曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者 作:さらみパスタ
俺の母ソラ王妃はソルト王国首都のソルト市の雑貨屋で産まれたごくごく普通の町娘であった。もちろん先祖を辿ればもしかしたら貴人がいるのかもしれないが……祖父母の代までごくごく普通の市民階級。
そんな存在が当時の王子に見初められた、と言えばまるでシンデレラストーリーのように受け取られるだろう。
ま、ソルト王室は権威や威厳とは程遠い、なんて言うか社長一族って感覚の血筋だ。
まして父の代は成り上がり二代目。
玉の輿なのは事実だけど、その貴賎結婚にそこまで反発があったわけでもなかったそうだ。
ちなみに俺にも兄にも乳母なんてものはいないし。普通に母は手料理を家族に振る舞うのが趣味だったりするくらいなので、家庭環境としては一般的と呼ばざるを得ないわけだが。
まあ、ともかくそんな母さんは、母としては立派だとは思うが、王妃としての適性はマイナスに突っ込んでるというか。
我が子ファーストで、子どもの夢や希望と国民だったら前者を優先するタイプの女性だ。
俺の兄が街で暮らすことにも賛同し。
定期的に手料理を仕送りしているらしい。
そんな家庭的な王妃ではあるわけだが。
嫁姑の対立なんてことは、貴族だけの特権ではなく、どの家庭でも起きるものだなんて言うまでもないだろう。
いや、息子との距離感が近いからこそ。
嫁姑の対立は起きやすいものだ。
「あらあら、レーヘンちゃんは本当によくできた娘ねぇ、おばさん実はあなたみたいな娘が欲しかったのよねぇ〜」
「えへへ、義母さま、ありがとうございます!」
俺も心配はしていた。
母さんと何か問題が起きかねないのでは、と。
しかし、勇者レーヘンに限っていえばそんな心配はなかったようだ。祖国を失い心を凍て付かせた姫騎士や、妻子を失い憎悪に狂った魔法使いさんの心を溶かした功績を持つ少女にとって。
単なるおばさんを誑かすのは朝飯前。
出会って数日ですっかり仲良くなっているのである。
或いは感性が近いというのもあるのかもしれない。
元雑貨屋の看板娘とパン屋の娘。
根っこの感性は非常に近かった。
「ゾーニッヒ、あんた、こんないい子を手放したらダメよ?」
「わかってますよ、母さん」
「えへへ、ボクを手放しちゃダメだからね? ま、そっちが手を離したって、ボクが離れるつもりはないんだけどさ」
勇者レーヘンが帰還して4日目。
彼女は未だ王宮に宿泊していた。
宮殿の一室に住み着いた勇者さまは、もはやここが自分の家と言わんばかりの態度で日常生活を送っているのである。
しかしそれを問題視するものなどいなかった。
レーヘンは世界を救った勇者である。
そんな少女をもてなすことは大変な名誉であるし。
王子である俺と婚約した彼女は、連合王国の王室メンバーとなることが確実視されていた。
「ふふ、でもおばちゃん感動しちゃったもの、うちの子にあーんな情熱的な告白してくれる娘さんがいるなんて」
「嘘だぁ、神官長ってあっちこっちですごくモテてたんですよ? ボクほんとにいつも嫉妬しちゃってたくらいですもん」
ソルト王宮に仕える廷臣はもとより。
王妃、王太后、そして国王。
ソルト王宮に住まう王族一族はすっかり勇者さまに絆されていた。レーヘンは誰とでも仲良くなれる女の子で、俺の親族とも大変上手くやれていたのだ。
特に母さんとお婆様はレーヘンをいたく気に入り。
彼女の部屋はすでに王宮内で用意されている。
帰還四日目でこれであった。
俺はレーヘンを舐めていた。
彼女の本気は凄まじかった。
危機意識を覚えるほどに、俺の人間関係は侵食されていた。
「あっ、ライフズくんおはよう!」
「おはようございます、ライフズさま」
「……うん、おはようございます、レーヘン、ソラ王妃さま」
王妃と勇者さまの仲睦まじい会話は、私室ではなく宮殿の通路で行われていた。なんなら俺も朝起きて偶然鉢合わせて言葉を交わしていたくらいだからね?
そんなところにたまたまライフズくんが通りがかったのだ。
ちなみに彼も移り住んできた都市ではなく、未だに王宮に逗留している。もちろん国賓待遇だ、勇者パーティーの一員として偉業を果たした少年を粗雑に扱うなどあってはならない。
それはソルト王室の皆がそう考えていた。
何せ彼は聖剣守の一族だ。
最近急に成り上がった連合王国王妃とて、その精神性は限りなく市民に近い。お偉いさんに謙ることになんの抵抗もないのである。
「あれ? なんか大丈夫? 顔色悪いけど」
「……まあ、いや、ちょっとね……」
勇者レーヘンの声音はあからさまに明るかった。浮かれていることは明らかだったが。
それと引き替え、ライフズくんの顔色は明らかに悪かった。
「あらまぁ、ライフズさま? どうなさいましたか? ベットが柔らかすぎました⁇ すぐ新しいのをご用意するので、申し訳ないわねぇ」
「いいえ、ソラ王妃さま、これは個人的な要件ですから……」
だからもちろん母さんとその体調を伺った。
ライフズくんは、実子である俺や嫁候補として明らかに身内として扱われている勇者レーヘンとは正反対に尊き人として扱われていた。
「……そういえばお母様、神官長のベッドがなんか昔のやつのままでしたよ?」
「そうなのよねー、一応この子も自分のものは自分で選びたいでしょうから買わないで待ってたのよ、レーヘンちゃんは何がいいと思う?」
「もう少し柔らかい方がいいんじゃないですか?」
本人が隠したがってるなら無理には追及しない。
根掘り葉掘り訪ねることは逆に無礼。
レーヘンも母さんもすぐに話を変えたわけなんだけど……。
「そうね、そうだ、二人で選んできたらいいんじゃないかしら。そういうのは夫婦で決めるものでしょうしね?」
「えへへ、そ、そうですよね、えへへ、じゃあお言葉に甘えてそうします」
そんな会話がまさしくライフズくんのメンタルをガリガリ削ってることには気がつけないようだった。
彼は明らかに『僕が先に好きだったのに』。そんな苦悩に苛まれている。
以前から勇者さまの秘めたる想いに気がついていたならここまで苦しまずに済んだ。しかし、魔王を討伐し告白できるってなった直後に叩き落とされたに等しいのだ。その精神的なダメージは凄まじいものだった。
ではなぜ女性側二人がそれに気がつかないかと言えば……ライフズくんは故郷を亡くしているからだ。
聖剣守の一族の多くの人も殺されている。
両親は殺され、故郷は荒廃していた。
ソルト国民とはレベルが違うシリアスな境遇だ。
だから二人は、彼は平和な世になったから色々と思い悩んじゃうのかなぁとか、あれこれ考えてしまったのだろう。
どうするべきか。
俺は思い悩むのであった。
ーーーーーー
「というか、お前実家に帰らなくていいのか?」
「今が義母さまと仲良くなる絶好の好機だからね! お母さんもしばらく帰らなくていいっていってたし。結婚するなら相手のご家族ともしっかり仲良くならなきゃダメだってさ」
王妃が所用で立ち去った後。
俺とレーヘンは場所を移し、宮殿の庭園で言葉を交わしていた。
ちなみに、既にレーヘンは実家には顔を出しているし、俺も彼女のご両親には挨拶に行っていて。
確かにご両親は彼女の婚約にとても前向きで、長旅に出ていた娘が自宅に帰らず、宮殿で逗留することにも肯定的だった。
でも数年離れていた娘と一緒に過ごしたいと思っていないわけがない。
「そうはいいつつ、寂しくもなってるだろ? 可愛い娘と四年も離れ離れだったんだからさ」
「でもお母さんはボクの恋の応援を昔からしてくれてて、ボクの恋が叶って、幸せになった方が喜んでくれるからね」
しかし、勇者さまは両親の幸せ=自分の幸福であると正しく理解していた。愛されてる実感があるからこそ、胸を張ってそう断言できる。
「神官長がボクを好きになってくれるっていうならいいけどさ……あ、女の子としてね? 神官長がボクのこと人間として好きなのはわかってるから」
「それを俺に言えるのは根性座ってるよな」
「だって事実じゃん? 神官長もボクの幸せを心から願ってくれてる一人だってわかってるもん」
勇者さまは曇り無きまなこで俺のことを見つめていた。
勇者レーヘンは変わった。
小生意気な態度は相変わらずだが……何かあるたびに『ボクはあなたのことが大好きです』と意思表示してきている。
以前までなら喉元で押さえ込んでいた求愛行動の数々が、俺と婚約したことで解禁されていたのだ。
もちろん好意を口にされるのは嬉しい。
ここまで好きでいてくれるなんて男としては冥利な話だ。マイナスな感情なんて全く感じない。
でもね?
「そうだ、ライフズくんはどうする? 一緒にお散歩する?」
「それはいい考えだね、ライフズくんも一緒に行こうぜ?」
「……いや、僕はやめとく。レーヘンは神官長と二人っきりで過ごしたいでしょ? 空気くらいは読むよ……」
この場にはライフズくんも一緒にいたのだ。
立ち去ったのは俺の母親だけ。
だから何かにつけて求愛してくる勇者さまの態度も。
それになんともいえない笑顔を浮かべている俺のことも、ライフズくんははっきりと認識していた。
ライフズくんは今回の婚約の真相を正しく理解している。
レーヘンは俺に拒否されないように功績の対価という形で婚約し、俺が逃げられないようにしてからアプローチしていると。
距離を取られないように好意を誤魔化し。
一気に距離を詰めてきたと。
狡猾な恋愛戦術。
その全てをわかっていた。
それが何より苦しみを齎すのだろう。
好きな女の子が他の男に懸命にモーションをかけ続けている光景は、彼の脳を絶えず破壊しているに等しい。
「えー、気にしなくていいのにねー? 二人っきりで過ごしたい時はこの人の部屋に遊びに行くんだしさ!」
「いや、本当に大丈夫だから……」
そして勇者さまは鈍感だった。
いや、彼女はライフズくんに強い友情を抱いているのは間違いない。大切な幼馴染にして親友を邪魔者扱いするわけがない。
だからこうして元気のない彼を外に連れ出して、パーッと気晴らしさせよう、なんて考えて外出に連れて行こうとしたのだ。
それは間違いなく善意であり。
だからボタンをかけ違うように、幼馴染二人はすれ違ってしまう。ライフズくんは逃げ出すようにこの場から離れていた。
「……んー、大丈夫かな、ライフズくん、神官長はどう思う?」
「……むずかしいな……」
言うべきなのかもしれない。
『ライフズくんは、レーヘンのことが好きで、だから俺に言い寄ってくることを見ると苦しんでいる』と。
しかし、そんなことを伝えれば連鎖的に『だから俺は結婚に否定的な態度を滲ませている』なんて事実までバレる。
そうなれば、レーヘンは間違いなく、ライフズくんを振ってしまう。今の彼女は俺にメロメロだからだ。そうなれば婚約状態で時間を稼ぎつつ幼馴染間の交流を重ねさせフラグが立たせるなんて俺の計画は根本的に瓦解する。
だから言えない。
だから伝えられない。
こういう時にどうすればいいのか、その解決策をろくに見出すことはできず、俺は苦悩の中にあった。
ーーーーーー
ソルト王国はかつては寂れた国だった。
大陸の端にあるこの国は山脈と海に挟まれており、かつて巨大国家の崩壊時に独立した、といえば聞こえがいいが、結局のところ大国はわざわざ自国に組み込もうともしなかった辺鄙な国だ。
名前の通り塩は取れるがそれくらい。
そんな小さな王国の首都はーー大発展を遂げていた。
魔族との戦争で必要な物資の生産という特需で、寂れた都市は数年の間に大都市へと変貌を遂げている。人口は増加し道路は太くなり、高層建造物も増えていた。
勇者パーティーが旅立ってたった四年。だというのに、住み慣れた都市で迷子になりそうなほどに何もかもが変わっている。
俺とレーヘンはそんな街中を観光していた。
「まぁ、みてみて神官長、あそこにもお祝いの垂れ幕がかかってる」
「母さんの実家のとこ……だよな? また随分豪華になって……」
街中は祝福ムードに溢れていた。
新聞社の号外には、勇者と王子の婚約について好意的な内容が記されている。彼女の帰還を祝う文言の隣には、さっそくその婚約を祝う言葉が書き足されたいる。
その婚約を否定的に見るものは、どこにもいなかった。
「えへへ、ここまでお祝いされると流石に照れるよね」
「レーヘン、お前にもそういう感性あったんだな」
「あるに決まってるじゃん。神官長のこと好きって言うのだって割と勇気出してるんだからね?」
そんな街中をお忍びで歩きながら、レーヘンは気恥ずかしそうに視線を彷徨わせている。計画的に俺と婚約した計算高き女の子もこれは流石に予想外だったようだ。うっすらと頰は赤らんでいる。
今回の散策の目的は寝具の購入であるが。
ま、それを名目にしたデートしたいってのが本音だろう。高貴なる人はこういうものをわざわざ買いに行く必要はない。御用商呼びつければそれで済むからね。
でもこれならライフズくんを無理に連れ出さなくてよかったな。
こんな街中全部祝福ムードに包まれてるなんて、あの子には到底耐え難いものだろう。
「そういえば今日はこのまま寝具店に向かうの? ボクついでに義兄さまのところに顔出したいな!」
「そうだね、近くだし寄ってこうか」
というわけで俺はついでに兄の元を訪ねていた。
ソルト王国の首都ソルト市。
数年離れている間に大発展を遂げた都市。
その一等地から離れた市民区画のマンション。その一室に兄はいた。
「というわけで兄ちゃん不労所得で食ってくから!」
「頑張ってくださいね、義兄さま!」
レーヘンとの顔合わせやら挨拶やらを終えたあと。
兄はそんな言葉を口にした。
俺の兄は昔から王位は俺に任せることを公言していた。王座なんて単なる罰ゲーム、税金で一生遊んで暮らすことを望むタイプの賢い男であった。
それを王族失格云々と思われる方もいるかもしれないが……兄は俺が最前線に出てる間、ずっと王太子という立場でいてくれていた。
それは魔王討伐の直前まで。
彼はそうしてずっと魔王軍との戦いを下支えしてくれていたのだ。
なら高貴な義務は果たしたも同然。
戦後は好きに生きる権利があるとおもう。
ま、弟としての贔屓目はあるけどね。
「それはいいんだけどさ兄さん、もう少しいいとこ住んでもいいんじゃない? 金なら俺払うからさ」
「……ゾーニッヒ、兄ちゃんには見栄があるんだ。税金で喰ってくことに抵抗はないが……弟に金を出させるのだけは嫌なんだ、わかってくれ」
ちなみに部屋の隅の本棚には不自然なように布がかけられていて、どのような蔵書があるのか全く見抜けられなくなっている。
多分俺とレーヘンが挨拶に来たから慌てて布をかけたな。
俺は察したし、なんならレーヘンも色々察してるようだった。でも彼女は何も言わず、視線を向けることさえしていない。
「そうだレーヘン、俺ついでに兄さんと話があるから少し離れてもらってもいいか?」
「うんわかった、家の前で待ってるね」
俺は兄に相談があったのだ。
「寝取られ、いやこの場合はBSSだな、まさかこの目で拝むことができるとは」
「レーヘンは代償を支払って苦しんでるって思ってたから、告白なんてできなかったんだよ、あの子。それでこうなっちゃてさ」
「……よし、諦めろ。お前が何かしようとするのは逆効果だ。変にくっつけてやるみたいなことをするのが一番良くない」
それはライフズくんの件への相談だった。
兄はそういうのに詳しかった。
「屈辱感を感じてますます反発するからな、時間をおいて様子を見るしかないと思うぞ」
「やっぱりそっかぁ……兄さんありがとう」
そしてそんな兄の言葉を俺は信じた。
余計なことは言わない、変にフォローしすぎない。その状態で様子を見て時間を稼ぐしかないと。
ーー聖歴0100 3月3日ーーーー
そんなある日、ライフズくんは失踪していた。
「レーヘンのお嬢ちゃんは料理がうまいのねぇ、ソラとは大違いで」
「あはは、ボクは義母さんの料理好きですけどね!」
王太后。
俺の祖父の妻であり、海女でもあった女性だ。
漁師から成り上がった祖父をずっと支え続けたおばあさまは、なんていうか少し偏屈なところがあった。
そんな祖母さえ、レーヘンにとっては容易く攻略できる存在だった。どうやら手料理を振る舞った結果、大変気に入られたらしい。
どうやら祖母の思い出の飲食店にパンを卸していたのがレーヘンの実家だったらしく、その縁もあり、俺の母より上手くやってるのだ。
そんな朝の団欒の席に……いつもは割と高頻度でライフズくんと鉢合わせていたんだが。その日は朝から彼の姿が目に入らなかったのだ。
違和感はあった。
でも部屋を訪れるのは流石に憚られて。
侍女(他国の元姫君)が少し慌てた様子で俺に声をかけてきたのはその日の夕方のこと。彼女の手には一通の手紙が携えられていた。
ライフズくんは旅立っていた。
歓待してくれたソルト王国王家への感謝の言葉と、言葉なく旅立つことの謝罪、そして聖剣守の一族としての役割云々、復興の進む世界を見たいという云々が。
ライフズくんは耐えられなかったのだ。
俺とレーヘンの婚約に。
ーー聖歴0100 3月17日ーーーー
俺は小大陸での休息を終え。
これは大大陸に向かうことにしていた。
もちろん本命はライフズくんの捜索である。
一応、レーヘンと結婚したとなれば政治的には引退せざるを得ず。人類連合の主戦派メンバーへの引き継ぎとか色々とやるべきことがあるのは事実だったし。
外交的な諸々とか、俺とレーヘンの婚約についての挨拶回りとか、貴人として果たさねばならぬ仕事は山のようにある。
というわけで俺はライフズくん捜索兼、他の用事を果たさんと大大陸に向かうことにしたのだ。
諸々の準備はしっかり済ませてある。
突然王族がいなくなったら迷惑だからね。
ちなみに今回の旅は、勇者さまも一緒だ。
「婚前旅行かぁ……ま、姫さまとか魔法使いさんとかにも直接会って報告したいからちょうどいいのもあるよね!」
ちなみに名目的にいうならば婚前旅行である。家臣団たちにも結婚前は大大陸を旅して、結婚後は小大陸を旅する、的な大義名分を語ったんだが。
レーヘンは乗り気だった。
「本命はライフズくんの捜索なんだけどなぁ」
「うーん、でもボクの勘的にそこまで急いで追いかける必要もなさそうなんだよね。もしかしたらソルトが変わっちゃったことがショックだったのかもね」
レーヘンはそう解釈していたらしい。
都市として発展しきった故郷の姿に、まるで自分の居場所がなくなったように感じられた、とか。或いは滅びた故郷のことが頭をよぎって、何かできることをしたくなったとか。
まさか自分が好きな人にアプローチをかける姿に脳破壊されてそれが辛かったから、だなんて想定さえしていないのだ。
これは二人を会わせたら逆効果かもしれない。
でも可愛い弟分が失踪したのに、何もしないではいられないのだ。たとえレーヘンの勘が大丈夫だと言っていたにしても、だ。
せめて元気な様子を見れればそれでいいんだ。
で、余裕がありそうなら会わせる。
せめて告白の一つしなければ。
新しい恋も始められない。
ライフズくんが新しい恋を始めるためにも俺はできることをしなければならない。そんな決意を胸に秘めて、俺は祖国を旅立った。