曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

74 / 97
掲示板会ではありません


聖歴0101 1月7日

 

 

 

 俺とレーヘンが結ばれた2日後に開かれた

二回目の結婚式は何の問題も起きなかった。

 

 どうやら連合王国の入国管理官は完璧な仕事をしてくれたらしい。

 パレードの時も結婚式の最中も。

 魔族によるテロは一切起きず。

 肩透かしのように、行事は終わり。

 

 俺は連合王国国王の地位を受け継ぎ。

 

 勇者一行はそのまま確実に事件が起きるだろう暫定首都に足を運んだのだ。

 

 三度目の結婚式のために訪れた世界の中心ーー暫定首都。

 都市全体が勇者レーヘンの結婚を祝うかのように盛り上がっていた。

 多様な国から多くの市民が押し寄せ、道という道が人でごった返している。

 

 俺達の結婚式の様子は映像に残されるそうで、カメラマンが忙しなく調整を行なっている姿も見受けられた。ちなみに会場の外から撮影することになってるらしく、角度調整に余念がないようだった。

 

 半年前から予定が知らされていたのも。 

 交通網の整備が進んだこともあるだろう。

 かつて、魔王討伐を成し遂げた直後よりはるかに多くの人でごった返しているのだ。

 

 集まったのは市民だけではない。

 人類連合の全ての国家元首ももちろん勢揃いしているのであった。

 

 ……こんな状態、テロリストからすると絶好の好機であるなんて言うまでもないだろう。

 

 旅行者が多くいる=幾らでも敵が入り込み放題ということでもあるしね。

 

 

「これはやばいわな……敵はいつくると思う、レーヘン」

 

「やっぱり誓いのキスの時じゃないかな、ほらインパクトも大きいじゃん? 幸せの最高潮から転落するって落差もあるしさ。ボクが敵ならそうするかな」

 

 

 最初に結婚して一週間。

 顔を合わせるだけで頬を染めていたレーヘンもすっかり人妻であることに慣れたようで。

 いつもの調子でそんな言葉を口にしている。

 ただ普段より半歩、距離は近いのだが……。

 

 

「会場に入る時も危険ですわよ? 子どもが周囲にいれば庇うはず、と狙ってくるリスクはありますもの」

 

「大丈夫だよ、魔王でも蘇らない限りはなんとかなるし」

 

「……レーヘンの嬢ちゃん、武器が手元にないことをお忘れんなよ」

 

 

 花嫁のドレスの裾を持ったり、花びらを撒く役目の子どもがいる場面で襲撃をかけることで勇者さまの動きを鈍らせ攻撃する、とか。

 必ずしも敵の攻撃タイミングを読めるわけではない。

 

 ワイス姫は窘めるように、俺たちの会話に口を挟んだ。

 

 彼女の顔には緊張の色がある。

 万が一があってはならない。

 可愛い妹分の身に危害なんて与えたくない。

 

 

「わたくしが隣に立つことが許されるなら、良かったのでしょうけど」

 

「姫さまの腕力はそれ自体が武器みたいなものですからね。武器を持ち込んでいるみたいなものですし」

 

「もーあなた、女の人にそれは失礼でしょ? ごめんなさいねぇ、姫さま、この人がデリカシーないこと言っちゃって」

 

 

 そんな決意を胸に秘めて姫さまを花嫁付き添い人の一人にする、みたいな話も出たんだけどね。

 

 姫騎士という護衛が傍にいれば、いざという時に役に立つ。

 文字通り己の身体を盾にして勇者さまを守ってくれるし、彼女の腕力はそれ自体が兵器の類だ。

 それに二人は姉妹分、強い絆で結ばれた仲間。

 

 これ以上ない存在なのだが。

 

 

「割と真剣な話をしてるので、夫婦のプレイに巻き込まないでもらえます? ……一応わたくしも近場で警戒していますが、距離がありますから」

 

「ま、任せといて! この人はボクが守るから!」

 

「いや、自分の身を優先してくれ、ゾニ坊はおじさんが責任をもって守るからな」

 

「そこはレーヘンを優先してくださいよ、魔法使いさん」

 

 

 姫さまは皇国の姫でもあるのだ。

 勇者さまの結婚式は、政治という大きな要素が存在する。

 

 そんなことすれば、他の枠に各国の王族が自身の身内を推薦し。

 各国の覇権競争に使われたり。

 あいつばかりずるいと怨恨が生まれ得る。 

 

 その上、ソルト王室の親戚なんて平民しかおらず、こんな舞台でお役目を背負えるような存在は一人もいないからね。

 

 最終的に連合王国構成国の元王族メンバーの子女を頼ることにしたんだけど、その調整は本当に大変だったそうだ。

 

 

「わかったわかった。ゾニ坊も絶対に無理はするなよ」

 

「ええ、レーヘンを不幸せにすることだけはしませんからね」

 

 

 ちなみにそんな子ども達の中には俺のメイスや、レーヘンの聖剣を持ち運ぶ役割の子もいる。

 

 まあともかく。

 そうして俺と勇者さまは仲間達と別れ。

 結婚式の準備に取り組むのであった。

 

 

ーーーーーー

 

 

 こうして結婚式を行うのもこれで 三回目。

 となると、勇者さまも随分と慣れてくるらしい。

 

 群衆の中をパレードしつつ、式会場である大きな聖堂に入る姿も、ウエディングドレスを着て歩く姿も堂に入っているし。無数の人々の視線が向けられ、王侯貴族が参列する中でも愛想良く振る舞う余裕がある。

 

 俺が何かしらのフォローを入れる必要もない。

 だから安心して見守っていたわけなんだけど。

 

 そうして会場に入り。

 結婚式が始まったんだが。

 

 案の定、敵の襲撃はそんな結婚式の最中に起きた。

 

 式典の最中、誓いのキスの直前のことだった。

 永久の愛を女神に誓う、まさにこの時。

 

 学園でのテロと同様に。

 無数の亡霊が一気に集まってきたのだ。

 

 

「……きたな……」

 

 

 そんな俺の言葉とともに、レーヘンはすっと臨戦態勢に入る。

 亡霊は顕現したのかな? 

 一瞬の静寂が式場を満たし。

 

 

「新四天王、ラッグウェル。勇者レーヘン、覚悟!」

 

 

 その直後のことだった。

 男が上から降ってきたのだ。

 

 おそらく魔法学園の戦いで亡霊は数合わせにもならないことを理解したのだろう。だからこそ、突如現れる亡霊の軍団はあくまで護衛の足止め役であり。

 

 最高戦力が直接、命を奪いに来たのだ。

 大人数では存在を知覚される。

 だから少数、いや単身での強襲。

 

 

「ゾーニッヒさま、これを」

 

「ありがとう、助かった」

 

 

 とは言え俺たちも何も手を打っていないわけではない。

 

 武器は用意してある。

 俺は傍に隠してあった武器を取り出そうとした付き人の元に駆け寄った。

 

 だが。

 勇者さまはそんなことをしなかった。

 

 

「れ、レーヘンさま⁉︎」

 

 

 レーヘンはゆったりとした動きで動いていた。その手には食事用か? 小さなナイフが握られていて。そんな刃物を手にしたいうか、懐から取り出した勇者さまは聖剣を手にすることもなく間合いを詰め。

 

 そして。

 四天王の首を斬った。

 勝負は一瞬だった。

 

 四天王は死んだ。

 俺が武器を手に取り駆けつけるより早く。

 この場に突如現れた亡霊達が何かするより早く四天王は倒れた。

 

 

「うーん、強い敵はこれで終わりかな? やっぱ首斬って死ぬ敵は楽だね、服も汚れてないしパーフェクト」

 

 

 ウエティングドレスにも血がついていない。

 勇者さまは首を切る向きを考え、返り血を浴びないようにしっかり注意を払った上で。

 敵幹部を秒殺し。

 

 

 「ね、あなたは無事?」

 

 「ああ、助かったよレーヘン……なるほど、こういう作戦か」

 

 

 そしてニコニコしながらいつもの調子で話しかけてくるわけだが。

 

 俺は焦った。

 これが狙いだったのだ。

 

 周囲の子どもたちはまだ状況を読みきれていない。

 いや、子どもたちだけでなくこの場の多くの参列者もそうだ。

 突如敵が襲ってきたことに混乱しており、勇者に迫る敵にも、それが秒殺されたことも理解していないのだ。

 

 しかしこの結婚式は映像として記録されている。

 魔族の襲撃も、秒殺劇も。

 伝聞でしか聞いたことのない勇者レーヘンの武勇は、多くの市民の目にするところとなる。

 

 勇者レーヘンの実力はーー常軌を逸している。

 この動きを見れば彼女がどれだけやばいのか理解できるだろう。

 

 彼女は冗談でなく世界最強だ。

 

 敵四天王はそこそこ強いらしい。

 そんな相手を秒殺、しかも武器はその辺の食器用のナイフ、戦闘にはとても向かないウエディングドレスを身に纏った挙句に白地のドレスを汚さないという縛り付きで、だ。

 

 もちろん俺は全然気にしてない。

 むしろ心強いくらいだしね?

 でも大衆が今のレーヘンを見たら、恐怖するのは明らかだ。

 

 

「レーヘンはここで休んでてくれ、ドレス着てるから機動力も下がるだろ? ここから先は夫である俺の仕事さ!」

 

「うーん? ま、神官長いるなら死者とか出ないからね、うん、ボクはその、旦那さまにしたがうね?」

 

 

 だからこそ、俺は亡霊達をかなり派手に倒していく。

 近くの人々を襲おうとする敵を、手にしたメイスで軽々と敵を吹き飛ばし、打ちのめしていく。

 

 一切の無駄がない殺人技とは程遠い、無駄が多い派手な動きで。

 勇者さまの印象を誤魔化すべく動いたのだ。

 

 ま、敵の第二波は存在せず。

 亡霊とかいう、勇者パーティメンバーなら秒殺できるような烏合の衆を削るのはそんな時間が必要なことでもない。

 

 事件の解決はすぐだった。

 

 明らかに異様な強さの謎の護衛の兵士とかも大活躍してたのもあるけどね。勇者一行だけでなく、ウエディングドレスに身を包んだ勇者さまのことを不思議なくらいに視界に入れない謎の少年御一行の活躍もあって。

 

 テロ事件はあっという間に解決するのであった。

 

 

ーーーーーー

 

 

 「よし撤収!」

 

 「待ちなさい、ライフズ!」

 

 「逃がさねぇぞ? ほら大人しく捕まって説教されろ……そしてお前らは死ね」

 

 

 さて、その謎の兵士がライフズくんであることは言うまでもないだろう。そしてそんなことは勇者パーティーのメンバーならば一目で理解できる。

 

 テロの主犯はレーヘンが秒殺した。

 あと一人、亡霊を操る女の子はーー身体能力だけ見れば年齢相当の13歳。

 しかも種族は人間だ。

 

 となると新生魔王軍としてできることはない。

 ライフズくん御一行は即時に逃げ出し。

 

 姫騎士、魔法使いさんも動いた。

 

 

「……まさか、あれは魔王だったのか⁈」

 

「テロの主犯が逃げるぞ、追え、追えーっ!」

 

  

 ライフズくん一人なら逃走は余裕だ。

 千の技術を持つ男の子は逃走術とか隠密術にも長けている。

 

 だけどね。

 多分彼一人じゃないのだ。

 魔族の仲間っぽい人も多くいる。

 

 そして魔法使いさん、姫騎士の狙いはそんな魔族狙いなのだ。

 

 ライフズくんには手を出さず。

 彼の周囲の仲間達だけを狙う。

 

 ってなった場合に怪我を治療できる俺がこっそり接近するべきなのは言うまでもないだろう。死人が出たらただでさえ面倒くさい人間関係が一気に拗れるからね。

 

 しかし優先順位は間違えない。

 俺は会場の怪我人ーー亡霊に攻撃されたものから、逃げる際の混乱で怪我をしたものなどを、速攻で治療したうえで。

 

 

「四天王エットゥロ、手配書の少女が周囲に潜伏しています。その捜査に全ての兵を割いてください。逃げた連中ではなく彼女の確保が最優先です。では俺も出陣しますから」

 

「お、お待ちくださいゾーニッヒさま⁉︎」

 

 

 しれっと魔王軍残党の確保+ライフズくん逃走の支援をしつつ。

 ま、主役だしVIPである自覚はあるけどね? 

 俺は止めようとする護衛達をすり抜け。

 逃げたライフズくんの行方を追うのだった。

 

 

「あなたー、ボクはどうすればいいのかな?」

 

「待機して第二波の警戒しといてくれー」

 

 

ーーーーーー

 

 

 というわけで俺は単身でライフズくんの事を追いかけた。

 

 魔法の炸裂する爆音やら、人間が立てたものとは思えない強大な破裂音が響く音とは正反対の方角に。

 

 怪我の治療とか、何かあった時のサポートは必須だ。

 俺は可愛い弟分のためにできることをする。

 そう思ってたわけなんだけど、ライフズくんは……俺が思ってるより有能だった。以前からずっと単身でテロと戦い続けてことでさらに技術に磨きがかかったのだ。

 

 逃走、隠蔽。

 卓越した技術は追手をいとも容易く逃げ延びることを可能としていた。だから俺の心配っていうのは無用の長物であり。

 

 

「……待つのじゃ、ライフズ……逃げ切れておらん」

 

「いやぁ、お見事。隠れていたつもりだったんだけどよく気が付きましたね、ベストールさん」

 

 

 だから、俺の善意は余計なお世話だったのだ。

 物陰に隠れてこっそり魔王一行の様子を伺っていた俺の存在はライフズくん御一行の一人、ベストールさんに知覚されてしまったのだ。

 

 こうなったからには誤魔化せない。俺はゆっくりした動きで、彼らが不安にならないようににこやかに挨拶をした。

 

 

「それと賞賛をさせてくれ。さすがの腕前だねライフズくん。まさかあの二人から逃げられるとは思ってなかったよ」

 

「なんで、ライフズさまの逃亡は完璧だったはずじゃ……」

 

 

 久しぶりに会ったベストールさん。

 その声は震えていた。

 

 いや、追いかけたわけではなく、先回りしてんだよ。

 スタートダッシュに遅れた以上はまっすぐ追いかけても追いつかないと思って、逃走ルートから逆走して来たんだ。

 

 ちなみに場所は地下通路。

 暫定首都の地下に用意された幾つものライフラインが張り巡らされた空間だ。

 

 皇国の地下水道と似てるというか、伝統と格式ある皇国首都を模倣して建築されたのが暫定首都。

 

 だから似てるところがある。

 流石にあそこまで大規模で複雑ではないんだけどね?

 何なら中央区の地下にしかないし。

 

 

「そして魔族穏健派の皆さま方。自己紹介をしたほうがいいかな?」

 

「なんでここがわかったのじゃ、我らがここに逃げ込むことを⁉︎」

 

「簡単な推理だよ、むしろ隠していたのかい?」

 

 

 そもそも……俺はライフズくんから色々と聞いてたからね。

 魔王さまと俺は、堅い絆で結ばれた兄弟分。

 何かあった時のために、逃走経路についても情報共有はしている。

 

 でもそんなことを馬鹿正直に言えるわけがない。俺とライフズくんの繋がりについては秘密だからだ。

 

 

「……魔王さま以上の知性……これが神官長ゾーニッヒ……」

 

「みんな先に逃げて! 僕は後から追いつくから!」

 

 

 俺も通してあげたいの。

 

 でもライフズくんは俺が余計なことを言う前に剣を抜いて襲いかかってきたのだ。

 100%演技である。

 殺気もなければ敵意もない。

 

 何ならライフズくんは今まで、敵の不意を打つ時に大声なんて出したことはなかった。なのになぜそんな事をしたかといえば俺への警告のためだ。

 

 今から攻撃します、と意思表示したってわけ。

 

 当たり前だけど俺とライブズくんは内通しており、本気で殺し合うなんて事をするわけがない。

 

 これは演技。

 魔族一行さんが逃げたら戦闘終了。

 そのまま穏やかな時間が始まるわけなんだが。

 

 

「神官長、僕じゃ勝てるわけないけど時間は稼ぐくらいはできますよ」

 

「厄介だなぁ、君相手なら本気を出さざるを得ないかぁ。余計な追撃できないし、逃げる仲間を追えないから困るなぁ」

 

 

 彼らの目があるうちは模擬戦闘を続ける必要はあるんだけどね。

 

 もちろん本気の動きではない。

 いや、本気ではあるけど殺意はない。

 かつてよく訓練したように。俺とライフズくんは武器と武器をぶつけ合う。

 暗がりの中を火花の輝きが幾度となく照らした。

 

 

「ほらみんなは早く行って! この人は本当に強いんだ。庇う余裕なんてない!」

 

「これは手強いぞぉ、他の仲間を狙う余裕がない。また随分と強くなったね、ライフズくんは。これは逃げられたら追えないぞ?」

 

 

 メイスと剣での応酬が繰り返され。

 そして一気に鍔迫り合いに持ち込まれる。

 

 近接戦の間合いの中。

 俺は目線で「ごめん、やらかした」と伝え。

 そしたら「いや、フォローありがとうございます、そもそも悪いのこっちですからと」アイコンタクトが帰ってくる。

 

 

「バカ言ってんじゃねぇよ、ライフズ。お前を置いて逃げられるか、こんなヤベェ奴、いくらお前でも無理だ」

 

「ええ、まったく、主君を置いて逃げられるわけないでしょう? ましてゾーニッヒさまのような格上相手には」

 

「へぇ、あれが神官長ね、ヒーラーって聞いてたけど……あんたの目は腐ってるわね、ライフズ」

 

 

 ただ……。

 

 ライフズくんは仲間達とかなり仲良くしてるようで、彼らは誰一人先に逃げる様子がない。

 しっかり絆を結んでるのだろう。

 

 ちなみに俺とライフズくんの実力は同じくらいだ。だから彼らの『俺の格上』であるかのような発言はライフズくんを軽く見てるに等しい。

 

 

「いやいや、ライフズくんの実力は俺と同じくらいですよ? あなた方は彼の本当の実力を知らないだけでしょうに」

 

「……っ……」

 

 

 俺は本当に微笑ましいんだけどね?

 向こうにも立場がある。

 

 仕方ないな。

 

 というわけでプランB。

 適当に全員失神させて、そこからライフズくんが俺を撤退させたってことにすることにした。

 

 自慢だけど俺ってめちゃくちゃ強いからね。

 ライフズくんならともかく、他の連中程度秒殺できる。

 

 俺は本気を出すのであった。

 

 まず初手は鍔迫り合い中のライフズくんだ。

 

 バインド戦という戦いがある。 

 刃先と刃先がぶつかり合うことで、剣が噛み合い、固定されることをいう。その状態から相手を攻撃する技術群のことだ。

 

 

「……ぐぁっ⁉︎」

 

 

 だが、鍔迫り合いになった状態のまま。

 俺は彼を吹き飛ばした。

 

 俺とライフズくんには大きな違いがある。

 彼は俺を攻撃することに躊躇いがあり、殺人技の類を放てない。

 しかし俺は……回復すれば治るから思いっきり攻撃できる。

 

 そして俺の腕力は人間をはみ出している。

 筋繊維や神経に負担がかかるほどの怪力を瞬間的に発揮し。

 強引に突破したのだ。

 

 もちろん攻撃した後に自分の身体を癒す必要はあるけどね。

 

 防御を強引にこじ開けられ、吹き飛ばされたライフズくんはそのまま壁に叩きつけられた。暗がりの中で煉瓦が砕け、土煙が上がる。

 

 そうして彼が仲間をフォローできなくても仕方ないよ、って状況を作り上げる。もちろん回復はしてるので痛みもなければ怪我もしてないけどね。

 

 その状態でーー他の仲間たちをボコボコしていく。

 

 ライフズくんへの追撃を抑え込もうと、身を翻した俺と彼の間に割り込んだ青年のお腹を思いっきり叩く。タフそうだし変に手心を入れたら耐えられそうなので、回復を少し遅らせ、かなりの痛みは感じてもらいつつそのまま意識を落とす。

 

 これで一人目。

 

 そこに割り込んできたやたらと動きが素早い女性の首を鷲掴み、この人は体力が少なそうなので、片手で首を締めつつ失神させ。

 

 これで二人目。

 

 瞬殺された仲間を見て、拙速な攻めはできないと守りに入ったーー知り合いのラマラフさんに接敵し、頭を防御の上からごつんと叩いてKO。この人は俺の回復術知ってるからね、一撃で意識飛ばさないと色々バレるし。

 

 これで三人目。

 

 

「げほっ、み、みんな⁈」

 

「安心してくれ、誰も怪我はさせてないからね。個人的に色々と聞きたいこともあるからね」

 

 

 もちらん、俺はしっかり命を奪わない理由も用意している。敵から情報を得るため敢えて生かして捕えようとしていると、ね。

 これで不思議なくらいに怪我がないことや回復を使われたことにも言い訳ができる。

 

 ライフズくんには裏の意思は伝わっており。

 彼の瞳は安堵の色を浮かべていた。

 

 

「なんという……魔王さまに匹敵する覇気じゃ……」

 

「……ベストールさま、ライフズさま……」

 

 

 で、残る二人は支援職っぽいんだよね。

 崩れた壁から何とか立ち上がったライフズくんを支えるように、ベストールさんと……あれはレニヒさんかな?

 

 かつて四天王の一人の副官をしていた女性の姿もある。

 つまり残りは非戦闘員。さてどうするかなぁ……流石に戦いなんてしたこともない相手を暴行するのは抵抗感が強い。

 

 俺は困っていた。

 

 だが、あの二人からしたら絶望感が強すぎる光景なのだろう。

 表情は恐怖で強張り、ガクガクと足が震えている。

 

 

「大丈夫、ここは僕がなんとかするから、二人は逃げて?」

 

「……ああ、わかったのじゃ、あとは任せたライフズ」

 

 

 まあともかく、これでセーフ。

 ライフズくんは震える二人の手をそっと握り。

 柔らかな笑顔を浮かべて語りかけた。

 

 

「すまんな、レニヒ。全員は無理じゃった」

 

「いいえ、ベストールさま。わたしはあそこで死ぬはずでしたから」

 

 

 そして。

 その場から四人の姿が掻き消えた。

 

 先に倒れた三人と。

 ライフズくん。

 

 残されたのは二人。

 

 そう言い残してばたりと倒れたベストールさんと。

 覚悟を決めた顔をしたレニヒさんだった。

 

 ……え、嘘でしょ⁉︎

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。