曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0100 8月14日

 

 

 

 

 魔法学園襲撃事件は、世界に広く知れ渡っていた。

 ニュースに取り上げられ、世間を大いに騒がした。

 

 それまで噂程度に語られていた魔王軍残党の存在は、ついに一般庶民の耳にも届いてしまったのだ。

 しかし、市民は恐怖に震えることはなかった。

 襲撃事件に被害者はおらず、たまたま居合わせた勇者さまのお陰で被害はゼロだったという報道もなされたからだ。

 

 勇者レーヘンの名声は止まることを知らなかった。

 

 それはさておき。

 事件を防げなかった魔法学園に対しての非難はほぼ起きていない。悪いのは魔族であって、攻撃を受けた被害者ではないからだーーそんな言説はそのニュースを取り上げた時に必ず述べられるくらいに。

 

 さてそんなニュースが世間に広がってる間に、俺が何をしていたかといえば政治工作である。各国に働きかけて、魔法使いさんが非難の槍玉に挙げられないように手を打っておいたのだ。

 

 

 

 というわけで、やることをやったからもう終わりと。

 俺は学園長室の魔法使いさんに別れの挨拶をしにきていた。

 

 

「というわけで俺とレーヘンは国に帰ります」

 

「そうか……寂しくなるな、また来てくれよ?」

 

「ええ、すぐに遊びに来ますよ。論文とかも書く必要ありますからね」

 

 

 しばらく魔法学園を中心に動いていたけど。

 そろそろ、連合王国に帰らなければならない。

 一応俺は王子さまだし、多分年末には王位を継承することになるからね。父さんから早く譲位をさせてくれと突き上げが来ていた。

 

 

「それと礼を言わせてくれ。助かったよゾニ坊、おじさんのこと悪く言われないように手を打ってくれたんだろう?」

 

「ま、余計なお世話でしたけどね」

 

 

 魔法使いさんはこれから先の魔法文明を牽引する存在であり。

 そんな存在を非難し、関係が悪くなることを各国指導者は恐れていた。

 俺の動きは彼らに取っては渡に船。

 各国は魔法使いさんにおもねっていた。

 

 

「今回の失敗は繰り返しちゃいけねぇ。警備員や入学前の身辺調査に思考調査は徹底する必要がある。危険分子の芽は摘み取らねぇといけねぇ」

 

「……まあ、そうですね……」

 

 

 魔法使いバックル。

 魔法学園の学園長であり、戦後はどことなく覇気を無くしてきた男は変わった。学園襲撃事件後から彼の瞳には、確かな憎悪の色が見え隠れするようになっているのだ。

 

 

「その協力を頼みたかったんだけど……ゾニ坊にも仕事があるもんな」

 

「はい、ゾニさまは勇者さまの夫でありますし、連合王国の次期国王でもあられますからね、師匠!」

 

 

 明確な覇気を取り戻し、精力的に活動する姿に、多くの人は安堵の吐息を吐いていた。それは彼のお弟子さんもそうらしい。

 

 魔法使いさんは断絶しかけた魔法知識を後世に伝えることができる唯一無二の存在で。そんな存在が穏やかな日々の中で静かに枯れていくことを憂う人は多くいた。

 

 憎悪という形で活力を取り戻したことは……多くの者にとっては万々歳の結果であった。

 

 魔族嫌悪について、周囲の人たちが悪く思うことはない。先日のテロ然り、こんな事件を起こされて寛容であれるわけがなく。

 

 特に今回は俺がいなければ死者が出ていたのは間違いないのだ。

 

 

「そういえばそうだったな。悪いなゾニ坊、何から何まで世話になった。次来たときはしっかり歓待してみせるさ」

 

「俺もレーヘンもこの学校を十分満喫しましたけどね、ではまた」

 

 

 俺とレーヘンはそうして魔法学園を離れるのだった。

 

 

 

 まあともかく。

 魔王軍残党の情報を一つ明らかにしたのは、

 降霊術についてだったり、本人の顔が判明したのは大きな収穫だった。

 俺は良かった探しをしていた。

 

 いや、まあ仕方ないと思うんだけどね?

 そんな、誤解が生じないように手を打ったら、真実を悟ったことで魔族憎悪を拗らせるなんてわかるわけがないし。

 

 ベストールさんには申し訳ないけど。

 俺にとってはライフズくんは勇者に次いで優先順位が高い。

 だからこの選択について、俺は反省していない。

 誤解が生じて対立するのは良くない。

 でも真実を知ったことで敵対するのは……仕方ないことなのだから。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 人類連合暫定首都。

 

 この都市は世界の中心というか、世界各国の代表施設が建造されている。

 

 政治、社交の中心であり。

 中央区画には世界各国の大使館なんてものが建設されており、日々各国の支配者やその名代たちが政治活動に従事している。

 

 もちろん連合王国の大使館も一等地に建設されているわけなのだが……それとは別に勇者パーティーはそれぞれ屋敷を所有していた。

 

 もちろんそこは土地ごと譲渡されている。

 戦いが終わったから返せ、みたいなことにはなるわけもない。

 一応世界を救った勇者パーティーだからね。

 大国の王よりよっぽど権威あるのが勇者さまなんだが。

 

 まあともかく。

 俺は暫定首都の屋敷に逗留しつつ、政治活動を行っていた。

 

 新四天王エットゥロを推薦してしまったとある国のフォローとか。俺とレーヘンの結婚式の予定についての折衝が主な仕事だ。

 

 連合王国としては結婚式は自国で行いたいと思っているけれど。人類連合としては暫定首都で取り計らいたいと思っている。

 

 事務方レベルでの話し合いは今も続いているのだが。四ヶ月後に迫った式の用意は既に始まっており、復興が進む国から相当の資材が送り込まれているのだ。

 

 勇者さまの結婚式にこれだけのものを用意できたーーそれは自国の権勢を誇示するトロフィーでもある。

 

 だから各国はこぞって特産品を用意し。

 人類連合暫定首都に送り届けており。

 

 逆に裏をかいて、連合王国側に資材を送り込もうとする国家もあるそうだ。

 

 勇者の結婚式。

 それは単なる個人の祝事ではなく、国家や組織レベルの大事業であり。

 政治的な思惑が絡んでしまっていた。

 

 この情勢でどちらか一箇所だけで結婚式を開くというのは角が立つ。

 だから、多分結婚式を連合王国で。披露宴という形で暫定首都でパレードをするってのが落とし所なのだろう。

 

 

「ふーん、ま、そうなるだろうね」

 

「レーヘンの意見はどうだ? うちうちだけでやりたいってならそうもできるぞ?」

 

「ボクとしては特にこだわりはないかな、むしろ豪華になるに越したことはないからね!」

 

 

 こう、自分の結婚式を政治的に使われることに思うところとかあるかなと思ってたんだけど……レーヘンはそこら辺を全く気にしていないのである。

 

 勇者さまはたくましかった。

 

 

「みんなが祝ってくれるのは嬉しいし、2回もできるなんてお得だよね!」

 

 

 ま、レーヘンが気にしてないならいっか。

 俺は男なので結婚式に拘りはないしね。

 政治云々とかも気にならないし。

 

 

「ならプライベートでもう一回やっちゃうか? お互いの身内だけ集めてさ」

 

「ナイスアイディアじゃん、神官長‼︎」

 

 

 と、俺たちはシリアスの欠片もない、のほほーんとした日々を過ごしていたのだが。

 

 俺たちが住む二つの大きな屋敷。

 そのお隣に住むワイス姫が、暫定首都を訪れたという報告が入ったのはそんなある日の夕方だった。

 

 というわけで俺とレーヘンは隣のお家に遊びにいくことにしたのである。勿論アポなんて取っていない。それは学生が隣近所の友人の家に遊びにいくような気楽な気持ちで。

 

 

ーーーーーー

 

 

 ワイス姫の私室の内装は、以前見た時となんら変わっていない。

 高貴なお方が生活するに相応しい気品ある部屋の中。

 俺とレーヘンは相変わらずの調子で、姫さまとおしゃべりしていた。

 

 ちなみにワイス姫上京の理由は政治活動のためであるが……勇者さまの対応はあらゆる会議より優先されるし。

 姫さま自身、極めて親しい妹分との交流の優先度は高い。

 

 

「そういえばあなたがたの結婚で、お二方の屋敷を繋げるみたいな話がされてるようですわね?」

 

「うん。でもボクとしてはどうでもいいんだよね。ぶっちゃけ本邸なんか使ったことないし」

 

「庭の小屋で生活してたからなぁ」

 

 

 と、そんな話題について語っていたのだが。

 

 姫さまはもう以前のように変に距離を詰めてくることもなかったのだが。それが結構新鮮というか。

 彼女はこういう席では俺の隣に座りやたらと密着してきていたからね。

 

 この部屋の中でこうやって話すのは……姫さまが勇者を忘れていた期間だけであったから。それがなんていうか、懐かしいなぁーみたいな気持ちでいたわけなんだけど。

 

 

「あれ? ワイス姫としては反対なんですね?」

 

「ええ。なんだかお屋敷でもわたくしだけお邪魔虫になってるようで複雑ですものね……」

 

「なってるようで?」

 

「もーレーヘン、揶揄わないでくださいまし」

 

 

 それはすなわち、それ以外の期間は性的な要素を多分に含んだアプローチをかけられ続けていたことを意味している。

 

 もちろんレーヘンはそれを察しており。

 どこかムスッとしている。

 

 

「その……その件はなかったことにしたはずでしょう?」

 

「ボクの内心に溜まった不満は相当のもんだからね、しばらくチクチクするつもりだから覚悟しておいてね」

 

 

 と、相変わらずの口調で言葉を交わす勇者さまなんだけど。それはかつて抱いた不満をぶつけてるーーだけではない。

 

 ワイス姫は明らかに気落ちしていた。

 ライフズくんは多分姫さまに連絡をしていないのだろう。いつ帰ってくるのかと、思い人を待ち続ける日々に彼女はすっかり落胆していて。  

 

 

「もー……あなたがはっきりと明言して仰って頂ければ、わたくしだって配慮しましたからね?」

 

「そんなことしたらこの人がボクと距離置くからできなかったんだよね」

 

「え? もしかして今俺が責められるターンが回ってきた感じかな?」

 

 

 そんな彼女を元気つけるために。

 あえてこんな言説を取っているのである。ま、不満を抱いていたのも嫉妬してるのも事実なんだろうけどね。

 

 ともかく。

 勇者さまは勇者パーティーの中心人物であった。当然姫さまとも姉妹のように親しい仲であり。そんな存在と楽しく過ごしたことは、姫さまのメンタルを少し癒したようだった。

 

 

「そういえば以前の話なのですが」

 

「以前の話? なにそれ、ボク知らないんだけど」

 

「官僚の斡旋についての話ですわよ? 以前断った件なのですが……今更ながらお願いすることはできますか?」

 

 

 そんな前置きを経て姫騎士ワイスは、官僚の斡旋を依頼してきたのだ。執務経験者の不足はもうどうしょうもない。ライフズくんの居場所を上書きすることに抵抗はあるけれど。

 

 皇国の姫として、復興は何より優先するべき課題なのだ。いなくなった人のためにいつまでも未練がましく待ってるなんて許されない。

 

 

「ええもちろん、近日中に人を送ります」

 

「感謝いたします、神官長さま」

 

 

 そんな姫騎士に勇者さまは何かを言うわけではなかったけれど。

 彼女の視線に責められてるとでも思ったのか?

 

 

「……リバースから聞き出しましたが、ライフズは魔族の女と仲睦まじくしているそうではないですか、なら別に構わないでしょう、これくらい」

 

 

 彼女は言い訳がましく口にした。

 

 姫騎士ワイスは酷く苦悩していた。

 連絡は未だ来ていないらしい。

 彼女のメンタルは揺らいでいた。

 愛してるから、なんて言葉を貫くことができないくらいに。

 

 

ーーーーーー

 

 

 レーヘンは姫さまと夜遅くまで女子会しているそうだ。

 まあ、姫さまのフォローは必要だし。

 男だから言えないこともある。そういう点で同性であるレーヘンなら、あれこれ深いところを話し合えるわけで。

 

 俺は一人自宅に帰宅していた。

 とはいっても、隣の屋敷なんだけどね?

 

 大変なことになったなぁ……。

 俺は大きくため息を吐いていた。

 

 俺は三つの大きな問題を抱えていた。

 まず魔王軍残党のテロ問題。

 ライフズくんの失踪に伴う仲間たちのメンタル悪化問題。

 そして勇者さまの結婚問題……ま、これは解決したも同然だけど。

 

 それでも花婿としての準備はしなければならないし。

 それが結構、忙しいのだ。

 

 俺は二人分のココアを用意していた。

 誰か客人が来るわけではない。

 レーヘンの分を用意したわけでもない。

 

 一つはビター、一つはミルク。

 そう、飲み比べである。

 

 過酷な日々の癒しとして、こういうご褒美を自分にあげるのはとても大切なことだ。

 

 

「夜分遅くにすみません」

 

「いいんだよ、遠慮しなくて。俺と君の仲じゃないか」

 

 

 そんな夜の贅沢タイムを満喫しようとした、まさにその時のことだった。こんこんと扉を叩く音がして、私室に入ってきたのはライフズくんであった。

 

 なんかしれっとした顔で俺の部屋にやってきた失踪中の男の子に、俺もしれっと返した。

 

 もちろん内心で心臓バクバクである。

 

 

「もしかしなくても僕が来ることを読んでましたね? ここまで手のひらの上感あると……いろいろと笑えてきます」

 

 

 ただテーブルの上にちょうど二人分置かれたココアを見て、彼はなんか勘違いしてしまったようだ。大きくため息を吐いた少年に、気を取り直した俺はそっと座るように促して。

 

 そうして俺とライフズくんの歓談はスタートしたのだ。

 

 

「せめていなくなる前に一声かけて欲しかったなぁ」

 

「その件はご迷惑をおかけしました、すみません」

 

 

 ライフズくんは開口一番に謝罪をしたのだ。

 いや、別に謝ることではないと思うんだけどね? 

 心配したけど、元気にやってるという確信はあったし。

 

 

「それでその、レーヘンについてなんだが」

 

「すみません、その件は一回棚上げしてもらえませんか? 今回の話し合いではけ、け……そんな事実ないように振る舞ってもらえると助かります」

 

 

 というわけで俺は早速話を切り出したのだが……ライフズくんは頭を抱えながらそんな懇願をしてきたのだ。

 

 脳破壊のダメージは以前継続中。

 ライフズくんは……未だにレーヘンのことを引き摺っていた。

 

 思わず口を噤んだ俺に。

 今度は向こうから話が振られる。

 

 

「お察しだと思われますが……ちゃんと僕の言葉で言わせてください。ご迷惑をおかけしてすみませんでした。それと、今回の事件はその……僕の手にあまりそうなので……申し訳ないんですけど、相談しに来ました」

 

 

 初恋の幼馴染をBSSした怨敵である筈の俺に、ライフズくんは深く頭を下げていた。

 

 

「力を貸してもらえませんか?」

 

「もちろんOKだよ」

 

「……話を聞かずにOKしちゃう無防備なところもほんと変わりませんね……」

 

 

 可愛い弟分の頼みなのだ。

 俺は即刻OKをして。

 

 ライフズくんは笑った。

 それはかつてと同じような笑みだった。

 

 そうして彼はそれまでに起きたことを語り始めた。

 ベストールさんが怪我をしたこと。

 彼女の治療をしている途中に、魔族のテロ計画を知ったこと。

 魔族の力を借りてるうちに、人手も増えたこと。

 

 仲間とは顔を合わせにくかったこと。

 姫さまと喧嘩別れみたいな感じになったこと。

 ベストールさんを庇った時に……脳破壊懸案があったこと。

 ほら、姫さまってヤムルさんと男女の仲だったし。

 それを明言されたとか、なんとか。

 

 で、元々一人でなんとかしようと思っていたけど、先日の一件は防ぎきれなかった。

 これからもっとそうなる可能性が高い。

 だからこそ俺に報告にきたそうだ。

 

 

「自惚れてたところはあると思います、知っての通りベスト……ベストールはワープが使えますから。みんなを巻き込まないで一人でなんとかできるかなって思ってたんですよ」

 

「対応力は一番だからね、ライフズくんは」

 

 

 自嘲気味な笑みを浮かべたライフズ君なんだが。

 

 できないことをできないと割り切り。

 プライドを捨てて人を頼る。

 それはなかなかできることではない。

 俺の中の評価は上がった。

 

 しかもここで頼るのが俺だからね?

 姫騎士ワイスでなければ、魔法使いさんでもない。俺だって人間なので可愛い弟分に誰よりも頼りにされた事実に喜びを感じる俗っぽさはある。

 

 余計なことは言わない。

 お説教とかはとりわけね。

 やらかしてる最中なら何かしら言ったのかもしれないけど。

 

 

「それで、一つ目は次の新魔族四天王についてなんですが……彼は人類連合の議員です。ラマラフさんってご存知ですか?」

 

「ああ、あの人か……魔族のハーフとかだったのかな?」

 

「ご明察の通りです。ベストールの友達がさる貴族に嫁いで産んだ子どもだそうです。反魔王派でありスパイなどではなかったというか、そもそも魔王軍関係者でもありませんね」

 

 

 そしてライフズくんは相当細かく調べていた。

 

 しれっと、行商人さんのことを名前で呼んでるライフズくん。さん付けもやめているようだ。随分と仲良くなったものである。

 

 

「でも親族の魔族を匿っていて、その関係で四天王に選ばれた穏健派なんですが……過激派に脅迫されています」

 

「まーた厄介な話だね、それは」

 

 

 今度は魔族同士の対立に起因する問題らしい。

 

 

「本人がテロには屈さないことを決めたため、魔族であることがリークされるでしょう。なので今日中にも彼を僕たちの拠点に連れ帰ることになるんですが……その後の政変について、神官長を頼りたいと思っています」

 

「ああ、わかった、できる限り手を尽くしてみるよ」

 

 

 ヤムルさんの件もあって、人類連合中枢は神経質になっている。穏健派だとかスパイではなかったなんて関係ない。

 魔族であることが露見すれば、間違いなく絞首台送りになる。

 だからその前に逃げるしかないのだ。

 

 

「……それより前に俺が話をしとこうか? 自慢だけど庇えると思うよ?」

 

「魔王軍の残党を匿ってたのは事実ですよ、彼が立場を失うのは仕方ないと思います」

 

 

 ま、俺やレーヘンが口を出したら止められるけどね。ライフズくんもそれはわかっているけれど……彼がそれを頼んで来ることはなかった。

 

 

「それより政変に巻き込まれる国民とか、国家とかのフォローをお願いしたいんです」

 

「わかった、なんとかしてみるよ」

 

 

 これが本題かな?  

 そう思っていたのだけど、ライフズくんは瞳を瞑り深呼吸をして。明らかに気合を入れて何かを伝えようとするのだ。

 つまりまだ何かある。

 だから俺は黙って彼の言葉を待った。

 

 そして。

 

 

「それとその、神官長はその……数ヶ月後に大きなイベントを控えていますよね? それを魔族は狙うつもりです」

 

 

 やっぱりかという思いはあった。

 魔族が何を脅迫したか、という話だ。

 

 近くに控えている大きなイベント。

 それこそ勇者レーヘンの結婚式である。

 

 

「ラマラフさんへの脅迫内容からして小大陸に乗り込んでテロを起こすつもりだと思われます。そしてそのために客船に乗るつもりなようです。船舶の利用者の厳重な確認をお願いします」

 

 

 というわけでライフズくんは本題を切り出した。それこそ彼がこの場に姿を現した本当の理由なのだろう。

 

 BSSされた初恋の幼馴染。

 その結婚式の舞台を守るため。

 こうして警告しにきたのだ!

 

 彼はそれくらいレーヘンのことを愛しているのだ。……ほんと初っ端に逃げないでくれてたらと思わざるを得ない。

 

 

「忠告ありがとう、すぐに部下に連絡して検査をさせるようにする」

 

「こっちでもわかったことがあったらすぐ伝えにきます……これは連絡用の魔道具です。絶対に一人になった時に使ってください」

 

 

 そして俺は小型の通話機を受け取った。

 一々接触するのはリスクが多過ぎるからね。

 勇者さまとは絶対に鉢合わせたくないという強い意思は明らかだった。

 

 

「でも、多分だけどそのイベントは小大陸と大大陸、二箇所で行うことになりそうなんだよね」

 

「……そうですか……大大陸の方は止められませんか?」

 

「うん、正直厳しいと思う。かなり準備も進んでるし。いっそ、大大陸での式を囮に使うって手もあるからね。敵の狙いがはっきりしてれば対策も立て易いだろ?」

 

 

 逆に考えれば敵を誘き出す絶好の好機ともいえる。

 ライフズくんもそれはわかっていて。

 でも彼は俺とレーヘンのことが大好きだから。

 俺たちを危険に晒したくないあまりに、そんな言葉を口にするのだ。

 

 

「……それで友人席を特別に用意する必要はあるのかい?」

 

「ぅぅ、頭が……す、すみません。今その話題は、やめてください……」

 

 

 いや、護衛役として潜り込むための大義名分はいらないのかいって話なんだが……ライフズ君の脳は軋みを上げてしまうのだった。

 

 

 

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