曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者 作:さらみパスタ
俺とレーヘンが大大陸に渡って数週間が経過していた。
では早速ライフズくんの捜索、といかないところが勇者さまの悲しい宿命だった。
港を降り立った直後から、人類連合の歓待が待っていたのである。世界を救った勇者様の名声はとてつもなく、そんなお方が婚約したとなったらそりゃお祭り騒ぎが起きるわけだ。
流石にそれを拒否することはできない。
というわけで俺たちは社交界やら、パレードをして過ごしていた。
しかしその間に何もしていなかったわけではない。
闇雲に探るより人を頼った方がいい。
というわけで俺は人を雇いライフズくんの行方を捜索してもらっていたのだ。
情報が集まったのはそれからすぐのことだった。
勇者パーティーの錬成士とはいえ、彼はメディア露出が低かった。レーヘンや俺と違いその容貌は世間的に知られておらず、捜索には時間がかかるかと思われたが、そんな想定が外れたのだ。
彼が見つかったのは皇国跡地。
ライフズくんは、ワイス姫の元にいたのだ。
復興が進む皇国。
最前線に近かったその地域は人類が取り戻すのが遅かったため、復興はかなり遅れていた。
予想以上に多くの国民が生き残ったとはいえ、それでも魔王軍の侵攻で夥しい犠牲者が出ており。その中には行政機能を支える知識階級も多く含まれていた。
特に宮廷と廷臣達が全滅したというのは、国家を支える基軸が全滅したに等しい。
ワイス姫は大変忙しくしていた。
人も足りなければ、物資も足りず。
ライフラインの整備にも時間が必要。
ないない尽くしの復興作業。
そんな窮地を改善したのが、姫様の苦境を聞いてやってきたライフズくんだった。
魔法使いさんに教えを乞うており。
人類連合暫定首都の魔道具開発にも携わった彼はその経験と知識をフルに活かし、まず皇国のライフラインの復旧を成功させたのだ。
それだけでない。
彼は事務仕事にも秀でていて。
執務官として、姫騎士ワイスのお手伝いに勤しんでいるのである。
好きな女の子を寝取られたショックで逃げ出すほどにメンタルダメージを受けているのに、さらっと人助けしてるのは流石のライフズくんってとこかな?
「ほらー言ったじゃん、ライフズくんのこと心配しすぎなんだよね、神官長はさ」
「うん、そうだね、おっしゃる通りです」
俺は自分の非を認めざるを得なかった。
俺はライフズくんのことを舐めていた。
彼が以前から行っていた勇者をもてなすためのイベントの企画は他の技能にも転用できる。人員の配置とか必要なものの用意に手配。
やることは同じなのだ。
そしてそんな技術を修めたということは引く手数多だってことだった。
「あの子は神官長と違って、別にほっといても問題ないんだからさー」
「俺はほっとけないってこと?」
「そう言ってるんだよ、意外と隙が多くて、ボクが隣で支える必要がある大好きな人だってね」
勇者レーヘンはニヤニヤ笑いながら、その指先で俺の服をくいくい引っ張っている。
幼馴染を自慢するかのようなその顔には、確かな信頼と確信が宿っている。
「でも、こうやってこそこそするのも楽しいね。ボク、なんかヤムルの時のこと思い出しちゃった!」
「流石に逼迫感は比べものにならないけどなぁ」
ちなみにそんな俺たちがどこにいるかというと皇国跡地だ。荒廃したお城の敷地に急増で建設された復興拠点ーーライフズくんの現在の職場の向かいに建設された宿屋の2階。
今はこそこそ、執務に取り組む彼のことを観察しているのだ。
もちろんお忍びである。
静かに世界を巡りたい、とか云々言って少しの自由時間を得た俺たちは早速遠出していた。
ちなみに対外的には他の地域を観光中、ということになっている。
姫騎士ワイスに会う予定もなければ。
ライフズくんの元にサプライズで登場するつもりもなかった。
流石にね?
俺も逃げ出したライフズくんとレーヘンを面会させることが問題あると理解はしている。
大事なのは彼の様子の確認だった。
俺とレーヘンは物陰に隠れながら、用意した望遠鏡を二人で覗きつつ、あくせくと働く少年の様子を確認する。
未だ修繕も終わらぬ皇城。
その豪華な城砦とは程遠い、急増でこしらえた一切の装飾のない建物。
その執務室の中ではライフズくんと姫さまが、言葉を交わしていた。
「というわけで物資の数が合っていなくて」
「そちらの懸案は全て一任いたします。ライフズに任せます、責任は全てわたくしが取るので。あなたと違ってわたくしにそんなことを判断する能力はありませんからね」
「もー、鬼上司だ……」
どうやら復興計画についての相談のようだった。だが、ワイス姫は腰を据えて会話することなく全権をライフズくんに委任していた。
「わたくしにそんなことができると? ライフズに教えて差し上げます、貴人とはできないことはできる方に任せるものなのです!」
「それドヤ顔でいうことなの? 姫さま」
ライフズくんの顔色は良かった。
口では文句を言うものの、彼は明らかに元気を取り戻しているのだ。
さすがは姫騎士と言ったところだ。
心が傷ついた男の子を頼ることで、彼の自尊心を急速に回復させているのだ。
あなたの力を必要としている。
あなた以外は頼れない。
人間は社会的な生物だ。
誰かに頼られること、必要とされることは、精神の安定に重要な役割を果たす。
そしてそこそこ忙しいけれど。
仕事をすればするほどに復興は進み、彼は自分が何を成し遂げたのかを目にすることができる。
広がる街に上がる竈の煙は、確かな自己肯定感を与えてくれるのだ。
「……これは大丈夫そうだな」
姫騎士のとこでお世話になってるなら万が一もない。ここで時間を置くことで心の傷を癒せばいい。
俺はほっと安堵した。
いや、メンタルボロボロのライフズくんが悪い人に騙される可能性とか色々考えていたからね。姫さまが面倒見てくれるならそれに越したことはない。
「それでどーするの? ワイスに一応挨拶する⁇」
「いや、会うのは今はやめとこう」
「まー、ボクは旦那さまを立てるタイプだからね、神官長がそういうなら従いまーす」
というわけで俺たちは暫定首都に帰ることにしていた。もちろんまだまだ大大陸でやることはある。政治的な諸々ももう少しかかりそうだからね。
ただライフズくんとレーヘンを交流させてフラグを立てるーーそんな計画が実行されることはないのだろう。
これはもう、仕方ないと言わざるを得ない。
縁がなかったという話なのだ。
今、レーヘンに無理に会わせるわけにはいかない。あの様子なら時間を置くのがベスト。
そしてそれは……俺はレーヘンの婿になる可能性を飛躍的に高めることを意味していた。
「婚約したからには指輪とか必要だもんねー、そういうのの用意もしないといけないしー、えへへ!」
レーヘンはどこか楽しそうに喉を鳴らしていた。
ーー聖歴0100 5月15日ーーーー
人類連合暫定首都。
そろそろ俺たちの婚前旅行も終わろうとしていた。
俺とレーヘンの婚前旅行はそろそろ終わりを迎えようとしていた。
パレードとして各地を旅したりとかしていたのだ。もちろんある程度復興が進んで勇者を歓待する余裕がある地域だけだけどね。
婚約指輪の購入とかまあ色々していた。
ちなみにまだ手元にはないというか、勇者さまの婚約指輪なんて代物は制作にかなりの時間が必要だ。
予約はしたが、一度取りに来る必要はある。
さてそんな旅の終わりに。
俺とレーヘンはワイス姫と面会していた。
ライフズくんのおかげで相当余裕が出てきたのだろう。
ワイス姫は、政治やら、公益ルートの制定やら、復興のための支援の要請やら、諸々をしに人類連合暫定首都にやってきており。
そこで俺たちと会談していた。
「レーヘン、神官長さま、ご婚約おめでとうございます」
「姫さま、ありがと! ボクついに神官長と婚約したんだ!」
ワイス姫はニコニコしていた。
それはもう晴れやかな笑顔だった。
彼女にとってレーヘンは可愛い妹分であり、そんな女の子の恋が叶ってことはただただ喜ばしいことなのだ。
「あなたの幸せな笑顔を見ると、わたくしも幸せな気持ちになりますね。神官長さまもレーヘンを幸せにしてあげてくださいね」
「ええ、必ず」
そして姫さまは優しい笑顔で俺にも語りかけてきていた、のだが……。
「……でもさ、ワイスってボクのこと信じてくれなかったよねー」
そんな祝福しにきた姉貴分に、レーヘンには言いたいことがわんさかあるようだった。……もちろんそれは本気の隔意っていうより、親しいが故の文句である。
「ぅぅ、でもあなた言わなかったでしょ? 神官長さまが好きだなんて。なんか妙に色々と誤魔化そうとしてましたし」
「そりゃこの人にバレたら距離取られちゃうもん、でもワイスは気がつくように牽制してたのにさぁー、依存だなんのって勘違いしてさー」
ワイス姫はそそくさと顔を手で覆った。
羞恥心が閾値に達したのだ。
それは姫さまにとってそれは黒歴史。
俺とレーヘンは男女の仲であった。
代償による苦しみから色事に溺れた。
そんな勘違いは、端的に言えばピンクの妄想としか言いようがないものだった。
でもそのことについて、こんな軽口を言える日が来たなんてなぁ。
俺は割と本気で感激していた。
「しかもさー、それをネタにして神官長に言い寄ってたよねー。別に好きでもないくせに裸で擦り寄って胸押し付けたりさぁー」
「…………」
「その話は無かったことにできませんか?」
そんな会話の中で俺は新事実を暴露されたのだ。
姫様がやたらと距離を詰めてきたこと。
怪我の治療と称してやたらと肌を見せてきたこと。そして意味深な態度の数々。
俺は察した。
あれはそういう仕草だったのだと。
「その、ほらこれを深掘りしたらきっと沢山の問題が生まれるでしょう? ね? レーヘン、それは無かったことにしましょう、ね! 神官長さまもそれでよろしいですわよね!」
「うん、そうだね、俺は何も聞かなかった」
というわけで俺も何も聞かなかったことにした。別に姫騎士に友情とか絆はあるけど、性愛はないからね。
そんなん知らないふりした方がいい。
俺は速攻で割り切った。
「言い訳になります、わたくしの立場的に神官長さまと婚約するのかなと思っておりましたから、それ絡みでして、おほほほ」
のだけど。
姫様は顔を手で覆っているから、その表情はさっぱりわからないけれど。耳先は真っ赤に染まっていた。
「さて、それでは本題を切り出させて貰いますね? ライフズは今わたくしの元におります。ご心配はされないように」
それは話題を変えるため、ではあったけど。
元々その話をする予定だったのだろう。
仲間と情報共有する必要があると、
こうして失踪中のパーティーメンバーについて教えてくれたのだ。
「うん、知ってた!」
「実は俺とレーヘンは一度、様子を見に皇国跡地を訪れていまして。それで色々と視察しましたからね」
だから俺たちもそんな言葉を口にしたのだが。
姫騎士ワイスは身体を強張らせたのだ。
もちろんお顔を両手で隠しているので、どういう表情を浮かべているのかはわからないんだけど。
「……姫さま?」
「いえその……でも仕方ないのでは? わたくしもその、殿方に寄り添いたくなることはありますの!」
そして唐突に自分とライフズくんが親しい関係であるかのようなことを口走ったのだ。
俺は察した。
姫騎士ワイスはライフズくんと一線を越えたのだ。そしてそれがバレていると勘違いして言い訳を口にし始めたのだ。
話の前置きの時点で相当動揺してたから、秘密が全部バレていると誤解したのだ。
ワイス姫はそういうところがあった。
実直な彼女は……パニクった時にこうしてやらかしてしまう。
「そうなんだ、おめでとう姫さま! 姫さまずーっとライフズくんのこと好きだったもんね」
「ええ、おめでとうございます!」
まあ彼女は昔から、あの子に好意を寄せていたし、失恋の苦悩を慰める中で距離が近くなってしまったのだろうなぁ。
……正直、傷心に漬け込んだ感はあるけど。
彼を傷心させた側がいうことではない。
そしてレーヘンはライフズくんに一切の独占欲を感じていないらしく。二人の恋を純粋に祝ってしまうのである。
「……気がついていたのですか?」
「ええ、そりゃね」
姫さまは言葉に詰まって。
今度はその場で丸まってしまう。
ワイス姫の恥じらいには、まだまだ強まる余地が残っていたらしい。丸まった彼女はうめくような声を漏らしていた。
ーーーーーー
「まあともかく、ライフズに関してはわたくしが面倒を見ておりますので、ご安心を」
「面倒を見ている? 見られているのではなく?」
「もう、神官長さまは相変わらずイジワルですのね!」
彼女が立ち直るには今暫くの時間が必要だった。
一つ、二つ、三つと大恥を掻き続けたにしては驚異的な速度で立ち直ったワイス姫なのだが。
俺が本来したかったのはワイス姫への辱めではなかった。
「それで官僚の不足は大丈夫なのですか? ある程度は連合王国から人を回せますが」
「……難しい話ですわね」
それは復興支援の提案である。
いや、別に弟分の活躍する場を奪いたいわけではない。ただ今の皇国は彼一人の手でどうにかなるようなものではないのだ。
皇国跡地に運び込まれる、そして生産される物資の量と、それを差配する人員の数に大きな隔たりがあるからね。
ライフズくんの性格からして、頑張りすぎて潰れてしまうのが怖いし。
多少の人員を送る必要はあるのか?
俺はワイス姫に尋ねたのだが。
「連合王国の影響力が残るのは避けたいというのが本音ですの。今はなんとか回せていますから、復興がさらに進むか、停滞して本当にどうしようもなくなったら手を借りたいと思います」
その答えはノーであった。
ーー聖歴0100 7月14日ーーーー
時間の経過はあっという間だった。
ま、その間特に何か問題が起きたわけではなかった。
各地の復興が一斉に進む中で物資の不足が目立つようになったり。人材の争奪戦のようなことも起きてるそうだが……概ね平和と言っても過言ではない。
特に連合王国は平和そのもの。
レーヘンが雑誌のインタビューを受けたり。
俺の婚約者、というか将来の王妃を気取り出したり。
結婚式の準備がスタートしたり。
まあ、色々あったが……。
「結婚式まであと五ヶ月ちょいかぁ、ちょっと緊張しちゃうね、神官長! いや言い方変えたほうがいいのかなぁ……お、夫になるわけなんだし」
「レーヘン、お前の好きなように任せるよ」
そう結婚式の日取りが決定していた。
時期は五ヶ月後の1月1日。
レーヘンから強い要望だけでなく、連合王国王家の地位の確立のためと家臣団からも強い要請があったのだ。
ちなみにそれと同時に俺は連合王国王位を継承する手筈になっている。
既に各国に通達はなされていたし。
一部新聞社なんかにも報告はされており。
号外としてあちこちに情報は拡散されている。
逃げ場なんてなかった。
婚約から数ヶ月でレーヘンは俺との仲を盤石にしていた。
正直言ってここからライフズくんが挽回するのは……不可能に近い。そもそもあの子は交際している女性をこんな短時間で捨てるなんてできない誠実な男の子だ。
だから俺は、レーヘンや家臣団が強く望む年内の結婚式についても拒否することはなかった。
別に彼女と結婚するのが嫌ではないからね?
理想の女の子には劣るとはいえ、レーヘンも多くの美徳を兼ね備えた女の子なのだから。
「えへへ、結婚式の準備も整ってきたね〜」
「まだまだ全然だぞ、一年って相当早いんだぞ? 貴人の結婚式ってのは用意するものが多いんだからさぁ」
「まー、仕方ないよ。情報が広まっちゃったんだからさ?」
素知らぬ顔してそんな言葉を口にしているが、あちこちに情報を拡散させ俺が拒否できないような盤外戦術を多用したのは他でもないレーヘンであった。
いや嫌ではないんだけどね?
なんなら家臣団も勇者さまの暴挙に全力で乗っかったからね。
万が一にでも婚約破棄なんて起きないように裏であれこれ手を回していたらしいし。
だから周囲に迷惑をかけたわけでもないし、何の問題もないんだけどね?
俺はさも自分に責任がないと言わんばかりの態度ですっとぼけた勇者さまのお顔を思わずじとーっと見つめた。
「でも婚約指輪かぁ……ドキドキしてきた」
「まずは皇国跡地に向かうぞ? 距離的にもそっちの方がいいし」
というわけで結婚指輪も現在制作中なのだが。
まずは婚約指輪ができたという報告があったので、俺はレーヘンと一緒に大大陸を訪れていた。
そしてそのついでとばかりにもう一度ライフズくんの様子を観察しに向かったのである。
ワイス姫と交際中とは聞いていたけど。
割り切れたならそれでいいし。
未練があるなら、断ち切ったほうがいい。
「またライフズくんの様子を見に行くの? まーボクはこういうスパイごっこも割と楽しんでるからいいんだけどさ」
「勇者パーティーは今回の結婚式の準主役だからな。色々様子を確認しといたほうがいいんだよ」
結婚式の招待とかの話にもなるからね。
もちろんこれの様子次第で、まだ時間が必要なら放置一択だ。
なのでもちろんお忍びでの旅行となる。
というわけでまたいつもの宿屋に宿泊しこそこそと街の様子を観察してたわけなんだけど。
ライフズくんの手腕でだいぶ復興が進んだ皇国跡地。
竃の煙は以前よりずっと増えていたし。
どうやら都市に住まう人口も増えたようだ。
そんな観察を続けるうちに俺たちは休日を楽しむライフズくんの姿を視認した。
もちろんまだまだ何もかもが足りていないけど、沢山の市民が安定して生活できる環境を整えたことは彼の自尊心を大いに満たしたようで。
「あら、ライフズさま、いつもありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらないでお婆ちゃん」
ライフズくんの表情はかなり明るくなっていた。
ここ数ヶ月の間で都市にも溶け込み、部下も増え。
多くの市民にも親しまれた。
しかもワイス姫という恋人までいる。
となると、それはもう順風満帆というしかない。
とはいえBSSを飲み込めたわけではないようで。
「そういえば勇者さまも結婚するとか噂が聞こえてますけど、ライフズ様と姫さまはどうなされるのだろうなぁ」
「まさか合同結婚式とか?」
そんな市民の会話に一瞬顔を強張らせているので、まだレーヘンと会わせるのは時期尚早なのは間違いなかった。
逃げるようにその場を後にしたライフズくんなのだが。
そんな彼の行動を観察していると、懐かしい顔が目に入った。
ベストールさんだった。
推定魔族の行商人。
魔王妃の忠実なる部下にして、魔王討伐の影の功労者。
流石に距離があるから何話してるのはわからないけれど、そんな女性と物陰で話していた彼はそのまま、こそこそと地下水道に消えていった。
「……あれは浮気だよ、間違いない!」
謎の女と話し込んでいる姿はここ最近、よく見られるらしい。
まあ彼女はバックルさんの教え子で、魔道具についての造詣も深い。ライフラインを維持する魔道具絡みで相談とか色々あるのだろう。
しかし彼女は推定魔族。魔王軍の被害が深刻だった皇国の人にはいづらいというのはあったのだろうけど。
そして、だからこそ疑惑を抱かれるというか。
ワイス姫の従者、リバースくんも動いているようだった。
素行調査というやつだ。
ライフズくんはもしかして浮気をしてるのでは?
そんな疑念を抱かれてあれこれ捜査されてるらしい。
「浮気だよ浮気、ボクがワイスなら絶対許せないよ、他の女とこそこそ密会とか普通に最低だと思う!」
「どうどう、落ち着けって、わかったからさ」
そんな様子を目撃したレーヘンは頰を膨らますこともなく、ただ不快そうに顔を顰めてそう告げた。なんていうか婚約して知ったのだが、彼女は結構嫉妬深いところがあった。
ちなみにこれは正確には俺に向けてた発言だ。『ボクはこういうの不快になるタイプだから』と、結婚相手の俺に主張しているのだ。
そんな勇者さまを宥めながら、俺は内心で確信していた。
ま、放置でいいかな。
ライフズくんは浮気なんてしないからね。
特に問題なんて起きるわけがないのだ。
ーー聖歴0100 7月16日ーーーー
皇国跡地に地下水道にて、魔王軍残党との戦闘が起きた。
そんな報告が入ったのは、俺とレーヘンが近隣の国で歓待を受けている時のことだった。
犯人は不明、とされているが。
一部報告には勇者パーティーメンバー、錬成士ライフズが関与した、なんて報告も入り混じっていた。