曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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蛇足編2章
聖歴0097 12月24日


 

 

 

 それはちょうど、人類連合が四天王ルッデバランの脅威に脅かされる最中のことだった。雪がしんしんとふりそそぐクリスマスの日のこと。勇者パーティーは懇親会をしていた。

 

 ライフズくんはこうして、仲間達が交流を持つ機会を定期的に用意してくれていた。ま、以前までは食事会だったものが、花火を見たり、花見を見たり、今回でいえば雪景色を楽しんだり。

 

 そんな楽しいイベントを満喫する仲間達の顔には僅かな翳りが残っていた。

 少し前に起きた首都侵攻。

 レーヘンは聖剣を使用した。

 

 食事が趣味であった女の子は、莫大な力の代償として味覚まで失ってしまったーーなんて勘違いされていて。それが仲間達を大きく苦しめていたのだ。

 

 特に幼馴染を守りたいと心に秘めていたライフズくんにとっては、自己の決意を踏み躙られたに等しい。表面上は『誰よりも苦しいレーヘンに心労をかけさせてはいけない』と平静を装っているものの、そのメンタルはズタボロなのは傍目で見ているだけで明らかだった。

 

 だからだろう。

 そんな楽しいイベントを終えた帰り道。

 

 

「ごめんね、ライフズくん」

 

 

 レーヘンは幼馴染との別れ際、どこか儚げにそう口にした。

 今にも消え入りそうな声だった。

 罪悪感が滲んだその声音に、ライフズくんの顔は僅かに歪んだ。

 

 

ーーーーーー

 

 

「なんか、今の変な台詞だったけど勘違いされないよなぁ」

 

「え、なんでって? 突然どうしたの神官長」

 

 

 俺はレーヘンにそう告げていた。

 場所は俺の私室の中である。

 

 何をしていたのかといえば、レーヘンの怪我の治療である。戦闘やら訓練やらで彼女の身体に負担が残っていたら困るからね。念の為に身体の隅々に募った負担を全回復したのだ。

 

 激しい運動、過酷な訓練。

 こういうのはチリも積もれば山となる。

 こういうことで寿命とか健康は少しづつ削り取ってしまうからね。

 

 レーヘンは田舎娘だ。

 才能があるからと、過酷な戦場に立たされているパン屋の娘、その負担を可能な限り取り除くのは俺の仕事である。

 

 そうして治療を終えた後、我が物顔でベッドに腰掛けたレーヘンと、俺は言葉を交わしていた。

 

 

「いや、あんなこと言ったら色々勘違いされるだろ?」

 

「むぅ、それはそうだけどさぁ……ボクだってみんなを傷つけてるなぁとは思ってるからね?」

 

 

 レーヘンはじとーっとした眼差しでこちらを見上げてくるのだ。元々はそんな態度であれこれ言ったら勘違いが加速してしまうから、って指摘のつもりだったが……。

 

 

「神官長は悪いことしてるなーってならないの?」

 

「自慢だけど俺は清く正しく生きてるつもりだぞ。悪いことなんて一度もしてことないし、お前もそうだろ? 変に気に病む必要はないんだよ」

 

 

 彼女の気持ちはわかるけど……俺は彼女の勘違いを解くべくあえて傲慢な言葉を口にした。

 

 俺はみんなを助けるために夢を捨てているし。

 公共の益のために尽くし続けてる。

 ルーテシアのことを諦め、仲間の治療だけでなく兵士のケアとか、諸々のことにもしっかり取り組んでいるからね。

 ま、力あるものの義務ってやつさ。

 

 それはレーヘンも同じだ。

 なんなら彼女の方が偉い。

 

 単なる村娘であり、高貴ゆえの権利なんてものと縁遠い生活をしていた女の子は、聖剣に選ばれたという理由で過酷な闘いに身を投じている。そんなことする義務なんてないのに、だ。 

 

 それはまあ、本当に立派なことだと思う。

 

 

「ま、そうだけどさ……でもライフズくん曇らせてるわけじゃん? 勘違いでさ」

 

「それは本当にそう」

 

 

 俺は素直に同意した。

 俺もレーヘンも悪くないんだよ? レーヘンは命を賭けてみんなを助けたんだよ? それは素晴らしい自己犠牲なんだよ?

 

 そして俺も持てる限りのことをした結果、代償という重すぎるリスクを解決したんだよ? それは本来なら全然いいことなんだよ?

 

 ただ、だからこそ代償に関してかなり軽く扱えてる俺とレーヘンに対して。

 

 他の仲間は代償をあまりに重く受け止めていた。代償は治せないというこの世界の当たり前。だからこそレーヘンは味覚とか感覚、寿命、そんな大切なものを失い続けていることを誤魔化しているだけーーと認識されているのだ。

 

 

「それは悪いことじゃん? なんかライフズくんの顔色本当に悪かったしさ、だから謝ったんだけど? 神官長はそうは思わないってことなの?」

 

「俺もお前も悪いことはしてないだろ? ただ巡り合わせが悪いんだ」

 

 

 レーヘンはムスッとした顔で詰めてきたけど。

 俺は勇者レーヘンに責任があるなんてことを僅かたりとも思わせるわけにはいかなかった。

 

 冗談や軽口ではそういうけれど。

 真剣な場面でそんなことは言えない。

 

 勘違いする方が悪い。

 

 親しい仲間達には本当に申し訳ないけど、俺にだって優先順位はある。レーヘンは絶対に曇らせない。そのためには責任転嫁もやむなし。

 

 それに自己犠牲してた勇者さまにそんな苦渋を抱かせた方が後々、すべての誤解が解けた後に仲間達が苦しむことになるからね。

 

 

「というか神官長が説明下手なのが悪いんじゃん! もっと理論立てて説明してよ! ボクだけじゃなくて魔術師さんもイミフって顔してたからね!」

 

「悪い、俺のこれって100%才能由来の感覚的な治療だからさ……理屈で説明できないんだよね。今勉強頑張ってるからそれまで待っててくれ」

 

 

 ま、俺に不満を向ける分にはセーフ。

 

 頰を膨らませ、地団駄を踏むかの如く、ベッドを弾ませる勇者さま。その顔は年相応に無邪気で無垢だった。

 先程までの苦渋は消え失せていた。

 

 だからだろう。

 先ほどの俺の発言が気になったようだ。

 

 

「というか、さっきの言葉ってどういう意味で言ったの? ボクが自己犠牲してるっていうの以外にも、他の勘違いされるみたいな意味深なことって言ってたけど?」

 

「いや寝取られヒロインっぽいだろ?」

 

「寝取られ? なにそれ」

 

 

 寝取られとは、好きな女の子が奪われるという展開の一種だ。

 男の部屋で何やら意味深なことをしていた幼馴染の女の子が、部屋を出て顔を合わせた途端に謝罪してくる。

 

 それって大好きな彼を裏切ったことへのごめんなさい=不貞とかそういう内容みたいに受け取られかねないなぁとふと思ったのだ。

 

 はっきり言って現実逃避である。

 俺もあの子にあんな顔させてたことに罪悪感を抱いてるからね。

 

 まあそれはさておき。こんなこと年頃の女の子に解説するのは恥ずかしいわけなんだけどな……レーヘンならいいかなって。俺の絶対に知られたくない秘密ーー『理想のヒロイン製造計画』を知っている彼女になら遠慮なくあれこれ口にできる。

 

 底を知られたわけだからね。

 今更恥じらう必要などない。

 

 

「うわぁ……」

 

「なんかそう言う話を兄さんの蔵書で見かけたんだよね」

 

 

 案の定レーヘンはどん引いているわけだが。

 俺と彼女にとっては本当に今更な話だ。

 

 

「ほんと神官長ってさー、ヘンタイだよね」

 

 

 だからそんな言葉を口にするレーヘンも、距離を取ることもなく言葉を交わしていた。

 

 

ーー聖歴0100 2月17日ーーーー

 

 

 故郷で行われた勇者レーヘンの凱旋式。

 国家の重鎮が揃った式典会場にて。

 

 

 

「陛下、実は僕は神官長のことをお慕いしてまして、その……後押しをして欲しいなって、思ってます」

 

「噂は真実だったということか。なるほど、レーヘン殿。いいだろう、余にできる限り支援はさせていただくと約束するとも」

 

 

 魔王討伐の報酬として。

 今までの献身への対価として。

 彼女は俺との婚約を希望した。

 

 そしてそれは受け入れられた。

 この公開告白は拒否なんてできないものだった。

 レーヘンは俺と婚約したのだ。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 勇者レーヘンが俺に告白をしてきたその直後。

 ライフズくんは少し顔を青ざめつつ、勇者さまに語りかけていた。なんとか動揺を抑え込もうとしているも、内心の混乱と……苦渋はあからさまに滲み出ている。

 

 

「……レーヘンは神官長のこと、好きだったの?」

 

「えへへ、うん、ボク実は神官長のこと大好きなんだ」

 

 

 ライフズくんは、勇者レーヘンのことが大好きだった。

 聖剣守の一族であり、次代の勇者になるべく鍛錬に耽っていた男の子はーーしかし聖剣に選ばれることはなく。

 

 代わりに勇者に選ばれたのは幼馴染の女の子だった。

 

 聖剣は強大な力と代償を齎す。

 勇者は戦うたびに寿命をすり減らすことになる。

 

 そんな過酷な役割を幼馴染に果たさせることになってしまったことは年頃の男の子にとって許し難いことだった。

 

 だから好きなんて言えない。

 告白なんてできない。

 

 そんなライフズくんにとって幸運だったのは、この時代に代償を補填できる俺という存在がいたことなのだろう。

 俺は勇者さまがその身をすり減らすたびに完全に治すことができた。

 だから勇者さまは一切の苦しみとは無縁な英雄譚を果たすことができた。

 

 寿命をすり減らすこともなく、味覚を失うこともなく。魔王討伐を果たしたからこそ、ライフズくんは幼馴染に想いを伝えられるようになっていた。

 

 なのに。

 故郷に戻ってきた直後。

 勇者レーヘンは他の男との婚約を希望したのだ。

 

 ライフズくんの表情は苦渋に満ち満ちていた。

 流石にレーヘンが初めて聖剣を使った時よりはマシだけど。

 最愛の幼馴染を、敬愛する兄貴分に奪われた。

 そのショックはとてつもないものだった。

 

 鈍感な勇者レーヘンはまったく気がついてないようなんだけどね。

 いや、彼女は彼女で相当緊張しているようだ。

 

 チラチラと俺の様子を窺う姿。  

 目の前の幼馴染の姿もろくに目に入っていない。

 

 公開告白は流石の勇者さまをして、相当緊張することだったのだ。今にして思えばパレード前後の数日間の緊張はーーそのことを考えていたからなのだろう。

 

 その頭の中は俺についてのことでいっぱいで。

 周囲の様子を窺う余裕なんてない。

 

 だから幼馴染の苦渋になんて気がつかない。

 

 そんな光景を、俺は何も言えず眺めていた。

 

 

 

ーー聖歴0100 2月18日ーーーー

 

 

 

 魔王討伐を終え、ようやく実家であるソルトの王城に帰ってきた次の日のことだった。

 前日のパレードの騒ぎが冷めやまぬようで、まだお祭り騒ぎが城内にも聞こえてきている中。俺は使い慣れたベッドの上で目覚めた。

 

 在りし日のことを夢に見ていたことを思い出した。

 寝取られとかそういう話を軽い気持ちで行なっていたあの日のことを。

 

 昨晩のことを夢に見ていたことを思い出した。

 可愛い弟分の想い他人を奪ってしまった昨日のことを。

 

 俺は……さめざめと泣いていた。

 それはまるで望まぬ婚姻を結ばざるを得なかったヒロインのように。

 

 先に言っておくけど、レーヘンに不満があるわけではない。一応王族の俺に自由恋愛の権利なんてないわけだしね? その上でレーヘンというのは大変当たりな婚約相手といえた。

 

 気安くやり取りできる。

 取り繕わぬ俺の性根を根っこから理解してくれている。

 王位や権力目当てではない、真っ当な感情持ってくれてる、などなど。

 

 もちろん理想の女の子には遠く及ばないわけだけど……。いざとなれば適当な貴人と戸籍ロンダリングした上で婚姻するという俺の策略は辛くも崩れ去っていたことからは目を逸らし。

 

 俺は良かった探しをしていた。

 特に俺の一番良くないところを知った上で好意を示したことに関しては本当に嬉しいからね。

 

 ただね。

 俺が頭を抱えてるのはただ一つ。

 

 ライフズくんどうするのか問題であった。

 レーヘンのことを一途に思い続けた誠実な弟分。

 そのようやく叶いかけた恋の芽が摘み取られようとしていることが本当に申し訳なさすぎるのである。

 

 

「あ、おはよう神官長! ボクと婚約できたことがそんなに嬉しいの?」

 

「この涙はそういう意味ではない」

 

 

 当たり前のように部屋に入ってきた勇者レーヘンは、いつも通りに挨拶してきていた。不意打ちで婚約したことへの罪悪感なんてものはまったく感じられない晴れやかな態度だった。

 

 幼馴染の恋心を踏み躙ったなんてつゆ知らぬ鈍感系勇者さまに良心の呵責などあるわけがない。

 

 

「で、こんな騙し討ちみたいなことをした件についてどう思ってんの?」

 

「んー、婚約してから好きになってもらえばいいじゃん? 他の誰かに掻っ攫われるよりずーっとマシだし。それに別にイヤではないでしょ?」

 

 

 レーヘンは勘が鋭い。

 だから俺が本気で拒否感を抱いてないことはバレていた。別に俺が婚約させられたことをイヤだとは思ってないからね。

 

 問題はそれ以外にあるだけだし。

 

 ぼすん、ぼすんといつものようにベッドに腰掛け、弾み始めた勇者さま。浮かれた様子で喉を鳴らすその姿は数日前までと何ら変わらぬ態度だった。

 

 

「うーん、このベッドちょっと固くない?」

 

「暫定首都の拠点のベッドより質は悪いからなぁ」

 

「いや、ボクの部屋のと全然違うんだよね」

 

 

 ソルト王国に帰還して勇者一行は、そのまま王城に宿泊していた。

 

 王子である俺だけでなく、レーヘンもライフズくんも、だ。

 

 城と聞くと大層立派なものを思い浮かべるかもしれないが……ソルト王国は田舎の小国に過ぎず、もちろんお城なんて他国の貴族の居城にも劣る程度でしかない。

 

 ただ、連合王国という巨大な国家の国王という地位を得たことで、調度品は明らかにグレードアップしている。

 

 特に客間の寝具は最高品を使われているらしく。

 

 

「神官長は寝具を新しくしないの?」

 

「これくらいの硬さの方がちょうどいいんだ。というかお前にはあんまり関係ないだろ?」

 

 

 逆に長らく主人が不在だった俺の部屋は、最低限の掃除はされている程度で。例えばベッドを新しくするとかそういう変化は起きていない。

 

 

「でもその……将来的には使うじゃん?」

 

「……お前も、いつの間にかにおませなことを言うようになったんだなぁ。あのちびっこレーヘンがさぁ?」

  

 

 レーヘンはうっすら頰を赤く染め、ちょっとだけ目線を外し、普段よりずっと控えめな声でそう呟くのだ。それは普段の勇者さまの生意気な態度とは程遠いものだったから。

 俺は普段の態度が復活することを期待して、ついそんな返事をするのだが。

 

 

「……別に前から思ってはいたけどね。絶対に距離取られるから言わないようにしていただけでさ」

 

 

 強い羞恥心を感じて黙り込んでしまった勇者さま。部屋の中になんともいえない沈黙が満たしていた。なのにレーヘンは部屋から立ち去ることもせず、俺の顔をチラチラ見つめて顔を赤く染めていた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 勇者レーヘンとの遭遇を終えた俺は父の私室を訪れていた。多分元隣国のお姫さまっぽい方がメイド服を着て俺を呼びにきたのだ。

 

 ちょうどレーヘンにじーっと見つめられて、なんとも言えない空気になってたからね。即座にその話に飛びついてこうして父の部屋にやってきたわけなのだが。

 

 そこも随分と様変わりをしていた。

 連合王国国王の私室は、小大陸を併合した大国の国家元首に相応しいものへの変化を遂げていた。

 

 あちこちに貴重そうな調度品が飾られているし。

 家具の配置も見栄え良く変わっている。

 

 そんな部屋の中で窮屈そうにしていた父は、俺の顔を見ると柔らかく口元を緩めた。

 

 

「ゾーニッヒ、よく無事で帰ってきてくれたな。父さんは本当に心配で……元気そうでよかった」

 

「いやぁ、ほんと色々大変だったよ。王様と話さないといけないしさー、気を使うのなんのってさー」

 

 

 ソルト王室はーー他王家と比べ段違いで緩い王家だった。祖父は漁師であり、現国王も幼少期は網を編んでいた生粋の成り上がりもの。

 俺も子どもの頃は警護もなしで父に連れられ、その辺の埠頭で釣りしてたしね。それが許されるくらいには権威と伝統もない血筋の王様は、父親として俺に語りかけている。

 

 

「残念ながらそれは続くぞ? 大臣は隣国のラウス王、父さんの秘書官はラヴィウス宰相、そして財務はネッテルシア陛下が担当しているからな」

 

「……あー……」

 

 

 連合王国。

 それは小大陸のすべての国が一塊になった大国だ。

 もちろんソルト王国の行政官だけで運用すんのは困難と言わざるを得ず、合併した国家の元首の方々も宮廷に入り込んでいて。

 

 元漁師の息子には荷が重すぎるらしい。

 

 

「ちなみに、侍女はリノ王女に、ユミリーヌ姫、他にも……」

 

「うわぁ、ビッグネームだねぇ、大国のお姫さま勢揃いじゃん」

 

「本当に気を使うんだぞ? 無礼にならないかとか、迷惑にならないかとか、でも侍女にはしっかり命令しろとか言われるしさぁ」

 

 

 出るわ出るわ、愚痴の数々。

 別に粗雑に扱われてるとかバカにされてるわけでもない。むしろ逆だ。他国家の全てが滅ぼされる中で魔王軍の侵攻から耐え抜いたことへの敬意しかないんだけど……それもそれで気を遣うのだろう。

 

 

「というわけで父さんは早く王さまを引退したいと思ってるんだが……」

 

「……まあそう言うことなら問題ないよ。大大陸で社交にも慣れたからね、俺が王位を継ぐ、父さんも無理はしないようにな?」

 

 

 まあそう言うことなら仕方ない。

 俺は連合王国王位を継ぐことになった。

 

 

「ちなみに兄さんはなんて言ってるの? 立場的にはあっちが後継者でしょ?」

 

「王位なんて絶対に継ぎたくないからって、家から出てって町で暮らしてる」

 

 

ーーーーーー

 

 

 別に俺はレーヘンのことが嫌いではない。

 結婚したくないわけではない。

 ありかなしかで言えば普通にあり。

 

 ただ彼女と同じくらい、ライフズくんのことが好きであり。彼の恋心をサポートしてあげたいと思っているだけだ。

 

 しかし同時にレーヘンの気持ちだって大切だ。

 みんなのために頑張った勇者さまが、望まぬ結婚をするなんてことはあってはならない。

 幼馴染同士で付き合って欲しいけど。

 だから彼女の自由意志が脅かされてはならない。

 

 たとえ俺の望みを絶やすことになったとしても。

 仲間の幸せには変えられないのだ。

 

 つまり、レーヘンとライフズくんが憂いなく交流できる場を用意して、絆が芽生えやすいよう手を尽くして時間を稼ぎ。

 それがダメなら俺と結婚するって言うのがベスト。

 

 だから、たとえば父に『俺は結婚なんてしたくない』とは言わなかった。そんなことすれば父は結婚に反対を表明するに決まってるからね。

 

 

 

ーー聖歴0100 3月3日ーーー

 

 

 ライフズくんがソルト王宮から失踪したという報告が届いたのはその日の午後のことだった。どうやら置き手紙を残していたらしく、要約すると復活の進む世界を見てきます、だそうだった。

 

 はっきり言って建前だった。

 彼は寝取られの苦しみに耐えられず、距離を置くことを選択してしまったのだ。

 俺は思わず天を仰ぐのだった。

 

 

 

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