馴染くんが尋問官役であるわけなんだが。

 

 それを面倒くさがったレーヘンは開口一番に、代償の内容について語ったのだ。

 そして仲間達の顔がさーっと青くなった。

 前にも言ったが、レーヘンの代償は回復なんてしていない疑惑というものが存在している。

 

 

「レーヘン、すまなかった……俺がはやったあまりに……お前にひどいことを」

 

「いや、気にしなくていいから、魔法使いさん!」

 

 

 子持ちであったがゆえに、子どもを残せないことがより残酷に感じているのだろう。

 それが自分の妻子を奪い、復讐を望んでいた相手を、自分の代わりに倒してもらった彼にとっては、正しくとんだ曇らせであった。

 

 

「どうすればいいと思う、神官長!」

 

「だから俺にもできることとできないことがあるんだよ、レーヘン諦めろ」

 

 

 というわけで陰鬱な朝の交流会を終えて。

 レーヘンは毎度のごとく、俺に絡んできていた。

 正直な話、なんとかして欲しいっていうより愚痴を聞いて共感して欲しいってのが実情だろう。

 勇者さまもこういう問題を一瞬で解決するたった一つの冴えたやり方なんてありはしないことを理解しているのだから。

 

 

「つっかえなー、神官長はボクの回復が役割だろ、しっかり問題を解決してボクのことを助けてよ!」

 

「俺は回復専門なんで、外敵の排除は他の人たちの役割ですからね」

 

「その役割の仲間が今回の元凶なんだよなぁ」

 

 

 レーヘンは深く深くため息を吐いた。

 

 

「というか今まで以上に面倒というか、みんなやたらとウジウジしてない?」

 

「そりゃそうだろ、子どもを産めなくなったなんて残酷な話だよ、レーヘン」

 

 

 年頃の女の子が子どもできなくなった。

 それはかなりショッキングなことだ。

 俺も何も知らなかったら治療のために手を尽くした筈だろう。ここまでのほほーんとしてられるのは、自分の才能を誰よりも理解してるからに他ならない。

 

 

「ちょっと神官長、思想が漏れてるよ? 子ども作ることだけが女の幸せなんて価値観がさぁ〜」

 

「作らないは権利だけど、作れないのは悲劇だぞ」

 

 

 ま、結婚とか恋とかにも無頓着というか。

 どうやら幼馴染くんが自分に恋慕してるという事実さえ気がついていない唐変木な勇者さまには少し荷が重かったのだろうな。

 『誰かを好きになって、この人の子どもを作りたいな』みたいな感情を抱いたこともないから、今回の代償の重さを理解できていないのだ。

 

 俺はなんとも言えない気持ちでブツクサ文句を口にするレーヘンのことを眺めるのだった。

 

 

 

 

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