曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0100 1月1日

 

 

 

 綺麗な彼岸花が咲き乱れる彼岸。

 死者が集まりあの世に向かう狭間の世界。

 三途の川の辺の河岸で俺は思わず項垂れていた。

 

 あいつ、笑ってた。

 

 勇者レーヘンは躊躇うことなく、俺と魔王を消し飛ばしたのだが、死ぬ間際に見た彼女の顔に浮かんでいたのは歓喜の笑みだった。

 

 完全に魔王を仕留める喜びしかなかった。

 

 しかも攻撃のタイミングからして、一切の躊躇いがなかったのである。

抵抗感とか罪悪感とかも全く感じていなかったのだ。

 

 俺は勇者レーヘンのそんな躊躇いのなさに思わず項垂れていた。

 

 このあとどうすんだよ。

 そう強く思うのは仕方ないと思う。

 あんな態度だったら仲間達からマイナス感情抱かれかねないのだ。

 

 自慢だけど俺は仲間達と確かな絆を紡いでいる。そんな大切な相手を躊躇うことなく焼き切ったとなれば幾ら勇者パーティーのみんなでも隔意を抱くものなのだ。

 

 それのフォローを思うとひたすらに胃が痛いというか、勘違いじゃないからどうしようもない好感度問題が発生するからね?

 

 誤魔化せるならいいんだよ。せめて神妙な顔で必要な犠牲だったとか言えるならいいんだけど。しかし勇者さまはそんなことできないのは確実だった。絶対『やった、勝った!』と浮かれてる。

 

 いや、俺を斬り飛ばしたのはいいのよ、別に。変に曇らないだけマシだからね? 変に苦しむよりは万倍まし。

 

 もちろん本人の前にしたらあれこれ言うけど……俺は同意したわけだし、やれとも指示をした。だからその件は構わないんだけどね。 

 

 ともかく仲間との人間関係のフォローするの俺だからね? せっかく問題が解決したと思ったら別の難問が降って湧いた事実に俺は頭を抱えざるを得なかった。

 

 足元に咲き乱れる彼岸花の中で、俺は思わず項垂れていた。

 

 

「……なんだ、その、元気を出せ」

 

 

 そんな俺に声をかける男がいた。

 魔王である。

 

 鎧の剥げ落ちた魔王の素顔はーーなんていうか予想以上に若々しいものだった。

 

 

「まさか勇者が一切の躊躇いなく仲間ごと俺を消しとばすとはな……予想外だった。しかも本人の同意なく、か……」

 

「いや同意はしてましたよ、流石に。ただあそこまで躊躇いないのは予想外っていうか……あいつ笑ってましたからね?」

 

 

 魔王も魔王でまさか勇者レーヘンが味方を巻き込む前提で聖剣を使うのは想定外だったのだろう。

 

 虚を突かれた顔をしていて。

 だからこそ、その顔立ちの若さが際立って見えた。

 子ども、いや同年代か少し上かな?

 ということは戦争を始めた当時は……。

 

 

「ええと、それであなたが魔王さんですか?」

 

 

 そうして出会った俺と魔王はーー意外と意気投合していた。同じ聖剣に焼かれた仲だからね。

 

 殺し合ったが死んだ以上はノーサイドだし。俺は身内が殺されたことがない。だから魔王への恨みもほとんどなかったし。

 

 魔王もそんな俺の敵意のなさに毒気を抜かれたのだろう。俺たちは仲良く三途の川に向かいつつ、言葉を交わしていたのだが。散々出席した社交界で培った会話術を使ったところ、魔王はぼろぼろと情報を漏らしていたのだ。

 

 世代的には同年代ってのも大きいし。

 魔王は友達が少ないっぽかったから、余計に効果抜群だったのかもしれない。

 

 魔王、本名ノート。

 

 彼は人間とのハーフだった。

 正確にいうと魔族の監視として内偵していた聖剣守の一族と現地の魔族の間に産まれた子どもだった。

 

 だからこそ皇国の素養である怪力。

 そして千の技術を受け継いでいたのだ。

 

 本来なら彼が勇者に選ばれた未来もあったのかもしれない。

 

 ま、多分、彼は親御さんが役目を放棄したっぽくて、一族に連絡はされてなかったようなんだけどね。

 

 多分我が子にお役目なんて苦行をさせたくなかったのだろう。

 

 そんな両親が早くに亡くなって。

 まあ、色々あって。

 自分が聖剣守の一族だと知って。

 

 彼は魔王になっていた。

 

 本人は誤魔化していたけどはじめの一歩は多分嫉妬かな。魔族の過酷な生活の中で、裕福な人間達の生活を羨み、本来なら王家を継いでいたかもしれない身の上に苦悩し。

 嫉妬のままに魔族をまとめ戦争を起こし……そうして止まれなくなった。

 

 ま、病弱な妹の身の上への義憤もあったんだろうけどね。人間界の技術があれば妹はしっかり治療してもらえるのに、と。

 

 そんな彼の暴走の決定打は妹の病死だった。

 

 ルッデバランが魔法使いさんを拉致しようとしたのは病弱だった魔王の妹の治療のためだったらしい。

 

 が、魔王が戦争を起こす中で急速に病状を悪化させた魔王の妹は死んだ。

 多分兄の暴走に苦悩したことで病状が悪化して死んだっぽいな。

 魔王には絶対に言わないけど。

 

 そして、怒りに飲まれた魔王は怒りのままに暴れ回り、勇者に撃たれて死んだわけだ。

 

 

「そういうわけで俺はまあ、暴れたんだ」

 

「……そうなんですか……」

 

 

 魔王はそんな秘密を語っていた。

 誰かに打ち明けたかったのだろう。

 

 彼は孤独の王だった、妻にも臣下にも家族のことは明かしていなかったらしい。

 人間混ざりの彼が信頼していたのは幼馴染であった四天王のルッデバランだけ。他の誰にも家族のことは隠していたのだ。

 

 まあ、ここだけ聞くと魔王の悲しい過去って感じなんだけどね……。

 俺は少し苦い顔をしていた。

 

 

「……もしや、妹の病はお前なら治せたのか、ゾーニッヒ」

 

「……治療してみなければわかりませんよ」

 

 

 会話をしているうちに、魔王もその事実に思い当たったのだろう。

 

 魔王の妹の病は人間界でも不治の病だった。

 だからどれだけ金があっても治療などできなかった。

 

 でも、当時の人間界には唯一治療できる存在がいた。そう、俺である。

 

 そしてソルト王国には聖剣守の一族がいた。         

 俺は多分、彼らに将来の勇者パーティーの回復役として認識されていたし。

 回復技術については知られていた。

 

 魔王は聖剣守の一族の出だった。

 だからその伝手を使えば俺に連絡が届いて、妹さんの治療は行われていたはずだった。

 

 戦争さえ起きなければ。

 

 

「……そうか、あいつが死んだのは俺のせいだったのか……」

 

 

 俺は何も言わなかった。

 魔王に個人的な恨みはないからね。

 死体に鞭を打つ真似は憚られた。

 

 しかし魔王は察しが良かった。

 

 彼は苦渋に満ちた表情を浮かべていた。

 強烈な悔恨、己の過ちを理解し苦悩する、そういう表情を浮かべていた。

 

 

 「……ありがとう、ゾーニッヒ。そのことを教えてくれてな……」

 

 

 魔王は己の行いを後悔していた。

  

 

ーーーーー

 

 

 魔王は意外と悪いやつではなかった。

 

 ま、殺されたから落ち着いて話せたってのはあるんだけどね。少なくとも戦争の最中に説得することは困難だっただろうし。

 

 文字通り死んだことで憑き物が落ちて、悪いやつではなかった頃の魔王の素顔が露わになったのかもしれない。

 

 まあそうして魔王と別れ、俺は蘇った。

 ちょっとしんみりした気持ちで。

 元々作成してあった肉体で復活したのだが。

 

 

「でも不意打ち見事に決まったね! 神官長もナイス囮役!」

 

「……お、おう……」

 

 

 そんな感慨は早々に吹き飛ばされていた。

 

 移動拠点の俺の部屋の中にやってきた勇者さまは、にっこにこのウッキウキ、得意げな顔で調子に乗っていた。

 

 

「え、えっとどうしたの神官長? なんかボクの顔じーっと見てるけど」

 

「いや、変に曇ってないかなって心配になっただけ。仮にも俺のことを殺したわけだろ?」

 

 

 魔王討伐してから、勇者一行の生存組(俺以外)は女神さまとお会いしていたらしい。どうやら魔王討伐直後、聖剣で魔王が消し飛ばされた直後に個別に呼び出されたとかなんとか。

 

 女神様渾身のインターセプトである。

 本当にありがたいことだった。

 

 変に時間を置いたら姫騎士あたりが『なぜ神官長さまを殺して、そんな笑みを浮かべているのです!』とか言い出しそうだからね。

 

 戦闘後に割り込んでくれなきゃ、せっかくコツコツ稼いだ勇者さまの風評に深刻な問題が生じかねないとこだった。

 

 ……大丈夫だよな?

 

 世界最強の魔王を殺した、世界で最強になった勇者さまがその実力ゆえに怯えられ排斥させる末路なんて辿らせてはならない。

 

 俺はできることをすることにした。

 いや、仲間たちを信じてないわけではないけど念の為にね?

 

 

「もー、ボク全然気にしてないから大丈夫だって。何度も言ってるでしょ、ボクは神官長のことす、好きだけど、それとこれとは話が違うって」

 

「言ってたね、うん」

 

 

 まずは情報収集。

 俺はレーヘンから行動の理由を問うていた。

 

 魔王討伐のご褒美タイムとして個別に願いが叶えられ、誰より先に帰還していた勇者さま。

 彼女は自分のことをよくわかっていた。俺を巻き添えで殺しても一切の良心の呵責も苦しみも抱かないことも。

 以前から正しく理解しており、ことあるごとにそう主張していた。

 

 

「ちなみに気にならない理由を聞いても? 一応俺とは仲良いよな?」

 

「そりゃ生き返れるって知ってたし。ボクも蘇った経験あるからね。割と大したことないってわかってるから躊躇いなんてあるわけないじゃん」

 

 

 レーヘンってそういうとこがあった。

 良くも悪くも割り切りが早すぎた。

 

 確かに蘇れるとはいえ。味方を殺すことに抵抗感のある人も多いというのに……。

 

 いや、いいんだけどね?

 俺はそういうとこ問題とは思ってないけどね? 周囲の人からするとかなり薄情に見えてしまう。

 

 

「一応みんなの前では、その……殊勝な態度しとけよ?」

 

「でもさー『みんなのために仕方なく』とか言ったら、みんな変に罪悪感とか抱えない? ボクは全然気にしてないってアピールした方が良くない?」

 

「問題起きたら俺が責任を取るから、な?」

 

「まー、責任取ってくれるならいいよ」

 

 

 だから俺はなんとかレーヘンを説得し。

 態度を繕うことを約束させるのだった

 

 

「でもさ、魔王も完全に隙丸出しだったよね、「勝った」とか言っちゃってさ、ほんと神官長の鬼気迫る演技は流石だったよ!」

 

「半分くらいは素だったからな。本音で言うとお前は絶対手が鈍ると思ってたから、時間稼がなきゃって思ってたんだ」

 

「もー、失礼しちゃうなぁ。ボクが躊躇うわけないじゃん! 隙を見逃すわけないのにさー」

 

 

 勇者さまは子どもっぽく頬を膨らませ、不満を表明する。

 

 いい意味なんだけどね?

 仲間を攻撃するのを躊躇ってしまうってのは、美徳なんだけどね?

 

 ともかく、俺は勇者さまとそんな雑談をしていたのだが、そうこうしてるうちに他の仲間たちも帰還したらしく、拠点の中はにわかに騒がしくなっていく。

 

 慌ただしく俺の部屋の中に入ってきた勇者パーティー一同は俺の姿に安堵するように息を吐くのであった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 移動拠点の中で俺たちは歓談していた。

 

 勇者一行は魔王に勝利した。

 

 その事は皆が帰還すると同時に人類連合に報告されていた。

 死傷者なしで全員生きて帰還した、その知らせは旧魔王城に向かって進軍していた軍関係者全員を歓喜させていた。

 

 移動拠点の外では、お祭り騒ぎが起きている。戦争は終わった、しかも完全勝利で。普段は部下を引き締める将軍も今日ばかりは浮かれはしゃいでしまうのは仕方ないのだろう。

 

 そんな中で方々に挨拶回りを終えた勇者一行はパーティーメンバー全員で懇談していた。

 

 

「でもびっくりしたよね、神官長が聖剣の光に呑まれた時はさ」

 

「悪いね、魔王の隙を突くために囮作戦は内緒にしてたんだ」

 

「ライフズくんは絶対に顔に出るからね!」

 

 

 ライフズくんは安堵の吐息を吐いている。

 

 果たして彼らが女神さまとどういう会話をしていたのかはわからない。

 無事であるとは聞かされていたそうだが、実際に見てみなければ信じられなかったのだろう。その時の焦りと安堵を思い出して、幼馴染くんは深くため息を吐いていた。

 

 

「それは構いませんけれど……わたくしは己の無力感に打ちひしがれそうでしたのよ? てっきり神官長が亡くなられたとばっかりに」

 

「もー、ワイス。ボクのことなんだと思ってるのさ。仲間を殺すなんてするわけないじゃんか」

 

「そうですよ、レーヘンがそんな非道なことするわけないでしょう? 俺なら耐えられると信じてくれていたんですよ」

 

 

 俺は嘘をついていた。

 

 俺は死んでから蘇ったのではなく、気合いで聖剣に耐えたことにしていた。実際にはそんなことは無理なんだが。

 

 どうやら俺はそう勘違いされていた。

 だからしれっと路線を変更したのだ。

 

 蘇れるから巻き添えで殺したと。

 耐えられると信じて攻撃した。

 後者の方が受け入れやすいから願ったり叶ったりである。

 

 

「自己回復で耐えぬく、ねぇ……ゼンネルシアの時にもレーヘンの嬢ちゃんに同じ技を使ってたのか」

 

「ええ、そうです。自己回復しつつ死ぬ気で耐えました」

 

「身体は無事だけど服とか装備とかはダメになっちゃうんだよねー」

 

 

 でも、そんな俺の発言に速攻で話を合わせにくる勇者さま、その演技力って実は結構高いんだなぁ、と俺はしみじみ思った。

 

 

「しっかし女神さま、か。俺は信じてなかったんだけどなぁ……代償が治るなんてまさしく女神の奇跡ってやつか」

 

「まあ、魔法使いさんはそうでしょうね」

 

「だから秘密にしてたんだよねー、神官長! みんなは言っても信じてくれるわけないもんねー」

 

 

 そして今まで勇者パーティーを苦しめていた『代償問題』も無事解決していた。女神さまという超常的存在との邂逅で、代償は治らないなんて価値観は吹き飛ばされている。

 

 ちなみに俺とレーヘンは以前からそのことを知っていた、と言う事にしていた。

 

 

「ごめんね二人とも。その、色々と疑ってさ」

 

「気にしないでくれ、みんな。勝つために必要なことだってんだからさ? 今は勝利を喜ぼう?」

 

「そーそー、面倒なことは考えず、全ての問題が解決してことを祝ってかんばーい!」

 

 

 そうして勇者一行は魔王討伐を成し遂げたお祝いをするのだった。

 

 全ての勘違いが解けた仲間たちの顔も、一切の曇りのない晴々とした表情だった。『仲間に嘘をつかれていた』なんて『仲間が自己犠牲で苦しんでいる』事より遥かにマシ。

 

 勇者一行はそう考える人格者しかいない。

 

 そんな仲間たちの心からの笑顔に、俺もレーヘンもつい満点の笑みを浮かべるのであった。

 

 俺達は全ての問題を無事解決したのだ。

 これで俺も自分のやりたいことをやれる。

 

 すなわち理想の女の子(ルーテシア)の制作を、だ。

 

 

ーーーーーー

 

 

 勇者パーティー一同はお祝いとしてささやかかな祝賀を終えたわけだが、それではい解散とはならない。

 

 旧魔王城は、大大陸の西の果てにある。

 人類連合の暫定首都からはかなり遠い。

 

 移動にもまだ時間はかかる。勇者パーティーは移動拠点に乗りながら、ホームとしていた街に帰っていた。

 

 

「つまり、全てわたくしの勘違いという理解でよろしいのですね?」

 

「ええ、まあそうですね」

 

 

 そんな大冒険の帰り道の最中。

 俺は姫騎士ワイスの部屋を訪れていた。

 

 

「申し訳ございません。勘違いで騒ぎ、喚き、散々足を引っ張り……大変ご迷惑をおかけしました」

 

「いえいえ、そんなことはありませんよ? それにレーヘンや俺のことを案じてくださったのでしょう? なら不快になんて思いませんよ」

 

 

 その謝罪の言葉は……今までで聞いたことがないくらいに明るかった。

 

 姫さまに罪悪感がないわけではない。

 ただレーヘンや、俺が自己犠牲に苦しんでいるという悩みは、姫騎士のメンタルを酷く澱ませていて。

 

 それら全てが解決した彼女の態度は、今までとは比較にならないくらいに明るく澄み渡っている。

 

 

「……ふぅ、そうですわね。わたくしだけは神官長さまにも負担をかけていると勘違いをしておりましたものね……」

 

「いやまぁ、姫さまは隣に住んでいたと言うのもありますからね。他のみんなとは条件も異なりますし」

 

 

 そして、姫さまはそのままお淑やかに自分の顔を手で覆った。

 

 全ての苦悩が勘違いであると理解したからこそーー姫さまのお心は純粋な羞恥心に満たされてしまっていたのだ。

 

 他のメンバー、勇者レーヘンが代償を払っているとだけ勘違いした2人と違い。彼女は他にも色々と勘違いを連鎖させていた。

 

 

「慰めはよしてください、わたくし、あんな破廉恥な勘違いをするなんて……ぅぅ……」

 

 

 俺はレーヘンに依存されており、その結果肉体関係を持つに至ってしまっていた。俺は望まず関係を強要される悲劇のヒロインーーみたいなとんでもない勘違いを。

 

 耳先まで真っ赤に染まった彼女はぷるぷると震えている。

 俺にも深く追求しない優しさがあった。

 

 部屋の中にはしばらく沈黙が続いて。

 

 

「……ぅぅ、なんであんな、わたくし、ぅぅ……」

 

「よくあることです。……実は俺も理想の女の子を探す日々を色々と妄想をしたこともあるんです。みんなには内緒ですよ?」

 

「……あらまぁ、神官長さまにもそんな可愛らしい時期があったのですか?」

 

 

 俺はとっておきの秘密をバラすように、弱みを打ち明けた。

 

 姫さまを元気つけるためだけど。

 実はもう一つ理由があった。

 

 これから先、俺はルーテシアの製造に入る。

 そうして産み出された理想の女の子は、知り合いのソルト貴族に頼んで戸籍ロンダリングして、最終的に俺と結ばれるわけなんだけど。

 

 その前に知り合いには話を通していた方がいい。突然不審な女が出てきたとなると色々問題が起きるかもだしね。

 特に人類連合穏健派の中心人物であるワイス姫には、予め俺がお嫁さんを作り出すことを教えておいたほうがいい。

 

 でも流石にいきなり全部は話せない。

 こういうことは順々に話して心理対抵抗を薄れさせる必要はある。

 

 その前振りに丁度いいというのはあった。

 

 

「……その女性とわたくし、もしかして似ていたりするのですか?」

 

「さてどうでしょうね」

 

 

 秘密の共有というのは心理的な距離を近づける効果があるわけだが。

 

 姫さまは恋多き女性だ。

 恋バナにも興味渾身のようで、顔を隠していた指先が僅かに開いて、隙間からこちらを見つめている。

 

 でも流石にさらに深く、あれこれ伝えるのは今ではない。俺は渾身のキメ顔を浮かべ話を誤魔化すのだった。

 

 

 

「……………」

 

 

 そんな様子を扉をこっそり開けて見つめている勇者さまを、俺は片手で制しつつ、ね。

 

 

 

 

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