曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴 0100 8月5日

 

 

 逢魔が辻にはお化けが出る。

 そんな話が語り継がれるくらいには、夕陽に包まれ赤く染まった路地は薄暗くなる。通りすがる人の顔さえよくわからなくなるから、もしかしたら幽霊なのでは、と考える先人の気持ちがよくわかるものだ。

 

 魔法学園は赤に塗り染められていた。

 でも薄暗い屋外とは違い、図書室の中は確かな灯に照らされている。

 眩く光る魔道ランプは今は学園講師をしてる元技術者が一人で作った品らしい。

 

 

「えへへ、神官長〜、ぎゅ〜」

 

「おいおいこんなところでやめろよ。人に見られたらどうするんだ」

 

 

 そんな解説をしてくれた案内人のお弟子さんも今はいない。

 勇者レーヘンと俺はここ数日ずっと学園に滞在していたから、案内人なんて必要なくなっていたのだ。

 

 それをいいことに俺が執筆作業を終えた直後。

 小脇でぼーっと俺のことを観察していた勇者さまは抱きついてきたのだ。

 

 

「この時間帯は二人っきりでしょ〜、もーボクだってそんな考え足らずじゃないんだからさ〜」

 

「変な知恵をつけやがって」

 

「前からそうだよ、言わなかったり、態度に出してなかっただけ〜」

 

「せめて結婚するまでは隠せって、化けの皮が剥がれるのが四ヶ月ほど早いんだよなぁ」

 

 

 この時間帯は、生徒達は今は授業に勤しんでいて、先生達も授業中。

 

 だからレーヘンは止まらない。

 抱きついてきた少女はそのまま体重の全てをこちらに預けて。

 そのまま甘い声を出していた。

 これも婚約後に明らかになった貌だ。

 以前までならひた隠しにしていた恋する女の子を前面に押し出した姿。

 

 なんだけどね

 

 なんていうか……重くなったな。

 レーヘンには申し訳ないんだけど、俺は真っ先にそんな感慨を抱いていた。

 物理的な話ね? いや、太ったというか普通に成長しただけなんだけどね? 年頃の女の子はまだまだ身体が大きくなる最中にある。

 

 それがなんだか感慨深いのだ。

 あんなちびっ子だった小娘もこんなに大きくなったなんて、と。

 

 

「あと正確にいうといるんだよね、亡霊さんが」

 

「むぅ〜、まいいや、見せつけちゃお。神官長ずーっとカリカリカリカリ、ペン動かしてるしさー、もっとボクにかまえ〜」

 

 

 俺にあれこれと魔法について教えてくれる亡霊さんだ。

 多分かなり後世のことを気にかけてたタイプだな。

 亡霊ってのは死ぬ直前の影法師。

 早く消えることもあれば、遅くまで残るものもあるが、それは大体死ぬ直前の精神状態が左右される。

 

 この人はかなり長く残ってるし。

 俺の質問にも詳細に答えてくれる。

 

 教師の鑑と呼ぶしかないだろう。

 

 そして手を動かすことは勉強において重要だ。

 俺もこうして論文をあれこれ書きつつ、時に亡霊さんに質問をしてるわけなんだけどね。

 これは本当に素晴らしい勉強なのだ。

 

 実質、優秀な講師とワンツーマンのつきっきりで指導されてるに等しいからね? 俺は論文の書き方も、魔法理論というやつについての知識もついてる自覚があった。

 

 元々、故人の残したバトンを繋ぐ大事は役目だと思っていたんだが……予想以上に血肉になっているのである。

 

 

「でもお前はそういう俺を見てるのも好きだろ? 一緒に時間を過ごしてるだけで満足してるくせによくいうぜ」

 

「むぅ、神官長のくせに生意気だぞ〜」

 

 

 ま、それで置き去りにされたのがレーヘンなんだけどね……。

 でも彼女も本気で寂しかったわけではない。

 勇者さまはそういう時に必ずちょっかいをかけにくる。

 

 だから終わった後に擦り付いてくるのはただ単にこれはそういうていでいちゃいちゃしたくなっただけなのだ。

 

 ちなみに夕焼けの図書館の中でいちゃつくというのはーー俺がルーテシアと一緒にやりたかったことである。ずっと夢見ていたワンシーン。

 レーヘン相手だけど夢は叶えることができたのでほんと万々歳であった。

 

 

「……今ルーテシアのこと考えたでしょ! もーもー、いい加減に忘れてよね!」

 

「わるいわるい。でもそう簡単に忘れることはできないよ。ふとした時に思い出すくらいは許してくれないかい?」

 

「だめっ、神官長はボクのお、夫になるんだからだめなの!」

 

 

 なんて話をしてる時のことだった。

 ふわふわと新しい亡霊が、図書館を通り過ぎたのだ。

 

 一人や二人ではない。

 百人、二百人単位。異様なほどに多い。

 多くの死者が出た戦場のような数だ。

 

 死者の残滓ーー亡霊。

 それは大体死んだ場所近くから動かない。

 ここまで突然動いてるなんてあり得ない。

 つまり……。

 

 

「……レーヘン、敵かもしれない」

 

「もーちろん意識切り替えたから安心してよね、なんか嫌な予感がしてきたし。多分あっちの方から敵が来るよ」

 

「お前の勘も大概だよなぁ……」

 

 

 ま、想定内というか。

 魔法学園は人類の非常に重要な施設だ。

 もちろん魔王軍残党のターゲットの一つ。

 

 前々から敵の攻撃を受けるとは踏んでいた。

 

 駆け出した俺とレーヘンは図書館を出て、学園の階段を降りたところで幽鬼のような敵と鉢合わせた。

 魂がない、死霊のような敵だった。

 多分魔族だと思われるが……。

 

 

「レーヘン、あの手の存在は首刎ねるのが早いぞ」

 

「出血死はしない感じなのね、OK」

 

 

 亡霊を実体化させたような姿だった。

 

 ま、俺も似たようなことできなくはないけど。故人の亡骸から肉体作って、そこに亡霊を入れることでまるで蘇ったかのように振る舞わせることはできる。

 

 でも魂はないからよく似た誰かに過ぎない。

 死んだ瞬間を映した影法師。

 死に怯えてたり、憎悪に狂ってたりと周囲に悪影響しか与えないしね。

 

 ま、それはともかく。

 俺は勇者さまに告げた。

 敵の効率的な倒し方を。

 

 

「むぅ、ボク、首刎ねるのはそんなに上手くないんだよね……」

 

「そ、そっか……」

 

 

 そして。

 レーヘンはそんな敵をばっさばっさと薙ぎ払っていた。本人曰く苦手らしいが、俺はとてもそうとは思えなかった。

 亡霊の首をスパンスパンと一刀で切って回る姿はまさしく死刑執行人と言わざるを得ない。

 

 

「ほら、この人たちだとそうでもないけど、生き物だと返り血が酷いからさぁ、あんまりやらないようにしてたからさ、その……へたっぴかもしれないんだ……」

 

「そんなことないと思うけどなぁ?」

 

 

 ま、ともかく。 

 そんな会話をしているうちに敵は一掃されていく。

 

 ちなみに俺も一応敵の頭を潰して回っている。魔王討伐が終わった後もスポーツ気分で鍛錬は続けていたから、特に鈍ってもないし。

 

 メイスの腕前に関しても天才だと自負してる俺からすればこんな敵あっさり倒せる程度に過ぎない。

 

 そんな俺でも勝てないなと思い知らされるのが勇者レーヘンなわけなんだけど。

 

 

「多分一階の奥の方だね……でも上にも行ったほうがいいかも……」

 

「犯人は一階にいるけど、三階がやばいのか……いやバックルさんならそんなことないか。一階は囮で三階が本命ってとこかな」

 

 

 しかしまだまだ敵はいる。

 どこに敵がいるのか、そもそもこれはもしかしたら無尽蔵に湧いているのか。

 そんな考えさえ抱くほどに、学園内は蠢く亡霊が多くいた。

 

 一旦別行動をしよう。

 人地救助は最優先だ。

 俺と勇者さまは別々に救助活動した方がいい。

 

 そんな考えを口にしようとしたまさにその時だった。俺は廊下の反対側に、俺は懐かしい姿を見かけた。

 

 ライフズくんだった。

 彼はかなり焦った様子で敵を斬り倒している。間違いなく、この事件を解決するためにやってきたのだろう。

 

 ただちょっと相性が悪いんだよね。彼の千の技術は対人に於いては無類の強さを誇るが、この手の一定以上の火力を出す必要のある敵にその真価は発揮されにくい。

 

 もちろん無双はできてるが、その速度は勇者さまはまだしも俺より遅いくらいなのだ。

 

 そしてこういう敵との相性が一番良いのは姫騎士だ。

 彼女が大楯振り回すだけで一掃できるからね。

 

 

「よし、あっちはライフズくんに任せてボクたちはこっち行こう!」

 

「ま、話は事件を解決した後に聞けばいいか」

 

 

 それはさておき。

 人命がかかった事態で友誼を深めてる暇はない。

 俺だってその辺の優先順位は間違えない。

 

 ライフズくんが2階の階段を登り、学園長室、つまり魔法使いさんの方に援護に行ったっぽいので。

 

 俺とレーヘンは逆に一階のエントランスに向かうのだった。

 

 

「あ、なんかコツ掴んできたかも!」

 

 

 そんな戦いの中で、勇者さまはそう呟き……動きを切り替えた。

 そこから先はレーヘン劇場だった。

 

 彼女は一歩も足を止めることなく廊下を駆け抜け、通り過ぎた全ての亡霊の首を刎ね飛ばした。一太刀で二、三人の首を狩るから先程までとは比較にならぬ処理速度で敵を駆逐していくのだ。

 

 勇者さまは、間違いなく世界最強だった。

 しばらく素振りもしてないのに、全く衰えていないというか、まだまだ未熟な女の子はそもそも未だ全盛期に至っていないというか。

 

 多分魔王戦の時より強くなっているのだ。

 勇者ってすごい、俺はそう思った。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 亡霊の出現を上回る速度で亡霊を斬り殺し続けた勇者さまの活躍もあって。

 事件は一気に解決に向かっていた。

 敵の来る方向から、出現地点は大体わかる。

 

 というわけで亡霊がやたらと押し寄せたきた廊下の、とある教室が怪しいことを発見したのだ。

 というわけで教室の扉を開けようとして。

 

 これで事件も解決かな?

 

 そう内心で安堵の吐息を吐いたまさにその時だった。爆音が俺の鼓膜を揺らし、身体は一気に爆風に飲まれた。

 

 なるほどこれが奥の手か。

 勇者さまを誘き寄せ、爆発させて一網打尽って計画だったのだろう。

 

 だがレーヘンはその爆風を、全く理屈はわからないが斬って直撃を免れてたし。

 俺も即座に回復魔法を行使し、爆風に飲まれたーー教室に隠れていたらしい生徒達全員にも置きヒールしたので無事。

 

 というわけで解決したのであった。

 

 

ーーーーーー

 

 

 魔法学園襲撃事件。

 学園敷地内に突如として魔族の集団が現れ攻撃したこの事件を隠蔽することは困難だ。多国籍からなる生徒たちは、必ず祖国に報告するだろう。

 

 時間解決後、俺は魔法使いさんと面会していた、

 事件の後処理や他諸々を相談するために。

 ちなみにレーヘンは不安に苛まれる生徒達を慰労するために、あれこれ挨拶回りしてもらっている。

 

 そっちは彼女に任せて、俺は早急に取り組まなければならない問題があったのだ。

 

 ま、死人は出さずに済んだから最悪ではない

 なんて思っていたんだけどね。

 一人の少女が死去した、らしい。

 

 最後の爆破に巻き込まれて、一人の少女が木っ端微塵になってしまったそうだ。死体の残骸さえ見つかってないらしい。

 

 被害者の名前は、エットゥロ。

 その年齢は驚愕の十三才。

 

 いわゆる天才少女らしい。ちなみに先日、レーヘンに隔意を持った眼差しを注いでいた女の子である。

 

 それにしては俺の態度が軽いことからお察しだと思うが……多分その娘がこの事件の犯人であり、そもそも死んでいない。

 

 なぜわかるかと言えば、爆破現場に亡霊がいなかったからだ。

 

 流石に死んだ直後は必ず残る痕跡がない+そもそも俺がきた時に生命力を感じなかったことを考えると最初から囮だったのだろう。

 

 

 ーーというわけでその少女が多分犯人ですね、主犯か従属犯かはわかりませんが」

 

「そうか、あの子が犯人か。生きてて良かったが……いや、よくはないのかな」

 

 

 というわけで、虚脱し切っていた魔法使いさんに俺はしっかりと報告を行うのであった。

 

 今回の件で一番怪しいのはライフズくんであり。

 さらにあらぬ嫌疑がかけられるのは当然だ。

 だから俺はそうならないように速攻で手を打っておいた。

 

 なんなら一緒に巻き込まれたっぽい他の生徒全員は置きヒールで無事やり過ごしたからね。

 

 爆発のダメージより先に身体を癒せば実質ノーダメージで済むのだ。

 

 一人だけ爆風に飲まれるのおかしくない? 

 真隣にいた子は普通に生きてるのに⁇

 なんて説明したら秒で納得された。

 

 ま、こればかりは教え子より、俺への信頼の方が遥かに厚い。

 

 ちなみに戦闘後にライフズくんは失踪していた。

 魔法使いさんとも直接会話はしておらず、一瞬で消え失せたそうだ。

 

 もしかして少し揉めたのか⁇

 魔法使いさんは何も言わなかったけど。

 それが魔族に味方してることでみんなに合わせる顔がないと思っているのか……ま、なんにせよ俺のやることは変わらない。

 

 可愛い弟分が誤解されないように手を尽くすのみ。

 

 

「確かここら辺に……あったあった、これがエットゥロについての個人情報だな」

 

「えー、入学前に生徒の身辺調査してたんですか?」

 

「勝手に送り届けられただけだよ、俺はそんなこと指示してないからな、ゾニ坊」

 

 

 ちなみに件のエットゥロさんは孤児で、いわゆる流民組の一人だそうだ。そこから帰国し能力の優秀さを買われて魔法学園生徒になったとか。

 

 ……もしかしたらなんだが、育ての親が魔族だったとかあるのかもしれないね。そして、そんな親代わりをレーヘンが斬り殺したのかもしれない。勇者に妙に恨みを向けてきたのと、孤児がどうやって魔族に支配された土地で生き延びていたのかを考えると、ね。

 

 ま、戦争だから仕方ないんだけど。

 そもそも向こうから攻めてきたわけだし、返り討ちにされたことを恨むのはおかしい、と割り切るには些か幼すぎる年齢だ。

 

 魔王の策かもしれないなぁ。

 

 心優しい魔族に人間を育てさせた上で、人間との戦争に駆り出させてその魔族を殺させることで、こういう勇者を憎む人間を生み出すとかいうイヤらしい作戦を容赦なく打つのが魔王という男であった。

 

 

「厄介なことになりましたねぇ……新なる魔王軍には人間も所属している……これは荒れますよ」

 

「平和になったと思ったんだけどなぁ……」

 

 

 そしてライフズくんが動いているということは。おそらくだが、今回のも魔族軍が起こした事件なのは間違いない。

 

 魔王軍残党には人間も所属している。

 これは非常に重要な情報だった。

 ……まあ少人数ではあるだろうけどね。

 

 今回の件で少し違和感があった。

 レーヘンの武勇も、俺の回復技能の腕前も……魔王軍残党なら知っていて当然だ。

 

 

「ま、一人か二人程度ではあると思います。沢山いるなら魔王がこれを利用したでしょうしね」

 

「……子どもを利用するとは最低なやつらだな。そもそもあの子の親を殺したのは魔族だろうに」

 

 

 なのになぜこの程度で倒せると思うなんておかしすぎる。つまりこれはブラフってことだ。

 

 俺は魔王軍残党を舐めていない。

  

 魔族に与する人間がいるってことで人類の和を乱すってのが本命の作戦と思われる。新生魔王軍の中に人間はそれほど所属していないと見た。

 

 というか人間を味方にできてるんだったら、魔王ももっと上手くやったからね? 

 

 

「というわけでこの件は、上層部には伝えます」

 

「へぇ、隠さなくていいのかゾニ坊?」

 

「一部は誤魔化しますが……流石にこの件を隠蔽する方が被害が出そうですからね」

 

 

 この件を公表すると彼女を推薦した国の立場が本当に大変なことになるので、もちろん表面上は誤魔化すけれど。

 

 情報は広く共有するべきだ。

 人間の少女が魔族に与してる事実は明かさなければ、テロを防ぐことができなくなる。

 

 

「それと今回の件の目的は他にもあるかを調べなければなりませんね」

 

「この魔法陣を狙ったのはあるだろうな。これは一度構成された魔法陣を別人が改変して使用した痕跡がある。その証拠の隠蔽も目的じゃねぇかな」

 

 

 魔法使いさんは、懐から取り出したスケッチを片手でゆらゆら揺らしている。

 

 

「改変したのはエットゥロ、今回の犯行の主犯だな。どこかからか入手した魔法陣を改造したんだろう」

 

「そこまで見抜いたんですか」

 

「筆跡が独特だからな、慣れれば誰でも判別がつくさ」

 

 

 もちろん魔法使いさんは正しく事実を理解していた。皇国地下で起きた事件も今回と同じだったのだろう。

 だから敵は煙のように消えたのだ。

 

 

「魔法の効果は降霊術、ま、ゾニ坊に説明なんていらねぇだろうが、降霊術っていっても本人が蘇るわけじゃねぇ。なんて言えばいいのかなぁ、記憶を元に生成された人工物ってやつがわかりやすいかな?」

 

 

 そして魔法使いさんは俺が魔法理論のスペシャリストだと勘違いしてる節があった。

 亡霊の言葉をそのまま記してるだけなのに。

 それが俺の実力だと誤認してる節がある。

 

 

「そして原型の執筆者はベストール……俺の昔の教え子だ」

 

「……そうですか……」

 

「やっぱ知ってたか。……あいつが戦時中に幾つかの情報を運んでいたんだろ? ライフズの不思議な情報網の一つとかでさ」

 

 

 そして、ベストールさんのことは露見していた。俺の反応は決定打、というよりは最後の一押しにすぎず。

 今回の事件の最中に真実を見抜いたのだ。

 

 

「そしてライフズを飛ばしたのもベストールだな、昔から空間転移を研究していたからな」

 

 

 ちなみにライフズくんは、皇国地下で行ったように一瞬で消え去ったらしい。が、それもベストールさんの魔法だそうだ。

 魔法のプロフェッショナルの言葉だ。

 疑う由もないわけなのだが。

 

 よく一目でわかりましたね、流石です!

 みたいな言葉を口に出そうとして。

 俺の脳裏に電流が流れた。

 だから軽口は叩かなかった。

 

 

「そういう繋がりで追っていたのかもしれねぇな。自分の手元から盗まれたんだ、そりゃ責任感じて追いかけるわな」

 

「……言いたいことがあるなら聞きますよ?」

 

 

 そして俺は気がついたことを魔法使いさんに伝えた。

 

 

「……ああ、言わせてくれ……ゾニ坊、俺がどうして大陸を渡って逃げられたか知ってたか?」

 

「…………」

 

「元教え子に手を握られてな、気がついたら小大陸にいたんだよ。ああそうだ、転移が使われてんだ、間違いない。ベストールだ、あいつが俺を逃してくれたんだ」

 

 

 魔法使いさんはどこか虚脱したようにそう呟いた。

 彼の表情に浮かぶのは苦悩と苦渋。

 そして。

 

 

「……なんで俺を家族の元に飛ばしてくれなかったんだって、命を救ってくれた教え子に、そう思うのはおかしなことかな、ゾーニッヒ」

 

「……わかりません。俺は家族を亡くしたことがないですから……」

 

「そっか、お前は強いんだな……俺は弱いよ……」

 

 

 強烈な憎悪がその目に宿っていた。

 もしかしたらこれは……誤解させてた方が良かった問題なのかもしれない。

 

 

 

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