曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0099 12月28日

 

 

 

 人類連合による魔王城攻略は大成功を迎えた。ろくな犠牲を払うことなく魔国の首都を陥落させ、人類は遂に全ての領土を奪還することに成功したのだ。

 

 まあ、戦争初期に滅ぼされた聖王国にはろくな生き残りがいない。復興は困難であると言わざるを得ないのだろうけど。

 

 さておき、そんな大成功を収めた魔王城攻略だったのだが……ただ一つの目標を達成することはできなかった。

 

 それこそ魔王の討伐である。

 

 魔王城に魔王はいなかった。

 荘厳な玉座の間にも、何かしらの神を祀っていた豪勢な神殿の中にも。魔王はどこにも存在しなかった。

 

 魔王は逃げていたのだ。

 近衛隊を置き去りにして。

 

 では彼はどこに逃げたのか?

 捜索は難航するかに思われた。

 しかし、その日のうちに魔王城からとある文書が発見されたことで情勢は一変する。

 

 魔王の妃が残した文書。

 そこには、魔王は旧魔王城に逃げたことがはっきり記されていたのだ。

 近衛隊を勇者一行と戦わせた上で戦闘データを集めるという、臣下の身柄を考えぬ策謀への怒りが記された文章が。

 

 あからさますぎる工作だった。

 人類に情報を与えようとする意図は全く隠されていないのだ。

 

 軍内部ではそれが偽情報だという意見も散見された。勇者一行をさらに魔王の領土深くに誘い込むという作戦だと。

 

 ただ魔王妃は親人間派というか。

 多分、ベストールさんの上にいる方なのだろう。レーヘンの勘もあったので、俺はこの文書を全面的に信用し、軍のお偉いさんにお気持ち表明を行っていた。

 

 魔王の追撃のための準備はすぐに行われて。

 同時進行で色々と調査もされていたらしく、魔王の逃亡先が確定したのも同日中のことだった。魔王は旧魔王城に逃げ込んでいた。

 

 時間を与えず即座に追撃をかけるべき。

 

 勇者パーティーと、人類連合の軍勢はそのままかつての魔王国の領内を進み、かつての首都を目指し進軍していた。

 

 

ーーーーーー

 

 

 そんな行軍の真っ最中。

 移動拠点の中で勇者パーティーは最後の安息の日々を過ごしていた。人類最高戦力である俺たちは、数日後に迫った魔王戦に備え身を休めることが仕事であり、一切の雑務から解放されていた。

 

 

「つまり魔王は罠には引っかかったってことでいいんだよね?」

 

「だろうな、魔法的に監視してたらしいし、代償を補填してるところは見せてるからな」

 

 

 移動拠点の俺の部屋の中で。

 俺は勇者レーヘンと歓談に耽っていた。

 

 自室のごとく寛いでいる勇者さまだが……語られる内容は真面目なものだ。この次に行われる魔王戦の、仲間達には決して打ち明けられない秘密の作戦について。

 

 魔王が魔法を用いて、魔王城での戦いを監視していたのは確実だそうだ。バックルさんの解析により魔術的な仕掛けが発見されたらしい。

 

 ちなみにその向きとか距離的にも旧魔王城の方を指し示しているとかなんとか。

 

 だからわざと代償を払った上で、その補填を視認させることで、俺へのヘイトを稼ぎ、魔王戦で囮に使うという作戦の第一段階は無事達成できていた。

 

 

「じゃ、作戦は予定通りでいいんだよね? 神官長が囮をして、ボクが魔王諸共消し飛ばすってことで」

 

「ああ任せたぞ、レーヘン」

 

 

 というわけで魔王から真っ先に狙われるであろう俺の護衛役として部屋に入り浸っている勇者さまは、当たり前のようにベットを占拠しているわけなんだが。

 

 彼女にはこれから大仕事が待っている。

 誰よりも苦しい仕事だ、今は気を休めることを優先するべきだし、俺がそのサポートを行うのは当然といえた。

 

 

「ふふーん、任せといて! 神官長のことは好きだけど、ボクが手を鈍らせることはないからね!」

 

 

 そう元気いっぱい、一切の躊躇いなく言い切った勇者さまではあるけれど……実際は手が鈍ることは確実だった。

 

 勇者レーヘンは仲間想いの女の子なのだ。

 

 俺のことも大切な仲間だと認知している。自惚れではない、何年も仲間として冒険してきたのだ、絆も情も芽生えているのは確実で。

 

 そんな仲間を殺すなんて抵抗を感じるのは当たり前の話だ。

 これが姫騎士とか魔法使いさんみたいなシリアスな過去を持っているなら話は別だが……勇者さまは特に悲しい過去なんて経験していない。

 

 我が身を犠牲に仇を撃つとか。

 仲間を犠牲に大義を果たすとか。

 

 そういう感覚から程遠いところにいる。

 そんな女の子に味方ごと敵を仕留めるなんてーー相当の負担を強いるのは確実だった。

 

 

「代わりに神官長はみんなの説得お願いねー」

 

「ああ、任せとけ。誤解が解けるよう頑張るさ」

 

 

 ま、そんなシリアスな経験を積んだ仲間達でも普通に苦悩してるからね、勝利のために必要なこととはいえ……仲間たちのメンタルはヤスリにかけられているのだ。

 

 もちろん今までもそうなんだけどね?

 仲間たちは勇者さまが聖剣を使うたび、代償という対価を支払うことを思い悩んでいた。

 

 

「いや、ほんとに、いつも以上に酷いじゃん? みんなボクの前では辛い顔しないようにしてるのに、それもできてないし」

 

「そりゃ完全な無駄撃ちだからな」

 

 

 しかし今回は話が違う。 

 今までの強敵とは違い、近衛隊は疲弊するけど倒せる敵だった。

 

 これで魔王がいたのなら、前座で疲労するわけにはいかないから仕方ないと割り切れたかもしれないけど……玉座の間はまさかのもぬけの殻だった。

 

 つまり完全に無駄に代償を払わせたに等しい。

 

 

「……ま、まあそうなんだけどさ……目が見えてないなんて勘違いするのはおかしいんだよなぁ……」

 

「でもレーヘン、お前後ろの敵が何してるかわかってるだろ? 見えてないのに」

 

「それはそれじゃん? 雰囲気とかでわかるわけだし」

 

 

 だからより苦しんでいるのだ。

 魔法使いさん、姫騎士、そして幼馴染くん。

 彼らは懸命に誤魔化しているけれど……その雰囲気はどこか淀んでいる。

 

 仲間たちは高潔で自責思考の持ち主だった。そういう時にそれを命じた俺へ不満を抱くのではなく自分を責めてしまうのだ。

 

 

「まーまー勘違いは俺が全部解くから、お前が心配する必要はないって。言っただろ、責任は取るってさ」

 

「……ま、責任取ってくれるならいいけどね」

 

 

 自分たちが弱かったから、と。

 自分たちが頼りなかったから、と。

 自分たちがもう少し考えるべきだった、と。

 

 本当に申し訳ない。

 でも魔王討伐したらネタバラシできるし。

 諸々の勘違いを解く手段が解禁される。

 だからまあ、それまでの辛辣。

 

 

「その割にはみんなの部屋にもいかないんだね……いや、いいんだけどね? 姫さまの部屋とか今は行くべきではないのは確かだし」

 

「い、今は余計なことを言うべきでないからな」

 

「声震えてるじゃん、この人は本当にさー」

 

 

 申し訳なさそうな顔をしてるくせに、仲間たちのフォローもせずこうしてレーヘンと言葉を交わしていることが疑問なんだろう。

 

 勇者さまはそんな言葉を口にした。

 単なる軽口のように聞こえるけれど、その瞳には探るような色があった。

 

 彼女は勘がいい、だから察したのだ。

 俺が抜本的な解決策を見出したのだと。

 

 まあ、今一番フォローするべきなのは勇者さまってのはあるんだけどね? 本人にはその自覚はないようだけど。

 

 

「そういえば神官長、なんか論文を用意するとか言ってたけどあれはどうなったの?」

 

「あー……それは難しいんだよ、そんなすぐにできるようになるわけないし」

 

 

 レーヘンは俺の作った論文が完成したのかな? と思ったようだ。

 

 仲間たちのため、代償を補填してると説明するためのわかりやすい資料ーーを作るための論文の制作はもちろんずっと行っていた。

 

 そろそろ三年が経過しようとしているが……たったそれだけの期間で専門的な資料が用意できるわけがないのである。専門知識を一から習得してるわけだからね?

 

 

「えー、もう魔王討伐するんだよ? このまま数日後には魔王戦だっていうのにさぁー」

 

「こんな数年でここまでこれたのが想定外なんだ。しかもめちゃくちゃ忙しかったからな?」

 

 

 人類の支配地域がソルト王国一国のみになってはや数年。人類はたった数年で奪われていた領土の大半を奪還した。四天王を全員倒し、近衛隊も討伐した。

 

 あとは魔王を残すのみ。

 

 それはあまりに早すぎる奪還劇だった。

 こんなに早く情勢がひっくり返るなんて想像していたものはーー勇者レーヘン以外にはいないのだろう。

 

 沢山の先人が沢山のものを残してくれたおかげでもあるんだけど。

 

 その上、大変忙しかったのだ。 

 

 資料の作成を決意して。

 首都侵攻が起きて。

 あの後にルッデバラン事件が起きて。

 色々と情報収集して。

 それが終わったらヤムルさんの件もあって。

 魔王戦の準備とか諸々して。

 兎にも角にも忙しい日々を過ごしていた。

 

 

「ふーん、じゃあなんでだろー……神官長、みんなの誤解を解くための名案思いついたんだよね?」

 

「ああ、そうだな。我ながら天才的な作戦がある」

 

 

 そんな最中ふと思ったのだ。

 これ、用意する必要ある? って。

 

 レーヘンがその……結婚して子どもできれば全て解決するからね? 女性機能の喪失という代償を払ったことは勘違いを解決するための導をもたらしていた。

 

 味覚がなくなった、寿命がすり減った。

 そんな目に見えない分野と異なり、女性機能は子どもを作れば一発解決するのだ。

 

 そうすれば、他の誤解も全て解ける可能性が極めて高い。代償は治せているという何よりの証拠になる。

 

 ま、流石にこんな色恋沙汰もよくわからぬ小娘に子どもを作れなんて言えないから適当に誤魔化すしかないんだけどね、今は。

 

 

「…………」

 

「まあ、魔王討伐したら色々解決するだろ? みんなも追い詰められて思考が鈍ってるだけだしさ。平和になって余裕も出れば解決するさ」

 

「……う、うん……そ、そうだよね、魔王討伐したら、その……」

 

 

 勇者さまも仲間たちへの情はある。

 問題が解決する、俺の確信に満ちた発言を察したのだろう、安堵が喜びか、落ち着きなく身をゆすり始めていて。それがなんていうか年相応で可愛らしいものだった。

 

 勝たなきゃな。

 俺はそう思った。

 

 こんな少女が当たり前に笑える日々を、なんとしてでも守り抜かねばならない。何をしても、どんな手段をつかっても。

 たとえ仲間を曇らせたとしても。

 

 

ーー聖歴0099 12月31日ーーーー

 

 

 

 そうして勇者一行は旧魔都に辿り着いていた。

 かつて魔族が本拠地とした都市の中。

 その、寂れた小さな城の中。

 

 人類を追い詰めた最悪の敵ーー魔王は勇者一行を待っていた。

 

 魔王クラスの敵は聖剣の発動を目で見て回避できる。

 魔界最強と謳われた四天王にはできたのだ。

 魔王にできないわけがない。

 

 しかし、流石に物陰から隠れた状態で放たれれば避けることはできない。

 

 だからこそ遮蔽物のない環境で戦うことを選んだのだ。

 

 それは勇者パーティーも同じだった。

 仲間がどこにいるのかわからず、聖剣で巻き込んでしまうリスクもあるし、物陰に隠れた敵に距離を詰められることは避けたかった。

 

 だからこそ誰もいない魔王の城の王の間にて。

 正々堂々真正面から。

 

 大きな大きな空間で最終決戦は行われた。

 

 魔王戦は言葉なく始まった。

 問答を交わすことはなかった。

 

 甲冑に身を包んだ魔の王。

 その実力はとてつもなかった。

 動きは誰よりも速く、攻撃は何よりも重い。

 

 挨拶代わりのように繰り出された剣技を受け止める姫騎士の大楯は、これが個人と個人の衝突とは思えぬ破裂音を響かせた。

 

 姫騎士は揺るがなかった。

 ただいつまでもは、持たない。

 彼女が手にした鋼の大楯は数度の応酬だけで明らかに形が歪んでいた。

 

 

「……姫さま、直します」

 

「助かりました、ライフズ。神官長も感謝を」

 

 

 ま、そこはライフズくんがフォローを入れたが。錬成士である彼は武器の修繕も即座にこなせる。歪んだ大楯は僅かな時間で元の形状を取り戻していて。

 

 俺も彼女の盾を握る指の痺れ、他諸々の不調や全てを回復魔法で癒しつつ様子を伺う。

 

 もちろん勇者パーティー他メンバーも既に動いている。身を屈め、聖剣の刃先をちらつかせ、一撃必殺の絶技を見札にしながら牽制を行うレーヘンに。

 

 長物の槍で敵の攻撃範囲外から果敢に攻撃を仕掛けるライフズくん。

 

 魔法使いさんも、魔王の攻撃に牽制の魔弾を放ったり、彼の魔法攻撃を無効化してたりしていた。

 

 そんな戦いの最中も魔王はチラリと俺と、レーヘンの位置を何度も確認していた。

 

 応酬が少し続いた。

 レーヘン、ライフズ、ワイス姫。

 前衛三人と同時に渡り合うその実力はまさしく世界最強と言えるだろう。

 

 

「……さて、大体わかったかな」

 

 

 そうして魔王はボソリと呟いた。

 初めて口を開いた彼はそこから一気に動いた。

 

 最初に狙われたのはライフズくんだった。

 敵の攻撃範囲に入らず、その外側から攻撃していたはずの彼に魔王の攻撃が届いた。

 

 敵の間合いが伸びたのだ。

 敵はそういう技術を使ったのだ。

 

 咄嗟に剣で受け止め、一気に弾き飛ばされ吹き飛ぶライフズくん。手にした剣を盾代わりにしたからぎりぎり胴体を輪切りにされずには済んだが。

 

 

「ぐぅっ……すみませんっ!」

 

「まずは一人」

 

 

 背骨がギリギリ繋がってるか繋がっていないかくらいの状態で腹を深く切り裂かれていたのだ。放置すれば死ぬ。

 

 だから俺は、彼の身体が地面を転がる前にその傷を治療した。

 痛みさえ感じることはない速さで。

 いわゆる置きヒールだ。

 

 しかしその一撃は殺傷というより、距離を取らせることを目的にした技だった。ライフズくんは地面を転がりながら、体勢を立て直したのだが……彼は魔王の間の隅にまで距離を取らされていた。

 

 攻め手が一枚減ったこと。それを勝機と見たのだろう。

 

 魔王の身体は霞むように朧に掻き消え。

 

 

「神官長さまっ、魔王の狙いはあなたですっ⁉︎」

 

「これで2人目」

 

 

 次に姫騎士に一撃を叩き込んだのだ。

 彼は明らかにギアを上げていた。

 移動速度も威力も先の比ではなかった。

 

 踏み込みながらの切り上げの一撃。

 強烈な攻撃に重装を纏い盾を構えた姫騎士の身体はその背丈より高く浮かび上がった。

 切れてはいないし即死もしてない。

 その確認のために敢えて叫んだ姫騎士だが骨は折れたかな?

 

 大楯はひしゃげ、重装を纏った姫君の身体はかなり高く打ち上がった。

 

 そして魔王は剣を手放しーー。

 

 そこからの動きは俺の視認速度を遥かに超えるものだった。気がついた時には目の前にいた魔王が放った鉄拳は俺の胴体ーーの脇を掠めていた。少し肉を削ぎ落とされたわけなんだけど。

 

 絶対来ると読んでいたからね。

 

 身体の向きを半身にし、姫騎士との立ち位置、そしてレーヘンの位置を調整することで敵の来る方向を指定していたし。

 

 

「とんでもない速さですねぇ、さすがは魔王」

 

 

 来るのはわかっていたので身を捩ってから初撃は辛くも回避した。

 

 仲間たちの位置は少し遠い。

 部屋の端に吹き飛ばされたライフズくんは体勢を立て直したところ。

 姫騎士も今ちょうど床に落ちたところだ。

 重装の彼女は動きが鈍い。

 

 魔法使いさんも援護してくれているし、魔弾は魔王を撃ち抜いているが……敵はそれを気にする素振りがなく、攻撃を続けようとしていた。

 

 レーヘンの位置は見えない。

 敵を挟んで真反対にいるからだ。

 

 魔王は俺を盾代わりにしてるのだろう。

 聖剣の発動を防ぐために位置取りに気をつけているのは明らかだった。

 

 さて、ここからが時間稼ぎ。

 

 右手を使った正拳突きの次に来るのはーー左手による攻撃だ。

 聖剣による一撃を警戒している魔王は咄嗟に逃げるために足を攻撃に使うことはない。

 

 となると反対側の腕を用いた攻撃になる。

 

 そこまでは想定していた。

 魔王は戦闘の途中に剣を捨て、本気モードの格闘技で俺を殺しにくると。

 それは恐らく腕を用いた攻撃になる。

 

 そして彼は俺の治療データなどを有している。腕や足なんて切ったところで治される。

 となると狙いは頭だ。

 

 剛腕で頭部を叩き潰す。

 

 そして魔王は位置取りを変えたくない。

 つまり後ろに飛ばすのではなく上から下向きに殴る。

 

 流石にここまでで揃えば、ある程度の対応策は思いつくというか。

 

 だから俺は魔王の攻撃をなんとか逸らした。

 それはライフズくんから盗んだ技だった。

 格闘技用の、敵のパンチを逸らすための技術。近接戦の間合いでメイスは使えないからこの半年ずっと訓練していた技だった。

 

 リミッターを解除し、大地を蹴り。

 レーヘンがそうするように全身の力を用いた攻撃で敵の一撃を受け流したのだ。

 

 

「そしてパワーも途轍もない」

 

 

 ま、受け流した余波だけで手のひらが砕けて、肉が吹き飛んだわけなんだけどね。

 

 二発目をなんとか逸らしてーー。

 

 仲間たちはなんとか体勢を立て直したところだ。

 ライフズくんは走りでも間に合わないと察したのか、槍を錬成し大きく投げようとしていた。

 

 姫騎士は体勢をなんとか立て直したところで。

 急いで割り込もうと盾を手放していて。

 

 魔法使いさんの顔にも焦りが浮かんでいる。

 

 俺は二発目までは耐え凌いだ。

 でも流石にそこからは無理と言わざるを得なかった。魔王は俺に張り付き執拗な攻撃を繰り返していたから。

 それだけヘイトを買っていた。

 

 

「……勝ったな……」

 

 

 魔王はそう呟き、ニヤリと笑った。

 勝ちを確信したかのような笑みだった。

 

 そうして三発目、敵の鉄拳が俺の脇腹を掠めた。

 ギリッギリで直撃を避けたが脇腹には大穴が抉り取られていたのだ。

 

 でもまだ時間は稼げる。

 

 なんて思考を回転させる俺の視野の中で。

 ジャブを放った体勢の魔王、その肩から覗く勇者さまは浅く笑っていた。

 

 聖剣から放たれた極光は既に魔王の背中に届こうとしていた。

 もはや魔王とて逃げられない。

 ……もちろん俺もね?

 

 彼女は既に聖剣を振り切っていた。

 魔王が俺に攻撃を始める直前あたりから剣を構え、聖剣を使っていたのだ。

 

 ゆっくりと流れる時間の中。

 眩く煌めく視野の中で微かに見える勇者さまの口元はーー魔王と同じ一点の曇りなき笑みだった。

 

 

「……勝った……」

 

 

 そして聖剣の光が俺と魔王を飲み込んだのだ。俺は痛みを感じることもなく全身を一瞬で焼き焦がされて死ぬのであった。

 

 あいつ、なんの躊躇もしなかった。

 それが俺が最期に思ったことだった。

 

 

 

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