曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者 作:さらみパスタ
魔王四天王の最後の一人が討ち取られ三ヶ月以上が経過していた。
ついに残る強敵は魔王一人。
人間勢力圏内にて内部工作をしていた幹部の突然の死、それにともなう混乱の隙を突き、人類連合は一気に魔王軍を追い込んでいた。
四ヶ月近くの戦闘は連戦連勝、魔王軍が混乱を立て直す頃にはその勢力は随分と削り取ることができている。今は大大陸の3分の2を人の手に取り戻すことができていた。
勇者パーティーメンバーは総勢五人。
名声的に言えば絶対的に高い勇者、露出も多い政治担当役の俺、神官長。それと並ぶのが滅びた王国から逃げ延びた姫騎士だ。
幼馴染くんと魔法使いははっきり言えば無名というか勇者レーヘンに活躍を喰われており、世間的にはあまり有名ではない。
で、社会的な露出度は俺がダントツで高くーー何かあれば会議やら旧支配階級の方々と言葉を交わすとか折衝することも多く、パレードで手を振るとかメディアの取材を受けることも多々あった。
そう、姫騎士の出現により俺は別の仕事が割り振られるようになったのだ。結局タスクの総量は減るばかりか増えているのである!
つーかおかしくない? なんで俺がスポークスマンやらされてるの⁇ こういうのって代理人を用意するべきなんじゃないの⁇
ま、必要性があるのはわかる。
ここで政治的対立とか生まれるのは危険だし、民衆から戦費の削減による減税とか求められても困るからね。
勇者パーティーの一員であり、人類救済に大貢献をした『神官長』のお言葉の重さは俺自身理解していた。
勇者一行はいよいよ魔王城攻略に取り掛かる。
そんな噂は市場に溢れていた。
が、流石にまだ早い。
ジリジリと領土が削られる中でいつ魔王が動くのか、それ次第といえる。魔王が出陣したならば勇者一行と一気に討って出る予定だが。
そうでなければ無理に攻勢には出るつもりはない。
だから俺はいろんなメディアを通じて、そのことをしっかり周知させていた。勇者パーティーが魔王軍の支配領域を潜り抜け、魔王城に潜入し魔王暗殺を行うのは危険が多過ぎる。
まずは人類連合の軍に魔王城までの道を切り拓いて貰う必要があるのだと。
だから民衆からの突き上げみたいなことも全く起きることはない。前々から布石を打っていたからね?
民衆の無茶な要望に振り回される事もなければ、旧支配者層の要請なんてことも起きていない。
人類連合は一枚岩のまま、全体最適を選び続けて戦況を優位にし続けていた。
「んー、どうしたの神官長?」
「また、北西の戦線が勝ったようでな、このまま行くと半年経たずして魔王城攻撃が可能になる」
「ふーん半年後かー……その間暇そうだなー」
レーヘンの勘は魔王の出陣は当分先だと判断してるらしい。なら、攻勢を強めても良さそうだな、なんて俺は考えていたわけなんだが。
その一時的な安息を、どうやらレーヘンは満喫できていないらしい。ブスッとした顔でベッドに乗ったレーヘンは、新体操の選手のように弾み始めた。
「なんか最近の演劇はアレなんだよねー、ボクがその、神官長とデキてるみたいに言われててさ」
「……どっかの誰かさんが隠遁中は俺の屋敷に泊まってたなんていうからだぞ……」
レーヘンは恨みがちにそんな言葉を口にしていた。
俺は前もって勇者パーティーはレーヘンのことを忘れておらず、内部に潜伏していた魔族を捜査していたーーみたいな話をしていたわけなのだが。
どっかの誰かさんが『ボクこの半年、神官長の屋敷に匿われててさー』とか取材中に仰られたもんだから、ゴシップ誌に「勇者レーヘン妊娠か?」とか記事を書かれてしまっていたのだ。
あえて交際を匂わせる事で、外堀を埋めるーーみたいな恋愛テクニックは確かに存在している。でもレーヘンはそんなことできるだけの技術を持たないし、そもそもそういう恋愛感情抱く情緒育ってるの?
男女のあれこれより野原駆け回る方が好きそうのがレーヘンという勇者さまだった。
「しかたないじゃん、神官長がカンペ用意してないのが悪いんだろー! 疲れてたから思ってたことそのまま言っちゃったの!」
つまり完全に考えなしに口を滑らせただけ。
一応年頃の女の子が男の屋敷で暮らしていたとかおかしいと思われるだろ?「何故同性の姫騎士と同居しなかったの⁇ 」と思われるのは当然だろうに……と言いかけて俺は慌てて口を閉ざした。
できない事を相手に求めてはならない。
レーヘンのようなちびっ子が、大人の男女の当たり前を知らぬが故に犯した失敗を非難するべきではない。
「というか何も考えず事実を正直に言っちゃうのって美徳なんだからな!」
「まあ、そうだね、その件は仕方なかった。今のは無しで頼む、悪かったレーヘン」
「んー、なんか気持ち悪いし、つまんないなー、神官長。なんかこう、いい感じに論戦した上で論破させてよー、そんなすぐに白旗あげられたら手応えなくてつまんないじゃんか」
ぶつくさとお気持ち表明するレーヘンを宥めつつ、俺たちは話を進めていく。
ゴシップは広まっていた。
しかし、勇者一行にはそれが事実だと思われていないのは不幸中の幸いか。
「いっそ誤解されてた方が気が楽だけどね」
「まあ、そうだね、本当にそうだね……」
レーヘンは顔を赤らめるとか、その手の恥じらいを見せず、疲れたようにそう溢していた。
『レーヘンは代償を払い、それが治ってなどいないが、周囲を気遣って誤魔化している』そう周囲には認識されている。
そして『レーヘンは『妊娠する機能』を失った』と認識されていて。
そんなふうに思われてる女の子が『妊娠した』と軽々しくゴシップで揶揄されたら、彼女を大切に思ってる人々はどう思うのか。
勇者一行の皆様は、そして人類連合の中枢はそれはもうすごく反発していた。
冗談抜きでゴシップ誌の関係者を吊し上げようとしていたので、俺と勇者は慌ててその動きを止めていた。
が、そういう動きはどこかからか漏れるものでーーますます『本当に妊娠してたのか⁈』と思われてしまい、そういう内容の噂が出回り。
勇者一行と人類連合中枢の怒りのボルテージも上がっていく。そんな負の螺旋に囚われた俺とレーヘンは顔を合わせて大きくため息を吐くのだった。
ーー聖歴0099 12月24日ーーーー
そんな雑事が行われていた最中も、人類連合の兵士たちの尽力で大大陸の八割が人間勢力の支配下に取り戻せていた。
魔王軍の本拠地、魔王城。
そこへの攻撃が可能になるほどに。
現魔王城は、魔国が最初に滅ぼしたさる王国の王城だった。初代勇者の一族や聖剣を庇護する一族が存在した由緒正しい王国の。
かつて白で染められていたはずの城は黒に塗り替えられ、城下には無数の魔物が蔓延る危険地帯と化している。
しかしパーティーメンバー幼馴染くん、彼はかつてこの国に存在していた『聖剣守』の一族の産まれだった。親類の伝手を辿れば、かつての城下、そして王城の内部構造を知る事は容易かった。
つまり地の利において条件は互角。
なのに魔王城を守護する魔王近衛隊との戦闘は激闘になるはずだった。本来なら師団長を務めるような精兵が一兵卒として動く近衛隊の実力は凄まじい。だからこそ勇者レーヘンは聖剣を行使していた。
勇者パーティーでも疲弊するのは確実の敵だ。
余計な手傷を負う前に安定を取り聖剣を抜こうとするレーヘンを周囲は止める前に、結局彼女は聖剣を行使していた。
魔王城は閃光に包まれ、黒き荘厳の城には大穴が開いていて。
そしてレーヘンは視力を失っていた。
「というわけで神官長、治療お願い」
「まあ、仕方ないなぁレーヘン」
なぜ俺がレーヘンを戦場で治療しないのか、疑問に思われていただろう。わざわざパーティーやらの後、つまり安全地帯に帰還してから治療を行っていた理由。
魔王に勇者の代償を緩和する術があると悟られるのは危険だからだ。できるだけ誤魔化すために、そうしていた。
しかし……聖剣という奥の手の乱用から、その秘密は露見してると考えるべきなのだろう。
レーヘンが聖剣を使用した回数は明らかに多すぎた。何かしらな手段で回復している、魔王がそう判断してもおかしくない。
どうせ隠せない以上は表に出しても構わない。
俺とレーヘンに魔術的な深い繋がりがあることは、四天王最後の男の暗殺の一件で露見してる可能性が高いのだ。
勇者パーティーはレーヘンのことを覚えていたーーなんてことが嘘であると、その秘術を行使した魔王陣営からすれば簡単にわかる。
そして四天王を暗殺したのが俺であるのと、レーヘンの発言などから俺の記憶が消えていなかったことはわかる人にはわかる。
それらを合理的に判断すれば、『神官長』である俺が一番怪しく見えるのは必然だし、対策されるに決まっている。
魔王城近くで、俺はレーヘンに生命エネルギーを注いだ。光を失っていた彼女の瞳は輝きを取り戻していたのだった。
そうして一行はすぐに行軍を再開し。
魔王城の中枢、玉座にたどり着いた時。
そこに魔王はいなかった。
ーーーーーーー
魔王は既に他の場所に撤退していた。
かつて魔族が住んでいた辺境の地にある、旧魔王城へ。ではなぜ近衛兵達が襲いかかってきたかと言えば、それは命を懸けたブラフだった。
「や、神官長、こんばんわ」
「何しにきたレーヘン。代償の治療は済ましてあるだろ」
「いや、神官長がメインターゲットになったわけだから護衛にね」
レーヘンはのこのこと移動拠点の俺の部屋に乗り込んできたのだ。得意げに胸を張る少女、まあ彼女の言葉は正鵠を射ている。
魔王は近衛隊を犠牲に勇者の秘密を開示しようとしていたのだ。本当に勇者レーヘンは代償を踏み倒せているのか、と。
そしてその策は見事成功を納めたのだ。
神官長である俺の力でレーヘンの代償は回復しているーーその事実は魔王側に知られていたのだ。
ま、想定通りというか、予測よりずっと隠せていたと思う。俺はてっきり魔国四天王三人目を屠った時点でその真相が露見していたとばかり思っていたのだから。
そんな見せ札を対価に魔王を守る最精鋭を削り取れたのはデカい。あれだけ強大な兵など早々に産まれない。長い時間鍛錬に励んだ忠誠心に満ちた近衛。
それは四天王と同じくらいに価値ある最後の大駒なのだ。
「じゃ、このベッドはボクのだからね!」
用意されたフカフカ(他の軍用ベッドと比べたら圧倒的にマシな特別性)ベッドに当然のように寝転がったレーヘン。
躊躇い一つなかった。
まるでそうすることが当たり前であるかのように、俺に承諾一つ求めることなく。ベッドに飛び乗るあまりに横暴すぎる勇者さまなのだが。
「そこは神官長の部屋よ、レーヘン。やっぱりあなた視えてないんじゃ」
「わ、わかってるよ!」
こっそり様子を伺っていたらしい仲間達が一斉に踏み込んできていたのだ。
いつもの流れだ。
仲間たちは「勇者レーヘンは実は代償を払い続けており、視えてるふりをしているとか、何かしら他の手段でそれを補ってる」と誤認してるっぽく、こういう時にあからさまに探りを入れてきているのだ。
特に部屋の中で当たり前のように俺のベッドを占拠する姿は、仲間たちからすると信じられないのだろう。気持ちはわかる、俺も最初はそうだったから。
普通は『ボクは部屋の隅とか、床で寝てるから』とかいうわけだからね?
いや、ベッド借りるにしてももう少しあるじゃん? 問答さえせずベッドを占拠なんてあり得ない=この部屋を自分の部屋と勘違いしてる=それだけ視力が下がっている、と連想されてしまっているのだ。
「ボクはただ神官長の護衛するつもりで、ね? だって一番狙われる率高いわけだから、ね?」
「護衛がそんな堂々とベッドに入って向かうのか?」
「いやそれは……ボクと神官長はそういう関係だから許されてるの! 変なこと言わせないでよ魔法使いさん!」
ちなみにレーヘンは俺のことを舐めてるので、そういう真似をしてるわけなのだが。
それにしたって言い方が悪い。
「あと今日はクリスマスイブじゃん? だから神官長と一緒にいたかったの! ボクだって女の子だから恥ずかしくて、あれこれ言い訳してたんだよ」
「だとしたら、あっけなく自白しすぎだよ、レーヘン」
嘘くさ過ぎる言い訳だった。
俺とレーヘンはそういう関係ではないし。
恥ずかしくて言いたくないなら、なんで俺がこの場にいるのにそういう発言をするのかって話だ。
真相を吐露するのがあまりに速すぎる。
仲間達はチラリと俺の顔を見つめてーーそれが嘘だと見抜いた。
『恋愛沙汰だから深く突っ込まないだろう』というレーヘンの浅い考えはこの場の誰もが理解していた。
だから追及が止まることはない。
俺はそそくさと気配を殺し、用事を思い出した的な感じで離席するのだった。
ーーーーー
「ねぇ神官長、ボクを置いて逃げたよね」
「最後に助けたからいいだろ?」
というわけで勇者レーヘンへの追求は暫く続いていたらしく、俺が部屋に帰ってきた時もパーティーメンバー総出でクイズゲームが行われていた。
そこで助け舟を出したのがなにを隠そうこの俺だった。『レーヘンも疲れてる、また明日、話の続きをしような』と他メンバーを説き伏せた恩を忘れたとは言わせない。
「助け舟は最初に出してよっ、最後に出されても意味ないじゃんか!」
「ならなんであんな怪しまれる真似をしたんだよ、少しは周囲に気を使えっての、レーヘン」
「疲れたから、頭使う余裕なんてなかったの!」
まあ、レーヘンの言葉は事実であろう。
疲れてて、いちいちものを考えないであれこれ言ってしまったのは仕方ない。
「ではでは、そんな勇者さまにー、ケーキを用意しておいたぞ?」
「わーいっ、さっすが神官長! 天才ヒーラー、気配り力高すぎのモテ男子‼︎」
ムスッとした顔のレーヘンに、俺は一応用意していたケーキを取り出した。本当は魔王討伐に成功した時の祝いのデザートの予定だったんだけどね。
残念ながら魔王は他の地に移動してたから。
「でも神官長、こういうのあるなら先に言ってよね、糖分補給で知性が回復して、みんなのこと上手く言い包められたっていうのにさー」
ぶつくさ文句を言いながら、レーヘンはパクパクとケーキを食べ始めていた。
ちなみに姫騎士と魔法使いは甘いデザートより酒が好きなので、上質のワインを用意してあり。
幼馴染くんは……今はちょっとデザート食べる気分じゃないだろうからね。
「というかさ、今思ったんだけど、あんなの視力検査じゃなくて間違い探しだからね? しかも超難解な、すぐ答え出ないの当然じゃん⁈」
口元に生クリームの跡を残しながら、パクパクケーキを食べるレーヘン、彼女が口にするのは仲間達への不満であった。
全くもって当然の権利なのかもしれない。でもそう言いながら、ぼよん、ぼよんと寝台をバウンドさせるレーヘンに俺が文句を言うのも当然の権利である。
言わないけどね。
「というか、素直に言えばよかったじゃんか。普段からこうして舐めたことしてまーすってさ」
「はー、言えるわけないじゃん、ボクには勇者っていうステータスがあるんだからね! こう見えて礼儀作法はしっかりしてるって評判なの!」
というわけでレーヘンはケーキを食べつつ、ぼいんぼいんとベッドを使ってバウンドしつつ、ぶつくさ文句を口にしていく。
レーヘンは『俺の護衛』という大義名分を忘れたのか、デザートを食べた後は大きく欠伸をし、そのままベッドの上ですやすや眠り始めてしまう。
まあ、それでも一人でいるところを狙われる危険は高いから。俺はそんなレーヘンを視野に収めながら、そこそこ硬い床の上で眠ることにするのだった。